フォルクスワーゲン・パサート オールトラックTDI 4MOTIONアドバンス(4WD/7AT)
熟成はドイツの流儀で 2021.05.08 試乗記 マイナーチェンジを受けたフォルクスワーゲンのクロスオーバー「パサート オールトラック」に試乗。パワートレインの改良や最新世代の運転支援システムの採用で、地味で実直なそのキャラクターはいかなる進化を果たしたのか?インテリアが新しくなった
2021年の春、フォルクスワーゲンの「パサート」シリーズがマイナーチェンジを受けた。今回試乗したのは、「セダン」「ヴァリアント」(ステーションワゴン)とともにラインナップを構成するオールトラック。ヴァリアントをベースに、足まわりとタイヤを変更することで車高を25mmほど高くした、ちょいSUV風味のパサートだ。
セダンとヴァリアントはガソリンエンジンとディーゼルエンジンが選べるけれど、オールトラックは2リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンの一択。駆動方式もフォルクスワーゲンが「4モーション」と呼ぶ、フルタイム4WDのみとなる。パサート オールトラックはベーシックグレードと、装備充実の「Advance(アドバンス)」というグレードの2本立て。試乗車は、アラウンドビューモニターや駐車支援システムを備える後者だった。
マイナーチェンジによるデザイン変更は、エクステリアよりインテリアに顕著だ。外観は新旧2台並べて間違い探しをしないとわからないレベルであるのに対して、インテリアは乗り込んだ瞬間、新しくなったと感じさせる。ステアリングホイール中央の「VW」のエンブレムが新デザインに変わっているし、センターコンソールに鎮座していたアナログ式時計が「PASSAT」のロゴに取って代わった。
こうした見た目の変更だけでなく、走りだしてみるとタッチパネルで操作する空調のコントロールが使いやすくなっているなど、細かい部分までユーザー目線で改良されているという印象を受けた。エンジンを始動すると、ドライバー正面に各種情報が表示される。アドバンスグレードではヘッドアップディスプレイも標準装備なのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
気持ちのいいパワートレイン
発進加速は滑らかで力強い、というのはマイナーチェンジの前からこのエンジンの特徴だったけれど、そこにピックアップのよさが加わり、より洗練されたパワートレインになった。ただし今回の主役はエンジンではなく、トランスミッションだ。これまで、ディーゼルエンジンにはデュアルクラッチ式の6段DSGが組み合わされていたけれど、それが7段DSGに変更されたのだ。
多段化によって、1速のギア比がいままでより低くなったほか、ギアがシフトした時のエンジン回転数の変化が小さくなる。そのおかげで、加速がスムーズに感じるなど、ドライバビリティーが向上したのだ。
もともと回転フィールが滑らかでノイズも抑えられているエンジンなので、高速巡航時に静かになるという恩恵は感じなかった。それでも市街地において20km/h程度から加速するような場面では、思い通りに速度が積み上げられていく感覚が味わえて、気持ちがいい。従来の6段DSGでも不満は感じなかったけれど、「不満を感じない」と「気持ちよく感じる」の差はデカい。
変速は素早く、変速ショックが小さいあたりに、エンジンとトランスミッションの連携がよく煮詰められていることを感じた。1900rpmから400N・mという大トルクを発生するエンジンなので、少なくとも市街地を走っている間は、キックダウンでギアを落としたくなる場面にはほとんど遭遇しない。ドンと踏む必要が生じるのは高速道路の合流などで、そこではシームレスに低いギアに移行してエンジン回転が上がり、その後に力強く押し出される。気はやさしくて力持ちなのだ。
特に色気があるとか回して楽しいエンジンではないけれど、素直で実直なパワートレインには好感が持てる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
理にかなった改善
トランスミッションの多段化とともにマイナーチェンジの目玉となるのが、運転支援デバイスの進化だ。従来の渋滞時追従支援システム「トラフィック・アシスト」が、0〜210km/hの速度域で作動する同一車線内全車速運転支援システム「トラベル・アシスト」へと移行した。漢字を羅列するとなんのことかよくわからなくなるけれど、日本の高速道路の速度域だったら、いつでも車線を維持するようにアシストしながら前を走るクルマに追従するということだ。
いやいや、いまさらそれを言いますか、という意見もごもっともであるけれど、見ると使うとでは大違い。フォルクスワーゲンのACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は、ほぼひとつのアクションで完結するインターフェイスがすばらしい。
この機能は使いたいと思った瞬間にスパッとオンになるのが望ましいけれど、「システムをON」→「ACC開始」と2段階で開始するケースがほとんどだ。その点、一発スタートのパサートのシステムは使いやすいし、一度使えば次からはブラインドタッチで扱えるあたりも好印象だ。便利な機能なのでじゃんじゃん使ってください、という意思を感じる。
もうひとつ、細かいところでは、ドライバーがステアリングホイールを握っているかどうかを判断する仕組みが変わった。以前はトルクセンシングで見張っていたけれど、マイチェンで静電容量式センサーが採用されることになった。確かに、ステアリングホイールに軽く手を添えているような運転スタイルでも、「ハンドルを握ってください」と注意されることはなくなった。気づきにくいところではあるけれど、こういったところも着実に改善されている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
今が“買い時”
試乗をしているなかで、唯一といっていいぐらいの不満が、低い速度域では路面からの突き上げをダイレクトに感じることだった。例えば荒れた山道ではハーシュネスがキツく、もう少しふんわりマイルドな乗り心地だったらいいのに、と思わされた。探っていくうちにタイヤに原因があるのではないかと考えた。試乗したアドバンスグレードは245/45R18というサイズで、ベーシックグレードの225/55R17より太くて薄いぶん、乗り心地には不利に働くはずだ。
ここで、アドバンスグレードに備わるアダプティブシャシーコントロール「DCC」を、「ノーマル」から「コンフォート」にチェンジしてみる。するとアラ不思議、不快だった突き上げの角が丸くなり、トゲトゲしさがなくなった。
ベーシックグレードとアドバンスの価格差は約50万円。ぶっちゃけ、「ヘッドアップディスプレイもアラウンドビューモニターもいらないから、ベーシックのほうがコスパがいいよな」と思っていた筆者であるけれど、DCCは欲しい。がんばって50万円はどこかで節約したい。
というわけで、見えるところから見えないところまで、パサート オールトラックは熟成が図られ、洗練の度合いを高めていた。このクルマは寡黙で地味だけどしっかり仕事をする『巨人の星』の左門豊作みたいなモデルだと思っていた。現行モデルのデビューから7年、熊本から出てきた左門豊作も都会の生活に慣れて、しゃれた振る舞いもできるようになった。
とはいえ、タフで実直な性格は変わっていない。時間をかけてじっくり練られて完成度が上がった今が、ひとつの“買い時”かもしれない。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサート オールトラックTDI 4MOTIONアドバンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1855×1535mm
ホイールベース:2790mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:190PS(140kW)/3500-4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1900-3300rpm
タイヤ:(前)245/45R18 96W/(後)245/45R18 96W(コンチネンタル・スポーツコンタクト5)
燃費:15.0km/リッター(WLTCモード)
価格:604万9000円/テスト車=626万9000円
オプション装備:ボディーカラー<アクアマリンブルーメタリック>(3万3000円)/電動パノラマスライディングルーフ(15万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2046km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:239.0km
使用燃料:13.1リッター(軽油)
参考燃費:18.2km/リッター(満タン法)/16.9km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
NEW
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
NEW
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
NEW
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
NEW
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。 -
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。