第254回:中高年ゆえの嗅覚異常
2023.03.20 カーマニア人間国宝への道モーターだけで静かに発進
JAIAの試乗会で、数年ぶりにアルファ・ロメオの「ステルヴィオ」と「ジュリア」に乗り、そのフツーぶりに仰天した私だが、タイミングよく担当サクライ君からメールが入った。
「アルファ・ロメオの『トナーレ』にお乗りになりますか」
「もちろん乗る乗る~!」と返信し、指折り数えてその日を待った。
トナーレのパワートレインは、1.5リッター直4ターボのマイルドハイブリッドであるという。あのアルファ・ロメオもついにマイルドハイブリッドを採用するブランドになったらしい。今ごろマイルドハイブリッドかよ! と言いたい気持ちも湧くが、じゃEVならうれしいかと言われれば全然うれしくないので、マイルドハイブリッド万歳! としておこう。
夜8時、いつものようにサクライ君がわが家にやってきた。
サクライ:今回のクルマは、トナーレの「Ti」です。Tiというのは、トゥーリズモ・インテルナツィオナーレ(ツーリング・インターナショナル)の略とのことですが、トナーレのラインナップにおいてはぶっちゃけ廉価版です。
オレ:そうなのね。で、どうなの、トナーレ。やっぱフツーなの?
サクライ:いや、そんなにフツーじゃないですよ。乗ってみてください。
運転席に座ってギアをDに入れ、ソロリとアクセルを踏むと、トナーレはモーターだけで静かに発進した。
サクライ:マイルドハイブリッドですけど、発進とか低速はモーターだけで(走行)できるんです。
オレ:なるほど! これがフツーじゃないポイントだね!
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首都高で水を得た魚のように走る
そのままモーターだけで角を曲がる。少し速度を上げるとエンジンがかかり、ギアが2速にアップされた。その瞬間、私の脳は微妙なデジャヴーを感知した。
オレ:これ、ひょっとして「セレスピード」!? なわけないよね。
サクライ:セレじゃなくDCTですけど、そんな感じ、ありますよね。でもこれは個体差らしくて、本当はもっとスムーズみたいです。
そのままギアが上がっていくと、トランスミッションのセレっぽさはなくなった。イタフラ車の初期ロットによくある、微妙な製品のばらつきなのだろう。
そのまま首都高を目指して一般道を走る。モーターのみの発進と、1速から2速へのシフトアップ時のセレスピード感を除けば、全体にフツーで、アルファ・ロメオに期待する快楽はない。燃費計の数字は12km/リッター強を示している。イマイチだが、マイルドハイブリッドゆえこんなものか。
幡ヶ谷ランプから首都高へ。加速車線でのトナーレは、意外なほど速かった。
「ALFA DNAドライブモードセレクター」をD(ダイナミック)に入れてみる。エンジン回転がギュンと上がって、走りは断然活発になった。かつてのアルファエンジンのような、高回転でのさく裂はないが、中回転域のトルクが非常に厚く、思った以上の加速をしてくれる。これもマイルドハイブリッドのおかげか。
オレ:トナーレ、意外と速いね。
サクライ:ですね。
オレ:足まわりもいいね! ものすごく素直に曲がる!
サクライ:姿勢も安定していますね。
一般道ではすごくフツーだったトナーレが、首都高では水を得た魚のようにグイグイ気持ちよく走る。こ、これは……。
私はいつのまにか、トナーレの意外な実用加速の良さと、操縦性の素晴らしさに引き込まれていった。
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地味にいい足まわりはオペル?
オレ:サクライ君! このクルマ、シャシーが猛烈にイイよ!
サクライ:そうですか。
オレ:ステルヴィオやジュリアのフツーのグレードより全然イイ! でもこの良さって、アルファ・ロメオの感じじゃないね。
サクライ:どんな感じですか。
オレ:一番似てるのは、ちょっと前に乗せてもらった「アルカナ」のマイルドハイブリッド! この接地性が良くて素直なハンドリングはあれにそっくり! 細かく言えば、もうちょっとシャープにした感じだな。でも、ルノーはステランティスとは関係ないよね?
サクライ:プジョー/シトロエンとフィアットグループですからねぇ。あとオペルですか。
オレ:あっ、オペルだ! オペルな感じだよ、この地味~にいい足まわりは!
サクライ:そうですか。
オペルな感じ! とは言ったものの、私が最後にオペル車に乗ったのは、「ザフィーラ」とかそのあたり。すでに20年以上の歳月が流れている。しかしトナーレの足まわりは、ザフィーラ(あるいは「スバル・トラヴィック」)に近い香りがする!
聞けばトナーレは、ステランティスグループの「スモールワイドプラットフォーム」を使っているという。そこにオペルの技術が多少なりとも入っているのか、それとも単なるオマケなのか、とにかく私はトナーレにザフィーラの血を感じた! うおおおお! まさかの展開!
現代のブランドは複雑に絡み合っており、いつどこで「あっ、これはアレに似てる!」みたいなことが飛び出すかわからない気がしてきた。すべては中高年ゆえの嗅覚異常かもしれないが。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。