ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ 開発者インタビュー
小さいことが使命です 2019.11.29 試乗記 ダイハツ工業車両開発本部 製品企画部
エグゼクティブチーフエンジニア
大野宣彦(おおの のぶひこ)さん
登録車の巨大化が進む中で、あえて“コンパクトであること”を最重要のテーマに掲げて開発された「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」。その狙いと、小さなクルマづくりにかけるダイハツのこだわりをチーフエンジニアに聞いた。
“5ナンバー”と“4m未満”というこだわり
新型SUVのロッキーは、ダイハツの新世代設計思想「DNGA(ダイハツニューグローバルアーキテクチャー)」コンセプトが適用された製品の第2弾。トヨタにOEM提供されてライズとしても販売される。コンパクトSUV人気の中で、5ナンバーサイズというアドバンテージはどう生かされるのか。開発を主導した大野宣彦さんに聞いた。
――久しぶりに5ナンバー車に乗りました。このサイズは、今や逆に新鮮ですね。
私どもがつくるのですから、5ナンバーにはこだわります。小さいサイズというのが私どもの使命なので。パッケージングとデザインが難しいんですが、なんとか両立できました。
――開発当初から5ナンバーサイズにすることは決まっていたんですか?
僕らはそうだったんですけど、そうでない方もたくさんいました(笑)。でも、最後にはご理解いただけたので。あと5cmあれば技術的にもデザイン的にも楽なんですが、数字から来る印象は大きいと思うので、全長と全幅にはこだわったんです。
――全長4m未満というのも最初から?
フェリーに積むときのサイズ区分ですよね、4m未満というのは。4mを超えると料金が上がるので、昔の小型車というのは幅1695mmで全長4m未満というのが普通だったんです。お年を召した方なら、こういうサイズと言うと「あのくらいの大きさだ」と思っていただける。わかりやすい数字ですね、そういうのを使いました。
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限られた寸法の中で最大限広く
――トヨタ・ライズはダウンサイジング、ダイハツ・ロッキーはアップサイジング需要を狙っているそうですね。
お客さまが少しずつ豪華なものを求めてきているというのはあると思うんですね。だから、その下へ補塡(ほてん)してモデルを投入するというのは意味があると思っています。若い方は友人たちと4人ぐらい、中高年はご夫婦2人で。塾の送迎、レジャーに使うとか、どんなことにも対応できる使いやすさを目指しました。座席も荷室も広いことが大切です。
――例えば、ロッキーは「マツダCX-3」より小さいサイズですが、後席の広さでは勝っている?
もちろんです! もっと大きなSUVぐらいあると思いますね。私どもが軽自動車でやってきたことは、限られた寸法の中で最大限広くするということ。その特徴を小型車でもそのまま生かそうということです。外が小さくて中が広いというのが私どもの特徴なので。
――確かに、今となっては軽自動車でも、後席に足が組めるほどの空間があるクルマが珍しくありませんね。
そうですね。それに今回は荷室も重要で、スズキさんの「クロスビー」はリアシートがスライドするんですけど、こちらはスライドなしでも荷室の広さと後席の居住性を両立させたかったんです。飛び抜けたひとつの技術を使ったというのではなく、これまで蓄積してきた技術を応用しました。例えば“物”(エンジンやタイヤなど)を四隅に置くとかですね。
質量=コスト どちらも軽い方がいい
――そういう考え方や技術はダイハツの中で共有されているんですか?
もちろんです。今回は1.7mと4mという枠を自分ではめたわけですから、その中で空間を最大限に生かすようにしているわけですよね。軽自動車も規格があって、それを拡大しただけです。大きいと重くなりますし、質量=コストですから、小さくすれば価格も抑えられるんです。
――価格というと、今は軽自動車も値段が上がっていますから、ロッキーも「タント」の上級版と競合していますね。
うーん。軽自動車は価格が安くて庶民の足として始まっているので、そこははずしたくないというのはあります。僕は値段を上げるのが好きではないので。ベーシックなものと、「軽でもここまでできる!」というのと、両面をやらせてもらっています。どんどん値段が上がっていくと、軽自動車を否定することになるじゃないですか。私どもは軽自動車メーカーですから、そういうことを常に自問自答しないといけません。
――ただ、先進安全装備などが必須になると、どうしても値段は上がりますよね。
安全装備は付けていかなければならないと思います。死亡事故が減少しているのは、安全装備が普及したからでしょう。究極は交通事故をなくそうということなので。すごく高い先進装備はすぐには付けられないけれど、安くつくる技術を学びながら、ちょっとずつ進化するというのが私どもの「スマアシ」(ダイハツの予防安全技術の総称「スマートアシスト」のこと)の考え方ですね。
――スマアシはすっかり定着しましたが、今回は新たに「ダイハツコネクト」も用意されました。
スマホと連携して安全安心をつくるわけです。スマホが発展したように、一気に加速する日が来ると思うんです。ガラケーがスマホに変わって10年以上がたち、誰でも使うようになりました。私の使っているこれ(AppleWatch)とかも便利ですよね。
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初代ロッキーの復活ではない
――ロッキーという名前を復活させたのは、どんな意図なんですか?
復活させたわけではないんです。社内でも旧車名を知っている人が少なかったんですよ。シルベスター・スタローンの『ロッキー』も知らないんですから、今どきの子は(笑)。岩のようなゴツい感じのイメージがクルマに合うということで、この名前を商品企画から提案されたんです。けど、「ロッキーってもともとあるやんけ」と。でも、響きがよくてゴツい感じを表しているから、それでいいかということになりました。
――技術的にもコンセプト的にもまったく違うクルマですね。
前のはFRベースのクロカンでしたから。新しいロッキーは、街でも街の外でも使える、都会派SUVですね。最近だと「ホンダ・ヴェゼル」から始まった流れです。さらに「トヨタC-HR」やマツダCX-3が生まれて、「トヨタRAV4」が復活して。そういう都会派SUVの小さいのをつくりたかったということです。
――初代RAV4はこのくらいのサイズでしたよね。
そうかもわかりません。やっぱり私どもは大きくしない、ということを守り続けることがポイントです。放っておくとすぐに太りますから。自分のことではないですよ(笑)。小さいことはいいことだと信じています。スペースはとらないし材料やエネルギーも使わないし。人は個人で移動することが多いでしょ。公共交通機関じゃなくて、自分で好きなときに好きなところに行けるというのは、これからも残ると思うんですね。最小単位の1人か2人乗れればいいということで。電気自動車もそういう方向に行けば、軽いと距離も伸びるんじゃないでしょうか。
――「トヨタ・カローラ」が3ナンバーになり、困っている人にこれならちょうどいい。
うーん。まあ、そうですね。SUV化の流れや5ナンバーに慣れ親しんだ人にとってはいいかもわかりません。かつてはセダンだったものが、ハッチバックも飛び越してSUVに向かってる。そういう流れは止めにくいですね。
――DNGA第2弾ですが、タントとはまるで違うクルマです。まだまだ遠大な計画があるのでは?
「小から大」ということを言っています。小さいのでできれば、大きくしても割にやりやすいんですよ。詳しくは言えませんが、乞うご期待ですね。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏、ダイハツ工業、本田技研工業、CGアーカイブ、webCG/編集=堀田剛資)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。