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ホンダとGMが提携関係を拡大! 商品開発にまで踏み込んだ協業の“ねらい”とは?

2020.09.21 デイリーコラム 佐野 弘宗

ずっと“ひとり”でやってきたわけではない

2020年9月3日に日本のホンダと米大手ゼネラルモーターズ(以下、GM)が「北米での戦略的アライアンスに向けて合意」したとの発表をおこなうと、業界スズメたちは一斉に色めきだった。ホンダといえば、周囲がいかに合従連衡を繰り返しても独立独歩を守り、技術も門外不出の自前主義というイメージがとても強かったから、「あのホンダもついにぃ!?」と驚いた向きも少なくないだろう。

しかし、これまでのホンダにも他社との協業がなかったわけではない。たとえば、1980~90年代に英ローバーへの技術供与をおこなっていた(かわりに「ランドローバー・ディスカバリー」を「クロスロード」の名で国内販売した)のは、よく知られた事実である。

また、ホンダとGMとの協力関係もじつはけっこう長い。両社の最初の提携は1999年末。ホンダが低公害V6エンジンとATをGMに供給して、当時GM資本下だったいすゞが欧州向けディーゼルエンジンをホンダに供給する契約を結んでいたのだ。ただし、これはどちらも同等のパワートレインを自社開発するまでの“つなぎ”の意味が強く、数年でその役割を終えている。

それから歳月はすぎて2013年、ホンダとGMは、今度は燃料電池自動車(FCEV)で手を組む。それは「2020年ごろの実用化に向けて、燃料電池システムと水素貯蔵システムを共同開発する」という内容だった。この合意の具体的成果はいまだに世に出ていないが、彼らはこれ以降も、次世代バッテリー事業に無人ライドシェアサービスなど、さまざまな分野で協業に乗り出している。これらをならべると、燃料電池にバッテリー、完全自動運転……となり、つまりは「いつ普及するか分からないが、やっておかないわけにもいかない」的な将来技術を共同で進める(≒リスク分散する)という、ホンダとGMの明確な戦略が見えてくる。

急速に提携の拡大を図っているホンダとGM。2020年4月には電気自動車の分野で、同年9月には北米市場での販売モデルに関して、協業を発表した。
急速に提携の拡大を図っているホンダとGM。2020年4月には電気自動車の分野で、同年9月には北米市場での販売モデルに関して、協業を発表した。拡大
1993年に登場した「ホンダ・クロスロード」。「ランドローバー・ディスカバリー」の姉妹モデルである。
1993年に登場した「ホンダ・クロスロード」。「ランドローバー・ディスカバリー」の姉妹モデルである。拡大
次世代燃料電池システムの共同開発に関する合意の記者会見にて、握手を交わす本田技研工業の岩村哲夫副社長(右)とGMのスティーブ・ガースキー副会長(左)。
次世代燃料電池システムの共同開発に関する合意の記者会見にて、握手を交わす本田技研工業の岩村哲夫副社長(右)とGMのスティーブ・ガースキー副会長(左)。拡大
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これまでの提携や協業とはここがちがう

面白いのは、この種の将来技術に関する提携は、時代や経営環境のちょっとした変化をきっかけに、引っ付いたり離れたりするのがめずらしくないのに、両社のそれが意外なほど地に足が着いていて、長期にわたっていることだ。そういえば、かつてのローバーとの提携でも、ローバーを買収したBMWが提携解消を申し出る1994年まで、ホンダは自分の役割をまっとうし続けていた。提携や協業には慎重であるがゆえに、一度はじめたら簡単には投げ出さないのがホンダの社風なのだろうか。

ただ、今回の提携はこれまでとはちょっと意味合いがちがう。冒頭の戦略的アライアンスに加え、その5カ月前の2020年4月には「GMの新型バッテリー『アルティウム』を採用した、ホンダ向け次世代電気自動車(EV)の共同開発」も発表されているのだ。これらの合意に共通するのは、具体的な商品の共同開発である点だ。

2020年4月の合意では、「GMが開発するEVプラットフォームに、ホンダ独自の内外装を載せたモデルを、GMで生産してホンダ車として売る」としている。そして、この9月の戦略的アライアンスでは、ついにエンジンやハイブリッドシステム、プラットフォームも両社で共用する計画に踏み込んだ。これを聞いて、業界スズメたちは「すわ資本提携か、合併か、経営統合か!?」と騒ぎ出したというわけだ。

ちなみに、2019年のGMのグローバル販売台数は771万台で、これは世界4位の規模だ。ホンダのそれは517万台で、同年5位のヒュンダイ(719万台)と6位フォード(538万台)に続く世界7位にあたり、両社の2019年実績の合計は1288万台となる。もし両社が一体となれば、フォルクスワーゲングループ(1097万台)、トヨタグループ(1074万台)、ルノー・日産・三菱アライアンス(1015万台)を超える世界最大のメガグループが誕生する。

ただ、これはあくまで業界スズメたちの妄想だ。現時点では両社とも資本提携や経営統合の可能性は明確に否定している。また、この2つの合意では、どちらも「米国およびカナダで」あるいは「北米で」という注釈が明記されているのも注目すべき大きな特徴である。実際、ホンダがGMと手を組もうとしているEV事業も現時点ではあくまで北米のみで、日欧では自前商品の「ホンダe」をデビューさせたばかりだ。

新型バッテリー「アルティウム」を核とした、GMの新世代EVプラットフォーム。前輪駆動、後輪駆動、4WDと、さまざまな駆動方式に対応している。
新型バッテリー「アルティウム」を核とした、GMの新世代EVプラットフォーム。前輪駆動、後輪駆動、4WDと、さまざまな駆動方式に対応している。拡大
「アルティウム」の量産に際し、GMはLG化学と合弁会社を設立。オハイオ州ローズタウンにおいて、生産工場の建設を進めている。
「アルティウム」の量産に際し、GMはLG化学と合弁会社を設立。オハイオ州ローズタウンにおいて、生産工場の建設を進めている。拡大
キャデラック初のEVとして2020年8月に発表された「リリック」。アメリカでは、早くも「アルティウム」を採用した量産EVが登場している。
キャデラック初のEVとして2020年8月に発表された「リリック」。アメリカでは、早くも「アルティウム」を採用した量産EVが登場している。拡大
日欧で販売される都市型EVコミューター「ホンダe」。ゼネラルモーターズとの提携とは関係のない、ホンダ独自のEVである。
日欧で販売される都市型EVコミューター「ホンダe」。ゼネラルモーターズとの提携とは関係のない、ホンダ独自のEVである。拡大

ねらいは利益率の低い四輪事業の体質改善

今のホンダ最大の課題は、四輪事業の利益率の低さだという。2019年度、ホンダの四輪事業の売上高は二輪事業の約5倍もあったというのに、営業利益は二輪のほぼ半分しかなかった。コロナ禍に見舞われた2020年1~3月期も四輪事業が赤字に転落したのに対し、二輪事業は黒字を確保している。ホンダの経営は、二輪事業が支えているといっても過言ではない状態なのだ。ここにメスを入れ、ホンダを利益率の高い体質に改善するのが、2015年に就任した八郷隆弘社長の最大のミッションである。

そんな八郷社長は、2019年5月の事業方針説明会見で、四輪車販売の6割を占めるグローバルモデルをホンダの強みとしつつも、「グローバルモデルと地域専用モデルの商品魅力と効率化」を体質強化のキーポイントとしてあげた。

そう考えると、ホンダの近未来戦略において「アコード」「シビック」「CR-V」「フィット/ジャズ」「ヴェゼル/HR-V」といったグローバルモデルは、これまでどおりの自社開発となるのだろう。いっぽうで地域専用モデルは、「地域ごとに最大の効率化を目指す」ということだ。北米市場はホンダ四輪事業の4割近くを占めており、ここでの利益率向上は影響もとくに大きい。そんな北米専用モデルでは、勝手知ったるGMとの共同開発が、商品魅力でも効率化でも大きな武器となると判断したわけだ。

ホンダの北米用モデルといえば、全長5.1mの巨大ミニバン「オデッセイ(日本のオデッセイとは別物)」、全長5m級の3列シートSUV「パイロット」と、そのピックアップ版ともいえる「リッジライン」、そしてパイロットの弟分たる「パスポート」などがある。これらの現行モデルはすべて3.5リッター級のV6エンジンを積む。

パイロットやパスポートと兄弟関係になりそうな現行GM車は「シボレー・トラバース/GMCアカディア/キャデラックXT6」だろう。このあたりが、今回のアライアンスの最大の戦略商品になる気がする。

2015年に本田技研工業の代表取締役社長に就任した八郷隆弘氏。(写真は2019年東京モーターショーのもの)
2015年に本田技研工業の代表取締役社長に就任した八郷隆弘氏。(写真は2019年東京モーターショーのもの)拡大
2019年のロサンゼルスモーターショーにおける、ホンダブースの様子。車形のちがいなども含めると、ホンダは米国で24車種ものモデルを販売している。
2019年のロサンゼルスモーターショーにおける、ホンダブースの様子。車形のちがいなども含めると、ホンダは米国で24車種ものモデルを販売している。拡大
米国におけるホンダのSUV製品群の最上級モデル「パイロット」。この体格でも、かの地ではミドルサイズ扱いである。
米国におけるホンダのSUV製品群の最上級モデル「パイロット」。この体格でも、かの地ではミドルサイズ扱いである。拡大
ボディーはモノコック、駆動方式はFFないしFFベースの4WDと、ピックアップトラックとしては非常にユニークな構造をもつ「リッジライン」。ただし人気はイマイチのようだ。
ボディーはモノコック、駆動方式はFFないしFFベースの4WDと、ピックアップトラックとしては非常にユニークな構造をもつ「リッジライン」。ただし人気はイマイチのようだ。拡大

「NSX」と「コルベット」が兄弟になる日も近い?

さらに、FR車用のラダーフレームをもたないホンダは、前記のようにリッジラインというFFベースのピックアップトラックを北米で販売している。それはある意味でとてもホンダらしい独特な商品なのだが、北米での売れ筋を考えれば、ホンダとしては「シボレー・コロラド/GMCキャニオン」の兄弟となる、より本格的なミドルトラックを売りたいのが本音なのかもしれない。……となれば、さらに巨大な「シボレー・シルバラード/GMCシエラ」のホンダ版も出ちゃったりして……とクルマオタクの妄想はふくらむのだが、フルサイズピックアップはアメリカンにとってまさに“聖域”。ここだけは微妙である。

……と、今回の原稿を書き終えようとしていたところで、編集担当のH君(「バイパー」乗り)は「こりゃあ、『NSX』が『コルベット』の兄弟車になる日も近いですな」とつぶやいた。そうだった。NSXは一応グローバルモデルだが、メイン市場は北米だ。ただ、私もすっかり書き忘れそうになったように、彼らにとってのスポーツカー事業は、経営的にはあくまで余興にすぎない(逆に、ホンダやGMほどの大メーカーの経営がスポーツカーに左右されるようではマズい)。よって、ここは「おたがい勝手にやっときましょう」という相互不可侵とされる可能性が高い。

まあ、トヨタが他社と組んでスポーツカーでブイブイいわせているのを横目に、どちらかが「この手があったか!?」などとヒザをたたいている可能性もゼロではないが……。

(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

シボレーのフルサイズピックアップトラック「シルバラード」。GMがどこまでのモデルでホンダとの共同開発や車両の生産供給を検討しているのかも、気になるところだ。
シボレーのフルサイズピックアップトラック「シルバラード」。GMがどこまでのモデルでホンダとの共同開発や車両の生産供給を検討しているのかも、気になるところだ。拡大
現行型「ホンダNSX」の開発は実はアメリカが主導。マイナーチェンジ前までは、開発責任者もアメリカのスタッフだった。
現行型「ホンダNSX」の開発は実はアメリカが主導。マイナーチェンジ前までは、開発責任者もアメリカのスタッフだった。拡大
アメリカが世界に誇るスーパースポーツ「シボレー・コルベット」。ミドシップ化された新型なら、あるいは……。
アメリカが世界に誇るスーパースポーツ「シボレー・コルベット」。ミドシップ化された新型なら、あるいは……。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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