“GP2エンジン”からチャンピオンへ ホンダF1、激動の「第4期」をかく戦えり
2021.12.20 デイリーコラムホンダF1「最後の輝き」
ホンダのF1活動の「第4期」が、アブダビGPで幕を閉じた。シーズンを通して激しく火花を散らしたマックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンの対決は、ラストレースの最後の一周、劇的な大逆転でフェルスタッペンが初の栄冠を手中におさめた。またホンダとしても、1991年のアイルトン・セナ以来となる通算6度目のドライバーズタイトル獲得となり、まさに有終の美を飾ってF1を去ることとなった。
コンストラクターズタイトルこそメルセデスに8連覇を許したが、レッドブル・ホンダは、22戦11勝、ポールポジション10回と、ハイブリッド時代の“絶対王者”メルセデスに強烈なカウンターパンチを浴びせた。第4期の最終年に見せつけたホンダの底力。振り返れば、ホンダのF1活動は、最後の最後に鮮烈な輝きを放つことが多々あった。
黄金期といわれる第2期(1983年~1992年)のなかでも、マクラーレンとタッグを組んだ初年度の1988年は、16戦15勝という金字塔を打ち立てた年として記憶されるが、同時に1.5リッターV6ターボ規定の最後の年でもあった。翌年から自然吸気(NA)エンジンに一本化されることが決まっており、多くのチームが先んじてNA化を進めるも、ターボにこだわったホンダは、「究極の高効率エンジン」を目標に、燃料搭載量150リッター、ターボ加給圧2.5バールといったターボ車への厳しい規制をクリアすべく、最後まで開発の手を緩めなかった。ターボ技術の集大成を追い求め続けた姿勢こそが、圧勝に次ぐ圧勝の大記録を支えたであろうことは想像に難くないだろう。
オール・ホンダで戦った第1期(1964年~1968年)における記念すべき1勝目も、最後にようやくつかんだ勝利だった。1965年シーズン、参戦2年目のホンダは、エンジンは十分パワフルだが、重量過多のマシンに足を引っ張られるという問題に苦しんでいた。そこで第7戦ドイツGPを欠場してまでマシンの大改修を敢行。最終戦である第10戦メキシコGPでは、空気が薄いことを考慮し早くから現地入りし、入念な調整を施した。その努力が結実し、メキシコの地でリッチー・ギンサーのドライブで優勝。シーズン最後のレース、5年間続いた1.5リッターF1時代の最後の一戦でつかんだ初金星だった。
また第3期(2000年~2008年)は、世界市場を襲った金融危機を理由に2008年末に突然のGP撤退となったが、翌2009年シーズンを席巻した「ブラウンGP」が、事実上のホンダであったことは周知の事実。経済不況という外的要因で帳尻が合わなくなってしまったが、紆余(うよ)曲折を経ながら成功に一歩ずつ近づく、そんなホンダの粘り強いアプローチがあったからこそ、ブラウン&ジェンソン・バトンはチャンピオンとなれたのだ。
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ハイブリッド時代の“絶対王者”に勝ち越した2021年
2020年10月に発表された、2021年限りでF1参戦を終了するというショッキングなニュースにも、ホンダの開発陣はひるむことなく最後まで戦う姿勢を貫こうとした。もともとは2022年に投入予定だった「新骨格パワーユニット」を、このままお蔵入りにして終わるわけにはいかない。挑戦なしにF1をやめられるか。そうした技術者の切なる声を聞いた本田技研工業の八郷隆弘社長(当時)の了承を得て、今期型のパワーユニット「RA621H」の開発が急きょ決まった。
熱エネルギーを受け持つ「MGU-H」と運動エネルギーの「MGU-K」、2つの回生システムとV6ターボエンジンを組み合わせた現代のF1パワーユニットのうち、主にV6エンジンを中心とした大幅改良だった。カムシャフトの位置を下げて低重心化、バルブの挟み角を変えて燃焼室を改良するなど、旧型で頭打ちとなっていたパワーアップを狙った新型では、“エンジン屋”ホンダの真骨頂が発揮された。また、3月の開幕戦に向けて数カ月しか残されていないなかで、レッドブルのシャシーとのマッチングも急ピッチで進められ、チーム一丸となってプロジェクトにまい進した。
かくして始まったファイナルシーズンは、開幕戦バーレーンGPでフェルスタッペンがポールポジションから僅差の2位、第2戦エミリア・ロマーニャGPでは初優勝と、幸先のいいスタートを切る。
新骨格パワーユニットの試金石はシーズン中盤、レッドブルの地元オーストリアでの2連戦だった。2019年にF1復帰後初優勝を飾ったレッドブル・リンクだったが、翌2020年はメルセデスに大敗を喫し、チャンピオンチームとの実力差をまざまざと見せつけられていた。ホンダ入魂のパワーユニットをもって臨んだ今年は、2レースともフェルスタッペンがメルセデス勢を抑え完勝。しかもチームは、第5戦モナコGPから第9戦オーストリアGPまで破竹の5連勝とライバルを圧倒したのだった。
終盤にきてメルセデス&ハミルトンも反攻に転じ、特に第19戦サンパウロGPからはハミルトンの勢い止まらず3連勝。最終戦アブダビGPを前にフェルスタッペンと同じ点数で並ぶといった、歴史に残るバトルを繰り広げた。
メルセデスとレッドブル、2強チームの2021年の主な戦績を比較すると、優勝、ポールの数ともに、見事レッドブル・ホンダが勝ち越したことになる。またメルセデスが信頼性の不安からパワーユニット交換を度々行ったのに対し、ホンダのパワーユニットは、大きな改修を受けたにも関わらず丈夫だった。年間3基までと決まっているなか、ハミルトンは5基目を入れざるを得なかったが、フェルスタッペンは1回ペナルティーを受けるだけ、4基で乗り切った。その4基目も、イギリスGPでハミルトンと当たりクラッシュしたことが原因だったから、相当な信頼性の高さをみせたことになる。
<2021年シーズン結果>
メルセデス
- 勝利数 9勝(ハミルトン8勝、バルテリ・ボッタス1勝)
- ポールポジション 9回(ハミルトン5回、ボッタス4回)
- 総得点 613.5点(コンストラクターズチャピオン)
レッドブル・ホンダ
- 勝利数 11勝(フェルスタッペン10勝、セルジオ・ペレス1勝)
- ポールポジション 10回(フェルスタッペン10回)
- 総得点 585.5点(コンストラクターズランキング2位)
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「GP2エンジン」からチャンピオンへ
ホンダ第4期の戦績を振り返ると、7年間の紆余曲折が如実に表れている。
【マクラーレン】
2015年:最高5位/ランキング9位(27点)
2016年:最高5位/ランキング6位(76点)
2017年:最高6位/ランキング9位(30点)
【トロロッソ(2020年からアルファタウリ)】
2018年:最高4位/ランキング9位(33点)
2019年:最高2位/ランキング6位(85点)
2020年:優勝1回/ランキング7位(107点)
2021年:最高3位/ランキング6位(142点)
【レッドブル】
2019年:優勝3回/ランキング3位(417点)
2020年:優勝2回/ランキング2位(319点)
2021年:優勝11回/ランキング2位(585.5点)
マクラーレンとの最初の3年間は準備も信頼性もスピードも甚だしく不足しており、初年度の2015年はV6エンジンだけで合計23基を投入しなければならないほどの惨憺(さんたん)たる状況だった。当時のエースドライバーだったフェルナンド・アロンソからは「下位カテゴリーのGP2エンジンだ」と屈辱的な言葉を浴びせられたのもこの時期だった。
関係性が冷え切ったマクラーレンと別れ、2018年に新しいパートナー、トロロッソとともに再出発。まずはチームとホンダの信頼関係を築くことに注力し、その結果が翌年のレッドブルとの契約に結びつく。2019年からのトップチームとの共闘で優勝争いに加わるようになると、王者メルセデスとの差を埋め、追い越すために、さらなる高みを目指すことになった。
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ホンダF1第4期の意義
第4期での勝利数は7年間で17勝。過去の活動期と比べると以下のようになる。
第1期(1964年~1968年):優勝2回
第2期(1983年~1992年):優勝69回(ドライバーズタイトル5回、コンストラクターズタイトル6回)
第3期(2000年~2008年):優勝1回
第4期(2015年~2021年):優勝17回(ドライバーズタイトル1回)
第2期の戦績が突出しているが、当時はテストもエンジン投入数も無制限。いまとは全く異なる環境のため、第4期との単純比較はしづらい。現代の複雑怪奇なF1パワーユニットの開発は厳しい制限下で行わなければならず、第2期のように矢継ぎ早に新型エンジンを投入することなど不可能。こうした参入障壁の高さから、2014年にハイブリッド規定が始まってからというもの、ホンダ以外に参入した自動車メーカーは出てきていない。現在F1参戦を協議中というフォルクスワーゲン グループとて、レギュレーションでハイブリッド機構をシンプル化しない限りゴーサインを出さないのではないかとみられており、自動車メーカーを呼び込みたいFIAは、先ごろ発表した2026年からの新レギュレーションで、MGU-Hの廃止を盛り込んだ。
そんな誰もが二の足を踏む状況でも、ホンダは過酷なF1の世界に飛び込み、多くの失敗を経験し、屈辱を味わい、それでもなお諦めずに、一歩ずつ着実に成功への階段を上ってきた。こんな経験をした自動車メーカーは、世界広しといえどもホンダをおいてほかにはないのだ。
タイトル数や勝利数だけではない、失敗から学び立ち直るという教訓こそが、ホンダF1第4期の意義だったのではないだろうか。カーボンニュートラルという、自動車業界がいまだかつて経験してこなかった大変革を前に、大いなる自信を勝ち取ったであろうホンダは、華々しい閃光を放ってF1の世界をあとにした。
(文=柄谷悠人)

柄谷 悠人
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