第735回:より高度に、より多機能に! ホンダが取り組む先進運転支援システム開発の最前線
2022.12.13 エディターから一言![]() |
ホンダが開発を進める次世代の先進運転支援システム(ADAS)を試乗体験! 高度化する運転支援技術は、私たちをどこに連れていくのか? “レベル3”の自動運転はどうなっちゃったの? 近未来のADASの実力に触れ、その進化の先になにがあるのかを考えた。
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早くも「ホンダセンシング360」の次の一手を発表
既報のとおり、ホンダは先日「ホンダセンシング360」および「ホンダセンシングエリート」における次世代技術を発表した(参照)。それに合わせて、その技術の一部を、試作車で実体験する機会を設けてくれた。今回はその取材での模様をリポートしたい。
まず、現在国内で販売されているホンダ車に搭載される「ホンダセンシング」についておさらいしておく。現行最新のホンダセンシングは、単眼カメラとリアコーナーレーダー、そして前後のソナーセンサーで構成される。具体的には、緊急自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロール(ACC)、レーンキープアシストシステム(LKAS)、標識認識機能などは単眼カメラが、後方接近車両を検知する「ブラインドスポットインフォメーション」はリアコーナーレーダー(近距離用)が、そして誤発進抑制機能やパーキングセンサーは前後ソナーセンサーが、それぞれ担当する。
対して、その進化型である「ホンダセンシング360」では、そこにフロントレーダー(遠方用)、前方左右のフロントコーナーレーダー(近距離用)、そしてステアリング把持(はじ)センサーが追加されている。既存のホンダセンシングでも最新のバージョンはすでにリアコーナーレーダー2個を持っているので、そこにフロントの遠方レーダーと左右コーナーレーダーを加えた合計5個のミリ波レーダーが備わることになる。
これによって追加される機能は、交差点での右左折時や合流時に、側方からやってくるクルマやバイク、死角に位置する歩行者や自転車などを検知して、警告やブレーキを作動させるシステム、そしてACCとLKASによる走行中の車線変更においてステアリング操作をアシストしたり、あるいは前方カーブの曲率を読み取って自動的に速度調整したりするシステムである。
もっとも、ホンダセンシング360自体は2021年10月に発表済みで(参照)、この2022年12月に発売となる中国向けの新型「CR-V」に初搭載される。また日本でも2023年内に搭載車を発売し、さらに2030年までに、先進国市場の全販売車両に展開する予定だ。
ハンズオフ走行機能にみるホンダの独自性
今回発表された次世代技術とは、今まさに市場投入がはじまろうとしているホンダセンシング360に、ドライバーカメラなどを追加して、さらなる機能拡張を期したものである。具体的な新機能としては、高速道路でのハンズオフ走行機能、同じくハンズオフでの車線変更、そしてドライバー異常対応システム、降車時車両接近警報、ドライバーの注意力低下や漫然運転に対する注意喚起警報および車線内での駐車車両/自転車歩行者等の回避支援機能、ドライバーによるステアリング回避操作の支援……などがある。
このなかで、今回デモがおこなわれたのは2つのハンズオフ機能と、ドライバー異常対応システム、そして注意力低下や漫然運転に対応する注意喚起および衝突回避支援機能だ。
まずは自慢のハンズオフ走行体験である。次世代のホンダセンシング360におけるACCとLKASでは、新たにGNSS(全球測位衛星システム)と高精度3D地図データを使う。ハンズオフ走行の実現には、そのあたりもキモとなっているのだろう。
一般的なACC+LKAS走行状態となってから、ステアリングホイールの専用スイッチを押すと、ハンズオフ走行が可能となる。そして遅いクルマに追いつくと、自動で車線変更もしてくれる。こうしたハンズオフの機能自体は、トヨタの「アドバンストドライブ」や日産の「プロパイロット2.0」に酷似する。ただ、他社のそれはウインカー操作だったりミラーの目視だったり、なにかしらのドライバーによる“トリガー指示”を必要としている。対してホンダでは、周囲の安全が確認されれば、ドライバーの指示がなくともクルマが自動で車線変更してくれるのが特徴だ。
次いでドライバー異常対応システムは、ドライバーカメラが異常(ドライバーが気を失うなど)を検知すると、まずは車内で注意喚起を促す。それでも反応がないと、ホーンを鳴らし、ハザードを点滅させ、周囲の交通を見ながら同一車線内で自動停止して、センターに自動通報をするというものだ。ちなみにドライバーカメラが異常を検知しなくても、助手席などから頭上にある緊急通報ボタンを押せば、同様の対応をおこなうという。
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“レベル3”自動運転の未来はどこへ?
最後の、ドライバーの注意力低下や漫然運転に対する注意喚起機能だが、そうした運転を検知したりそのときに衝突の危険があったりすると、音声とディスプレイ表示で注意を喚起。それでも運転状態が戻らない場合には、減速して車線内に停止する。ドライバーの状態確認には、赤外線カメラによる姿勢や目の状態(開いているか閉じているか)のチェックだけでなく、ステアリング操作や加減速状況なども監視して作動するという。ただ、具体的にどういうパラメーターで作動させるのかは企業秘密らしい。
さて、今回発表された新技術だが、それで実現できる基本機能の多く=ハンズオフ走行やドライバー異常対応システムなどは、すでにトヨタや日産、スバルなどが実用化しているのも事実である。ただ後発となるホンダのシステムは、たとえば自動車線変更にドライバーの指示を必要としないなど、より高度で熟成したものではあるようだ。
ホンダといえば、2021年春に登場した、通常のハンズオフに加えて“アイズオフ”走行も可能とした世界初の自動運転“レベル3”のシステム、ホンダセンシングエリートがその後どうなったのか……も気になるところである。一時は話題沸騰だったレベル3も、最近はあまり話題にのぼらなくなった。少なくとも技術的に可能であることは示されたし、自動運転はいかにも一般受けしそうなジャンルでもあるのだが、ホンダに続いて国交省の認可を得たメーカーは今のところない。その理由はいろいろあるだろうが、意地悪くいうと、たかだか一時的なよそ見運転を許容するためだけ(?)に必要とされる技術が高度すぎるのも、レベル3への移行を妨げている要因だと個人的には思う。
だから今後もしばらくは、最終的な安全確保はあくまでドライバーが責任を負う“レベル2”がさらに高度化・高機能化していくいっぽうで、レベル3実現への機運はあまり高まらないのではないか……と筆者は勝手に予想する。
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ハイテク満載で“市街地でのハンズオフ”実現に挑む
とはいえ、そこは世界で初めてレベル3の認可と商品化にこぎつけたホンダゆえ、技術開発は今も続いている。今回も実車によるデモはおこなわれなかったが、今後の技術的な方向性は示された。
注目すべきは2021年の「レジェンド」では高速道路内の、しかも渋滞時にかぎられていたレベル3走行を、高速道路全域に拡大することだ。さらには一般道でのハンズオフ走行、そして自宅や集合住宅駐車場などでの自動出庫・自動入庫なども目指しているという。
そのときのキモになるのがAIだそうである。これから目指す超高度な自動運転・運転支援を実現するには、これまでのように外部からもたらされる地図データとLiDAR(ライダー)のような対象物検知・測距技術だけでは立ち行かないということなのだろう。
とくに、あらゆる危険が潜んだ一般道での運転支援には、お仕着せの地図データより、カメラから取り込んだリアルタイム情報が不可欠になるのは容易に想像できる。次世代ホンダセンシングエリートでは、カメラ映像からほかの車両や歩行者、障害物だけでなく、信号、道路標識、場所によって千差万別な車線、ガードレール、路肩、段差などの情報も、AIによって判断するのだそうだ。
こうした次世代ホンダセンシングエリートは2020年代後半から順次実用化を目指すという……が、はたして自動運転の時代は本当に訪れるんですかね?
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。