第732回:【Movie】30年以上も行方知れず!? 幻の「ミウラ」がトリノに出現!
2021.11.18 マッキナ あらモーダ!ゴールデンエイジの新たな証人
一眼レフカメラ「キヤノンT-90」などを手がけたドイツ人インダストリアルデザイナーのルイジ・コラーニ氏(本欄第623回参照)が2019年9月に死去してから早くも2年が過ぎた。
そうしたなか、彼の幻の作品「ミウラ ルマンコンセプト」が2021年11月、トリノ自動車博物館(MAUTO)で特別公開された。
ルマン24時間レース用マシンをイメージした同車は、オリジナルの「ランボルギーニ・ミウラ」から4年後の1970年に発表された。
キャビンを持つ前部と、横置きV型12気筒エンジンを搭載した駆動部分とを独立させ、両者をジョイントで連結するという特異な構造だった。インテリアでも操縦を1本のジョイスティックで行うという大胆な提案をしていた。
コラーニ氏が生涯にわたって探求したバイオデザイン(自然界に生息するものに範を求めた形態)が実践されている。
このミウラ ルマンコンセプトは、数奇な運命をたどってきた。
発表後、コラーニ氏は米国で売却。潤滑油ブランド、ヴィードルオイルのプロモーション用として、約4年間全米各地で巡回展示された。しかしその後は三十数年間にわたって行方不明となり、ようやく発見されたのは2010年のことだった。
発見当時はナンバープレートが付いた状態でオリジナルミウラのリアサスペンションも残っていたものの、樹脂製ボディーは満身創痍(そうい)の状態だった。
その年のうちにインディアナ州のオークションに出品されたものの、7万9000ドルのリザーブプライスに届かず、取引は不成立。12月には電子商取引サイト『eBay』に、7万4999ドルにディスカウントされて出品されたが、そのときも買い手はつかなかった。
それから今回のトリノ自動車博物館での展示に至るまでの詳しい経緯は明らかにされていないが、修復はコラーニ氏の故郷であるドイツで実施されたという。車体色は発見当時のブルーではなくコラーニ氏が最初に意図したイエローに仕上げられ、破損が激しかったキャノピーのプレキシガラスも復元された。
新オーナーである米国カリフォルニアのあるコレクターの許可により、2022年5月までの展示が実現した。
自動車史を振り返れば、オイルショックなど誰も想像もしなかった1970年、デザイナーたちは、既成概念に縛られることなく、自動車デザインに無限の夢を託していた。
その成果がベルトーネのマルチェロ・ガンディーニによる「ストラトス ゼロ」であり、ピニンファリーナのパオロ・マルティンによる「モードゥロ」である。
のちにランチアデザインを率いることになるマイケル・ロビンソンをはじめ、その時代のクルマと出会って、デザイナーを志した人は数多い。
今回再生されたミウラ ルマンコンセプトは、カーデザインが夢と熱を帯びていた時代の、新しい貴重な証人となるに違いない。願わくば、この作品に衝撃を受けた若者のなかから、未来のカーデザイナーが誕生してほしい。
【トリノ自動車博物館で展示中のミウラ ルマンコンセプト】
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦 2025.11.13 アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。
-
第935回:晴れ舞台の片隅で……古典車ショー「アウトモト・デポカ」で見た絶版車愛 2025.11.6 イタリア屈指のヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」を、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが取材! イタリアの自動車史、モータースポーツ史を飾る出展車両の数々と、カークラブの運営を支えるメンバーの熱い情熱に触れた。
-
第934回:憲兵パトカー・コレクターの熱き思い 2025.10.30 他の警察組織とともにイタリアの治安を守るカラビニエリ(憲兵)。彼らの活動を支えているのがパトロールカーだ。イタリア在住の大矢アキオが、式典を彩る歴代のパトカーを通し、かの地における警察車両の歴史と、それを保管するコレクターの思いに触れた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。












