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第29回:控えめにみえて実はアグレッシブ! 日産の電動化計画にみる狙いと勝算

2021.12.21 カーテク未来招来
コンセプトカー「日産Chill-Out(チルアウト)」と、日産自動車の内田 誠社長兼CEO(右)、アシュワニ・グプタCOO(左)。
コンセプトカー「日産Chill-Out(チルアウト)」と、日産自動車の内田 誠社長兼CEO(右)、アシュワニ・グプタCOO(左)。拡大

日産自動車が長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表した。2026年度までに電気自動車(EV)と「e-POWER」搭載車を合計20車種導入し、欧州で75%以上、日本で55%以上という電動化目標を掲げている。一見すると欧州の完成車メーカーに比べて消極的にみえるその内容だが、子細に観察すると、実は国内の完成車メーカーでは最も積極的で、欧州勢にも劣らない前のめりな電動化計画となっていた。

「チルアウト」は「アリア」と同じ「CMF-EV」プラットフォームをベースとする、クロスオーバータイプのEVである。
「チルアウト」は「アリア」と同じ「CMF-EV」プラットフォームをベースとする、クロスオーバータイプのEVである。拡大
日産は「チルアウト」の市販バージョンにあたる新世代EVを、英サンダーランド工場で製造。グローバルモデルとして輸出を計画している。
日産は「チルアウト」の市販バージョンにあたる新世代EVを、英サンダーランド工場で製造。グローバルモデルとして輸出を計画している。拡大
長期目標の多くの箇所で「電動車」という表現を用いた日産。そのなかにはEV以外に、シリーズ式ハイブリッドの「e-POWER」搭載車も含まれる。
長期目標の多くの箇所で「電動車」という表現を用いた日産。そのなかにはEV以外に、シリーズ式ハイブリッドの「e-POWER」搭載車も含まれる。拡大
「Nissan Ambition 2030」では自動車の電動化に加え、先進運転支援技術や知能化技術の計画についても触れられており、交通渋滞や地方の過疎化といった社会課題の解決、多様化するユーザーニーズへの対応についても語られた。
「Nissan Ambition 2030」では自動車の電動化に加え、先進運転支援技術や知能化技術の計画についても触れられており、交通渋滞や地方の過疎化といった社会課題の解決、多様化するユーザーニーズへの対応についても語られた。拡大

2030年に電動車50%の目標は控えめ?

世界で初めて量産EV「リーフ」を商品化した日産が、自動車電動化の分野でついに動いた――。今回、彼らが発表した「Nissan Ambition 2030」は、筆者にそんな印象を抱かせるものだった。まずはその中身を概観してみよう。

  • 2030年度までに15車種のEVを含む23車種の電動車を導入し、ニッサン、インフィニティの両ブランドを合わせた電動車のモデルミックスを、グローバルで50%以上とすることを目指す。
  • この目標を達成するために、2026年度までにEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入し、各主要市場における電動車の販売比率を(1)欧州:75%以上、(2)日本:55%以上、(3)中国:40%以上、(4)米国:2030年度までに40%以上(EVのみ)とすることを目指す。
  • 2028年度までに、リチウムイオン電池の1kWhあたりのコストを現在と比べて65%低減する。
  • 2028年度までに、自社開発の全固体電池(ASSB)を搭載したEVを市場投入することを目指す。このために、2024年度までに横浜工場内にパイロット生産ラインを導入する。
  • ASSBでは充電時間を3分の1に短縮し、またコストを2028年度に75ドル/kWh、その後、65ドル/kWhまで低減していくことを目指す。
  • パートナーと協力し、2026年度までにグローバルな電池生産能力を52GWh、2030年度までに130GWhへと引き上げる。

ではこの計画を検証していこう。正直なところ、ぱっと見では電動化のペースが非常に控えめな印象を受ける。「2030年度までにグローバルの電動車比率を50%以上にする」とあるが、これはEVとe-POWER(すなわちハイブリッド車)の合計が50%ということを意味する。そのうちEVの比率が半分だとすれば、新車全体の25%程度ということになってしまう。

例えばトヨタ自動車は12月14日、2030年にEVの生産台数を350万台にまで拡大する方針を打ち出した。トヨタの現在の世界生産台数は約1000万台だから、35%程度をEVにする計算となる。これに比べると、日産の計画は大きく見劣りする。

130GWhという電池の生産目標にみる“本音”

しかし、日産の本音はもっと積極的なのではないかと筆者はみている。実際には2030年の時点で半分程度がEV、残りの半分がe-POWERというくらいの心積もりでいるのではないか。そう考える根拠は、2030年時点での電池生産能力の目標である。

グローバルで130GWhという目標は、もしEV 1台あたりの電池搭載量を「アリアB6」並みの66kWhとすれば、約200万台分にあたる。しかもEV 1台あたりの電池搭載量は、2030年時点ではもっと少なくなるだろう。トヨタは2020年代後半にEVの“電費”を30%向上させ、電池の搭載量を30%減らすことを目指している(参照:第16回:バッテリー投資でも“カイゼン”を徹底 電動化戦略にみるトヨタのすごみ)。トヨタが2022年に販売を予定している新型EV「bZ4X」の搭載電池量は約70kWhであり、ここから30%減となれば、およそ50kWhになる。このあたりが2030年のEVの標準的な電池搭載量になるのではないか。

1台あたりの電池搭載量が50kWhということになれば、130GWhは260万台分となる。これは、コロナ前における日産の世界販売台数(約500万台)の半分以上に相当する量だ。つまり、130GWhという電池の生産能力は、日産のグローバル生産の半分以上をEVにできる規模だと推定できる。

もちろん、ここまでEVの比率が上昇するかどうかは、ひとえに世界の各市場でEVがどこまで販売を伸ばすかにかかっている。しかしEVの販売比率が半分程度になっても対応できるように準備しておく――。今回の発表からは、そういう日産の意図がうかがえる。

日産が2022年に発売する予定の新型EV「アリア」。エントリーモデルの「B6」には容量66kWhのバッテリーが積まれ、一充電走行可能距離は470km(WLTCモード)とされている。
日産が2022年に発売する予定の新型EV「アリア」。エントリーモデルの「B6」には容量66kWhのバッテリーが積まれ、一充電走行可能距離は470km(WLTCモード)とされている。拡大

全固体電池を量産できるか

もうひとつ、今回の発表で筆者が注目したのが、全固体電池(日産はAll Solid State Battery=ASSBと呼ぶ)の商業化時期を2028年度と明示したことだ。全固体電池については、トヨタ自動車を含め世界の完成車メーカーが研究開発を進めている。トヨタは2020年代前半にまずハイブリッド車からの商業化を目指しており、独フォルクスワーゲンも米国の電池ベンチャーであるクォンタム・スケープと共同で、2024年の商業化を目指しているといわれている。ただし、完成車メーカーが自ら商業化の年限を明示したのは、筆者の知る限り日産が初めてだ。

また、その電池にかかるコストを2028年度に1kWhあたり75ドルに低減し、その後も65ドルまで下げていくことや、充電時間を大幅に短縮することなど、各方面で意欲的な目標を掲げた。発表会見のなかでは、エネルギー密度を現在のリチウムイオン電池の2倍程度にすることも明らかにしている。本当にこれらの目標が実現すれば、まさに車載電池の“ゲームチェンジャー”になるだろう。

走行可能距離が同じ場合、電池のエネルギー密度が2倍になれば、クルマに積む電池の体積は半分で済むようになる。クルマのパッケージングの自由度が、大きく広がるのだ。実際、今回の発表において公開された4台のコンセプトカーのうち、3台は全固体電池を搭載したEVプラットフォームを前提としており、現在のEV専用プラットフォーム「CMF-EV」に比べると、電池の搭載スペースが格段に薄くなっているのが特徴だった。

その1台である「マックスアウト」は2人乗りオープンスポーツカーで、従来のEVプラットフォームでは難しい低い着座位置を実現している。また全固体電池が本当に充電時間を3分の1にできるなら、現状では80%までの急速充電に30分程度かかっているものが10分程度に短縮できるはずで、EVの使い勝手は格段に高まる。

実際にこれだけの性能とコストを実現するには、まだまだ高いハードルがあるのだろうが、EV量産化のパイオニアとして、ぜひ「技術の日産」の意地を見せてほしいところだ。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=日産自動車/編集=堀田剛資)

全固体電池を前提としたEVプラットフォームのイメージ。従来のEVプラットフォームに比べると、床下の電池の搭載スペースが薄くフラットになり、車両パッケージの自由度が増すことがうかがえる。
全固体電池を前提としたEVプラットフォームのイメージ。従来のEVプラットフォームに比べると、床下の電池の搭載スペースが薄くフラットになり、車両パッケージの自由度が増すことがうかがえる。拡大
新しいEVプラットフォームの採用を想定した、3種類のコンセプトモデル。左から「Surf-Out(サーフアウト)」「Max-Out(マックスアウト)」「Hang-Out(ハングアウト)」。
新しいEVプラットフォームの採用を想定した、3種類のコンセプトモデル。左から「Surf-Out(サーフアウト)」「Max-Out(マックスアウト)」「Hang-Out(ハングアウト)」。拡大
「マックスアウト」は、床一面にバッテリーを搭載しながら、従来のEVプラットフォームでは難しい低い着座位置を実現している。
「マックスアウト」は、床一面にバッテリーを搭載しながら、従来のEVプラットフォームでは難しい低い着座位置を実現している。拡大
ピックアップトラックの「サーフアウト」は、車両を大型の移動電源として使用することも想定している。
ピックアップトラックの「サーフアウト」は、車両を大型の移動電源として使用することも想定している。拡大
SUVタイプのコンセプトモデル「ハングアウト」の車内。日産は同車の紹介に際し、「クルマは単なる移動手段を超えた“パーソナルスペースの拡張空間”として活用できる」という表現を用いている。
SUVタイプのコンセプトモデル「ハングアウト」の車内。日産は同車の紹介に際し、「クルマは単なる移動手段を超えた“パーソナルスペースの拡張空間”として活用できる」という表現を用いている。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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