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頼もしさと危なっかしさが併存? ホンダのEV戦略説明会に感じた“堅実性”と“不安”

2022.04.22 デイリーコラム 鈴木 ケンイチ
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三部社長の就任時に語られた目標

2022年4月12日、ホンダが「Honda四輪電動ビジネス説明会」と題した記者説明会を行った。これは文字どおり、ホンダの四輪電動ビジネス、つまりはEV(電気自動車)化への取り組みを説明するものだ。

ここで押さえておくべきなのは、この発表には前段があったということ。それは1年前の2021年4月に行われた三部敏宏社長の「社長就任会見」である。ホンダ(本田技研工業)の社長が前任の八郷隆弘氏から三部氏に代わったのに合わせ、新社長が今後のホンダの進む道を示したのだ。無論そこには「四輪電動ビジネス」の目標も含まれていた。つまり今回の記者説明会は、前年4月に示した方針に対する進捗(しんちょく)状況の報告と、より詳しいディテールの説明という意味合いのものだったのだ。そこで重要となるのが、1年前の社長就任会見の内容だ。話は長くなるが、まずはそれをおさらいしておこう。

2021年4月の社長就任会見において、三部社長は「環境と安全に徹底的に取り組むとともに、将来に向けてモビリティー、パワーユニット、エネルギー、ロボティクスの領域で進化をリードする」という方針を示した。具体的には「2050年にカーボンニュートラル、交通事故死者ゼロ」を目指す。また「モビリティーを3次元、4次元に拡大していくべく、空、海洋、宇宙、そしてロボットの研究を進める」とも述べた。既存のオートバイとクルマ、パワープロダクツ(発電機など)にとどまらず、ビジネス領域を拡大させるのだ。

ホンダの将来目標について説明する本田技研工業の三部敏宏社長。ホンダは2050年に、自社の関わるすべての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを実現するとしている。
ホンダの将来目標について説明する本田技研工業の三部敏宏社長。ホンダは2050年に、自社の関わるすべての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを実現するとしている。拡大
2021年4月23日に行われた、三部社長の就任会見の様子。カーボンニュートラルや交通事故死者ゼロの実現へ向けた、中長期的な取り組みやロードマップが説明された。
2021年4月23日に行われた、三部社長の就任会見の様子。カーボンニュートラルや交通事故死者ゼロの実現へ向けた、中長期的な取り組みやロードマップが説明された。拡大
二輪、四輪、汎用(はんよう)機、船外機などを合わせ、年間で3000万台ものパワートレインを備えた機械や乗り物を販売するホンダ。今後は宇宙に関する事業にも挑戦するという。
二輪、四輪、汎用(はんよう)機、船外機などを合わせ、年間で3000万台ものパワートレインを備えた機械や乗り物を販売するホンダ。今後は宇宙に関する事業にも挑戦するという。拡大
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2040年にエンジンをやめると宣言

一方で、四輪の電動化については驚くような目標が示された。それが以下のものだ。

【EV/FCVの販売比率目標】

ホンダは四輪電動ビジネスの目標として、「先進国全体でのEV/FCV(燃料電池車)の販売比率を、2030年に40%、2035年に80%とする。グローバルでは2040年に100%を目指す」とぶち上げたのだ。これでは2040年に、ハイブリッドもやめることになる。つまり内燃機関の終了だ。“エンジンのホンダ”が、エンジンをやめてしまう。これには多くの人が驚いたことだろう。無論、その過程にある先進国で2030年に40%、2035年に80%という目標も非常に高いものだ。2050年のカーボンニュートラルから逆算しての計画だろうが、耳にしたときは驚くほかなかった。

しかしライバルの動きも活発で、2021年12月にはトヨタも「バッテリーEV戦略に関する説明会」を行い、「2030年にバッテリーEVのグローバル販売年間350万台」を宣言する。年間1000万台プレイヤーであるトヨタで言えば、350万台は35%に該当する数字だ。この驚きの発表により、世間の雰囲気も少なからず変化したのではないだろうか。当コラムに関するところでは、先に述べたホンダの電動化目標が色あせた……とまでは言わないが、驚きの度合いが下がった感はあった。四輪電動化への潮流は、ホンダが新社長の就任会見を行った1年前より確実に強まっているということだろう。

四輪事業に関しては製品の電動化を急速に推し進め、2040年にはマーケットを問わず、自社製品のすべてをEVもしくはFCVとするとしている。
四輪事業に関しては製品の電動化を急速に推し進め、2040年にはマーケットを問わず、自社製品のすべてをEVもしくはFCVとするとしている。拡大
ホンダの四輪電動化の計画が実現した場合、ハイブリッド車を含め、エンジンを搭載したホンダ車は新車市場から姿を消すことになる。
ホンダの四輪電動化の計画が実現した場合、ハイブリッド車を含め、エンジンを搭載したホンダ車は新車市場から姿を消すことになる。拡大

壮大な目標に向けた堅実な戦略

そうした流れのなかで行われたのが、今回のホンダの記者会見だ。その内容は大きく「電動化への取り組み(ホンダ全体のスタンスの説明)」「四輪電動事業の取り組み(バッテリーの調達とEV展開、生産についての説明)」「ソフトウエア・コネクテッド領域の強化」「ビジネス変革を支える財務戦略」「スポーツモデル(2モデル投入の予告)」となっていた。

なかでも注目なのは、今回の発表のタイトルにもある「四輪電動事業の取り組み」だ。社長就任会見では大枠としての販売台数の数字だけが示されたが、今回の発表ではその目標を踏まえ、具体的な「バッテリー調達戦略」「EV展開」「生産体制」の方策が明かされている。そこで感じられたのは、意外にも“手堅さ”や“頼もしさ”であった。

明かされた販売台数の目標は「2030年に200万台以上」だ。ホンダの年間販売台数が450万~500万台であると考えると、200万台はその40~45%にあたる。しかもこれは先進国限定ではなくグローバルでの数字であり、「2030年は先進国で40%」とした前回の発表より、さらに進んだ目標といえる。しかし、同じ2030年のトヨタの目標は35%の350万台。より規模の大きいトヨタが35%であれば、ホンダの40~45%もあながち無理のない数字に思えた。たった1年で数字に感じる重みが変わるというのも不思議なもの。それだけ時代の流れが速いということだろう。

バッテリーの調達では、米ゼネラルモーターズや中国のバッテリーメーカーであるCATLとの連携を活用。日本向けの軽EVのバッテリーは、「リーフ」など日産製EVの電池を生産するエンビジョンAESCから調達するという。ちなみに、ホンダが北米で頼りにするGMのパートナーは、韓国のLG。いずれも実績のある“手堅い”相手だ。

ホンダは2020年代の前半をEVの黎明(れいめい)期と捉え、日本、北米、中国で個別の戦略を展開。その後はマーケットによってばらばらだったニーズがある程度統合されると考えており、2020年代後半以降は「グローバル視点でベストなEVを展開する」としている。当面の目標は、2030年までの年間販売200万台の実現だ。
ホンダは2020年代の前半をEVの黎明(れいめい)期と捉え、日本、北米、中国で個別の戦略を展開。その後はマーケットによってばらばらだったニーズがある程度統合されると考えており、2020年代後半以降は「グローバル視点でベストなEVを展開する」としている。当面の目標は、2030年までの年間販売200万台の実現だ。拡大
バッテリーの調達に関しては、マーケットごとに異なるパートナーを選択。これからEVの普及が進むと目される日本では、もとは日産とNECの合弁会社だった中国のエンビジョンAESCからバッテリーの供給を受ける。
バッテリーの調達に関しては、マーケットごとに異なるパートナーを選択。これからEVの普及が進むと目される日本では、もとは日産とNECの合弁会社だった中国のエンビジョンAESCからバッテリーの供給を受ける。拡大
北米市場ではGMとの協業を加速。GMのEVプラットフォームを用いたSUVを市場投入するほか、量販価格帯の次世代EVの共同開発についても合意している。写真はGMのEVプラットフォームに搭載される次世代バッテリー「アルティウム」。
北米市場ではGMとの協業を加速。GMのEVプラットフォームを用いたSUVを市場投入するほか、量販価格帯の次世代EVの共同開発についても合意している。写真はGMのEVプラットフォームに搭載される次世代バッテリー「アルティウム」。拡大

EVの普及だけにとどまらないさまざまな施策

またマーケットごとの商品展開をみると、日本向けには2024年に軽商用バンを投入し、その価格は200万円以下とする。すでに三菱が「ミニキャブ ミーブ」で240万円台の価格を実現していることを考えれば、これも現実味のある目標である。一方、北米向けには2024年に2車種のEVを投入し、その後、2027年にガソリン車と競争力のある量販価格帯のEVを、GMとのアライアンスを使って投入するという。最初の2車種で手ごたえを探り、2027年の競争力のあるモデルで勝負するということだろう。またEV普及で先行する中国では、同じ2027年までに10車種を投入。こちらはスピード勝負といった様子で、要するに市場に応じて個別の戦略を用意しているのだ。

さらに次世代バッテリーの主役と目される全固体電池の開発は、生産の実証ラインを計画するところまできているとか。実際のラインの立ち上げは2024年春の予定で、約430億円の投資を計画しているという。先だって、同じく全固体電池の試作生産設備の設置を発表した日産に比べると(参照)、若干の遅れはある。しかし進捗が明らかにされたことは、ホンダのEV戦略の未来を占ううえで確かな安心材料といえるだろう。

こうした四輪電動化領域の計画に加えて“頼もしさ”を感じたのが、「ソフトウエア・コネクテッド領域の強化」の施策だ。これからのビジネスでは、ハードを“売りっぱなし”にするのではなく、コネクテッド技術を活用した継続的なソフトウエアサービスが重要になるはず。そのためにホンダは、電動化・ソフトウエア領域の研究開発費に約3.5兆円もの予算を投じるというのだ。

また四輪ビジネスに関しては、EV比率を高めると言いながらも、ホンダ全体としては「多面的、多元的なアプローチが必要」とも説明している。彼らは四輪だけでなく、オートバイやパワープロダクツ、船外機、航空機など、幅広い製品ポートフォリオを有している。これら“四輪以外”の機器のためにも、交換式バッテリーや水素燃料電池、カーボンニュートラル燃料への取り組みを続けるというのだ。EVにのめり込みすぎず、他のビジネスへの配慮も忘れない点も、ホンダならではの頼もしさといえるだろう。

一方で、子細に前回および今回のホンダの発表を見ていくと、“危うさ”を感じる部分もある。

日本におけるEVの商品展開について説明する、本田技研工業の青山真二専務。2024年にEVの軽商用車を100万円台の価格で投入するとしている。
日本におけるEVの商品展開について説明する、本田技研工業の青山真二専務。2024年にEVの軽商用車を100万円台の価格で投入するとしている。拡大
軽商用EVの投入後は、市場の反応を見て順次軽乗用EVやSUVタイプのEVを投入するという。
軽商用EVの投入後は、市場の反応を見て順次軽乗用EVやSUVタイプのEVを投入するという。拡大
ホンダが試作した全固体電池。ホンダは当面、バッテリーの供給を外部に頼るとしているが、同時に内製化へ向けた動きもみせており、2020年代後半以降は、次世代電池の開発などで独自の取り組みを加速させるとしている。
ホンダが試作した全固体電池。ホンダは当面、バッテリーの供給を外部に頼るとしているが、同時に内製化へ向けた動きもみせており、2020年代後半以降は、次世代電池の開発などで独自の取り組みを加速させるとしている。拡大
全固体電池の研究開発について説明する青山専務。約430億円を投資し、2024年春に実証ラインを立ち上げる予定だ。
全固体電池の研究開発について説明する青山専務。約430億円を投資し、2024年春に実証ラインを立ち上げる予定だ。拡大
陸海空の各分野において、さまざまなモビリティーを手がけているホンダ。これらすべてをカーボンニュートラル化するうえでは、エンジンからバッテリーへの単純な置き換えではなく、多面的、多元的なアプローチが必要と考えている。
陸海空の各分野において、さまざまなモビリティーを手がけているホンダ。これらすべてをカーボンニュートラル化するうえでは、エンジンからバッテリーへの単純な置き換えではなく、多面的、多元的なアプローチが必要と考えている。拡大
2026年以降の投入を予定している、次世代EVの模式図。ハードウエアとなるEVプラットフォームや電子プラットフォームと並んで、ソフトウエアプラットフォームやそこで稼働するアプリケーションが重視されているのが分かる。
2026年以降の投入を予定している、次世代EVの模式図。ハードウエアとなるEVプラットフォームや電子プラットフォームと並んで、ソフトウエアプラットフォームやそこで稼働するアプリケーションが重視されているのが分かる。拡大
ホンダは今後10年で約8兆円を研究開発費として投入する計画で、このうち電動化とソフトウエアの領域では、研究開発費に約3.5兆円、投資に約1.5兆円の、合わせて約5兆円を投入するとしている。
ホンダは今後10年で約8兆円を研究開発費として投入する計画で、このうち電動化とソフトウエアの領域では、研究開発費に約3.5兆円、投資に約1.5兆円の、合わせて約5兆円を投入するとしている。拡大
今回の記者会見で計画が明らかにされたEVスポーツモデル。“フラッグシップ”と表されるモデルについては、キャビンフォワードなシルエットから察するに「NSX」の後継を担うものとなりそうだ。
今回の記者会見で計画が明らかにされたEVスポーツモデル。“フラッグシップ”と表されるモデルについては、キャビンフォワードなシルエットから察するに「NSX」の後継を担うものとなりそうだ。拡大
こちらは“スペシャリティー”なほうの新型EVスポーツモデル。こうした車種も結構だが、2017年の東京モーターショーに出展された「スポーツEVコンセプト」のような、より身近で手ごろなモデルについても具体化を検討してほしい。
こちらは“スペシャリティー”なほうの新型EVスポーツモデル。こうした車種も結構だが、2017年の東京モーターショーに出展された「スポーツEVコンセプト」のような、より身近で手ごろなモデルについても具体化を検討してほしい。拡大

発表の端々に潜む不安

まず気になるのは、2035年の「EV販売比率80%」という数字だ。2030年の40~45%からたったの5年、モデルライフで言えばわずか1世代で、販売比率が2倍に増えるものなのか。「エンジン車とEVが同じ価格帯になれば、誰もがEVを買う」という前提ではそれほどの成長は難しく、「エンジン車よりもEVのほうが便利で、しかも安い」というところまでいく必要があるだろう。それを5年で実現するのは、相当に難しいのではないか。また急速なEVの普及には、それを支える膨大な電力の確保という課題もある。これは自動車メーカーだけで解決できるものではない。そういう意味でも、2035年のEV/FCV販売比率80%というのは、どうにも“危うい”と思えてしまうのだ。

次に気になるのが、ソフトウエア・コネクテッド領域の勝算だ。今後、クルマのコネクテッド化が進めば、当然そこに載せるソフトウエア、つまりサービスが重要となる。しかし現時点では、どこの自動車メーカーも「重要だ、重要だ」と言うばかりで、肝心かなめのサービスの提案がない。便利でワクワクする、誰もが欲しがるサービスがあってこそのクルマのコネクテッド化だが、この分野はホンダに限らず、どこの自動車メーカーも苦手なのではないか。将来性の大きい領域だけに、新規に参入してくるIT企業に負けてしまうのではという不安がぬぐえない。ソニーとの提携を上手に活用し、なんとか魅力的なサービスを生み出してほしいと願うばかりだ。

最後の不安は、今回の発表で明らかにされた“スペシャリティー”と“フラッグシップ”という、2つのキャラクターの電動スポーツモデルについてである。フラッグシップはどう見ても「NSX」の後継だろう。前後輪が緑に光っていることを見れば、電動4WDであることも予想できる。ただ、本当にNSXの後継なら一般人には手の届かない高嶺ならぬ高値の花になるのではないか。一方、ロングノーズの流麗なスペシャリティーのほうは、横に並ぶフラッグシップと比べてもシルエットが大きく見える。これほど立派な車格だと、こちらも庶民にはなかなか縁のない値段のクルマになりそうである。かっこいいけど、愛車にはできそうにないなと、ちょっぴり残念な気持ちになってしまった。

(文=鈴木ケンイチ/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ

鈴木 ケンイチ

1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

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