アウディRS Q3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
ガマン要らずの武闘派マシン 2021.03.19 試乗記 「アウディQ3」のトップパフォーマンスモデル「RS Q3」が2代目に進化。パワーアップした5気筒ターボエンジンやド派手なエクステリアパーツを手にした新型は、スポーツモデルとしての存在感がさらに強くなっている。クーペボディーの「スポーツバック」に試乗した。新しい風を吹き込んだ初代RS Q3
今から7年前の2014年4月、初代アウディRS Q3に試乗したときは、期待を超えたスポーティーな走りに打ちのめされた。アウディが標準的なモデルを“Aモデル”、パワフルなエンジンに4WDの“クワトロ”を組み合わせたスポーティーなモデルを“Sモデル”として展開しているのはご存じだろう。
そのSモデルのさらに上を行くハイパフォーマンスが“RSモデル”で、ひと昔前は「RS 4アバント」や「RS 5クーペ」などラインナップは限られていた。そんななか、SUVの“Qファミリー”初のRSモデルとなるRS Q3が登場したのだ。
アウディ伝統の直列5気筒ターボを積むとはいえ、しょせんSUVだろうと思って臨んだ試乗では、いい意味で期待を裏切られ、こんなSUVならホットハッチやスポーツワゴンの代わりに乗っても楽しいだろうなと、妄想にふけったのが懐かしい。
そんな憧れのRS Q3が、ベースモデルのモデルチェンジにともない2代目に進化するとともに、新たにSUVクーペスタイルのRS Q3スポーツバックを引き連れて、2020年10月に日本上陸を果たした。
伝統の5気筒ターボは400PSに
新型RS Q3とRS Q3スポーツバックはデザインこそSUVとSUVクーペという違いがあるが、もちろん基本部分は共通。一番のハイライトといえるパワーユニットには、引き続き2.5リッター直列5気筒ターボの2.5 TFSIエンジンを採用。最高出力は、初代のデビュー当時が310PSだったのに対し、新型では90PSアップの400PSに進化。これにデュアルクラッチギアボックスの7段Sトロニックを組み合わせ、電子制御油圧多板クラッチ式のクワトロにより4輪を駆動する。
Q3の最上位に君臨するスポーツモデルであるにもかかわらず、どちらかといえば控えめな印象だった初代のエクステリアに対し、このRS Q3スポーツバックは見違えるほど主張が強い。ブラックのハニカムメッシュグリルやボンネットの先端に設けられた3分割のスリット、フロントバンパー両サイドに大きく口を開けたエアインレット、ブリスターフェンダーなど、標準モデルよりも明らかに押しの強い印象だ。
さらに、今回の試乗車には1インチアップの255/35R21タイヤと21インチアルミホイール、セラミックブレーキなどのオプションが装着され、スポーツモデルのオーラが漂っている。それでも、端正でスマートなイメージを失わないのが、アウディらしいところだ。
さらに磨きがかかった加速
早速運転席に収まると、外観以上に派手な印象のコックピットが目に入る。ダッシュボードやドアのアームレスト、スポーツシートの側面などにはレッドのアルカンターラが配され、ルーフライナーまでブラックの室内とのコントラストが際立っている。さらに、レッドステッチが施されたステアリングホイールやシフトレバー、ダイヤモンドステッチがあしらわれたファインナッパレザーのスポーツシートなど、“特別なクルマ”にふさわしい雰囲気に仕上げられている。ただし、豪華なシートやレッドのアクセントなどはオプション装備によるもので、内外装や機能パーツをすべてひっくるめて264万円、総額1127万円というプライスにはめまいがしそうだ。
気を取り直してスターターボタンを押すと、その存在を声高にアピールするようにエンジンが目を覚ます。いまどき珍しく、自己主張の強いタイプである。走りだすと、直列5気筒ターボは2.5リッターの余裕ある排気量にふさわしい豊かなトルクを発生させるが、常用する1500rpmあたりでは、軽いアクセル操作に対してやや反応が遅れる印象があり、「マイルドハイブリッド化されていたらよかったのに……」と思ったのも事実だ。
しかし、高速道路へ進入する場面でアクセルペダルを深く踏み込むと、2.5 TFSIの威勢のよさがよみがえる。3000rpm付近から直列5気筒エンジン特有の不協和音がボリュームを増し、そこから一気にレブリミットまで回転を上げていく。液晶メーターの「アウディ バーチャルコックピットプラス」をRSモデル専用モードに切り替えると、5000rpmを超えたところから回転が上がるのにあわせてグリーン、イエロー、レッドの表示がともるが、それも一瞬のこと。その鋭さは旧型をさらに上回り、この爽快さこそ、RS Q3スポーツバックの醍醐味(だいごみ)といっていいだろう。
SUVを忘れる走り
255/35R21サイズのタイヤと、自慢のクワトロのおかげで、ハイパワーをしっかりと受け止めてくれるのもRSモデルのうれしいところだ。オプションのRSダンピングコントロールサスペンションが装着された試乗車は、モード設定で「Auto」を選んでも硬さは残るが、鋭いショックを伝えてくることはないので、日常の足としても実用性は十分。一方、ワインディングロードでは、コーナリング時のロールが抑えられ、安定した姿勢でコーナーを駆け抜けることができる。ステアリングホイールを握る手や身体に、しっかりと接地する感じが伝わってくるのはクワトロの強みだ。
1555mmの全高はSUVとしては低めとはいえ、車両重量は1740kgとクーペやハッチバックよりも明らかに重い。それゆえ、ノーズの動きにシャープさはないけれども、それでもSUVであることを忘れてしまうほどダイナミックな走りを楽しめるのは、初代RS Q3のキャラクターを確実に受け継いでいる。
スポーティーな性格を手に入れながら、Q3スポーツバックと同じ余裕ある後席やラゲッジスペースを確保するのも見逃せないところ。4505mmの全長も扱いやすく、これ1台で走りの楽しさも移動の便利さもカバーしたいという人には、理想的なクルマといえるのではないだろうか。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディRS Q3スポーツバック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4505×1855×1555mm
ホイールベース:2680mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400PS(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/1950-5850rpm
タイヤ:(前)255/35R21 98Y/(後)255/35R21 98Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:9.8km/リッター(WLTCモード)
価格:863万円/テスト車=1127万円
オプション装備:RSスポーツエキゾーストシステム(16万円)/アルミホイール<5アームトリゴンデザイン マットチタングレー 8.5J×21>&255/35R21タイヤ(17万円)/デコラティブパネル<カーボン>(8万円)/エクステリアミラーハウジング<カーボン>(12万円)/スピードリミッター<280km/h>(23万円)/Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム(13万円)/カーボンエンジンカバー(8万円)/ブラックスタイリングパッケージ(12万円)/セラミックブレーキ<フロント>&レッドブレーキキャリパー(75万円)/RSダンピングコントロールサスペンション(17万円)/RSデザインパッケージ<エクステンデッドレッド>(51万円)/マトリクスLEDヘッドライト&ダイナミックインジケーター&ワイヤレスチャージング(12万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2420km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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