第743回:進化のカギはシリカにあり! トーヨーの最新タイヤ「プロクセス スポーツ2」と「プロクセス コンフォートIIs」を試す
2023.04.11 エディターから一言相反するはずの性能を同時に強化
2023年の2月、3月とトーヨータイヤは2つの新商品をリリースした。いずれも旧商品と比較しながら仕上がりを試してきたので、その印象をリポートする。
先に発売された「プロクセス スポーツ2」は高次元のハンドリング性能とブレーキ性能を実現したとうたうプレミアムスポーツタイヤであり、ナンバリングの付かない「プロクセス スポーツ」の後継にあたる。トレッドパターンだけでなく使うコンパウンドも非対称になっており、ソフトなイン側はグリップ性能を高め、ハードなアウト側はタイヤの変形を抑制することでハンドリング性能を高めている。トーヨータイヤのテストコースにおけるラップタイムはプロクセス スポーツのそれよりもドライで5.9%、ウエットで1.7%短縮。制動距離はドライで4%、ウエットで16%も短くなっているというから楽しみなニュータイヤだ。
3月発売の「プロクセス コンフォートIIs」は上質なクルージングを追求し、環境性能も進化させたというプレミアムコンフォートタイヤだ。こちらは「プロクセスC1S」の後継となっており、転がり抵抗を低減させつつウエットグリップを向上させるという、本来は相反するはずの性能をどちらも高めるという離れ業をやってのけている。大胆な非対称のトレッドパターンを採用し、イン側のサイプによってピッチノイズを低減した一方で、中央の高剛性ブロックによって操縦安定性を強化し、アウト側のグルーブで旋回時の剛性を高めたというから、これまた静粛性と運動性能という両立の難しい要素をいっぺんに強化したことになる。プロクセスC1Sよりもパターンノイズが22%、転がり抵抗が28%も低減したというから、こちらにも期待が持てる。
鼻先がシュッと入る
まずはプロクセス スポーツ2を履いた「BMW 318i」で、散水されたハンドリングコースを走る。Rの小さなコーナーが連続するシチュエーションだが、従来品のプロクセス スポーツのあとに試してみると、路面からのインフォメーションの豊かさに驚く。最初から最後まで水の浮いた路面が続くが、ハードなコーナリングを試してみても、限界が分かりやすいため思い切りよく走れる。
また、コーナリング時にはカーブの外側からクルマを押し込んでくれているかのような安定感があり、外側にレイアウトされたハードなコンパウンドがレールのようになってくれるのを実感できる。ただでさえグリップ力が高いのに、ツルリとなりそうな感覚が鮮明に分かるため、従来品では40km/hで進入していたコーナーを45~50km/hくらいでクリアできるという印象だ。とにかく鼻先がシュッと向きを変える。
続いては同じプロクセス スポーツ2を履いた「アウディA4」でドライの高速周回路へ。こちらでは直進性の高さが際立っていた。コーナリング時に支えてくれたレールがクルマの左右にあるという安定感はお見事で、多少の横風にもへこたれないタフさが頼もしい。パイロンが並んだところで100km/hからのフル制動を何度か試みると、従来品ではちょうど5本目で止まれたのが、プロクセス スポーツ2では5本目に差し掛かることなく4本目との間で止まれたのだった。
5mで分かる静粛性の進化
プロクセス コンフォートIIsは「トヨタ・カムリ」で試した。試乗の合間に「カムリの国内販売、年内で終了へ」の速報が舞い込んだのは余談である。
同じようにハンドリングコースと高速周回路を走ったが、プロクセスC1Sを履いたカムリから乗り換えて5mほど走ったあたり、つまりコースインする前から違いが明確だった。ザラザラというロードノイズがまるで聞こえず、クルマの格がひとつ上がったかのようだ。そのぶん、ハイブリッドパワートレインのビィーンというエンジン音がよく聞こえてしまうことになるが、それはタイヤのせいではない。
もちろんプロクセス スポーツ2ほどではないし、318iとカムリでは装着車両の性質も違うのだが、プロクセス コンフォートIIsもハンドリングコースは苦手科目ではない。ウエットグリップ性能の向上のうたい文句に偽りはなく、プロクセスC1Sではトラクションコントロールが介入していたコーナーを、こちらは苦もなくクリアできたのには驚いた。外周路では高速域でのノイズを確かめようと思っていたのだが、にわかに土砂降りの雨になってしまったため、報告は差し控えたい。
魔法のような添加剤
どちらの新商品もハンドリングコースでの印象がとてもよかったことを開発スタッフに伝えたところ、その進化のほとんどはシリカの手柄だという。資料によればプロクセス スポーツ2のイン側のコンパウンドには高充填(じゅうてん)かつ高分散したシリカを、アウト側には高充填かつ部分的な凝集を形成したシリカをそれぞれ採用。プロクセス コンフォートIIsには新しいシリカの分散剤を使っている。
シリカとはつまり、ゴムの分子同士をより強固に結びつける添加剤である。強固になるためエネルギーのロスが小さくなり、転がり抵抗を低減させるなどの効果があるのだが、ざっくりと言えばゴムの能力をより発揮させてくれるのがシリカなのだ。ウエットグリップ能力も高まる。
タイヤにシリカが使われ始めたのが1990年代後半のこと。トーヨータイヤの研究ではシリカをもっとたくさん配合したほうがいいことが分かっているそうで、入れられる限界点にはまるで及ばないとのことだが、加工性が悪くなったり(ダマになりやすい)、加水分解を起こしやすくなったりというデメリットがあるため、思うようにはいかないのだという。ゴムの塊に砂のような物質を均等に練り込むシーンを思い浮かべていただきたい。
シリカという添加剤をたくさん練り込むために必要なのが配合剤であり、シリカと配合剤はこれからも二人三脚で進化していくことだろう。その進化の道の最前線を味わえるのがトーヨータイヤの最新モデル、プロクセス スポーツ2&プロクセス コンフォートIIsである。
(文=藤沢 勝/写真=トーヨータイヤ/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。