ランドローバー・ディフェンダー110 X D300(4WD/8AT)/ディフェンダー90 HSE P300(4WD/8AT)
魅惑のニューフェイス 2021.07.15 試乗記 ランドローバーの本格クロスカントリーモデル「ディフェンダー」に、魅力的な2つの仕様が追加された。3ドア・ショートボディーの「90」と、最大トルク650N・mを誇る3リッター直6ディーゼル。日本に導入されたばかりの、両モデルの走りをリポートする。四角くて泥臭いのがカッコいい
日本市場に新しいディフェンダーが投入されたのは昨年(2020年)のこと。注文が殺到し、現在もバックオーダーが積み重なっている状態で、インポーター側は納車までの間、別のランドローバー銘柄を乗りながら待ってもらうお得なローンプランをつくったりして対処している。
実際、僕のまわりでもディフェンダーを検討中の人が何人かいて、モノのあんばいやらオプションの選択やらで相談を受けたりもした。聞けば「メルセデス・ベンツGクラス」を検討していたものの、そっちも納期がかなりかかると言われてどうしたものかと悩んでいたところに、新型ディフェンダーが現れ、興味を持ったという。
この2モデルに加え、「ジープ・ラングラー」や「メルセデス・ベンツGLB」「トヨタRAV4」「スズキ・ジムニー」あたりの評判を見るに、こと日本においては、どうやら世のSUV的なクルマに対する嗜好(しこう)は、滑らかで都会的な感じのものから四角くて泥臭い感じのものへ、揺り戻しがきているのではないだろうか。「トヨタ・ランドクルーザー300」の発表にまつわるネットの反応を見ていても、なにか今までとは違う熱が感じられる。
待ちに待った2つの仕様
上陸当初はボディーバリエーションもエンジンも1種類のみだったディフェンダーは、2021年に入って3ドア&ショートホイールベースの90が追加され、5ドアの110の側にはディーゼルエンジンが設定されるなど、そのバリエーションがいよいよ本国並みに広がった。ちなみに90のスタートプライスは551万円。もちろん多彩なグレードやオプショントッピングの誘惑に屈すれば値段は仮装大賞の採点並みに跳ね上がっていくのだが、シンプルに徹すれば値ごろ感は高い。このあたりも人気の秘密だろう。
ディフェンダーを購入検討するうえで気になるポイントのひとつは車格だろう。110のスリーサイズは4945×1995×1970mmと、Gクラスに比べればひと回り、ラングラーと比べてもやや大きい。が、これが90になると4510×1995×1970mmと、全長が435mmも短くなり、最小回転半径も110の6.1mに対して5.3mに縮小。Cセグメントカー並みの小回り性能が発揮される。
ちなみに、後席は前後長や高さは十分ながら、そもそもの床面が高いため、大人では足を曲げて体育座りのような体勢をとらざるを得ず、さらに言えば地上高が高いこともあってアクセス自体がアクロバティックだ。オプションのセンターコンソールを付けなければ前後席間をウオークスルーなんて荒っぽい進路をとれなくもないが、基本的には「自分で乗り降りしてシートベルトも装着できる子供ならなんとかいけるかな」という感じ。大人であればエマージェンシーユースと考えておいたほうがいいだろう。
明確に感じる取りまわしのしやすさ
ただ、そのぶん90の機動力が110とは明らかに一線を画していることは、乗ればすぐにわかる。ことオンロードでの取りまわしの軽やかさは劇的で、もちろん140kgの重量差もあるだろうが、大胆なショートホイールベース化というディメンション的なところの影響はかなり大きい。もちろんピッチングの増加は免れないが、この利は十分それを補えるものだ。
加えて、ショートホイールベース化はオフロードパフォーマンスの向上も意味している。ベースグレード以外は標準装備となるエアサスペンションの車高調整機能も相まって、凹凸の乗り越えにおける前後軸間の走破適性を示すランプブレークオーバーアングルは31°と、ジムニーより大きい。
今回は90でオフロードコースを試すこともできたが、想定以上の悪天候で路面が泥濘(でいねい)と化し、標準のオールテレインタイヤでは相当厳しいコンディションとなってしまった。が、90は110と同じ最大900mmの渡河能力を生かして泥沼化した池を難なく渡り、上陸時の丘登りでも、メカニカルなローレンジに「テレインレスポンス2」による適切なトラクションコントロールの助けもあって、歩くような速度で確実に歩を前に進めていく。微低速域でのスロットルコントロール性の高さは、さすがランドローバーといったところだろう。
こういう状況でも、「ラダーフレームの3倍のねじり剛性を確保した」というアルミモノコックは、ミシリのミの字ももらすことはない。そしてくだんの寸法的な話をすれば、オフロードでよく出くわす狭所での取りまわしや切り返しといった場面では、内輪差の小さいショートボディーはやはり楽だ。
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価格に見合う価値がある
ただ、多くの人がファーストカーとして選ぶのは、多用途性が高い110の側だろう。その110に降って湧いた朗報が、ディーゼルの追加だ。搭載されるのは、すでに「レンジローバー スポーツ」や「ディスカバリー」で展開されている48Vのベルト駆動型スタータージェネレーターが組み合わされた3リッター直6ディーゼルターボで、最高出力はガソリンエンジンと同じ300PSながら、最大トルクは250N・m大きい650N・mを1500rpmという回転域から発生する。燃費に関しても、WLTC計測値でガソリン車の8.3km/リッターに対して9.9km/リッターと2割近く優れており、しかも高速モードは12.1km/リッターと発表されている。ロングツーリングなら1000km級の足の長さが期待できるだろう。
そもそも、300PSのハイチューンにして低回転域からしっかりトルクを立ち上げるエンジンの特性に、カバレッジがワイドな8段ATを組み合わせたガソリンモデルとて、巨体を軽々と動かす力強さに驚きさえ覚えていた。が、やはりディーゼルはあらゆる領域で余裕が違う。強大なトルクはモーターアシストの必要性を感じさせないが、回転の立ち上がりのところからググッと力感が伝わってくるあたりは、電動パワートレインの威力なのだろう。
そして2000rpmを超えれば、直6ならではの滑らかな回転フィールや耳に心地いいサウンドをもって、本格クロカンらしからぬ上質さも感じさせてくれる。ガソリンとディーゼルの価格差は同級比で約60万円といったところで、ランニングコストでその差を埋めるにはなかなか至らないだろう。が、もたらされるゆとりや安らぎも含めて考えれば、対価には十分見合ったものだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ランドローバー・ディフェンダー110 X D300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車重:2420kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:24.5PS(18kW)/1万rpm
モーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)/1500rpm
タイヤ:(前)255/60R20 113H M+S/(後)255/60R20 113H M+S(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:9.9km/リッター(WLTCモード)
価格:1171万円/テスト車=1317万7000円
オプション装備:ファミリーパックプラス(47万3000円)/コンフォート&コンビニエンスパック(8万1000円)/Wi-Fi通信<データプラン付き>(3万6000円)/リアリカバリーフック<露出型、オレンジ>(6万1000円)/フロントアンダーシールド(7万9000円)/プライバシーガラス(8万5000円)/コールドクライメートパック(10万9000円)/サテンプロテクティブフィルム(53万8000円)/60:40ラゲッジスルーマニュアルスライディング&リクライニングリアシート<ヒーター、センターアームレスト付き>(5000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1162km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
ランドローバー・ディフェンダー90 HSE P300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1995×1970mm
ホイールベース:2585mm
車重:2100kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300PS(221kW)/5500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)255/60R20 113H M+S/(後)255/60R20 113H M+S(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:8.3km/リッター(WLTCモード)
価格:758万円/テスト車=977万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ハクバシルバー>(10万1000円)/エアサスペンションパック(34万1000円)/3ゾーンクライメートコントロールパック(6万8000円)/エアクオリティーセンサー(8000円)/空気イオン化テクノロジー<PM2.5フィルター付き>(2万円)/MERIDIANサラウンドサウンドシステム(30万3000円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万6000円)/ブラックエクステリアパック(10万円)/ヘッドアップディスプレイ(20万円)/シグネチャーグラフィック<収納スペース付き>(2万2000円)/プライバシーガラス(8万5000円)/アクティビティーキー(6万1000円)/コールドクライメートパック(10万9000円)/アドバンストオフロードケイパビリティーパック(20万1000円)/オフロードパック(24万円)/コントラストルーフ<ブラック>(14万3000円)/パネル<ラフカットウオールナット>(6万8000円)/クロスカービーム<ホワイトパウダーコートブラッシュドフィニッシュ>(3万5000円)/40:20:40固定リアシート<ヒーター、センターアームレスト付き>(5万8000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1182km
テスト形態:オフロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。