祝・生誕25周年! ポルシェ躍進の立役者「ボクスター」
2021.02.10 デイリーコラムコンセプトカー登場は1993年
2021年、「ポルシェ・ボクスター」がデビュー25周年を迎えた。それを記念して世界限定1250台の「ボクスター25イヤーズ」というアニバーサリーモデルの受注が始まっている。
ここであらためて、ボクスターの足跡を振り返ってみたいと思う。ボクスターのコンセプトが生まれる数年前、1990年~1991年当時のポルシェのラインナップは「911」と「928」、そして「944」(1991年に生産終了)or「968」(1991年にデビュー)のわずか3種類。生産台数は911が1万9641台で928が1792台、944(968)が4724台と、トータルで3万台にも満たないものだった。
911しか売れるクルマがない。車種バリエーションもないので販売店も売るクルマがない。ポルシェの経営は危機的な状況にあった。1993年にヴェンデリン・ヴィーデキング氏がCEOに就任、トヨタ生産方式を取り入れることを決断する。
時を同じくして、1993年のデトロイトモーターショーでオープントップ2シータースポーツカー「ボクスター コンセプトカー」が発表された。ちなみに車名のボクスターは、ボクサーエンジンとロードスターを組み合わせた造語である。
販売台数を大幅に引き上げる
1996年、コンセプトカーのスタイリングをほぼ踏襲した、初代ボクスター(986)の市販が始まる。初の水冷水平対向エンジンを搭載した911(996)と部品の多くを共通化することで、より安価な価格帯での市場投入を実現した。
986の登場初年度の販売台数は約1万6000台と、その年の911(993)とほぼ同じセールスを記録。さらに2年遅れて登場した996の初年度のセールスはいきなり2万台超の約2万3000台に到達。相乗効果もあってその年の986も約2万2000台のセールスを記録し、ポルシェとして初めて年間販売台数で4万台を突破した。このビジネスとしての成功のおかげで、「ターボ」や「カレラ4」に続き、911としては初となる「GT3」を導入。いまに続くポルシェの看板スポーツカーが誕生した瞬間だった。
排気量2.5リッターの水平対向6気筒エンジンで始まった986は、1999年に2.7リッターエンジンを搭載して出力を強化。また3.2リッター6気筒エンジンを搭載した「ボクスターS」も追加された。
2004年には987へとアップデート。翌年にはボクスターのクーペ版となる「ケイマン」が発表された。モデルライフ中にボクスターは2.9リッター、ボクスターSは3.4リッターにまで排気量を拡大している。
2012年には、981へとフルモデルチェンジ。2.7リッターと3.4リッターの水平対向6気筒エンジンを皮切りに、出力を高めた「GTS」や軽量化したボディーに3.8リッターエンジンを搭載した「ボクスター スパイダー」などが設定された。
6気筒モデルが復活
そして2016年に現行の982世代がデビュー。排ガス規制をクリアすべく2リッター、もしくは2.5リッター4気筒ターボエンジンへとダウンサイジング。4気筒エンジンを搭載していた1950年代のレーシングカー「718」へのオマージュとして、車名を「718ボクスター/718ケイマン」へと改名。GTSも2.5リッター水平対向エンジンへとダウンサイジングを余儀なくされていた。
ところが近年、欧州で燃費基準が国際基準のWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)に統一化される動きが起きている。皮肉にもこの新たな燃費計測方法には、ダウンサイジングエンジンではミートしにくいことが判明。欧州各社がエンジンのライトサイジング(right=適正化)を進めるなかで、ポルシェは「スパイダー」「GTS 4.0」を設定し、ボクスターに水平対向6気筒自然吸気エンジンを復活させた。
ポルシェファンとしては喝采を送るとともに、3リッターターボへとダウンサイジングされた911のエンジンが、この4リッター自然吸気へと置き換えられることを期待せずにはいられない(新型「911 GTS」に搭載とのうわさもある)。
メルセデスが「SLC」の、アウディが「TT」の生産中止を決めるなか、(「BMW Z4」も「トヨタ・スープラ」の存在がなければ絶版の予定だったという)、コンパクトな2シーターオープンスポーツカー市場の未来は決して楽観できるものではないだろう。
それでもボクスターは4世代にわたり、35万7000台以上が生産されてきた。ポルシェは新たに「カイエン」や「マカン」といったSUVでビジネスの屋台骨を築き上げ、それを原資として911やボクスターといったスポーツカーを絶やすことなくつくり続けている。それこそがまさにポルシェの矜持(きょうじ)といえるものだろう。
(文=藤野太一/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)
