第203回:大勝利依存症
2021.03.29 カーマニア人間国宝への道病気なのかもしれない
先日、『ギャンブル依存症』(田辺等著/生活人新書刊)なる本を読んだ。
冒頭、「この本を手にとったあなたは、いったいどのような人でしょうか」とあった。単なる知的好奇心なのか、あるいは悩みに悩み抜いているギャンブル依存症者の家族かと問いかけていた。
そして、「できればやはり“あなた”に読んでもらいたい」と書かれていた。つまり、ギャンブル依存症の本人に読んでほしいと。
私はギャンブル依存症ではない。というかギャンブルにはコレッポッチもまったく興味がない。自分とはまったく縁のない世界ゆえに、読んでみたくなったのである。
しかし、読み始めてすぐに「うげぇ!」となった。
「A君のケースでは、ギャンブルのほかに何も面白いものを見つけられない退屈な青年の心を活気づけてくれました。Bさんは、ギャンブルに勝つことによって、職場で体験できない達成感のようなものを味わうことができました。ギャンブル依存症の人は、ギャンブルに出会って、『ギャンブルは自分の最上の楽しみ』『憂うつを吹き飛ばす良薬』といった経験をしたのです」(本書より要点を抜粋)
この“ギャンブル”のところに“フェラーリ”を入れれば、それはズバリ、私のことだ。あるいは“クルマを買うこと”でもいい。なにしろ私はこれまでにフェラーリを13台買っている。クルマは合計51台買っている。読めば読むほど、自分との共通点が浮かび上がってきた。
本書は、ギャンブル依存症を「病気」と言っている。病気は本人の意思だけでは治らない。治療が必要なのだと書かれている。私も病気なのかもしれない。
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やめられない止まらない
本書によれば、ギャンブル依存症の人は、ほとんどと言っていいほど、大勝ちした経験をもっているという。ギャンブルを始めたころに、ビギナーズラックといわれる勝ちを経験し、それが忘れられなくなる。日常生活に不満があればあるほど、あの達成感、勝利感がまた味わいたくなり、深みにはまっていく。
私が初めてフェラーリに乗ったのは、偶然にも日本にスーパーカーブームを巻き起こした漫画『サーキットの狼』の作者・池沢早人師先生の担当者になり、先生から「ちょっと乗ってみる?」と誘ってもらったからだった。この状況は、本書に登場するA君が、友人から「ちょっと行ってみる?」とパチンコに誘われた状況に酷似している。
あの時私は、こんな地をはうホバークラフトみたいな物体を運転するなんて怖すぎる! と思ったが、意を決して運転してみたら、その瞬間に電気が走った。
「こんなモノが世の中にあったのかあぁぁぁぁぁぁぁ!」
これがビギナーズラックでなくてなんだろう。
大勝ちの快感はいまでも続いている。フェラーリでアクセル全開をかまし、あの「クアァァァァァァァァァ~~~~~~ン」という天使のソプラノを聞くと、いまだに全身に電気が走る。そして、ものすごい勝利感に酔いしれる。
なにしろフェラーリだ。クルマの世界にこれ以上の存在はない。地上の頂点である。クルマ好きなら、名前を聞いただけでみんなひれ伏す。頂点を味わって絶頂に達するのだ。こんな大勝ちはほかにない。やめられるはずがない!
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唯一のコンプレックスも解消
実は私も、フェラーリの刺激はもう十分に味わった、おなかいっぱいです! という思いはある。しかし、フェラーリがなくなったらと思うと、どうにもさみしくなる。
あの天使のソプラノがもたらす絶頂は、思い出すだけでも十分。脳内で反すうできる。しかし、フェラーリオーナーという社会的地位は、手放したらそれまでだ。自分がカラッポになってしまいそうな気がする。
フェラーリオーナーが唯一コンプレックスを抱く対象は、ランボルギーニである。フェラーリのほうが上品だとかイタリア本国では扱いが全然違うとかいっても、日本ではランボルギーニのほうがエライとされているし、ランボルギーニオーナーはケンカも強そうだしドアも上に開く。つい「負けた」と思ってしまう。
そこで私は、フェラーリを手放すどころかフェラーリに加えてランボルギーニも半分買い、さらに重武装するに至った。これで敵はいない。カーマニアとして最強だ。完全に依存症である。
ただ、フェラーリやランボルギーニ依存症の救いは、買えばそれで満足するし、値段も下がらない点にある。
ギャンブルを長く続ければ、確率論的に必ず負けるが、フェラーリやランボルギーニは勝ち続けることができる。まさに大勝利! いや大勝利の二乗! 勝ちの決まった八百長勝負!
ならば、こう言えるのではないか。
「フェラーリやランボルギーニを買わないのはバカ!」
病気も治す必要ナシ! 死ぬまで乗り続けるぜ、うおおおおおおおおお!
こうして振り出しに戻る私でした。どうもスイマセン。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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