メルセデス・ベンツAクラス E-CELL(FF)【海外試乗記】
ようやく咲いた花 2011.01.06 試乗記 メルセデス・ベンツAクラス E-CELL(FF)脱石油社会に向けて技術開発を急ぐダイムラー。その一端を担うメルセデスブランドのコンパクトEV「Aクラス E-CELL」の仕上がりをチェックした。
メルセデスも電気の時代
クルマ界の激変、いよいよ大波が押し寄せそうだ。ダイムラー社(メルセデス・ベンツ)は2010年11月末、スペインのバレンシア市に大規模な特設会場を開き、これからEVの普及に本腰を入れると発表した。世界から報道陣を呼び集める、1週間ぶっ続けの大イベントだ。
公開されたEVは「メルセデスAクラス」と商用車の「ヴィト」、それに「Bクラス」のFCV(燃料電池車)。さっそく現地に飛んでステアリングを握ってみたが、「まだ試作なんですよ。これから一部の外部モニターによって実証実験を始めるところなんで」との説明とは裏腹に、すぐ明日から商品として発売できそうなほど、ほぼ完璧に仕上がっていた。「スマートED(Electric Drive)」でEV界に名乗りを挙げ、日本でも公開にこぎ着けたダイムラーだが、今度は本陣のメルセデス・ブランドを電動化、これは本当に本気らしい。
驚くほど静かでスムーズなだけでなく、実用走行で既成のエンジン車など置き去りにするほど俊足なのは、もはやEVの常識。そのうえ車体も室内も足まわりもAクラスそのものだから、EV仕様(正式名称は「Aクラス E-CELL」)の完成度は予想どおり。フイ〜ッと軽い響きだけで、ことごとくバレンシアの街の流れをリードする。
余裕の航続200km
直線も速いがコーナーも乗りやすい。床下に重いバッテリーを積んでいるから重心が低く、ノッポな外観からは想像できないほど、まるでジムカーナみたいに鋭く曲がれる。広く知られているように、Aクラス、Bクラス、スマートは独特の二重構造フロアを持ち、それが衝突安全性に大きく役立つというのが今までの説明。でも、本来はそこに平たくバッテリーを詰め込むのが設計の目的で、ここでようやく正体を現したと見ておくべきだろう。
初代のAクラスが出る前、まだ「ヴィジョンA」と呼ばれたコンセプトカー(5ドアなのに全長わずか3.3mだった)のころ、すでにEV仕様も走っていて、私も当時シュツットガルトで乗ったことがあるが、すいすい気分よく走ってくれた。今いきなりのEV参戦ではなく、長年じっくり腰を据えて研究開発に取り組んで来たあたり、いかにもメルセデスらしいと言えそうだ。
BクラスのFCV(Bクラス F-CELL)も基本は同じ。EVとFCV は電源が違うだけで(外部から充電するか、自分で発電するか)、どちらもモーターで走るからだ。同じといえば、使われているモーター、リチウムイオンバッテリー、インバーターなど制御機器すべてスマートEDとも共通している。
モーターの出力が30kW(約41ps)から70kW(約95ps)へと強化されているのは、単にバッテリーからの電流を増やしただけで、それが可能になったのは、スマートより車体(床面積)が大きいのを利用して、バッテリーを2倍にできたから。だからAクラス E-CELLは航続距離もけっこう長く、200km以上は行けるとか。これはヨーロッパのNEDCモードでの測定なので、日本式の10・15モードやJC08モードなら、軽く250〜300kmは突破するに違いない。
このことからもわかるように、ダイムラーはEV関係のメカニズムを小型、中型、大型など何種類かに統一し、いろいろな車種での共用とすることにしている(モジュラーE ドライブシステム)。逆に言えば、今後どんどんEVのバリエーションを拡大するという意思表示でもあるわけ。
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脱石油へのリアリティ
そう、今この目の前にあるスマートやAクラスの実物より、次の時代に向けたダイムラーの戦略こそ、実は世界に向かって叫びたいテーマだったのだ。
以前から「持続可能なモビリティ」を旗印に、率先して新世代ディーゼル車を発売するなど環境問題に取り組んできたダイムラーだが、その行く手に見ているのは本当の脱石油社会。その一環として、都市や周辺などの近距離移動手段として、EVの存在は非常に重要だ。
そんな未来構想によると、一充電当たりの航続距離に制限があるEVで対応しにくい中長距離のためにはFCV 、大型トラックなど引き続き内燃機関を使うクルマのためには植物から精製するバイオ燃料が主役だとか。そのとおりに進めば、2050年のヨーロッパでは、FCVが全体の25%、EVとPHV(プラグインハイブリッド車)がそれぞれ35%ずつ、残りの5%がバイオ燃料のディーゼルという色分けになるそうだ。
今から40年も先の話だが、それに向けての体制も着々と準備中で、たとえばリチウムイオン電池(これに関しても、すでに230件以上もの特許を持っている)を自力調達すべく、ドイッチュ・アキュモーティブ・バッテリーという完全子会社を国内に設立し、2011年からの本格生産が決まっている。
すでにスバル、三菱、日産からEVが発売され、さらにスズキも続こうかという日本を追って、BMW 、アウディ、フォルクスワーゲン、そして真打ちダイムラーまで名乗りを挙げたドイツ、ここまで来れば、もうクルマ界の流れも決まったようなものだろう。
(文=熊倉重春、写真=メルセデス・ベンツ日本)

熊倉 重春
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