クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

選択肢はいろいろ 3列シートSUVの良しあしを考える

2022.09.12 デイリーコラム 鈴木 真人

みんなで乗りたい人には福音?

このところ、試乗するクルマはSUVが多くなっている。当然だろう。世界的に主流になっているのだから、数が多いのだ。なかでも増加傾向にあるのが3列シートSUVである。長らく3列シートといえばミニバンというのが通り相場だったが、SUVにもファミリー向けのモデルがつくられるようになった。子育て世代のユーザーがミニバンからSUVに乗り換えようと考えるのは自然である。

日産の新型「エクストレイル」は先代同様に3列シートモデルをラインナップし、ジープは7人乗りミッドサイズSUV「コマンダー」の日本導入を発表した。国産車も輸入車もエントリーモデルからプレミアムSUVまでそろっており、価格も大きさもさまざまだ。本格的なオフローダーもあれば、悪路を走ることは想定していない都市型モデルもある。種類が多くて目移りしそうだ。

お父さんたちの目がSUVに向かった理由は、まずはカッコよさだろう。どうしても箱型になってしまうミニバンに対し、SUVにはさまざまなフォルムがある。ワイルドからエレガントまでグラデーションがあり、好みのモデルを見つけやすい。背が高くてボリューム感があり、高級感を盛り込むのに適している。キャラクターラインや面の抑揚でニュアンスをつけやすく、デザイナーは腕が鳴るだろう。

もうひとつの大きなアドバンテージが操縦性だ。スポーティーな走行性能をウリにするSUVが増えてきた。ミニバンも以前に比べれば走りが向上しているとはいえ、ボディー剛性の高いSUVには見劣りする。空力性能ではどうしてもミニバンが不利になるため、強風下の高速巡航では不安定になりやすい。もちろん、砂利道などの悪路や雪道はSUVの得意なステージだ。

2022年秋に正式発表される、ジープのミッドサイズSUV「コマンダー」。乗車定員は7人で、3列目シートや大型のグラスルーフが備わる。
2022年秋に正式発表される、ジープのミッドサイズSUV「コマンダー」。乗車定員は7人で、3列目シートや大型のグラスルーフが備わる。拡大
2022年7月に発売された新型「日産エクストレイル」。「X e-4ORCE」という写真のグレードに限られるものの、3列シート仕様が選べる。
2022年7月に発売された新型「日産エクストレイル」。「X e-4ORCE」という写真のグレードに限られるものの、3列シート仕様が選べる。拡大
「三菱アウトランダー」のPHEVモデルのインテリア。5人乗りも選べる同車については、7人乗り仕様となる最上級グレードがオーダーの7割以上を占めるなど、3列シート車が圧倒的に支持されている。
「三菱アウトランダー」のPHEVモデルのインテリア。5人乗りも選べる同車については、7人乗り仕様となる最上級グレードがオーダーの7割以上を占めるなど、3列シート車が圧倒的に支持されている。拡大
すぐれた悪路走破性で知られるSUV「ランドローバー・レンジローバー」。国内販売の始まった新型には、レンジローバー初となる3列7人乗り仕様もラインナップされている。
すぐれた悪路走破性で知られるSUV「ランドローバー・レンジローバー」。国内販売の始まった新型には、レンジローバー初となる3列7人乗り仕様もラインナップされている。拡大
ジープ の中古車webCG中古車検索

その差は乗降性にあり

マツダはミニバンの「MPV」「ビアンテ」「プレマシー」を次々に廃止し、2017年に3列シートSUVの「CX-8」を発売した。ミニバンをやめたのは、まさに操縦性とカッコが理由である。走る喜びを追求するスカイアクティブテクノロジーを掲げていたが、理想とする運転感覚を得るのは難しいと判断した。さらに、魂動デザインもミニバンとの相性が悪すぎる。

試乗してみると、CX-8にはマツダらしさがあふれていた。ボディーサイズを感じさせず、運転席に座るとコンパクトカーの「マツダ3」と共通する感覚が得られる。「G-ベクタリングコントロールプラス」の働きもあってクルマはナチュラルな挙動を示し、長時間の運転でも疲労は少ない。

後席の乗員も快適さを享受できる。試乗したのは6人乗りモデルで、2列目のキャプテンシートは電動スライド&リクライニング機構付き。おもてなし気分を味わえるだろう。3列目に乗り込むには、電動で2列目シートを前に動かす。入る際には少々コツがいるが、座ってしまえばそこそこの広さがある。

出来のよさに感心し、マツダの英断をたたえたいと思った。これならば、ミニバンの代替として支持されるはずだ……。いや、早とちりしてはいけない。ミニバンが日本中を席巻する熱烈な支持を得たのは、スライドドアの便利さが大きな要因となっている。乗降性では圧倒的なアドバンテージがあり、慣れるとヒンジドアに戻るのは難しい。ボディー剛性やデザインを犠牲にしても、余りある恩恵をもたらしているのだ。

2017年12月に発売されたマツダの3列シートSUV「CX-8」。その開発コンセプトとして、マツダは「ミニバンではなかなか成立しづらい“走る楽しさと安全性の両立”」を挙げていた。
2017年12月に発売されたマツダの3列シートSUV「CX-8」。その開発コンセプトとして、マツダは「ミニバンではなかなか成立しづらい“走る楽しさと安全性の両立”」を挙げていた。拡大
「マツダCX-8」の3列目シート。乗り降りにはコツが要るものの、一度おさまってしまえば長時間の移動も苦にならない快適性が確保されている。
「マツダCX-8」の3列目シート。乗り降りにはコツが要るものの、一度おさまってしまえば長時間の移動も苦にならない快適性が確保されている。拡大
狭い駐車スペースでも容易に開閉でき、乗り込みも楽なスライドドアは、SUVでは得られない魅力的な装備だ。写真は「トヨタ・ノア」のもの。
狭い駐車スペースでも容易に開閉でき、乗り込みも楽なスライドドアは、SUVでは得られない魅力的な装備だ。写真は「トヨタ・ノア」のもの。拡大

弱点は改善されつつある

2022年は、売れ筋3列シートミニバンに大きな動きがあった。1月に「トヨタ・ノア/ヴォクシー」、6月に「ホンダ・ステップワゴン」のフルモデルチェンジがあり、いずれも先代から飛躍的な進化を遂げていて評価が高い。ノア/ヴォクは先進安全装備の充実を図り、ステップワゴンは車内の静粛性を徹底的に追求した。2列目、3列目のシートアレンジにはそれぞれが独自の工夫をこらし、スライドや格納の機構を改善している。広さと心地よさは申し分なく、後席乗員の満足度は高い。

日本型ミニバンは長い時間をかけてファミリーカーの理想を追求してきた。その頂点に位置するのが、ノア/ヴォクやステップワゴンである。3列シートSUVが簡単に取って代わることができるはずがない。例えば2017年に追加された「レクサスRX」の3列シートモデルは、かなり残念な仕上がりだった。応急処置的にしつらえられた3列目は狭いうえに視界がふさがれていて息苦しく、路面からの突き上げをダイレクトに受ける。とばっちりで2列目の乗り心地も悪化していた。

その後、各メーカーは研究を重ねたようで、弱点は着実に克服されてきている。「ジープ・グランドチェロキーL」は5200mmという全長を生かして3列目の快適性を改善。「BMW X7」はシートの折りたたみ機構が使いやすく、BMWらしからぬマイルドな走りがファミリーへのまなざしを感じさせた。「三菱アウトランダー」は、PHEVモデルという新しさがある。

子育てファミリーの多くはミニバンの実用性に魅力を感じると思われるが、3列シートSUVも選択肢として視野に入ってくるだろう。すべてを満足させるクルマはないわけで、ミニバンもSUVもスポーツカーのような運転の楽しみを得ることはできないし、オープンカーの爽快感とも無縁だ。クルマのどの部分を重視するかで、おのずと選択は決まる。クルマ選びは自分が何を求めているかを見つめ直すいい機会なのだ。これからの人生にとって必要なのは、ミニバンかSUVか。悩むのもまた楽しい時間である。

(文=鈴木真人/写真=ステランティス ジャパン、三菱自動車、ジャガー・ランドローバー・ジャパン、トヨタ自動車、本田技研工業、向後一宏、webCG/編集=関 顕也)

シートアレンジの自由度では、3列シートSUVはミニバンにはかなわない。シート格納時の荷室の広さも、ミニバンは圧倒的である(写真は「トヨタ・ノア」)。
シートアレンジの自由度では、3列シートSUVはミニバンにはかなわない。シート格納時の荷室の広さも、ミニバンは圧倒的である(写真は「トヨタ・ノア」)。拡大
モデルチェンジに伴い背もたれの高さと座面の厚みを増した「ホンダ・ステップワゴン」の3列目シート。割り切りが求められることの多い3列シートSUVの3列目とは異なり、「十分快適に過ごせる」とうたわれている。
モデルチェンジに伴い背もたれの高さと座面の厚みを増した「ホンダ・ステップワゴン」の3列目シート。割り切りが求められることの多い3列シートSUVの3列目とは異なり、「十分快適に過ごせる」とうたわれている。拡大
レクサスの3列シートSUV「RX450hL」の3列目シート。空間的にはミニマムで、乗り心地もいまひとつ。
レクサスの3列シートSUV「RX450hL」の3列目シート。空間的にはミニマムで、乗り心地もいまひとつ。拡大
2022年7月には、メルセデス・ベンツが開発した3列7人乗りのフル電動SUV「EQB」が上陸。3列シートSUVの選択肢が、またさらに広がった。
2022年7月には、メルセデス・ベンツが開発した3列7人乗りのフル電動SUV「EQB」が上陸。3列シートSUVの選択肢が、またさらに広がった。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

ジープ の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連記事
関連サービス(価格.com)

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。