第742回:「フィアット500」であっても「500」にあらず!? 同名異車種がもたらす混乱にご用心
2022.02.03 マッキナ あらモーダ!復活版カウンタックと「同名作品」
ランボルギーニは2022年1月25日、「カウンタックLPI800-4」の公道走行シーンを公開した。
LPI800-4は2021年8月に米国のペブルビーチで発表されたが、実際に走行している風景は今回が初である。背景から、ランボルギーニの本拠地であるイタリア北部エミリア地方で撮影されたと思われる。一部のシーンでは往年の「LP400」「25thアニバーサリー」とともに走行している。
そのカウンタックといえば2021年10月、ランボルギーニの歴史車両サービス部門、ポロストリコが、ある著名なコレクターのために、「LP500プロトタイプ」(1971年)の精巧なレプリカを一品だけ製作した。もともとはマルチェロ・ガンディーニが意図したデザインを最も忠実に具現した車両が、後年クラッシュテストに用いられて消滅した、まさに幻のカウンタックだった。
筆者が何を述べたいかというと、今後はカウンタックと言った場合、
- オリジナルのカウンタック(1974~1990年)
- カウンタックLPI800-4(2022年)
- カウンタックLP500プロトタイプのレプリカ(2021年)
の3モデルのどれかを確認する必要があるということだ。
というわけで、今回は筆者による「同名異車種による混乱」の体験談をお読みいただこう。
ちなみに同名異作品による混乱には、さまざまな分野で遭遇する。イタリアで身近なものといえばキリスト教美術である。誰でも分かりやすいのは『最後の晩餐』だ。日本では多くの人々があのレオナルド・ダ・ヴィンチ作品を思い浮かべる。だが、同様にキリストが最後の晩餐をとった部屋(チェナーコロ)を描いた作品は、著名な作家のものから村の教会の壁画まで無数に存在する。
音楽でも『春』という題名は、ベートーベンのバイオリンソナタを指す場合もあれば、ビバルディの有名な『四季』の第1楽章を指すときもある。
時代は飛ぶが、松本伊代のデビューシングルは『センチメンタル・ジャーニー』、次が『ラブ・ミー・テンダー』と、意図的に洋楽のカタカナ表記と同一にして注目を浴びていた。
ただし昨今の日本事情に疎い筆者は、2016年公開のアニメーション映画『君の名は。』が、太平洋戦争の終戦直後に放送された伝説のNHKラジオドラマ『君の名は』とは別内容であることを知るのに若干の時間を要した。
『風立ちぬ』も堀辰雄の小説と、それに着想を得た2013年のアニメ映画、作曲・大滝詠一、歌・松田聖子による1981年の楽曲の、少なくとも3作品が筆者のなかに存在する。
戸惑わせるクルマたち
閑話休題。クルマの場合、前述の各分野と異なり「作り手」が同じゆえ、ブランド名やモデル名が同じ場合はさらに混乱が生じる。そのため詳しく尋ねたくなる、もしくは尋ねなければならない状況に陥るのだ。その例を紹介してゆこう。
【シボレー】
今日、イタリアにおいてシボレーといえば、2015年まで韓国GM(旧GM大宇自動車技術)によって生産されていたモデルである。
エントリー車種であった初代「シボレー・マティス」は、イタルデザインが初代「フィアット・パンダ」の後継車として提案していたものをベースとしており、シティーカーとして意欲的なデザインであった。
しかし筆者個人としては、米国車華やかなりし時代のフルサイズ車こそ真のシボレーであり、韓国製シボレーに乗っているイタリア人が自分のクルマをシボレーと呼ぶのを聞くたび、どこか違和感を覚えるのも事実だ。
ちなみに、それに近い気持ちは、フォードの現行SUV「ギャラクシー(Galaxy)」と往年の「ギャラクシー(Galaxie)」でも起きる。
それでも一縷(いちる)の望みを託して「モデル名は?」と聞いてしまう。
【イノチェンティMini】
これも面倒だ。
ミラノのイノチェンティが英国の旧BMCと提携し、1965年から1975年にかけてオリジナルの「Mini」をライセンス生産したものであり、高性能版である「クーパー」も本国同様に存在した。
いっぽうで1974年から1993年まで生産された、ベルトーネのデザインによるイタリア版もイノチェンティMiniを名乗る。日本では「デ・トマゾ」仕様が有名になった、あれである。
この両者が存在するため、厄介な事態になっている。
【フィアット500(チンクエチェント)】
これに関する混乱が、最も頻度が高い。
時系列で並べれば、実は1936~1955年生産の小型車の名称も「500」であるものの、こちらは愛称である“トポリーノ”が普及しているため、イタリアではさして混乱は生じない。
問題はその後である。
- 1957~1975年の大衆車(いわゆる「ヌオーヴァ500」)
- 1991~1998年のシティーカー(170型。イタリアでは「Cinquecento」とアルファベット表記するとともに、トポリーノ以来の系譜とは区別されているが、発音は同じチンクエチェント)
- 2007年からの現行型(312型)
同じ呼び名でもこの3車種の可能性があるのだ。
幸い2020年に登場したBEV版は、目下人々から「500エレットリカ」と呼ばれているので、混乱は生じていない。
だが、いずれも一般ユーザー同士の会話では、「ヌオーヴァ・チンクエチェント(新しい500)」と呼ばれる機会が多い。フィアット自体も各モデルの発表当初にプレスリリースなどでそう呼んできたことが、ことをさらに複雑にする。
このフィアット500には泣き笑いがある。知人のマルチェッラが「街乗り用に中古の500を知り合いからタダでもらったわよ」と話すので、片道50km以上をかけて訪ねてみると、170型だった。勝手に思い込んでいた筆者がいけないのだが、思わず「違うんだってば」と、日本語で声を発してしまった。
かと思えば後年、別の知人から同様に「500を足代わりに手に入れたのよ」と聞いた。「どうせまた170型だろ。クルマ好きでもないし」と思っていたら、なんと1968年式の500だった。それこそ本欄第681回「奥さまは(2度目の)18歳!?……」で紹介したルチアの愛車である。
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混乱は収まらない
自己分析するなら、「新しいほうのモデルですか?」と聞き返すのは、いかにもクルマの歴史を知らない者のようで恥ずかしい。ついでに言えば、英国製オリジナルMiniに乗っている舶来趣味のイタリア人に「イノチェンティ版ですか?」などとうっかり言った日には、完全に嫌な表情をされる。
だからといって古いモデルかと信じていると、前述のマルチェッラのチンクエチェントのように、思わずがっかりさせられることがある。
先に年式を確かめておけばよいのだが、持ち主がエンスージアストでなかったり、親から引き継いだりしていた場合、年式の記憶が定かでないことが多い。ましてや170型、312型というふうに型式名で言えるユーザーは、メルセデス・ベンツなどと違ってまれだ。人づての情報だと、さらに判別不能になる。
したがって、実車を自分の目で見てみるまで、気が抜けないのである。
世界の自動車企業は、過去や現行の車種だけでなく、将来使用する可能性がある商標までひたすら登録している。他社より先に“押さえて”いるのだ。
2021年に、米国のフォードがハンズフリー操舵機能の名称に「ブルークルーズ」を使用したところ、GMが同様の装置に使用している「スーパークルーズ」や車種名の「クルーズ」と紛らわしいとして抗議したのが記憶に新しい。
メーカー間の商標をめぐる問題は、いつ起きても不思議ではないのだ。
そうした環境下で無難なのは、自社の従来車種の名称を使用することである。したがって、これからも同じメーカーにもかかわらず、どの時代のモデルか判別が難しい車名は増加すると筆者は予想している。
そういえばランボルギーニ・カウンタックのほかにも、ベントレーの「コンチネンタル」や「フライングスパー」なども、同じブランドでまったく異なる同名車種がある例だ。
ただし筆者の周囲に、そうしたモデルを所有する知人はいないであろうから、次の心配は、街で見かける頻度が増えてきた「DS」あたりか、と思っているところである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ランボルギーニ、ゼネラルモーターズ、フォード/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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