全4タイプの新型「クラウン」 それぞれのライバル車を考えてみる
2022.07.29 デイリーコラムトヨタの新たなフラッグシップシリーズに
伝統的なセダンから、4車種という一大シリーズへと脱皮をはかった「トヨタ・クラウン」には、日本中のクルマ好きの間で賛否両論が巻き起こっている。そうであれば、ひとまず「ツカミはOK」ということだ。従来型の業績や、昨今のセダンを取り巻く環境を考えると、クラウンという商品名を残すには、なにかしらの手を打つ必要があったことは間違いない。
今度のクラウンはシリーズ化と同時に、約40の国と地域で展開されるグローバル商品に脱皮することも新しい。世界のトヨタブランド車を見てみると、「ランドクルーザー」や北米向けピックアップ/SUVなどのラダーフレーム車を例外とした乗用車のフラッグシップは、セダンが「カムリ」と「アバロン」、SUVが「RAV4」と「ハリアー(北米名:ヴェンザ)」に、そのきょうだい車である「ハイランダー」が担っている。新型「クラウン セダン」や「クラウン クロスオーバー」「クラウン エステート」の車体サイズはこれらより大きい。つまり、クラウンの名は今後、特定の車種というよりトヨタブランドの新フラッグシップ群として、世界的に展開されていくのかもしれない。
それでも、あまりの突然変異ぶりに加えて、技術内容が判明しているのは年内発売予定のクラウン クロスオーバーだけという現状では、新型クラウンがナニモノかはイメージしづらい。というわけで、現在判明している情報(と、まことしやかにささやかれるウワサ)を踏まえて、新型クラウン各車が発売されると、どんなクルマが競合するライバルとなるのかを勝手に予測してみた。そこから新型クラウンの“クルマとなり”が少しは見えてくることもある……と思うからだ。
SUVルックのサルーン
まずは2022年秋に新世代クラウンシリーズ第1弾として発売予定のクラウン クロスオーバーである。車体サイズは全長4930×全幅1840×全高1540mm。2.5リッターターボを核とした新型ハイブリッドや後輪操舵といった新機軸、さらに2850mmというホイールベースから考えると、基本骨格は同じく2022年秋発売とされる新型「レクサスRX」と共有していると思われる。クラウン クロスオーバーは全車ハイブリッド4WDだが、設計的にはエンジンを横置きするFFレイアウトがベースである。新型クラウンが一部で「FRをついに捨てた」と嘆かれている根拠もそこにある。
SUVの王道的ディメンションのRXに対して、クラウン クロスオーバーはより長く、せまく、低い。SUV風味のデザインで錯覚しがちだが、新しいクラウン クロスオーバーも、厳密な車体形式は独立したトランクをもつスリーボックス4ドアサルーンである。
SUVルックのサルーンという形態は、さすがにまだ世界的にもめずらしい。マニアの皆さんならボルボの先代「S60」にあった「S60クロスカントリー」を思い出すかもしれないが、それも結局は一部市場で販売されただけにとどまり、次のS60には設定されなかった。さらに4ドアではないがサルーンをベースとした亜種SUVということでは、1994年に日本で発売された「三菱ギャランスポーツ」という前例もなくはない……。
ひとクラス上の車格が手に入る
閑話休題。とはいえ、クラウン クロスオーバーが実際に競合するのは、国内外の上級クロスオーバー車となるだろう。ちなみに、クラウン クロスオーバーの価格は435万~650万円。細かい装備内容は明らかではないが、「レクサスでいうと、RXなみの車格で、価格帯は『NX』なみ」というのが、おおまかな位置づけと思われる。となると、レクサスNXと競合するような欧州DセグメントSUVがライバルの筆頭だろう。
ただし、そもそもクラウン クロスオーバーのような“背低SUV”にひかれるような客層は、普通のSUVよりステーションワゴンのクロスオーバータイプ……すなわち、メルセデスの「オールテレイン」やアウディの「オールロードクワトロ」、ボルボの「クロスカントリー」、あるいはフォルクスワーゲンの「オールトラック」あたりを好むかもしれない。
クラウン クロスオーバーであれば、「Cクラス」「A4」「V60」に近い価格で、「Eクラス」「A6」「V90」の車格が手に入る。ただ、最新の「Cクラス オールテレイン」の日本仕様は800万円近い価格となっているので、クラウンと重なる600万円台以下で選べるのは、「A4オールロードクワトロ」と「V60クロスカントリー」、そして「フォルクスワーゲン・パサート オールトラック」となる。
レクサスRXのトヨタ版
新型クラウンのほかの3車種は2023年発売とアナウンスされているが、明らかになっているのは車体のスリーサイズとホイールベース(の開発目標値)だけで、各車の発売時期や技術内容は明らかではない。
ただ、2850mmというホイールベース値やスタイリングから想像するに、クラウン エステートは、先に発売されるクロスオーバーと骨格設計やパワートレインを共有している可能性が高い。5ドアという車体形態や全高1620mmというディメンションも一般的なSUVのそれである。“新型レクサスRXのトヨタブランド版”と考えると、クラウン エステートの実像を理解しやすいかもしれない。
となると、価格と機能性の両方でレクサスNXの直接的なライバルがクラウン エステートということか。それが正しいなら、その向こうには「GLC」「X3」「Q5」「XC60」も見えてくる。クラウン エステート/クラウン クロスオーバーをBMWでたとえると、「X5/X6」をほうふつとさせる車格でありながらも、価格は「X3/X4」と同等(か、日本ではそれより安いくらい)ということになる。そんな商品戦略が海外市場でも実現すれば、いかにも売れそうな予感がする。
その正体はクロスオーバーEV
このようなクラウン クロスオーバー/クラウン エステートと比較すると、スポーツとセダンは車体サイズやホイールベースがまるで異なるだけでなく、「そもそもクルマとしては別物なのでは?」という説もある。
まずは真っ赤な車体色とコンパクトサイズが特徴のクラウン スポーツだが、すでに多くのメディアが指摘しているように、その姿は初公開ではない。昨2021年12月にトヨタが開催した「バッテリーEV戦略に関する説明会」で大量公開されたバッテリーEV(BEV)群のなかにあった「クロスオーバーEV」が、今回のクラウン スポーツほぼそのものだ。
クラウン スポーツのパワートレイン構成は明らかではないが、さすがにBEVのバリエーションは確実に存在すると思われる。となると、全長4710×全幅1880×全高1560mmというスリーサイズは興味深い。このサイズのBEVといえば「テスラ・モデルY」とドンピシャで、さらには「メルセデス・ベンツEQC」「アウディQ4 e-tron」「BMW iX3」と、高級ブランドBEVがひしめくクラスになる。「bZ4X」に続く、ひとまずトヨタブランドのフラッグシップBEVと位置づけるには好適な一台となりそうだ。
セダンはFRレイアウトを守っている?
最後はセダンである。発売前には“新型クラウンはもはやセダンではなくなる”という説も流れたが、クラウン クロスオーバーもスリーボックスだし、このようにまんまセダンを名乗るクラウンも、結局は生き残るわけだ。新型クラウン セダンは“新たなフォーマル表現でショーファーニーズにも応える正統派セダン”との触れ込みで、もはや個人ユーザーは限定的……との覚悟もうかがえる。
そのセダンのスリーサイズは全長5030×全幅1890×全高1470mmで、ホイールベースは3000mm。従来型クラウンよりさらにひと回り大きい体躯だが、注目すべきは全長に対してホイールベースが占める割合とフロントタイヤからキャビンまでの距離の長さだ。これが仮にカムリと共通の「GA-K」プラットフォームを土台とすると考えると、ホイールベースが現行カムリの2825mmより175mmも長い3000mmなら、全長は5.2m近くなっていたはず。しかし、実際の全長は5m強におさまるとのことで、フロントタイヤとキャビンが離れたプロポーションも合わせて考えると、やはりFRレイアウトである可能性が高い。また、一部には「デザインが『ミライ』に似ている」との指摘もあるが、従来どおりの「GA-L」プラットフォームを使うのであれば、燃料電池車のバリエーションが用意される可能性もある。
いずれにしても、新型クラウン セダンもサイズはEクラスや「5シリーズ」よりちょっとだけ大きい。つまりは、これらの次期型とのライバル関係を想定したサイジングとも思われる。日本では「センチュリー」や「レクサスLS」に乗る層よりも、ちょい下の役職の移動車としては好適かもしれない。また、トヨタブランドの最高級ショーファーセダンというなら、台数的には中国市場での需要は日本以上に大きくなる可能性もある。中国は一定クラス以上のセダンには、お約束のようにショーファー用ロングモデルを用意する国だからだ。
新しいクラウンとはやはり、トヨタブランドのグローバル高級戦略車なのだろう。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、ボルボ・カーズ、アウディ、BMW/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。