ルノー・キャプチャーE-TECHハイブリッド レザーパック(FF/4AT+2AT)
遅れてきた本命 2022.10.15 試乗記 欧州ブランド唯一のストロングハイブリッドにして、自動車開発のプロがこぞって興味を寄せるルノー独自の「E-TECHハイブリッド」。その先進的なパワートレインを搭載するコンパクトSUV「キャプチャー」をロングドライブに連れ出し、魅力や燃費を確かめてみた。独自開発のストロングハイブリッドに注目
2020年からCEOとしてルノーグループを率いているルカ・デメオ氏。フィアット、アルファ・ロメオ、フォルクスワーゲン、そしてアウディなど、これまで数多くのブランドに携わり、直近ではスペインはセアト社のCEOであった。
そのデメオ氏が、「他の多くの欧州ブランドと同様に電動化に関しては最大限の努力を惜しまない」と表明する一方で、「効率はすでにディーゼルよりも優れ、ゆえにフル電動化のみへの過度な依存は環境に悪影響を及ぼす可能性も考えられる……」と、そんなコメントと共に世に送り出すのが、パワーユニットに「E-TECHハイブリッド」と名づけられた独自のハイブリッドシステムを搭載する最新のルノー車だ。
ピュアEVもしくは相当の距離をEV走行できるプラグインハイブリッド車でない限りは新世代のエコカーとして認めず、将来的には販売すらも許さないとする雰囲気が支配的な昨今の欧州マーケットにあって、これらのモデルはヨーロピアンブランドとしては唯一といえるストロングハイブリッドシステムを採用するのが特徴だ。
さらに、いまやヨーロッパ市場から排斥しようという動きが明確になりつつあるプラグイン機能を持たないハイブリッド車となると、次はどうしても「アライアンスを組む日産などからのアイデアや技術の流用か?」と、邪推もしたくなる。
しかし、まさにそれを嫌ってか「独自に開発」とあらためて強調されるのが、ルノーのE-TECHハイブリッドなのだ。
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開発のプロも興味津々
そんなE-TECHハイブリッドの構造を細かに紹介しようとすると、たちまち膨大な行数を費やすことになるのでここでは割愛するが、要は駆動力をモーターのみで発生させる日産の「e-POWER」ばりのシリーズハイブリッド方式をベースとしながらも、モーターの効率が低下する高速走行ゾーンの弱点を補うべく、そこに三菱のPHEVやホンダの「e:HEV」に見られるようなエンジン直結駆動モードをプラス。それだけではなく、効率に優れたゾーンをより幅広く拾うためにエンジンとモーターの間に多段式のトランスミッションを介在させる……というのが、このシステムの基本構成になっている。
さらにトランスミッションとエンジンを断続させるクラッチ機能に、通常の摩擦クラッチではなくドッグクラッチを採用することも特徴だ。このポイントを「F1で培ったノウハウを活用」と紹介することで、かつてのルノーF1(現アルピーヌ)との関連性をほうふつさせるのが独自のマーケティング戦略である。
ちなみにこのストロングハイブリッドシステムの話題を国内自動車メーカーのパワーユニット開発者へと振ってみると、実は興味津々という人がとても多く、なかには「敵ながらアッパレ!」風のコメントを聞くことも少なくない。いずれにしても知れば知るほどに興味深く、「なるほどこんな手があったのか!」と感心させられる内容を秘めた、そんなメカニズムである。
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内外装は出色の仕上がり
5月の「アルカナ」、6月の「ルーテシア」、そして8月のこのキャプチャーと、2022年になって立て続けに日本に導入されたE-TECHハイブリッド搭載モデル。ただしその生産国はアルカナが韓国、ルーテシアがトルコ、そしてキャプチャーがスペインと、実は3車で異なっている。ご存じのとおり昨今はさまざまな事情によってクルマの生産・供給体制に乱れが生じていることもあり、こうして生産国が異なる3車の導入も、当初計画していたとおりの順番では進まなかったようだ。
結果として先陣を切ったのはクーペスタイルSUVのアルカナで、この時点で「独自のハイブリッドシステム」をうたうメカニズムにも注目が集まることになった。ただし販売面から言うと、SUVとしても、よりオーセンティックなスタイリング的にも、コンパクトで身の丈感の強いサイズ的にも、そして明確にリーズナブルな価格設定的にも、実を言えばキャプチャーをイチオシにしたかったという雰囲気はなきにしもあらず。見方によっては、E-TECHハイブリッド搭載モデルの本命としての立場は、導入が最後になったこのキャプチャーにこそアリと、そのようにも考えられる。
そんなキャプチャーE-TECHハイブリッドの内外装デザインは、一部に専用ロゴが与えられたり、ダッシュボード中央部に備わるディスプレイが純エンジンモデルよりも大きくなっていたりといった相違点こそあるものの、基本的には従来型のままだ。
シティーコミューターとして毎日付き合うのに抵抗のない洗練されたカジュアルさに、SUVらしい足元を中心としたたくましさが見事に融合。武骨な印象とは一切無縁のまさに“アーバンSUV”と呼ぶにふさわしいルックスは、このカテゴリーのモデルのなかにあってもお世辞抜きに出色の仕上がりであると思う。
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ハイブリッド化されても美点はそのまま
テストドライブを行ったのは、ベーシック仕様比15万円アップの389万円でラインナップされる「レザーパック」仕様。キャプチャーは、歩行者・自転車検知機能付きエマージェンシーブレーキや全車速対応アダプティブクルーズコントロール、ブラインドスポットワーニングやレーンキープアシストなどのADASに、ステアリングヒーターやフロントシートヒーター、電動パーキングブレーキなどと標準装備アイテムも充実している。
そのうえで、レザー表皮のシートやドライバー側のパワーシートを採用し、よりゴージャスな仕上がりとしたのがこのレザーパック仕様だ。
システム出力が143PSと、アルカナと同じパワーユニットが生み出す動力性能は、それよりも50kg軽いボディーに対しても端的に言ってやはり変わらない。走り始めはとことんEV風味なのに、気がつくと1.6リッター直4自然吸気エンジンが始動。そのエンジンが主体となる高速クルージングシーンでは、アクセルの操作に対するラバーバンド感が気にならないレベルであることも、ギアのステップ比が大きめなのでキックダウン時の急なエンジンノイズの高まりにちょっと違和感を覚えるという独特で不思議な走行フィールであることも、アルカナと同様だ。
せっかく4段ATを持つのだから、シフトパドルがあればより積極的にそれを活用できるのに……と理屈ではそう思えたが、実際にはBレンジを選択するとアクセルオフ時により強い回生力が得られる1ペダル風のドライビングが可能となるので、率直なところその必要性はあまり感じられなかった。
そのほか、高めの着座位置が実現する乗降性や視界の広がり感の良さ、路面へのアタリが優しい乗り味など、キャプチャー元来の美点はもちろんハイブリッド化によっても損なわれていない。
充電インフラなどの使い勝手面にも考慮して、ルノーは現在のところプラグイン(外部充電)モデルの日本への導入は考えていないという。確かにそれも見識のひとつなのだろうと、そんなところにもちょっと共感を抱きたくなるルノー発のハイブリッド車である。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ルノー・キャプチャーE-TECHハイブリッド レザーパック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4230×1795×1590mm
ホイールベース:2640mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
エンジン最高出力:94PS(69kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:148N・m(15.1kgf・m)/3600rpm
メインモーター最高出力:49PS(36kW)/1677-6000rpm
メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/200-1677rpm
サブモーター最高出力:20PS(15kW)/2865-1万rpm
サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/200-2865rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
燃費:22.8km/リッター(WLTCモード)
価格:389万円/テスト車=402万0500円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーアイロンM/ノワールエトワールM>(5万9000円) ※以下、販売店オプション ETC1.0ユニット(1万3200円)/フロアマット(2万6400円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3571km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:489.2km
使用燃料:27.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:17.7km/リッター(満タン法)/20.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。