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BMW R18B(6MT)

台風の目となるか 2021.09.22 試乗記 河野 正士 BMWのビッグクルーザー「R18」シリーズに、巨大なカウルとサイドケースを備えた「R18B」が登場。ドイツ発のアメリカンツアラーは、どのような走りを味わわせてくれるのか。セグメントのど真ん中に切り込んだBMWの本気度を探った。

大きさを忘れさせる軽快感

BMWがつくるアメリカンクルーザーとはいかなるものか、興味津々だった。そしてR18Bに乗ると、それは実にBMW的で、巨大なクルーザーカテゴリーにも独自の方程式をもって挑もうという彼らの気概が感じられた。

BMWは2021年8月、新型車のR18Bと「R18 Transcontinental(トランスコンチネンタル/以下TC)」を世界初公開した。日本でも同年9月27日に販売が開始されるのだが、それに先立つ9月上旬に、独フランクフルトで開催された国際試乗会に参加することができたのだ。冒頭は、その取材を終えての感想である。

今回試乗したR18Bと、同時に発表されたR18TCは、先にラインナップされR18ファミリーを形成している「R18」とも「R18クラシック」ともキャラクターが異なる。それを決定づけているのが、R18BとR18TCに装備された大型フロントカウルとリアサイドケース(TCはトップケースも)、そして電子制御デバイスである。

フロントフォークにマウントされたカウルは大きくて重く、そのままだと低速走行時のハンドル操作に支障をきたし、高速走行時には直進安定性を損ねる可能性が高い。しかしR18Bでは、クラッチをつないでタイヤが転がり始めると、すぐに車体の重さ、特にフロントまわりの重さが解消される。もちろん多少の慣れは必要だが、自分は交差点を2つクリアしたあたりから極低速域での特性に慣れ、それからは、車体の大きさからは想像ができないくらいの“軽さ”を感じ始めた。

このフィーリングは高速道路の走行中も変わらなかった。レーンチェンジなどで車体を直立状態から左右に傾け始めるあたりの軽快感が抜群なのだ。それでいて直進状態での安定性も非常に高い。今回、高速セクションは午前中の混雑する時間帯と重複したものの、それでも日本の法定速度を超える速度域での走行を試すことができ、そこでの安定感は非常に高かった。とにかくライダーの入力に対する車体の反応はよいのに、それによって走行安定性が損なわれることがないのだ。

2020年4月に誕生したばかりのBMWのビッグクルーザー「R18」。「R18B」はその新たなラインナップで、フロントカウルとサイドケースを備えた、いわゆる“バガースタイル”のモデルである。
2020年4月に誕生したばかりのBMWのビッグクルーザー「R18」。「R18B」はその新たなラインナップで、フロントカウルとサイドケースを備えた、いわゆる“バガースタイル”のモデルである。拡大
フロントフォークにマウントされた大型のフロントカウルは「R18TC」と同じながら、背の低いスクリーンを採用。トップケースのないリアまわりの意匠とも相まって、軽快感を演出している。
フロントフォークにマウントされた大型のフロントカウルは「R18TC」と同じながら、背の低いスクリーンを採用。トップケースのないリアまわりの意匠とも相まって、軽快感を演出している。拡大
片側につき27リッターの容量を持つサイドケース。アクセサリーとしてレザーとキャンバス地を組み合わせたインナーライナーが用意されている。
片側につき27リッターの容量を持つサイドケース。アクセサリーとしてレザーとキャンバス地を組み合わせたインナーライナーが用意されている。拡大
カウルの内側には、クラシックな意匠の4連メーターと10.25インチの巨大なTFT液晶ディスプレイ、そしてスピーカーが装備される。
カウルの内側には、クラシックな意匠の4連メーターと10.25インチの巨大なTFT液晶ディスプレイ、そしてスピーカーが装備される。拡大
BMW の中古車

この走りこそがBMWの身上

高速道路を降りて途中の小さな街に入った瞬間、グループを引っ張るインストラクターがグッとペースを落とした。その先は、道幅が狭い入り組んだ路地となっていたのだ。そのような場所でも、R18Bは苦もなく走らせることができた。こうしたシーンでは、低速域でのハンドル操作の軽さと素直さに、1801ccの空冷OHV水平対向2気筒エンジンの、滑らかで、なおかつ力強いトルクが合わさり、R18特有のフィーリングがつくり上げられる。

そのエンジンはR18シリーズに共通するもので、ワイルドな出力特性の「ROCK」、スタンダードな「ROLL」、雨天走行などを想定したマイルドな「RAIN」の3つのライディングモードの制御も同じだという。しかし車重が重くなったR18Bは、それによってパワーのカドが取れたかのような、マイルドなフィーリングに感じられた。それを知ってか、ワインディングロードに入る直前の最初の休憩ポイントで、同行していた開発者が「ワインディングではぜひROCKモードで走ってほしい」と伝えてきた。

以前、スタンダードのR18を試乗した経験があるが、そのとき試したROCKモードは、アイドリング時から振動が増え、アクセル操作に対するエンジンレスポンスもよくなり、かなり荒々しい出力特性を持つものとなっていた。それを思い出すと、道幅の狭い初見のワインディングでいきなりROCKを試すのは少し勇気が必要だったが、先に説明したとおり、R18Bは車重によってパワーのカドが取れて扱いやすい。むしろ重い車体をアクセル操作でリズムよくひるがえしながら走らせるには、このくらいのパンチが必要なのだ。走行中に何度もROLLやRAINを試したが、それらはリラックスして走るにはちょうどいいが小気味よいペースで走るには物足りず、すぐにROCKに戻してしまった。

この、ライダーを小気味よく走りたくさせるR18Bの核心は、随所で感じた車体をバンクさせ始めるときの軽やかなフィーリングと、それを実現する車体の設計にあるのではないか。それを開発者に伝えると、「この軽さと、それによって生み出されるスポーティーなフィーリングこそがBMWモトラッドなのだ」という答えが返ってきた。

全長2560mm、車両重量398kgという巨体でありながら、ハンドリングは軽快で、積極的に走りを楽しみたくなる。
全長2560mm、車両重量398kgという巨体でありながら、ハンドリングは軽快で、積極的に走りを楽しみたくなる。拡大
1801ccの排気量を持つ空油冷式の水平対向2気筒エンジン。その仕様は他の「R18」シリーズのモデルと共通で、91PSの最高出力と158N・mの最大トルクを発生する。
1801ccの排気量を持つ空油冷式の水平対向2気筒エンジン。その仕様は他の「R18」シリーズのモデルと共通で、91PSの最高出力と158N・mの最大トルクを発生する。拡大
クラシックな意匠のキャストホイールを新たに採用。タイヤサイズは「R18」と同じで、前:120/70R19、後ろ:180/65B16である。
クラシックな意匠のキャストホイールを新たに採用。タイヤサイズは「R18」と同じで、前:120/70R19、後ろ:180/65B16である。拡大
軽快な“バガースタイル”のキモとなる、スリムな意匠のダブルシート。日本仕様の「R18B」はシート高720mmのスタンダードシートを装備。一方「R18TC」にはローシートが装備され、シート高がR18Bと同じ720mmに抑えられる。ともにシートヒーター付きだ。
軽快な“バガースタイル”のキモとなる、スリムな意匠のダブルシート。日本仕様の「R18B」はシート高720mmのスタンダードシートを装備。一方「R18TC」にはローシートが装備され、シート高がR18Bと同じ720mmに抑えられる。ともにシートヒーター付きだ。拡大
ライディングモードセレクターや、リバースギア、ヒルスタートコントロール機能など、ライディングをサポートする充実した機能や装備は、既存のモデルからそのまま受け継がれている。
ライディングモードセレクターや、リバースギア、ヒルスタートコントロール機能など、ライディングをサポートする充実した機能や装備は、既存のモデルからそのまま受け継がれている。拡大
「R18B/R18TC」では、軽快なハンドリングを実現するためにフロントの足まわりの設計を変更。ステアリングヘッド角度は57.3°から62.7°に変更され、ホイールベースも30mm短い1695mmとなっている。
「R18B/R18TC」では、軽快なハンドリングを実現するためにフロントの足まわりの設計を変更。ステアリングヘッド角度は57.3°から62.7°に変更され、ホイールベースも30mm短い1695mmとなっている。拡大
モニター画面やライディングモードセレクター、クルーズコントロールなどのコントローラーが備えられた左のスイッチボックス。日本仕様の「R18B/R18TC」にはACCが標準装備される。
モニター画面やライディングモードセレクター、クルーズコントロールなどのコントローラーが備えられた左のスイッチボックス。日本仕様の「R18B/R18TC」にはACCが標準装備される。拡大
快適装備も充実しており、オーディオには英Marshall(マーシャル)のサウンドシステムを採用。オプションで4個のスピーカーと2個のサブウーハーを備えたシステムも用意されている(日本導入未定)。
快適装備も充実しており、オーディオには英Marshall(マーシャル)のサウンドシステムを採用。オプションで4個のスピーカーと2個のサブウーハーを備えたシステムも用意されている(日本導入未定)。拡大
「R18B」は、豪華なアメリカンクルーザーの魅力と、BMWならではの軽快な走りを併せ持つモデルに仕上がっていた。
「R18B」は、豪華なアメリカンクルーザーの魅力と、BMWならではの軽快な走りを併せ持つモデルに仕上がっていた。拡大

直球勝負でマーケットに挑む

フレームの基本設計はR18/R18クラシックとも共通だが、R18BおよびR18TCは、フレーム上部をより強固につくり直し、ステアリングヘッドまわりをややストレッチし(前方に延ばし)、ネックアングルもやや立てている。またフロントフォークをステアリングヘッド後方に配置する“ネガティブオフセット”としている。このフレーム剛性とフロントまわりのアライメント調整で、軽いハンドリングと直進安定性を両立させているのだ。

また、日本仕様のR18BとR18TCには、ACC(アクティブクルーズコントロール)が標準装備される。走行速度や前車との車間距離を自動で調整するこの機能は、BMWでは「R1250RT」に次いでの採用だ。車両の状態に応じて速度をコントロールするコーナリングコントロールシステムとも連動しており、高速道路はもちろん、システムに習熟すればワインディングでも使用できる。またフルインテグラルABSシステムは、ライダーのブレーキ操作に加えて走行状況も勘案し、適切に前後ブレーキの制動力を調整する。試乗ではフロントのみ、リアのみを操作する少々荒っぽいテストもしてみたが、それでもしっかり機能しているのが感じられた。

新しい車体と新しい電子制御技術が織り込まれたR18Bの走りには、北米を中心に世界中で大きなマーケットを形成するアメリカンクルーザーカテゴリーで頭角を現し、存在感を強めようとするBMWの強い意志が宿っている。戦前の「R5」といった自らの出自をクルーザーに置き換え、新しいヘリテージを表現したR18およびR18クラシックとは、明らかに毛色が違うのだ。BMWらしい価値観はそのままに、直球での勝負を挑んできたR18Bは、カテゴリーにおける台風の目になるのではないか。今回の試乗でそう感じた。

(文=河野正士/写真=BMW/編集=堀田剛資)

BMW R18B
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2560×970×1400mm
ホイールベース:1695mm
シート高:720mm
重量:398kg
エンジン:1802cc 空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:91PS(67kW)/4750rpm
最大トルク:158N・m(16.1kgf・m)/3000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:17.24km/リッター(WMTCモード)
価格:341万8500円

河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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