スバル・レガシィ アウトバックX-BREAK EX(4WD/CVT)
遅れてきた旗艦 2022.03.21 試乗記 いよいよ日本にも導入された新型「スバル・レガシィ アウトバック」。“走り”と“安全”に重きを置くスバルのフラッグシップモデルは、どのようなクルマに仕上がっているのか? 最新の技術と装備を満載したハイテククロスオーバーの実力を試す。グレード構成は2種類
スバルの新しいフラッグシップであるレガシィ アウトバック(以下、アウトバック)のラインナップはとてもシンプルだ。グレードは2種類のみで、その間には約14万円の価格差があるものの、明確な上下関係はない。
『webCG』でもサトータケシさんによる試乗記をすでにお送りしている「リミテッドEX」(以下、リミテッド)がどちらかというと街乗り風味が強いのに対して、今回の「X-BREAK EX」(以下、X-BREAK)は、よりアウトドアやオフロードテイストを強めたグレードとなる。ただし、パワートレインや車高、サスペンション、タイヤなどの走行メカニズムの調律はまったく共通で、先進運転支援システム(ADAS)にも機能差はない。あくまで内外装備によるキャラクター分けだ。
X-BREAKではハンズフリー機能付きの電動リアゲートが標準装備からはずされてオプション(7万7000円)あつかいになり、さらにアルミホイールの光輝切削加工、ドアミラーやルーフアンテナのカラード処理、アルミペダル、高品質ステアリングレザー、そしてドアレバーやスイッチ類のメッキ加飾が省かれる……あたりが、リミテッドより安価な根拠だろう。シート表皮もリミテッドのファブリックに対して、X-BREAKははっ水ポリウレタンとなるが、これはどちらが高級というより、まさに嗜好性のちがいだ。
基本的な走行性能や乗り味に差がないのは先述のとおりだが、アウトバックをレジャーツールとして使う向きには、シート表皮のほかにも機能差がいくつかある。代表的なのがルーフレールだ。リミテッドには空気抵抗が小さいクロスバータイプが採用されており、格納式クロスバーを引き出せばサーフボードや自転車、スキー/スノーボードなどを気軽に搭載できる。対してX-BREAKのそれは、よりシンプルだがゴツいラダータイプ。318kgという耐荷重が自慢で、2~3人用のルーフテントも使えるそうだ。
走りにみるちがいは“なし”
もうひとつ、リミテッドとX-BREAKでは、センターのタッチディスプレイ上で操作し、雪道や悪路に最適化された走行制御に切り替える「X-MODE」にも、ちょっとした差別化が図られている。
ちなみにX-MODEを作動させると、前後にトルクを配分する油圧多板クラッチの締結力が引き上げられて、さらにブレーキLSD制御もより介入しやすくなり、走破性が最大限に高められる。同時に変速やスロットルも低グリップ路面に適した制御になるほか、トルクコンバーターもロックアップせずに開放状態を保つことで、トルクの増幅効果を引き出す。
そのX-MODEが、リミテッドでは単純なオン/オフのみなのに対して、X-BREAKでは「スノー/ダート」、そしてタイヤが半分近く埋まるような状況を想定した「ディープスノー/マッド」と、オフロード向けのモードが2つ用意される。もっとも、前者はリミテッドでのX-MODEオンに相当する状態、後者は大ざっぱにいうと、X-MODEを作動させつつトラクションコントロールも解除したものと考えていい。よって「リミテッドでも、X-MODEをオンにしたうえでセンターディスプレイで『VDC』をオフにしていただければ、同等の効果が得られます」とは開発担当エンジニアの弁である。というわけで、両グレードではやはり走行性能に特筆すべき差はないということだ。
とはいえ、基本的に舗装路と、お試しで踏み入れたフラットダートにかぎられた今回の試乗では、そんなX-MODEの効果を実感するにはいたらなかった。そもそも新型アウトバックは、最低地上高からして先代より拡大されて213mmという本格SUVのレベルに達している。筆者のようなオフロード素人が丸腰で踏み入れようと思える程度の道など、能力限界のはるか下で遊ばせてもらっているだけだ。
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最新技術を惜しみなく投入
各部にイエローのステッチがあしらわれたX-BREAKのインテリアは、いかにも現代風アウトドアギアの雰囲気である。ポリウレタンのシート表皮は、今の季節では柔らかな肌触りがけっこう心地よかったし、はっ水機能は特定の趣味をたしなむ人には必須だろうが、「夏場はムレそうだな」と直感したのも事実だ。ちなみに「ナッパレザーシート」はリミテッドでしか選べないオプションなので、このシート表皮が新型アウトバックのグレード選びで最大のキモとなるだろう。
新型アウトバックのインパネには、現行型「レヴォーグ」に続いて12.3インチのフル液晶メーターと11.6インチ縦型タッチディスプレイが鎮座しており、スバルの最新ADASもフルで標準装備となる。カメラでドライバーの状態を監視する「ドライバーモニタリングシステム」はもちろん、高精度3D地図データを使って、渋滞時ハンズオフ運転や車線変更アシストを実現し、前方のカーブや傾斜、料金所などを感知してステアリングやブレーキを制御してくれる「アイサイトX」も、レヴォーグに続いて搭載された。アイサイトXが装備されるアウトバックは日本仕様だけだ。
エンジンも、海外では2.5リッター自然吸気が主力だが、日本仕様は1.8リッターターボを搭載する。新型アウトバックは北米では2019年9月、欧州では2021年2月、そして中国や豪州でも同年3月にデビューしており、2021年11月という国内導入は主要市場では最後発といっていい。それもエンジンが日本専用であることに加えて、レヴォーグに続くアイサイトXの搭載に時間を要したのが最大の理由と思われる。
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秀逸な運転支援システムの制御
フォレスター以来のドライバーモニタリングシステムは(いい意味で)口うるさい母親のようだ。助手席やコンソールに置いたスマホに一瞬目配せしただけで、顔が横向きだと「前方注意」、斜め下向きだったりすると「居眠り警告」と、即座に警告音のゲキが飛ぶ。正直わずらわしく感じることも多く、思わず「分かっているくせに!」と口答えしたくなるものの、事故を確実に減らす効果はあるだろう……と、タッチディスプレイで機能をキャンセルするのは思いとどまった。
アイサイトXを専用ボタンで起動させないかぎり、高速道で速度を設定しても一般的なアダプティブクルーズコントロール(ACC)+アクティブレーンキープ機能の状態で走るのだが、それでも走行マナーはすこぶる優秀だ。遅い前走車に追いつくときにも、滑らかに減速しながら設定した車間距離でぴたりと落ち着く所作は見事というほかない。そして、無駄なステア操作を要しないレーントレース性も素晴らしい。
さらに、ACCの加速レベルを、Lv1(エコ)、Lv2(コンフォート)、Lv3(スタンダード)、Lv4(ダイナミック)と4段階で設定できる機能も、リアルに便利。たとえばボルボのように追い越しかけ……から加速する機能はないものの、Lv4に設定しておけば前が空いた瞬間に一気に加速態勢に入ってくれる。病的なせっかち気質でもなければ、痛痒感をいだくことはないはずだ。
さらに、アイサイトXを作動させると、メーター上には隣車線のクルマまで映し出されて、前方にカーブや料金所があればそれに合わせた加減速制御も入る。料金所に近づけば前走車がなくとも最終的には約20km/hまで減速するし、高速でカーブがあれば、いかにACCの設定速度を高く(最高135km/h)していても、カーブに合わせて自動で減速する。これも、乗り手が元気で積極的に運転したいときには、ちょっとおせっかいに感じるものの、これまた事故抑制効果は間違いなくあるだろう。
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穏やかだが確かなドライブフィール
1.8リッターターボはそのピーク値から想像されるとおり、絶対的な性能に不足があろうはずもない。開発当初からアウトバックへの搭載を念頭に、CVTとともに「フラッグシップらしいトルキーで上品な転がり出し」にこだわった……という主張もそれなりに納得できるものがある。きちんとアクセルを踏めばフラットでパンチもあり、「SIドライブ」が穏やかな「Iモード」のままでも、加速の途中で急に過給が立ち上がるようなピーキーさはない。
ただ、スパッと加速したいときにワンテンポ遅れる小排気量過給エンジンのクセも皆無とはいえない。よって、滑らかに思いどおりに走りたいなら、速度域や勾配によってIモードより活発になる「Sモード」「S♯モード」を細かく使い分けるといい。こういう工夫が必要となるあたりは、おうような2.5リッターにゆずるところかもしれないが、それ以外に小排気量ターボのデメリットを実感するケースは少ない。
今回の試乗車はスタッドレスタイヤを履いていたので、本来の乗り味とちがうところもあろうが、その走りはひとことで心地よい。大きな地上高もあって、足もとのストローク感はゆったりたっぷり。接地感の豊かさなども特筆すべきだが、同時に余分な動きはしっかり抑制されているのがいい。ツギハギ舗装だらけの荒れた路面でも、バネ下だけで凹凸をスイスイ吸収し、上屋をフラットに保つ所作はなかなか見事なものだ。
次の機会にはぜひ標準サマータイヤで乗ってみたいものだが、この穏やかだが正確でリニアなステアリングフィールは、タイヤ差を考慮しても優秀と想像される。昨今、どのクルマに乗っても、走りには一本筋の通った感のあるスバル。新型アウトバックも、その最新フラッグシップだけのことは……たぶんある。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバル・レガシィ アウトバックX-BREAK EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1875×1670mm
ホイールベース:2745mm
車重:1710kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:177PS(130kW)/5200-5600rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1600-3600rpm
タイヤ:(前)225/60R18 104Q/(後)225/60R18 104Q(ヨコハマ・アイスガードG075)
燃費:13.0km/リッター(WLTCモード)/15.8km/リッター(JC08モード)
価格:414万7000円/テスト車=446万6000円
オプション装備:ハンズフリーオープンパワーリアゲート<リアゲートロックスイッチ付き>+harman/kardonサウンドシステム+サンルーフ(31万9000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3874km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:252.6km
使用燃料:22.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。