メルセデスAMG GT63 S Eパフォーマンス(4WD/9AT)
好機をつかむ高性能 2022.05.09 試乗記 メルセデスAMGが提案するプラグインハイブリッド車は、単なるエコカーにあらず。文字どおりケタ違いのトルクを発生するニューモデルに試乗した筆者は、このブランドの新たなチャレンジと到達点に感心させられたのだった。これからの主力モデル
熟練の職人が最初から最後まで1基を1人の手で組み上げる「ワンマン、ワンエンジン」の哲学。それに基づくパワフルな内燃エンジンを一番のセリングポイントとしてきたメルセデスAMGの元にも、電動化の波は容赦なく押し寄せてきている。しかしながら彼らはみじんもネガティブになどなっておらず、むしろそれをチャンスと捉えているようだ。
「電気モーターはレスポンスに優れ、圧倒的なパワーを発生することが可能です。そう考えれば、メルセデスAMGのようなハイパフォーマンスカーブランドにとって、電動化はピンチではなく、むしろチャンスだとは言えませんか?」
2021年、IAAの会場で話をうかがい、今回の「メルセデスAMG GT63 S Eパフォーマンス」の国際試乗会にも参加していたメルセデスAMGのCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)ヨッヘン・ヘルマン氏はそう言う。実際にメルセデスAMGは将来に向けて、極めて積極的な電動化方針を示している。
すでに彼らは初のBEVラインナップとして、「メルセデス・ベンツEQS」をベースとする「EQS53 4MATIC+」を世に出している。続いて「EQE」のAMGモデルも登場済みだから、こうしたかたちのBEVは着々と数を増やしていくだろう。さらに、メルセデスAMGは独自開発のプラットフォームを用いたスーパースポーツ級のBEVも登場させる予定だという。
一方、当面の主力となりそうなのがプラグインハイブリッド車=PHEVだ。今回、スペインはセビリアで試乗したGT63 S Eパフォーマンスは、まさにその第1弾となるモデルである。
重要なのは“ダレない”こと
それにしてもうならされたのが、そのスペックだ。PHEVといえば環境性能を重視して、EV航続距離を延ばし……といった先入観は、見ればすぐに打ち砕かれる。何しろエンジンと電気モーターの合計となるシステム最高出力は843PS、最大トルクは実に1400N・mにも達するのだ。
フロントに積まれるエンジンはおなじみワンマン、ワンエンジンの哲学にのっとって生み出された4リッターV型8気筒ツインターボで、単体でも最高出力639PS、最大トルク900N・mを発生する。そして、リアアクスルには最高出力204PS、最大トルク320N・mを発生する強力な電気モーターが2段ギアボックスを介して装着されている。
なお、ISGを使わなかったのはギアボックスのトルク許容量で出力上限が決まってしまうのを嫌ったからだという。電気モーターはギアボックスの下流に置いておきたかったのだ。代わりにエンジンにはRSGと呼ばれるベルトドライブ式のスタータージェネレーターが備わっている。
とにもかくにも途方もないスペックだが、開発陣の狙いはあくまでピークパワーではない。何より目指したのはその実力をコンスタントに発揮できるクルマとすること。BEVは一発目の加速は良くても2回、3回と繰り返すにつれてバッテリーの温度が高まり、加速がダレていくのがほとんどの場合だが、このクルマでは、95PSのパワーは常にどんなことがあっても発生し続け、ピークパワーの204PSも最大10秒間、タレずにキープされるという。
これを可能にしたのがF1の技術だ。開発陣はF1用パワーユニットを開発している英国ブリックスワースの同僚たちと連携して、まさにF1由来のバッテリー冷却システムをこのクルマに採用したのである。
驚くべき万能感
一方、そのバッテリーの容量はたったの6.1kWhにすぎず、いわゆるEV航続距離は、わずか12kmにとどまる。バッテリー容量を増やせばEV航続距離は延びるが車重は増加して運動性能を低下させる。それはメルセデスAMGの求めるものではない、というわけだ。
「EV航続距離を求める方には、すでにメルセデス・ベンツが豊富な選択肢を用意しています。われわれが最優先とするのはパフォーマンスです」。コンセプトはどこまでも、至極明快なのである。
一般道、そして高速道路からスタートした試乗の最初の印象は、これまで親しんできた「AMG GT63 S」と大きくは変わらないものだった。それでも車重は増えていて2.4t近くまで達しているし、タイヤ&ホイールは21インチという大径にもかかわらず、すさまじい剛性感を誇るボディーのおかげで乗り心地には粗野なところはみじんもないし、何よりドライバビリティーが非常に良い。数字だけ見れば相当な暴れ馬でもおかしくなさそうだが、しっかり調教されていて日常域ではまるで扱いにくさを見せることはない。
異なるのは、ダイナミックセレクトをCOMFORTやECOに設定していると、必要のない時にすぐにエンジンが停止すること。また、このダイナミックセレクトのスイッチをひと押しすると、アクセルオフでの回生ブレーキによる減速度を調整することもできる。強さは4段階に切り替えられ、一番強めればブレーキペダルをほぼ使わないワンペダルドライブも可能だ。
もちろん踏めば速い。しかもモーレツに。試しに全開にしてみると一瞬のタメのあとにドーンと解き放たれたように速度が高まり、その勢いはとどまることを知らないかのようだった。そのまま踏んでいれば、おそらく250km/hなんてすぐ。前述のとおり、電気モーターの最大パワーが持続するのは10秒間だが、それで足りないという場面はドイツのアウトバーンですら遭遇することはほとんどなさそうだ。
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圧倒的パワーを支配下に
サーキットでの走行でも、やはり印象に残ったのはパワーそのものより、その扱いやすさのほうだった。RACEモードでのアクセルレスポンスの鋭さ、そして一気呵成(かせい)の吹け上がりと圧倒的なパワーとトルクは目まいがしてくるほどだが、それとていきなりさく裂するわけではなく、常にドライバーの支配下に置いておくことができる。
実は電気モーターはリアアクスルに搭載されてはいるものの、その出力は後輪にだけ伝えられるのではなく、機械的に接続されているプロペラシャフト、トランスファーを通じて前輪にも伝達されている。おかげで強大なパワーとトルクは余すことなくクルマを前に進める力となり、ピーキーな動きを誘発したりはしないのである。
しかも、あのDTMレジェンド、ベルント・シュナイダー氏のドライブする先導車についてのホットラップ、文字どおり全開での5周の走行の間、パワーもレスポンスもまったく変わることはなかったことに、またうならされた。これがまさにF1テクノロジーなのだろう。同様にカーボンブレーキも最後までへこたれることはなかった。これは回生ブレーキが併用されるのも貢献しているのかもしれない。
サーキットを出て市内のホテルへと帰る際にも、マシンは特に整備されるわけでもなく、そのまま。それでも異音ひとつ発することなく快適なドライブを楽しめたのだから、この速さ、そして一貫性にも大いに感心させられたのである。
電動化をピンチではなくチャンスとするという言葉を、まさに実践していたこのEパフォーマンス。PHEVということで多くの国で税金が安くなるというユーザーメリットもあるそうだ。その仕組み自体はどうかと思わないではないが、その意味でもメルセデスAMG、確かに電動化の波をうまく活用していることは間違いない。
このEパフォーマンスと名づけられたPHEVは今後、メルセデスAMGの基幹テクノロジーとして幅広く展開されていくことになる。聞けば、これに続くのはおそらく「C63」と呼ばれるはずのモデル。エンジンは直列4気筒ユニットが組み合わされるようだ。
(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG GT63 S Eパフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1855×1690mm
ホイールベース:2690mm
車重:2380kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:永久励起同期式モーター
トランスミッション:9AT
エンジン最高出力:639PS(470kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2500-4500rpm
モーター最高出力:204PS(150kW)
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)
システム最高出力:843PS(620kW)
システム最大トルク:1010-1470N・m(103.0-149.9kgf・m)
タイヤ:(前)255/35ZR21/(後)315/30ZR21(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
ハイブリッド燃料消費率:8.6リッター/100km<約11.6km/リッター>(WLTPモード)
EV走行換算距離:12km
充電電力使用時走行距離:--km
交流電力量消費率:103Wh/km
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッションおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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