トヨタ・プリウス 開発者インタビュー
やめるかどうかの瀬戸際でした 2023.02.07 試乗記 “燃費のいいクルマ”というイメージから脱却し、スポーツカーのように生まれ変わった新型「トヨタ・プリウス」。コモディティー化を突き詰めた「タクシー専用車」化のプランもあったというが、いかにしてその危機を乗り越えたのか。開発のキーマンに話を聞いた。トヨタ自動車
TC製品企画ZFチーフエンジニア
上田泰史(うえだ やすし)さん
1割くらいはPHEVに
新型プリウスのチーフエンジニアを務めた上田泰史さんは、「カローラ」の開発責任者でもある。トヨタの中核に位置する2つのクルマに関わるという重責を担ううえで、どのような構想をもとに未来図を描いているのかを聞いた。
――サーキットを3周しただけですが、「PHEV」に乗って上質な走りと静粛性に感心しました。先代モデルから大幅に進化していると思います。
上田泰史さん:ハイスピードでも安心して走れる、しっかりと操作できるようにしました。単に速いだけではなくて、コントロールの範囲を上げることで、制限速度内でもより安全に走れると思っていますので。
――先代モデルは長距離試乗でなかなか電池が減らなかったことを覚えていますが、そのあたりの性能も向上しているのでしょうか。
上田:電池容量を50%ほど上げています。電池というのは、目いっぱいになると回生を受け付けなくなるんですね。電池容量を上げると回生エネルギーを受け入れるキャパシティーが単純に増えるので、何%とは言えませんが、EV走行距離が単純に電池容量分上がります。さらに、走行抵抗を下げていますので、距離を稼げるかなと思っています。
――先代でもプラグインハイブリッド(先代は「PHV」)に重点を置きたいと言っていましたが、なかなか普及しませんね。
上田:先代が出たときは、ハイブリッドの燃費とか航続距離があれば、まあいいや、高いお金を出してプラグインにする必要はないと考える方が多かったのでしょう。今はトヨタだけでなくいろいろなメーカーがPHEVや電気自動車(BEV)を出してきたことでインフラも整備されてきています。今がチャンスかと考えていますが、大多数を占めるというのは、この価格帯ではまだ厳しい。先代プリウスはハイブリッド(HEV)が7000台とするとPHVは200~300台というところでした。今回はHVが月販4000台強ぐらいで、PHEVが月販500台。1割ぐらいはPHEVにしていきたいですね。
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プリウスを生まれ変わらせたかった
――先代モデルではボディーデザインを変えていましたが、新型はHEVとPHEVの形が同じですね。
上田:先代は登録商標名もカタログも変えていました。今回はプリウスという1つのブランド内で、選択肢としてPHEVも置いてますというかたちです。ですから意匠も同じで、変えたのはホイールぐらい。プリウスの位置づけ自体も、変わってきました。今までのように数に主眼を置くのではなくて、もっともっとお客さまにこのクルマを好きになってほしい、もっと長く愛してほしいという思いを込めています。PHEVという選択肢を入れることによって、電動車の走りは質感が高いということを表現しています。
――プリウスのコンセプト自体が変わってきた?
上田:「プリウス=ハイブリッド」という図式だけではもうおそらく成り立たないんですね。カローラにも「ヤリス」にもハイブリッドがありますから。プリウスという名前は先駆けという意味をもっていて、HEVの先駆けだったんですが、今は普及がほぼ終わっている。となると、プリウスは何を担うのか。いろいろな考えが巡ったうえで、ハイブリッドは終わりとか限界じゃないよねという思いを示したいと。ただのエコカーではなくて、乗ってワクワクするというクルマとしての原点に返る。そういう思いで「ハイブリッドリボーン」という言葉を掲げました。プリウスを生まれ変わらせたいという思いが強かったんですね。
――日本ではHEVが普通のクルマになっていますね。
上田:国内ではカローラの8割がHEVです。ガソリン車が満タンで航続距離が500kmだとすると、HEVだと800kmから900km。商品のよさは理解されていますね。
パワートレインで選択肢を
――ということは、いまさらHEVかということにもなる?
上田:お財布に余裕があるお客さまにはBEVという選択肢もあるかもしれません。僕らのクルマのレンジでは、普段の使い勝手を考えた場合、BEVにしようとするとすごく小さなクルマになってしまう。荷物を積むとか遠出をするとかを考えると、このプリウスがあれば1台でしっかり賄えるんです。プリウスやカローラを買うお客さまは、まだBEVということはあまり考えないのかなと思っています。
――5年後か6年後かは分かりませんが、次期プリウスが出るときは今とは状況が変わっているでしょうね。
上田:未来永劫(えいごう)このかたちでいく、このパワートレインしかないということではなくて、世の中の動きに合わせて、変えないといけない。それがいつどんなふうに変わるかは、われわれも読めているわけではないんです。
――今回は、3種類のパワートレインを用意したわけですが、それぞれキャラが全然違うと感じました。
上田:プリウスというブランドのなかにキャラクターの違うパワートレインをそろえることで、選択肢が広がると思います。カローラには「スポーツ」「セダン」「ツーリング」があって、ボディータイプで幅を広げている。プリウスはパワートレインをお客さまに選んでいただくという新しい展開の仕方ですね。
――特にPHEVと2リッターのHEVは、スペシャリティーモデルのようでもありますね。
上田:先代プリウスはカローラを抜いて販売台数が1位になり、普通に選んでいただけるクルマになりました。その後カローラのHEVが出てくるとその役割が移っていって、価格的なポジションを考えると同じところにプリウスを置いても非効率的です。新型では、数にこだわらず、どれだけ深くどれだけ熱く好きになってもらえるかを考えました。スペシャリティーのとらえ方にもいろいろあると思いますけど、ベーシックとしてカローラがあり、その上にスペシャリティーとしてプリウスがあるというのもひとつの言葉の使い方なのかなと思います。
豊田社長との戦い
――さらに走りに振ったモデルにするために、「クラウン」などに積むターボの「デュアルブーストハイブリッド」を採用するという考えはあったんですか?
上田:デュアルブーストという選択肢はまったくなかった。つくろうかという話もなかったんです。PHEVで電池容量とモーター出力を上げていけばいい。HEVと同じ2リッターのエンジンでも、電気ブーストではないんですけど、モーターでクルマを引っ張れる。検討していくなかで自信があったので、デュアルブーストまで手を出さなくてもいいのかなと思っていました。
――「GRプリウス」を考えたときには可能性があるのでは?
上田:悩んでいるんです(笑)。まだ具体的ではないんですが、これだけのデザインと走りがベースにあれば、GRもつくってみたいよねという個人的な思いはあります(笑)。何をもってやるかはGR側とも話をしていかないと。
――逆に、タクシー専用車になるかもしれなかったという話には驚きました。
上田:ワールドプレミアでサイモン(・ハンフリーズ デザイン担当シニアゼネラルマネージャー)が話したのは結構な実話で、もっとキツい口調のこともありましたし、当初から言われていました。社長以下のマネジメント担当が出席し、この商品でいくぞということを決める会議が最後の最後にあるんですけど、そこでもまだ議論がありました。本当にこれでいいのか、これでいくのかと。そこで社長は目の前にあるデザインモックを見て、「まあカッコいいからな」と(笑)。それで「分かった。俺はまだコモディティーだと思っているけどな。じゃあこれでいけ」と言われました。
――豊田章男社長はむしろコモディティー反対派で、愛車路線の急先鋒(せんぽう)だと思っていました。
上田:今のカローラを出すときに、社長は「決してコモディティーにするな」と言っていました(笑)。だから、ある意味僕らを試していたのかなと、ポジティブに思ってはいます。
――社長もプリウスには強い思いがあったんですね。
続けるかやめるかの瀬戸際だったんです。プリウスというブランドを20年以上続けてきて、電動車の先駆けとして出した大事なブランドを守らなければいけない。最後の最後までどっちにするかという議論をして、社長の「どっちが勝つか、戦いだな」というのが会議のシメの言葉でした。笑いながら言っていただいて、今となってはああやってハッパをかけて、背中を押してくれたんだなと思っています。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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