ジープ・コマンダー リミテッド(4WD/9AT)
SUVのあるべき姿 2023.02.21 試乗記 ジープから登場した新型ミドルクラスSUV「コマンダー」。取り回しのしやすいサイズで3列7人乗りを実現したニューモデルは、おっとりとしたドライブフィールと使いでのあるユーティリティーを併せ持つ、“SUVの本来の姿”を具現したモデルとなっていた。いうなれば「コンパス」のロングバージョン
リーマンショックを機にクライスラーグループとフィアットグループとの距離が急速に縮まり、セルジオ・マルキオンネ氏のリーダーシップのもと、ついに両社が合併へと至ったのが2014年のことだ。
その報を待っていたかのように相次いで登場したのが、「ジープ・レネゲード」と「フィアット500X」。両ブランドのコンパクトSUVには、フィアット側が以前からの資産をベースに開発を主導し、クライスラーのジープブランドが四駆性能にまつわるところをプロデュースした新しいプラットフォーム「スモールワイド4×4アーキテクチャー」が採用された。両社のシナジーがもたらした初めての大きな成果物といえるだろう。
このプラットフォームはその後、2016年に「ジープ・コンパス」に、そして2022年に発表された「アルファ・ロメオ・トナーレ」にも採用と、順調に勢力を広げている。このコマンダーもまた然(しか)り。同じプラットフォームを採用した3列シート・7人乗りのSUVだ。ジープでコマンダーといえば、2005年のニューヨークショーで発表されたモデルを思い出すが、そちらは「グランドチェロキー」のプラットフォームをもとにしたエンジン縦置きFRベースの4WD車で、3列7人乗りという以外に機能的なところでの共通項はない。
既視感のある顔立ちにも表れているように、新型コマンダーの骨格的なベースとなっているのはコンパスだ。そのBピラーから後ろを延長し、3列目のシートを荷室とうまくバランスさせている。その伸ばししろは全長で370mm、ホイールベースで145mmだ。ほかにも全幅が50mm異なるほか前後デザインも違えるなど、細かなつくり分けがなされている。ちなみに生産地はコンパスと同じインドとなる。
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シートレイアウトは至って実直
加えて日本仕様のコンパスとコマンダーの違いで勘どころとなるのは、コマンダーのエンジンがディーゼルのみ、駆動方式が四駆のみというところだろう。近しい車格でこの条件を満たすクルマといえば、「マツダCX-8」「メルセデス・ベンツGLB」といったところだが、コマンダーは価格的にはこれらの間、GLBに近いところに割って入る。
外装はいろいろと異なるところがある一方で、内装はマイナーチェンジを受けてモダナイズされたコンパスと、多くのところを共有している。まあこれは然るべきコスト配分といえるだろう。装備そのものは、スマホとの連携にも配慮された大型のタッチスクリーンによるインフォテインメントシステムや、先進運転支援システム、プレミアムオーディオやリアパワーゲートなど、今日的なものはひと通りそろっている。走行機能系や空調のコントロールパネルには物理ボタンが残されるなど、操作性も至って良好だ。ハザードボタンがもう少し扱いやすければさらによかったが、まぁぜいたくは言うまい。
パッケージは至って実直だ。2列・3列目のシートは奇麗にシアターポジションがとれているし、3列目シートのレッグスペースも子供には十分な長さが確保されている。それらを倒せばほぼフラットな荷室が現れるなど、実用性はとても高い。
インド製と聞くと気になるのがクオリティー面だろう。確かにピアノブラック調のパネルものやダッシュボードまわりのシボ感、ツヤ感、液晶メーターパネルの明瞭度など、細かな点でちょっと雑かなと思わせられるところはある。が、センターコンソールやドアパネルなど、大枠の建て付けなどにはライバルと比べて見劣りするところはない。先だって乗った「BYD ATTO 3」ほどの強烈なインパクトはないが、新興国生産といえども、スタティックの質感に買う気をくじくほどの差異はなくなりつつあるというのが正直な印象だ。
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このエンジンを受け入れられるか否か
そう思いながらエンジンをかけるとたまげるのが、その賑々(にぎにぎ)しい燃焼音だ。いかにもなディーゼルサウンドとともにステアリングに伝わる微振動も、やや大きく感じられる。搭載するのは旧VMモトーリが開発したコモンレールの2リッター4気筒ディーゼルターボで、アウトプットの数値的には十分今日的だが、回転フィールももっさりしていて頭打ちも早く……と、フィーリング的には明らかに古い。その古さを四駆らしいワイルドさと脳内変換できるかどうかが、このクルマを受け入れられるか否かの、最も大きなポイントになると思う。
ドライブトレインは電子制御カップリングを用いるオンデマンド式の4WDだ。「アクティブドライブ」と呼ばれるそれは、路面状況に応じて自動で適切に駆動配分を制御するだけでなく、前後50:50の駆動力固定モードも備わる。また副変速機は持たずとも、9段ATのワイドなカバレッジを使って1速固定を4WDローモードとするなど、ジープらしいこだわりも端々にみてとれる。
とはいえ「FFベースの四駆であることに変わりはないだろう」と言われればそれまでだが、それでも悪路を知り尽くすジープの四駆マネジメントは舐(な)められない。かつてモワブの強烈な岩場を走った際、レネゲードの「トレイルホーク」は、3アングルにさえ注意していれば駆動制御の妙で「チェロキー」クラスと同等の踏破力をみせてくれた。その遺伝子は当然ながらコマンダーにも受け継がれている。厳しい環境で試せなかったのは残念だが、ディーゼルの粘り強いトルク特性と相まっての走りは、恐らくあまたの同種の四駆とは一線を画するはずだ。
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欲張りなSUVへのアンチテーゼ
オンロードでの走りはなんとも牧歌的だった。速度がどうであれふんわりと緩やかに加速し、上屋を優しく揺らしながらドライバーをおっとりした心持ちにさせてくれる。タイヤからのフィードバックも“55偏平”とは思えないほど肉厚なタッチだ。
ハンドリングうんぬんを試す気にもならないほど頰が緩むものの、仕事なので仕方なく幾つかコーナーを曲がってみた。ロールは素直で無理くりにその量を規制している気配もなく、コーナーの途中でギャップを踏んでも上屋の動きは大きいものの足まわりの接地感はしっかり保たれている。現代のSUVはコーナリングもアジャイル指向なものが多いが、コマンダーはハナからそういう欲やヤマっ気がない。そこは競争領域じゃないから粗相なく曲がりゃあいいんでしょという開き直りが、いい感じでクルマのキャラクターと寄り添っている。
しっかり積めてしっかり座れ、おっとりと走りながら、天気や地形に惑わされることなく淡々と距離を刻み続けられる。SUVというものが現れ始めたその昔、それに対する期待とはこういうものだったように思う。今、そのあり方に忠実なのはコマンダーくらいではないだろうか。と、そこにSUVカテゴリーの貪欲な進化に対しての、ある種の皮肉を感じてしまう。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジープ・コマンダー リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1860×1730mm
ホイールベース:2780mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:170PS(125kW)/3750rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100V M+S/(後)235/55R18 100V M+S(ブリヂストン・デューラーH/T 684 II)
燃費:13.9km/リッター(WLTCモード)
価格:597万円/テスト車=607万3400円
オプション装備:ボディーカラー<パールホワイトトライコート>(5万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<WEB>(4万8400円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3884km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:289.7km
使用燃料:22.0リッター(軽油)
参考燃費:13.2km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。