第784回:【Movie】 祝「フィアット126」誕生50周年! 日陰者と呼ぶには大きすぎるその功績を知る
2022.11.24 マッキナ あらモーダ!「後継車」を評価せよ
筆者は、先輩世代が名車と呼ぶモデルを高く評価する傍らで、軽くあしらいがちな後継および派生モデルにたびたび同情の念を抱いてきた。
例としては、英国ではオリジナル「Mini」の派生車種として1969年に登場した「Miniクラブマン」や「アストンマーティンDB6」の後継モデルとして1967年に誕生した「DBS」、そして日本ではスバルが「360」の後継車として1969年に投入した「R2」などである。
筆者が子ども時代を過ごした1970年代の思いを正直に告白しよう。後年オリジナル至上という“教条”を自動車雑誌に刷り込まれてしまう以前のことだ。名車の後継モデルは、オリジナルよりも何倍もモダンに映ったものである。デザイン的なものが主な理由だった。具体的には、先代よりフラットなフロントフード、(スバルR2を除き)ヘッドランプを内蔵したラジエーターグリルといった点が、そうした感情を筆者に抱かせたに違いない。
実は、筆者が少年時代から好きだった後継車が、もう1台ある。1972年のトリノモーターショーでデビューした「フィアット126」だ。今回は、2022年で誕生50周年を迎えたこのクルマについて語ってゆこう。
126が果たした役割
126が偉大だったとするのには、三つの理由がある。
第一は、先代の美点を余すところなく継承している点だ。
126は、500と比較してわずかにパワーアップし、4段変速機はシンクロを装備して快適性を向上させている。しかし、フィアットの解説によれば、500のサイズや機構をほぼ維持したまま、外装をモダナイズした。同時に、小排気量や低価格、安い維持費に至るまで、500が一般大衆から評価された要素を引き続き提供できることを第一目標としたのである。
名車といわれるモデルの、すべての後継車について言えることだが、ヒット車種の後継車開発に携わる人が感じる重圧は、通常以上のものがある。126を担当した人々は、それを見事に跳ね返している。
第二に、安全性と利便性の大幅な向上が図られていることだ。500では前部にあった燃料タンクを後部座席下に移動。ステアリングコラムも衝撃吸収式を採用した。フロントに荷物スペースが確保されるとともに、後年には500にはなかったハッチバック版も追加された。
126による功績の第三は、経済的価値の創出への貢献と考える。126は、イタリア国内ではトリノのほか、シチリア州のテルミニ・イメレーゼでも製造された。後者は州と合弁で建設された生産拠点で、立ち遅れが目立つ南部産業の振興を目指したものであった。
加えて、傘下ブランドであったアウトビアンキが所有していたミラノ郊外デージオの工場でも製造され、こちらでも地元の雇用を維持したといえる。
最も記すべきなのは、1973年に開始され、イタリア本国での生産が1985年に終了してからも継続されたポーランドFSMでの生産である。ポーランド製126は同国で質素な国民の足として人気を得たばかりか、他の社会主義国へも輸出された。それは東欧だけでなく、はるかキューバにまで及んだ。また、イタリアなどの西欧圏にも輸出され、外貨獲得源となったのである。
ポーランド製126は、ベルリンの壁崩壊後も生産が続けられた。実際、筆者がイタリアに住み始めた1996年ごろ、それが走る姿は、街の一風景だった。カトリック教会の修道女が頻繁に乗っていたのも覚えている。清貧な生活を実践する彼女たちにとって、まさに最適な移動手段だったのであろう。
生産台数は、最終年である2000年までに331万8000台に達し、イタリア生産分の累計(約135万台)を大きく上回った。そればかりではない。このポーランドの生産拠点は、その後も成長を続けた。2007年からは現行フィアット500の全製造も担当。ポーランド工場の年間生産台数が、イタリア本国のそれを超えて久しい。
このように126は、先代の美点を確実に引き継ぎながらも付加価値を備え、かつ産業的にも大きく寄与したクルマだったのである。ゆえに筆者は、フィアット史において500と同様か、それ以上に評価すべきモデルと考える。
肩に力が入らない粋
126は今日、イタリアでも決して頻繁に見かけるクルマではなくなった。ポーランドでも国民所得の向上とそれに伴う買い替えで、少数派となったことは事実だ。だが、思い出を抱く人には、よく出会う。
本欄第681回「奥さまは(2度目の)18歳!?」で1968年式フィアット500を披露してくれたルチアも、そのひとりである。「1970年代半ばに18歳で運転免許を取得して、当初は姉の500を借りて乗っていたわ。だけど、1〜2年後に親が紺色の126を買ってくれたの」と回想する。「私に会うため、ローマからたびたび列車で訪れた(後年の夫となる)アルベルトを、80km離れた駅まで126で迎えに行ったものよ」
126は極めて丈夫だったので、トラブルは覚えていないという。
「結婚後も長く乗ってたわね。だって、1990年生まれの息子が、(エンジンの擬音「ブルン」をくっつけて)パパのクルマをブルンパ、私つまりママの126をブルンマと呼んでいたもの」
実際、筆者がシエナにやってきた1990年代後半、まだ彼女は126に乗っていた。ゆえに彼女は20年近く126を愛用していたことになる。
中古車として購入し、使用している若いユーザーも見かける。今回の動画の最後に写真で登場するジャコモさんが、その好例である。ワインショップ経営者である彼が126を選んだ最大かつ唯一の理由は、「小さいこと」だったという。彼の店舗周辺は、駐車場所を見つけるのが極めて困難である。そうしたなか、現行の4人乗り車種には見られない全長3.1m×全幅1.3mというコンパクトなサイズが彼の心をとらえたのだ。
ちなみに彼は言及していないが、価格的メリットもある。欧州最大級の中古車検索サイト『アウトスカウト24』を見ると、コンディションさえ問わなければ1000ユーロ(約14万円)前後の車両を見つけることも難しくない。3000ユーロ台からの500と比べて格段に手ごろなのだ。
加えて、ジャコモさんは気づいていないが、筆者が見たところ店にとって格好のアイキャッチにもなっている。500よりも肩に力が入っていない粋。これも126が持つ好キャラクターに違いない。
【デビュー50周年を迎えたフィアット126】
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ステランティス/動画=Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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