日産サクラ(FWD)
リベンジが始まる 2022.05.20 試乗記 「リーフ」で電気自動車(EV)の技術を培ってきた日産自動車が、2022年は「アリア」に続いて軽EVの「サクラ」をリリースする。「日本の自動車市場の常識を変える」と強気な姿勢だが、果たしてその仕上がりは?日産が追う立場に
試乗前の説明会で「車名をヒマワリに変えようかと思いました」という発言があった。2021年の早い段階から、ネット上でサクラという車名が取り沙汰されていたことを踏まえての自虐ジョークである。和名を採用するのは、日産では初めてのことだ。1970年代に「チェリー」というコンパクトカーを販売していたことがあるが、それとは一切関係ない命名だという。
電動化を進める日産にとって、軽EVのサクラは重要なモデルである。世界初の量産EVとしてリーフを発売したのは2010年だった。パイオニアを自任して鼻息は荒く、中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム2016」では、ルノーと協力して2016年度までにゼロエミッション車の累計販売台数150万台達成を目指すとぶち上げた。4車種のEVを市販するほか、量産型燃料電池車も投入すると宣言したのである。
時期尚早だったことは否めない。予約を開始すると2カ月で販売目標台数の6000台に達したものの、アーリーアダプターに行き渡ると販売は伸び悩む。インフラが整備されていないことに加え、航続距離の短さと価格の高さがネックとなった。後にアライアンスを組むことになる三菱自動車が「i-MiEV」を発売していたが、他メーカーの追随がなく孤軍奮闘の苦しみを味わうことになる。
時代は変わった。世界的に電動化の潮流が強まり、自動車メーカーと各国政府が脱内燃機関を宣言している。ヨーロッパでは大メーカーが次々に急速なEVシフトにかじを切り、アメリカでは新興のテスラが「モデルS」「モデルX」などを続々と投入して成功を収めた。先行していたはずの日産は、今や追う立場である。
室内空間を減らさない意地
軽自動車が全自動車販売の4割近くを占める日本で、軽EVが市民権を得ることは重要な意味を持つ。日産が本気になるのは当然だ。リベンジの機会を逃してはならない。「デイズ」「ルークス」と同様に、三菱との協業で開発が行われた。どちらも電動化志向が強く、ノウハウを蓄えている。理想的なタッグといえるだろう。
外観は従来のハイトワゴンと特に変わるところはない。熟成され尽くしたパッケージであり、踏襲するのは賢明である。全長と全幅はデイズと同じだが、全高は15mm高い1655mmで、最低地上高は10mm低い145mm。デイズと同じ1270mmの室内高を実現するための苦肉の策である。フロア下にバッテリーパックを収めなければならず、そのぶんどうしても不利になってしまうのだ。室内空間を減らさないのは開発陣の意地なのだろう。ボディーの下にバッテリーが顔をのぞかせているが、下まわりを擦ってしまわない設計になっているそうだ。
サクラという車名は、もちろん花の桜に由来している。日本を象徴する花であり、このクルマが日本の電気自動車の中心となるクルマになってほしいという願いが込められているそうだ。名前に沿って、デザインは和のテイストである。リアコンビネーションランプは格子のモチーフで、ホイールは水引を模しているという。充電ソケットのフタにも水引のアイコンが付けられていた。
試乗車はツートーンで、「ブロッサムピンク」というボディーカラーだった。四季の彩を表現したシーズンカラーのひとつで、これは春のイメージなのだろう。全部で15色が用意されている。インテリアはブラック、ベージュ、ブルーグレーの3種類。防水・防汚・防臭機能を持つファブリックが用いられている。
余裕の195N・m
運転席の前には大型モニターを2つつなげた「モノリス」と呼ばれる統合型インターフェイスディスプレイが備わる。アリアや「ノート」と同じ意匠だ。全体的に水平基調のすっきりとしたデザインで、高級感がうまく演出されている。横長の小物置きスペースが設けられており、実用性にも配慮は怠らない。遊び心もあり、カップホルダーや収納ボックスの底には桜の花びらがあしらわれている。
試乗車は満充電になっており、メーター内にはバッテリーのアイコンの横に100%という数字が示されていた。航続距離は142kmとなっている。WLTCモードでは180kmだが、EVの場合、実際に走れるのはその6割程度というのが普通だ。142kmというのは8割弱だから、かなり優秀な数字といっていい。
システムを起動してアクセルを踏むと、なめらかに発進した。すっかり慣れてしまったが、やはりモーター駆動というだけで上質な走りになる。ただ、圧倒的に静かというわけではない。エコタイヤのせいなのかロードノイズが聞こえてくるし、細かな振動も感じられる。軽自動車というサイズでは限界があるのは仕方がない。
多くの場合、軽自動車は街乗りメインで、動力性能に関してはさほど高いレベルは要求されない。ガソリン車では最高出力の上限が軒並み64PS(47kW)にそろえられていて、それで十分だと考えられている。確かに通常の運転なら問題はないが、必要にかられて急加速しようとすると弱点が露呈する。エンジンの回転数が上がって車内は騒音に包まれるのだが、サクラにはそういう場面は訪れない。最高出力こそ同じだが、最大トルクはデイズの100N・mに対して2倍近い195N・mなのだ。余裕は段違いで、大げさな音を立てることなく十分な加速を実現してくれる。
マイルドなワンペダルドライブ
数字から考えればもっとアグレッシブな走りを演出することも可能なはずだが、マイルドな設定になっている。このクルマのユーザーが求めるのは安心感と安全性なのだ。モーター駆動らしい走りを見せつけるより、ガソリン車に乗っていた人が違和感なく乗り換えられることのほうが大切である。その意図は遺憾なく達成できていると感じられた。
センターに備えられたシフトセレクターの横には、「e-Pedal」と記されたボタンがある。いわゆるワンペダルドライブが可能なのだ。初代「ノートe-POWER」ではアクセルを離すと急激に減速したが、2代目モデルでは緩やかな制御に変えられた。サクラも同じで、現行リーフと同様の減速レベルとなっているそうだ。クリープも付いているから慣れるのは簡単だと思うが、解除が可能なのは受け付けない人もいるからである。「エコ」「スタンダード」「スポーツ」という3つのドライブモードと合わせれば、好みや運転シーンに対応した設定が選べる。
一日の走行距離が30km以内なら、5日に1回の充電で足りるそうだ。夜のうちに8時間充電すればバッテリーは満タンになる。いざとなれば40分の急速充電で80%まで回復するが、基本的には家のガレージで充電することが前提になっている。一定の条件を満たせば、デイズの代替モデルとして受け入れられるだろう。
初代リーフは、最廉価モデルが376万4250円だった。当時の補助金は最大78万円で、支払額は298万4250円である。サクラの「S」グレードは233万3100円で補助金を使うと実質購入価格は約178万円。ガソリン軽自動車のターボ版とほぼ同じだ。航続距離はリーフがJC08モードで200kmだったが、サクラもWLTCモードで180kmと肉薄している。購入のハードルは大幅に下がったのだ。
ただし、「プロパイロット」や「日産コネクトナビ」などが標準装備されている最高グレードの「G」は294万0300円(補助金を加味すれば約239万円)。度胸が試される価格である。まだガソリン車と同じ気持ちで乗れるとまではいえないが、12年前にリーフを送り出す決断をしたからこそ、この段階までたどり着くことができた。日産のリベンジは始まったばかりだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
日産サクラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2495mm
車重:1070~1080kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)
最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
一充電走行距離:180km(WLTCモード)
交流電力量消費率:124Wh/km
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電力消費率:--km/kWh

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
日産リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2026.2.11 フルモデルチェンジで3代目となった日産の電気自動車(BEV)「リーフ」に公道で初試乗。大きく生まれ変わった内外装の仕上がりと、BEV専用プラットフォーム「CMF-EV」や一体型電動パワートレインの採用で刷新された走りを、BEVオーナーの目線を交えて報告する。
-
ホンダN-ONE RS(FF/6MT)【試乗記】 2026.2.10 多くのカーマニアが軽自動車で唯一の“ホットハッチ”と支持する「ホンダN-ONE RS」。デビューから5年目に登場した一部改良モデルでは、いかなる改良・改善がおこなわれたのか。開発陣がこだわったというアップデートメニューと、進化・熟成した走りをリポートする。
-
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】 2026.2.9 「日産キャラバン」がマイナーチェンジでアダプティブクルーズコントロールを搭載。こうした先進運転支援システムとは無縁だった商用ワンボックスへの採用だけに、これは事件だ。キャンパー仕様の「MYROOM」でその性能をチェックした。
-
無限N-ONE e:/シビック タイプR Gr.B/シビック タイプR Gr.A/プレリュード【試乗記】 2026.2.7 モータースポーツのフィールドで培った技術やノウハウを、カスタマイズパーツに注ぎ込むM-TEC。無限ブランドで知られる同社が手がけた最新のコンプリートカーやカスタマイズカーのステアリングを握り、磨き込まれた刺激的でスポーティーな走りを味わった。
-
インディアン・チーフ ヴィンテージ(6MT)【海外試乗記】 2026.2.6 アメリカの老舗、インディアンの基幹モデル「チーフ」シリーズに、新機種「チーフ ヴィンテージ」が登場。このマシンが、同社のラインナップのなかでも特別な存在とされている理由とは? ミッドセンチュリーの空気を全身で体現した一台に、米ロサンゼルスで触れた。
-
NEW
トヨタbZ4X Z(FWD)【試乗記】
2026.2.14試乗記トヨタの電気自動車「bZ4X」が大きく進化した。デザインのブラッシュアップと装備の拡充に加えて、電池とモーターの刷新によって航続可能距離が大幅に伸長。それでいながら価格は下がっているのだから見逃せない。上位グレード「Z」のFWDモデルを試す。 -
核はやはり「技術による先進」 アウディのCEOがF1世界選手権に挑戦する意義を語る
2026.2.13デイリーコラムいよいよF1世界選手権に参戦するアウディ。そのローンチイベントで、アウディCEO兼アウディモータースポーツ会長のゲルノート・デルナー氏と、F1プロジェクトを統括するマッティア・ビノット氏を直撃。今、世界最高峰のレースに挑む理由と、内に秘めた野望を聞いた。 -
第860回:ブリヂストンの設計基盤技術「エンライトン」を用いて進化 SUV向けタイヤ「アレンザLX200」を試す
2026.2.13エディターから一言ブリヂストンのプレミアムSUV向けコンフォートタイヤ「アレンザLX100」の後継となるのが、2026年2月に発売された「アレンザLX200」。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて開発された最新タイヤの特徴を報告する。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(前編)
2026.2.12あの多田哲哉の自動車放談イメージキャラクターの「デリ丸。」とともに、すっかり人気モノとなった三菱の軽「デリカミニ」。商品力の全体的な底上げが図られた新型のデキについて、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんが語る。 -
ホンダアクセスが手がけた30年前の5代目「プレリュード」に「実効空力」のルーツを見た
2026.2.12デイリーコラムホンダ車の純正アクセサリーを手がけるホンダアクセスがエアロパーツの開発に取り入れる「実効空力」。そのユニークなコンセプトの起点となった5代目「プレリュード」と最新モデルに乗り、空力パーツの進化や開発アプローチの違いを確かめた。 -
第948回:変わる時代と変わらぬ風情 「レトロモビル2026」探訪記
2026.2.12マッキナ あらモーダ!フランス・パリで開催されるヒストリックカーの祭典「レトロモビル」。客層も会場も、出展内容も変わりつつあるこのイベントで、それでも変わらぬ風情とはなにか? 長年にわたりレトロモビルに通い続ける、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。






















































