ボルボV60 T8 Twin Engine AWDインスクリプション(4WD/8AT)
さらにシビれるワゴン 2020.04.27 試乗記 ボルボの中核を担うステーションワゴン「V60」のラインナップで、最も高性能な「T8 Twin Engine AWDインスクリプション」に試乗。2リッター直4エンジンにターボとスーパーチャージャー、そして電動モーターを組み合わせた、“全部乗せ”400PSオーバーPHVの走りとは?往年のボルボワゴンの趣
ボルボと聞いて脊髄反射的にステーションワゴンを思い浮かべるのは、いまや40代後半以降の方々だろうか。かくいう私もそのひとりで、古くは「240」系のステーションワゴンの荷室容量に驚き、後の「740」系の堅牢(けんろう)さと信頼性に心をわしづかみにされ、後継の「850」系と名称変更モデルというべき初代「V70」のスタイリングと実用性の両立に感嘆した。
740系は最後のFRモデルとなったが、本国スウェーデンでは長らくボルボがFR派、航空機製造会社をルーツとした今はなきサーブが設立当時からFF派だったという歴史すら懐かしい。冬季の環境が厳しい北欧スウェーデンでFRとは、そのボルボですらSUVや4WDを展開する今では、にわかには信じられないことだろう。
しかし、当時ボルボは「滑りやすい路面状況下においては後輪駆動のほうがコントロール性に優れる」と主張。「アクセルワークを駆使すれば、それが第2のステアリングホイールになるとボルボも言っている」と教え込まれた超ビギナー(私だ)は「なるほど」と膝をたたいたのだ。もっともボルボがFRでも十分とした理由は他にもあって、気温の低いスウェーデンでは圧雪路の雪がとけにくくスノータイヤでもそこそこグリップが安定し、さらにスパイクタイヤの使用が認められているため、FRでもさほど問題にならなかったのだ。
話を現代に戻せば、ボルボは1991年に登場した850系でFFに宗旨替えし、4WDモデルも積極的に市場投入。爆発的なヒット作となった1999年デビューの2代目V70で、ボルボのFFは誰も疑問を持つことのない定番となった。
先代V60は、スポーツワゴン的フォルムが特徴であり、ボルボが長年こだわり続けてきた、サイドウィンドウにおいてはどの窓よりも荷室部分の窓が大きく長いというセオリーを打ち破ったモデルだった。スタイリッシュであることは認めるものの、かつてのV70の実質的な後継モデルともいえる新型V60のシルエットを見て、FR時代のボルボを知るファンは、私も含め往年のボルボワゴンが戻ってきたと歓迎しているはずである。
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ガソリンターボの「T5」でも十分なのに
日本仕様のV60にディーゼルエンジンの設定はなく、導入モデルはPHVも含めすべてがガソリンエンジン搭載車となる。そのパワートレインのラインナップは3種類。エントリーモデルの「T5」には最高出力254PSの2リッター直4ターボエンジンが、中間に位置する「T6」と今回試乗したトップモデルというべきT8にはいずれも2リッター直4ターボ+スーパーチャージャー+電気モーターのPHVが載る。
T6のエンジンは最高出力が253PS、T8は同318PSという違いがあるいっぽうで、前後アクスルに搭載されるモーター出力は共にフロントが最高出力46PS、リアが同87PS。それらを駆動する電力供給源となるリチウムイオンバッテリーのスペックにも変わりはない。両モデルの違いは、すなわちフロントに横置き搭載されるガソリンエンジンの出力のみである。システム出力の数値は、T6が340PS、T8が405PSとなる。
そもそも論で言えば、254PSを発生するガソリンターボのT5でも十分にパワフルなのだ。それにスーパーチャージャーとモーターが加わった全部乗せ、フルトッピングのパワートレインである。遅いワケがない。今回試乗を行ったワインディングロードの急勾配でも、2tの車重をものともせずグイグイと上る。そうした様子はまるで物理法則を無視するかのような勢いで、北欧テイストのインテリアに囲まれていなかったら、ボルボがそう望むかどうかは別としてBMWのMパフォーマンスモデルにでも乗っているかのような加速感である。
大口径の19インチサイズのタイヤ&ホイールが採用された足まわりは、T8のパワーに対応すべく引き締まった印象だ。同時に借り出した「S60 T4」は軽さが身上だったが、こちらはノーズに重量感があり回頭性では分が悪く、乗り心地も明らかに違う。しかしドライバーとの一体感は一枚も二枚も上手で、高性能モデルのハンドルを握っているという演出にたけていると思えた。
ドライブモードは「ハイブリッド」「ピュア」「コンスタントAWD」「パワー」「インディビジュアル」と5パターンの設定で、エンジンやトランスミッション、ステアリングのレスポンスが変化する。
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パワーユニットの電動化を促進
ハイブリッドはT8にとっての通常モードで、エンジンとモーターが連係して作動する。始動時はこのモードが選ばれている。ピュアはいわゆるEVモードで、通常のアクセル操作であれば125km/hまでの完全EV走行を行う。コンスタントAWDは四輪駆動固定モード、パワーはその名のとおり最大限のパフォーマンスを引き出すモードで、トランスミッションはより低いギアを選び、ステアリングの反応がクイックになる。
S60 T4で「コンフォート」に相当するであろうハイブリッドモードでも、T8は十分にスポーティー。今回の試乗では高速道路での走行が行えなかったため言明は避けるが、スピードが上がるにつれてフラットライドが高まる、そんなセッティングだと想像できる。
本国スウェーデンでは、すでにマイルドハイブリッドシステム(MHEV)を組み込んだガソリンエンジンが全ラインナップに設定されている。つまり、数年前にボルボが宣言したように、積極的にパワートレインの電動化にシフトするという施策が着々と進められているのだ。日本市場では、「XC60」「XC90」を嚆矢(こうし)とし、MHEVの導入が始まった。
そうした電動化シフトへの積極姿勢、いやボルボの電動化への本気度は、V60にPHVのエントリーモデル「T6 Twin Engine AWDモメンタム」を659万円(2019年6月当時)という戦略的な価格で追加設定したことからも感じられた。その時点でガソリンエンジンの「T5インスクリプション」の価格は599万円だったが、エコカー減税とクリーンエネルギー自動車促進対策補助金でPHVには約45万円が助成されるというアナウンスもあり、両者の差がぐっと縮まった印象も持ったのだ。
現在PHVは、新車購入時に諸費用として計上される環境性能割と重量税が非課税(つまり0円)、さらに国からPHV購入助成金として個人購入車両で30万円(要申請)、加えて居住する自治体によっては“地球温暖化対策推進”の名目で別途助成金(要申請)が出されるところもあり、もちろんこれはT8にも当てはまる。そうしたことを勘案すれば、時流にも乗れるボルボのPHVは──T8の価格が849万円であっても──十分魅力的な物件と言えまいか。
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「T6」と「T8」の差異は?
T8の場合、フル充電までには2.5時間から3時間程度(普通充電、200V16A)を要し、EV走行距離は48.2kmと短い。今回の試乗でも、借り出した時にはすでにバッテリー残量がほぼゼロで、PHVのメリットのひとつである完全なEV走行を味わうことはできなかった。ただ、Dレンジ(走行モードはハイブリッド)での走行の場合、回生ブレーキは不自然な挙動を見せることなく快適にドライブできた。回生ブレーキならではの制動効果を味わい、積極的に充電を行いたい場合には、ギアポジションを「B」に入れればいい。
純EVの走行距離はさほどでもないが、信号などでの停止状態、つまりアイドリングストップからの再スタートでもPHVのメリットを享受できる。今回の試乗では、バッテリー残量の表示がゼロであっても発進時すぐにエンジンがかからず、最初の数mはEV走行となった。その後、走りながらエンジンがかかるのでガソリンエンジン車よりもアイドリングストップからのリカバリーがスムーズだったのだ。加えてボルボによれば燃費はT5の2割増しとのことなので、たとえ電池切れでもハイブリッドカーとしてのアドバンテージは見いだせる。役立たずの単なる重いバッテリー運搬車にならないところもいい。
エンジンとモーターでおよそ400PSの最高出力を誇るだけあってT8の俊足ぶりは目を見張る。しかし、T6の速さもなかなかのものである。この両モデル、ボルボ自慢の安全装備を含め快適装備はほぼ同等で、カタログをよくよく眺めてみれば、電動パノラマガラスサンルーフと19インチホイールが標準装備(T6は18インチホイール)となるという違いぐらいである。
だとすればT6でも十分であるとの結論が成り立つわけだが、いっぽうでT6もT8もパワーアップとレスポンス向上を果たすという「ポールスター・パフォーマンスソフトウエア」なるオプションプログラムが用意されている。中国には「女性の服は永遠にひとつ足りない」ということわざがあるらしい。厳密に言えばそれと解釈は異なるのかもしれないが、よりパワーのあるほうについ目がいってしまい、いつまでたっても「これで十分」と思えないのは、多くのクルマ好きに共通する悲しいサガなのかもしれない。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボV60 T8 Twin Engine AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1850×1435mm
ホイールベース:2870mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:318PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2200-4800rpm
フロントモーター最高出力:46PS(34kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)/0-2500rpm
リアモーター最高出力:87PS(65kW)/7000rpm
リアモーター最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/0-3000rpm
システム最高出力:405PS
タイヤ:(前)235/40R19 96W/(後)235/40R19 96W(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:13.7km/リッター(WLTCモード)
価格:849万円/テスト車=900万2000円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(12万円)/プラスパッケージ<ステアリングホイールヒーター、リアシートヒーター>(6万2000円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100W、15スピーカー>サブウーファー付き(33万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1255km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。