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第21回:とにもかくにもスピード重視! 中国におけるホンダの電動化戦略を読み解く(前編)

2021.10.26 カーテク未来招来 鶴原 吉郎
ホンダは今後5年間で10車種のEVを中国市場に投入するとしている。
ホンダは今後5年間で10車種のEVを中国市場に投入するとしている。拡大

ホンダが中国における電動化戦略を発表した。向こう5年間で10車種の電気自動車(EV)を投入するという計画は2021年4月に公表済みだが、今回は2022年春に発売するホンダブランド初のEV 2車種を公開するなど、より具体的な戦略の中身を発表。そこからは、スピードをなによりも重視するホンダの姿勢が垣間見えた。

2010年に早くも量産EV「リーフ」を商品化した日産。今後はSUVタイプの「アリア」や軽乗用EVの導入も控えている。
2010年に早くも量産EV「リーフ」を商品化した日産。今後はSUVタイプの「アリア」や軽乗用EVの導入も控えている。拡大
トヨタとスバルが共同開発している、SUVタイプの新型EV(写真はトヨタ版の「bZ4X」)。トヨタは2025年までに15車種の新型EVをグローバルに投入するとしている。
トヨタとスバルが共同開発している、SUVタイプの新型EV(写真はトヨタ版の「bZ4X」)。トヨタは2025年までに15車種の新型EVをグローバルに投入するとしている。拡大
「マツダMX-30」のEVモデル。シティーユースに特化した電池容量の小さなモデルで、日本では2021年1月に発売された。
「マツダMX-30」のEVモデル。シティーユースに特化した電池容量の小さなモデルで、日本では2021年1月に発売された。拡大
ホンダのコンパクトEV「ホンダe」。世界的な賞をいくつも獲得するなど、注目は集めているものの……。
ホンダのコンパクトEV「ホンダe」。世界的な賞をいくつも獲得するなど、注目は集めているものの……。拡大

100%電動化を宣言したホンダの現状

日本の完成車メーカーとしては初めて、2040年の“脱エンジン”を宣言したホンダ(参照)。しかしその足元を見ると、トヨタ自動車や日産自動車といった競合他社に対して、必ずしも電動化で先行しているわけではない。日産は既に2010年に量産EVの初代「リーフ」を商品化しており、2021年6月には新世代EV「アリア」の受注を開始。さらに2022年春には軽乗用EVの投入も予定するなど、矢継ぎ早にEVラインナップの強化を図っている。

トヨタも、EV専用プラットフォーム「e-TNGA」をベースにスバルと共同開発した新世代EV「bZ4X」を2022年に投入予定で、スバルもこれを「ソルテラ」として売り出すとしている。またマツダは、同社初の量産EVとなった「MX-30」のEV仕様を、主力市場の欧州では2020年6月に発売。2021年2月までに1万台を超える販売をあげている。9カ月間で1万台だから月間の平均販売台数は1000台を超えており、大ヒットとまではいかないまでも、まずまずの成績といえるだろう。

これに対し、同じく欧州を主力市場と位置づけていた「ホンダe」の販売台数は、2020年4月から2021年2月までの11カ月で4263台と、マツダMX-30の半分にも及ばない。この販売台数の少なさについては、「電池容量が35.5kWhに限られ、航続距離が222km(WLTP複合モード、Extra-highフェーズを含む)と短いから」という声が聞かれる。しかし、この点に関して言えばマツダMX-30の電池容量も35.5kWhとホンダeと同じで、航続距離に至っては200km(同)と、ホンダeよりむしろ短い。

販売に見る両者の差は、MX-30のほうが車体が一回り大きいにもかかわらず、例えば英国での価格は2万5000ポンド程度(EV補助金込み、1ポンド=157円換算で393万円程度)と、ホンダeの価格(およそ2万6000ポンド、約408万円)より低いことや、ボディー形態が人気の高いSUVであるということもあるだろう。

ホンダ の中古車

向こう5年で10車種のEVを中国に投入

一方米国では、米GMの開発したEV専用プラットフォームを使ってSUV 2車種を開発するとしているが(参照)、発売は「2024年のモデルイヤーから」ということなので2023年内になると見込まれるし、独自開発のEV専用プラットフォームを採用したモデルの投入は、さらにその先の2020年代後半になる見通しだ。

つまり、厳しい言い方をすれば、EVに関して最も野心的な計画を発表したホンダだが、足元を見れば欧米メーカーはもちろん日本の完成車メーカーと比べても動きは遅く、また既に打っている手もうまくいっているとは言い難い。

こうした状況を誰よりも認識していたのがほかならぬホンダ自身だろう。だからこそ、2021年10月13日に発表された中国における電動化戦略には、並々ならぬ意欲が感じられた。発表の骨子は以下の通りだ。

  • 2030年以降に中国で新たに投入する四輪車はすべてハイブリッド車(HEV)やEVなどの電動車にする。
  • 中国では初となるホンダブランドのEVを「e:N」シリーズと称し、5年間で10車種発売する。中国からの輸出も視野に入れる。
  • e:Nシリーズの第1弾となる「e:NS1」「e:NP1」を、それぞれ東風ホンダと広汽ホンダから2022年春に発売する。
  • 今回公開した3つのコンセプトモデル「e:Nクーペコンセプト」「e:N SUVコンセプト」「e:N GTコンセプト」は5年以内の発売を目指して開発中。
  • 既存店舗にe:Nシリーズのコーナーを設置するほか、将来的には主要都市でe:N専売店を展開するなど、EVの販売網を拡充。
  • 広汽ホンダと東風ホンダでそれぞれ新たなEV工場を建設。2024年の稼働開始を目指す。
  • 全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」を、世界に先駆けて2022年から中国市場で実用化。順次グローバル展開し、2030年までに中国を含む先進国で発売する四輪車全モデルへの適用を目指す。
次世代バッテリー「アルティウム」を使用した、GMのEV専用プラットフォーム。ホンダはこのプラットフォームをベースに、2024年に米国市場に新型EV「プロローグ」を投入するとしている。
次世代バッテリー「アルティウム」を使用した、GMのEV専用プラットフォーム。ホンダはこのプラットフォームをベースに、2024年に米国市場に新型EV「プロローグ」を投入するとしている。拡大
ホンダは、中国市場に新たに投入するEVに、「e:N」シリーズという名称を採用した。
ホンダは、中国市場に新たに投入するEVに、「e:N」シリーズという名称を採用した。拡大
5年以内に発売されるという3つのEVのコンセプトモデル。左から「e:N SUVコンセプト」「e:N GTコンセプト」「e:Nクーペコンセプト」。
5年以内に発売されるという3つのEVのコンセプトモデル。左から「e:N SUVコンセプト」「e:N GTコンセプト」「e:Nクーペコンセプト」。拡大
ホンダは次世代の予防安全・運転支援システム「Honda SENSING 360」についても、中国市場を皮切りに導入するとした。
ホンダは次世代の予防安全・運転支援システム「Honda SENSING 360」についても、中国市場を皮切りに導入するとした。拡大

プラットフォーム戦略にみる疑問

今回の発表においてまず注目されるのは、e:Nシリーズの最初のモデルとなるe:NS1とe:NP1だ。ホンダはこのe:Nシリーズに、専用のプラットフォーム「e:Nアーキテクチャー」を採用するとしている。しかし公開されたe:NS1とe:NP1の写真を見る限り、両モデルは2021年4月の上海モーターショーで公開された「ホンダSUV e:プロトタイプ」をほぼそのまま製品化したモデルだ。外観からも分かる通り、このモデルは現行型「ヴェセル」をベースにして開発されたEVと考えられる。

ホンダはe:Nシリーズのために中国市場専用のEVプラットフォーム「e:NアーキテクチャーF」と「e:NアーキテクチャーW」を開発したとしており、今回のe:NS1とe:NP1はe:NアーキテクチャーFをベースとしている。このプラットフォームのFの文字は“フロントモーター”のFのようで、前輪駆動をベースにしたプラットフォームだ。一方の“W”プラットフォームは後輪駆動をベースとしたもので、四輪駆動のバリエーションも用意される。

ここで不思議なのは、米国市場向けの戦略との整合性だ。先に触れたように、ホンダは米国市場でGMのプラットフォームをベースとしたEVを、2023年に発売する計画だ。さらに2020年代後半には、ホンダ独自開発のEVプラットフォーム「e:アーキテクチャー」を採用したEVを、米国を皮切りに世界の市場に投入することを明らかにしている。だから筆者も、中国市場にも将来的にe:アーキテクチャーを採用したEVを投入するのかと思っていた。しかし今回の発表によると、中国では独自のEVプラットフォームを投入することとされているのだ。一見ムダに見える今回の決断がなぜなされたのか? 次回はそのことについて考えてみたい。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

ホンダが発表した次世代EV「e:NS1」。ホンダは「e:N」シリーズに専用のプラットフォームを採用するとしているが……。
ホンダが発表した次世代EV「e:NS1」。ホンダは「e:N」シリーズに専用のプラットフォームを採用するとしているが……。拡大
こちらは「e:NP1」。写真からも、現行型「ヴェゼル」をベースにしていることが分かる。
こちらは「e:NP1」。写真からも、現行型「ヴェゼル」をベースにしていることが分かる。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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