人気の「マツダ3」はなぜ受賞を逃したか? 2019-2020の日本カー・オブ・ザ・イヤーを振り返る
2019.12.13 デイリーコラムマツダもトヨタも評価は高い
「2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー」はトヨタの「RAV4」が受賞した。しかし『webCG』の読者を対象とした独自の投票では、「マツダ3」に対する支持が半数近くと圧倒的に多かったという。マツダ3は日本カー・オブ・ザ・イヤーでも健闘したが、順位としては2位であった。なぜこのような違いが生じたのか? 理由を考えてみたい。
両車の得点は、RAV4が436点、マツダ3は328点だから、比率で言うとRAV4はマツダ3の1.3倍だ。そして60人の選考委員のうち、RAV4に最高点数となる10点を投じた人は28人、マツダ3は16人であった(持ち点は合計25点で、必ず1車種に10点を与える決まりがある)。この「10点を投じた選考委員の人数」も比率に換算すると、RAV4はマツダ3の1.8倍。先に挙げた得点比率の1.3倍を大幅に上回る。
一方、この2車種に点数をまったく投じなかった選考委員は、RAV4については3人、マツダ3は4人であった。つまりマツダ3にも、RAV4と同様、多くの選考委員が点数を与えている。マツダ3も評価に値する新型車であった。ただし10点を投じた人数には1.8倍の差があり、RAV4の合計得点は、マツダ3の1.3倍に達したわけだ。
日本カー・オブ・ザ・イヤーのホームページに掲載されるRAV4の選考理由を見ると、「ダイナミックトルクベクタリングAWD」を筆頭に、3種類の4WDシステムをそろえ、悪路を含め優れた走行性能を発揮できる点を評価する意見が多かった。また「トヨタC-HR」など都会的なSUVが増えている中で、RAV4は前輪駆動をベースにしたプラットフォームを使いながら、外観や4WDが悪路の走破を重視している。選考委員からは、SUVの本質に迫る商品開発を評価する声も聞かれた。
RAV4はグローバルカーの代表で、SUVのカテゴリーでは大量に売られるクルマだ。デザイン、4WDシステム、優れた悪路走破力がSUVの本質を突いており、なおかつ世界的な評価も受けている。こうした実績も、RAV4の高得点につながったようだ。
決め手は「分かりやすさ」と「親切さ」
一方、マツダ3では、新しいプラットフォームに基づく優れた走行安定性と楽しい運転感覚、カッコよくて美しいボディースタイル、火花点火制御圧縮着火方式を使う新型エンジンの「スカイアクティブX」などを評価する意見が多い。
日本カー・オブ・ザ・イヤーの場合、一年間に登場した新型車から1車種を選ぶため、直接比較が困難なことも多い。SUVのRAV4とハッチバック&セダンのマツダ3も同様で、カテゴリーが異なるから一概には比べにくい。
その上でRAV4が受賞したのは、特徴の分かりやすい商品であるからだ。先に述べた通り、SUVが都会的に発展する中でRAV4には野性味があり、バリエーションも大半は4WDシステムを搭載する。悪路と舗装路の両方で優れた走行性能が発揮され、車内を見れば後席と荷室が広い。
もともとSUVが人気を高めた背景には、悪路走破も視野に入れたカッコいい外観と、ボディーの上側をワゴン風につくったことによる優れた実用性の両立があった。新型RAV4の機能はまさにSUVの典型であり、原点回帰とも受け取られ共感を得やすいクルマとなった。
対するマツダ3は、デビューの仕方が分かりにくかった。2019年5月に発売されたのは1.5リッターのガソリンと1.8リッターのクリーンディーゼルターボで、後に2リッターガソリンが追加された。スカイアクティブXの発売は11月にズレ込んでいる。マツダ3で最も関心の高い機能はスカイアクティブXだから、期待値も高く、その試乗チェックが行えないと選考委員の評価も棚上げになってしまう。スカイアクティブXに試乗できたのは、11月下旬だから、1.5リッターガソリンやディーゼルの発売から半年を経過していた。投票時点では市場の反響も分からず、実際にマツダ3の売れ行きも、RAV4と違って伸び悩む。
商品力は両車ともに高いが、例えば納車期間を適正に保つユーザーに向けた配慮など、広義の市場性はRAV4が優れている。正確に言えばRAV4も一度日本を見限って海外専用車になり、その後にSUVがブームになると、国内販売を再開した経緯がある。日本向けの商品ではなく、RAV4も日本のユーザーに優しいとはいえないが、マツダ3に比べれば親切であった。この違いは両車の売れゆきにも表れている。
以上のようにRAV4の受賞は、スポーツカー的なクルマ好きの視点というより、楽しくて実用的なクルマを求める多くのユーザーの気持ちに基づくものとなった。
(文=渡辺陽一郎/写真=田村 弥、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。