ホンダ・フリード+ ハイブリッド クロスターHonda SENSING(4WD/7AT)
全方位的な進化と洗練 2019.12.17 試乗記 ホンダの万能コンパクトミニバン「フリード」シリーズがマイナーチェンジ。評価の高かった従来モデルからどこまでの進化を遂げたのか? 2列シートのハイブリッド4WDという、ライバルにはないちょっとマニアックな仕様で、その出来栄えを確かめた。マイナーチェンジで新デザインに
フリード/フリード+でこの秋に実施されたマイナーチェンジでは、新型「フィット」を先取りしたようにシンプル化したフェイスデザインが採用された。
これまでのホンダ顔といえば、翼を広げたようなメッキグリルとそれと一体化したツリ目ヘッドライト……をイメージされる向きが多いと思う。ホンダ自身は、あのグリルを「ソリッドウイングフェイス」、それを含めた全体のデザイン路線を「エキサイティングHデザイン」と呼ぶが、そのデザイン思想を最初に市場投入したのが、ほかでもない2013年発売の先代フィットだった。そして今回、フィットのモデルチェンジに合わせるかのように、ホンダのデザインがふたたび路線を新たにするわけで、今のホンダ車はなんだかんだいってフィットが土台なのだなあ……と実感する。
今回のマイチェンにおけるもうひとつの大きな話題は、SUVルックの新グレード「クロスター」の設定である。ちなみに、クロスターは近日発売の新型フィットにも用意される予定だ。
フリード/フリード+のクロスターは、標準モデルより面積を増したグリルやルーフレール、専用ホイールなどに加えて、アンダーガードを模した加飾が与えられる前後バンパーとサイドシルのブラックアウト処理によって、車高のリフトアップ感をただよわせる。ただ、こうした部分もあくまで“感”にとどまるもので、本来のクロスオーバーSUVで最大のキモとなるタイヤについても、クロスターではサイズも銘柄も標準モデルと変わりない。
インテリアについても、シート表皮が少しスポーツテイストになるほか、ダッシュボードの木目調パネルもクロスター専用の合板模様になる。フリードのそれは当然プラスチックの木目“調”でしかないが、節の凹凸まで表現したリアルさが売りで、その特徴はマイナーチェンジ後も健在である。
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ハイブリッド車にも4WDを設定
クロスターは3列シートのフリードと2列5人乗りのフリード+の両方に設定され、パワートレインや駆動方式の選択肢もほぼすべて用意される(唯一、2列目ベンチシートの3列7人乗りだけは、クロスターでは選べない)。というわけで、今回の試乗車は2列シートのフリード+で、パワートレインはi-DCD(=1.5リッターハイブリッド)。そして駆動方式は4WDである。
ただ、今回の試乗車をこれまで見慣れたフリードの姿と比較すると、ホイールアーチの隙間が大きい。「これってクロスターだから?」と思ったらそうではなく、この場合は4WDだからである。フリードの4WDは以前からFFより地上高が15mm大きいのだ。私が普段生活する東京近郊を走るフリードは大半がFFということもあり、フリードの4WDをまじまじと見るのは今回が初めてだった。
『webCG』で現行フリードの4WDを試乗するのも今回が初なので、少し説明してみたい。3年前に登場した現行フリードでは、かねて要望の多かった“ハイブリッド4WD”が用意されたのも大きなトピックだった。先代(=初代)フリードで途中追加されたハイブリッドはFFのみだったからだ。
というのも、先代のハイブリッドは同世代フィットなどと同様に、駆動バッテリーと制御ユニットを一体化した「インテリジェントパワーユニット(IPU)」を、リアの床下にピタリと収納していた。当時はそれによって広い室内空間を実現していたが、それゆえに後輪駆動機構を追加する余地はなかった。
現行フリードハイブリッドではIPUを前席下(燃料タンクは以前から後席床下)に押し込むことで、リアまわりにスペースを空けることに成功した。しかも、トヨタのハイブリッドが得意とする電動4WDではなく、フロントからプロペラシャフトを伸ばした本格的なレイアウトである。
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4WD化しても走りに違和感はない
それにしても、この5ナンバーサイズの枠内に場合によっては6~7人乗りの3列シートを配しつつ、そこに燃料タンクとハイブリッドシステムを積み、さらには前後にプロペラシャフトまで貫通させる緻密なパッケージレイアウトは、今さらながら感心するほかない。
とはいえ、リアのフロア高はさすがにFFとまったく同じとはいえず、とくに荷室床下がむき出しとなるフリード+では、FFより床が高いのが見た目にも明らかだ。しかし、そのちがいは実際にはわずかなもの。まして、このフリード+の場合は、ラゲッジボード下の地下容積が減るだけで、自慢の“車中泊モード”での寝心地にはなんら影響はない。
4WDのリアサスペンションについては、ホンダ自身は「ド・ディオン式」と表現するが、早い話がFFと同じトーションビームに駆動システムを追加しただけの構造である。つまり、国産各社のコンパクトカー4WDによく見られる方式そのもので、厳密な意味でのド・ディオン(=リジッドアクスルのデフのみをバネ上に分離・独立させた形式)とは異なる。
そんなフリードの4WDは、油圧多板クラッチを電子制御するスタンバイ式ということもあって、ドライの舗装路で軽~く流しているかぎりの乗り味は、良くも悪くもFFとほとんど差が感じられない。
この場合、FFと4WDの乗り味に差があまりないことは悪いことではない。試乗車のリアサスペンションまわりも、実物はサスアームとデフ、ドライブシャフトなどが窮屈そうに同居する。しかし、少なくとも今回のように1~2名乗車で乗っているかぎり、FF比でことさらリアタイヤがバタついたり、突き上げが明確に強まったりといった印象はないわけで、同種構造の4WDとしては悪くないデキということだ。
成熟が進んだi-DCDのドライブフィール
パワートレインについては、今回のマイチェンで中空カムシャフトのさらなる軽量化、ブロック冷却強化、ピストン摩擦抵抗低減などの改良が全機種共通で加えられた。さらに、ハイブリッド専用でナトリウム封入排気バルブの投入や、吸気ポートと燃焼室形状の改善で、燃費と排ガス性能を改善しているという。
実際に乗ると、心臓部となるi-DCDの熟成ぶりに、ただただ感心する。これがフィットや「ヴェゼル」で登場した当時は、よくいえば小気味よさ(=悪くいえばギクシャク感)ばかりが目立ったが、今ではまるでウソだったかのように滑らかで高級なパワートレインになった。
変速機とモーターの協調制御も熟成されたのか、シフトショックに類する振動は見事なまでに消え去り、デュアルクラッチならではのキレのいい変速スピードだけが純粋培養されている。回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御におけるホンダの美点は、今も健在。リアルな手応え(足応え?)とリニアな利きが両立した扱いやすさはトヨタの上をいく。
体感的には1.8リッター相当のパンチを感じるi-DCDだが、フリードではスポーツモードやシフトパドルは装備されない。ただ、Lレンジがじつは“隠れSレンジ”ともいえる味つけなのは、いかにもホンダらしい。Lレンジでは本来の下り坂でなくてもエンジンが3000rpm以上に保たれて、加速ではリミットの6500rpm付近まで常用する。さらに3000rpm以下まで落ちかけると、エンジンを中吹かししながら自動ダウンシフトをかますのだ。
そんなi-DCDは次のフィットには搭載されず、将来的には姿を消す予定という。当初は度重なるリコールなどのネガティブな話題も振りまいたi-DCDだが、内燃機関らしい切れ味と電動らしい滑らかさが同居した、熟成きわまった現在の味わいは素直に素晴らしい。これがなくなるのは、なんとももったいない気もする。
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安定した走りのキモはリアサスにあり
今回は車体やサスペンションにまつわる改良はとくにアナウンスされていない。しかし、こんなに小さく背高の物体が、高速でビターッと直進して、山坂道で振り回してもしっかり地にアシつけて正確に曲がり、それでいてほどほどに乗り心地がいい……のだから、あらためて恐れ入るほかない。
その最大のキモはリアサスペンションで、大人7人フル乗車まで真面目に想定したフリードのトーションビームは、スプリング受けに肉厚ブラケット、メイン支持部に液封コンプライアンスブッシュ……というぜいたく設計なのだ。それを5人乗りで使うフリード+には、なおさら余裕たっぷり感があり、今回のように4WDと組み合わせてもしなやかにストロークして、リアタイヤはいかなる場面でも路面に根を生やしたように安定している。4WDはあくまで黒子に徹するタイプだが、荒れた山坂道をLレンジで踏みまくっても、まったく涼しい顔で受け止めてくれたのは、4WDの恩恵も一部にあったかもしれない。
シャシー関連で公表されている唯一の改良点は、パワーステアリング制御である。資料によると、切った状態から一気に手を離してもフラつきにくく、また旋回速度の高まりに応じて、よりリニアに操作力が重くなるチューニングにしたという。
私も一応はこういう仕事についている人間なので、走行中にステアリングから手を放す(あるいはそれに類する)ような行為は絶対にしない。ステアリングの戻し操作もあくまで自分の意思で積極的におこなうのが鉄則だ。しかし、一般にはそういう好ましくない運転をしてしまう人が存在することも事実で、フリードのような背高コンパクトほど不安定になりやすい。
遠慮なく加速するACCのありがたみ
ためしに交差点やカーブからの立ち上がりでステアリングを保持する手から力を一気に抜いてみると、なるほど揺り戻しめいたフラつきが印象的なほど少ない。また、カーブで速度が増すほど操作力が重くなるのも、不慣れなドライバーへの「飛ばしすぎですよ!」というメッセージになりやすいとも思った。
こんな長文をあえて読んでいただいている上級読者の皆さんの多くにとっては、こうした制御は不要な機能だろう。しかし、フリードに乗るのはそうではない人たちのほうがはるかに多いわけで、こういうところまで気を使わなければならないとは「自動車メーカーって本当に大変だなあ」と同情するしかない。
もうひとつ、昨今の自動車技術競争のメインステージになりつつある先進安全運転支援システムについても、今回はすべて最新世代にアップデートされたうえに、アダプティブクルーズコントロール(ACC)も「加速する際のフィーリングをさらにスムーズにして、より感性に合った制御にした」という。
その効能が如実に感じられるのは、80-100km/hに速度を設定した高速道で、渋滞などで低速までスピードを落とされた後に前方が一気に開けたようなシーンである。こういう場合、国産車のACCの再加速は歯がゆいものが多いのだが、新しいフリードのそれは状況が許せば「ほぼ全開かな?」というほど思い切りよく、胸のすく加速を見せてくれる。これくらい小気味いいACCなら、リアルな場面で無意識に右足で加速アシストしたくなるシーンも激減するだろう。
ACCもつい最近までは「ついているか、ついていないか」あるいは「全車速対応かどうか」くらいのチェックポイントしかなかった。まあ、今回のフリードも本来は全車速対応化をしてほしかったが、いずれにしてもACCの実際の使い勝手や作動マナーでメーカーやクルマによる差がけっこうあるのは本当だ。フリードのようなベーシックカーまでが、そういう領域に踏み込んだことは感慨深い。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・フリード+ ハイブリッド クロスターHonda SENSING
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1695×1735mm
ホイールベース:2740mm
車重:1510kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110PS(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134N・m(13.7kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:29.5PS(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160N・m(16.3 kgf・m)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ヨコハマ・ブルーアースE50C)
燃費:26.0km/リッター(JC08モード)/19.8km/リッター(WLTCモード)
価格:304万0400円/テスト車=334万4000円
オプション装備:1列目シート用i-サイドエアバッグシステム+サイドカーテンエアバッグシステム(4万4000円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー+ETC車載器<ナビ連動>(19万2500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<DRH197SM[GPS+液晶モニター+駐車時録画機能付き]>(2万7500円)/フロアカーペットマット プレミアムタイプ ハイブリッド車用<4WD車用>(3万9600円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:956km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:530.1km
使用燃料:36.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/15.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。