10年前、20年前、30年前はどんなクルマが売れていた? 「N-BOX」が天下掌握前の自動車販売ランキング
2024.01.31 デイリーコラム今や国民車の「N-BOX」
2023年の“今年の漢字”は「税」だった。インボイス制度の導入や増税論議があったことを反映したものだというが、ピンとこない人も多いだろう。ほかには「暑」「戦」なども候補に上がっていたらしい。そもそも、1年をたった一文字で表すことに無理がある。ただ、ホンダにとっての一文字は、間違いなく「N」だったはずだ。漢字じゃないけど。
2024年1月11日に、ホンダは“「N-BOX」シリーズが累計販売台数250万台を突破~「N-BOX」が2023年暦年 新車販売台数 第1位を獲得~”と題したプレスリリースを発表した。2023年の販売台数が23万1385台で、登録車を含む新車販売台数で1位を獲得したと誇らしげに記している。これは2年連続の記録で、軽自動車に限れば9年連続の首位となった。ホンダにとっての一文字は、ここのところずっと「N」なのだ。
N-BOXがデビューしたのは2011年。2013年に初の軽自動車販売台数1位になり、2014年に「ダイハツ・タント」に譲ったものの、2015年からはトップを守り続けている。登録車を含む順位では2017年に初めて首位に立ち、「トヨタ・ヤリス」に抜かれた2021年以外は1位なのだ。2023年にフルモデルチェンジを受けて3代目となっても勢いは衰えず、今や国民車といってもいい地位にある。
2014年に、国内新車販売台数に占める軽自動車の割合が初めて4割を超えた。軽ハイトワゴン、軽スーパーハイトワゴンが人気となり、若者から子育て世代、リタイア層に至るまで幅広いユーザーから支持されている。1993年に「スズキ・ワゴンR」が背の高い軽ワゴンという革新的なコンセプトを生み出し、2003年にダイハツがさらに全高を上げた「タント」を発表した。ホンダはこの流れに乗り遅れていたが、N-BOXが登場するやいなやマーケットを席巻したのだ。
2013年と2003年の売れ筋を見てみる
軽自動車が売れるのは狭い路地の多い日本の交通事情に合っているからともいわれるが、“失われた30年”で可処分所得が減少していることも理由の一つと考えられる。以前はどんなクルマが売れ筋だったのか。10年さかのぼり、2013年の販売台数ランキングを見てみよう。
1位だったのは、「トヨタ・アクア」である。コンパクトカーに分類されるハイブリッドカーだ。僅差の2位は「トヨタ・プリウス」。2009年に3代目となってから販売台数1位を続けていたが、より燃費がよくてサイズが小さいアクアが逆転した。この年は「ホンダ・フィット」「日産ノート」といったモデルも上位に名を連ねていて、コンパクトカーが人気だったことが分かる。「ダイハツ・ミラ」「スズキ・アルト」などの背の低い軽自動車も健在。ミラとアルトの低燃費競争が激化し、0.1km/リッター単位でしのぎを削っていた。
この年にアベノミクスが始動し、“黒田バズーカ”が火を吹いた。NHK朝ドラ『あまちゃん』とTBS日曜劇場『半沢直樹』が高視聴率をたたき出し、「じぇじぇじぇ」と「倍返し」が新語流行語大賞に。超人気だったAKB48が『恋するフォーチュンクッキー』で「未来はそんな悪くないよ」と控えめな展望を歌った。この年の漢字は「輪」である。オリンピック・パラリンピックの東京招致成功で浮かれていたのだ。あんなトラブルまみれの大会になるとは誰も思っていなかった。
さらに10年前の2003年は、「トヨタ・カローラ」が販売台数1位。1966年に登場したトヨタを代表する大衆車が、エントリーモデルとして根強い人気を保っていた。2位はワゴンRのフォロワー「ダイハツ・ムーヴ」で、フィットが続く。「トヨタ・ウィッシュ」「日産キューブ」の名が見えるのは、今となっては懐かしい。
この年の漢字は「戦」。2001年の同時多発テロに衝撃を受けたアメリカがイラク、イラン、北朝鮮を悪の枢軸国家に認定。イラクに侵攻してフセイン大統領を拘束するという挙に出たのだ。イラク駐在の日本人外交官2人が銃撃を受けて殺害される事件もあったが、国内で流行したのは韓国ドラマ『冬のソナタ』と白血病の少女を中心とした小説の『世界の中心で、愛をさけぶ』。危機感の反動で恋愛に逃げていたのだろうか。
元祖国民車だったカローラ
その10年前、1993年もカローラが販売台数1位である。2位が「トヨタ・マークII」で、つまりセダンが人気だったということだ。クラウンだって頑張っていたし、「日産サニー」も売れていた。ハイソカーブームは終わっていたものの、クルマの標準形がセダンという共通理解は崩れていない。かつては終身雇用制度に対応したセダンのヒエラルキーが確立していた。トヨタに例をとれば、平社員が最初に買うのがカローラで、課長になったらマークII、そしていつかはクラウン、ということになる。
1990年代には「トヨタRAV4」「ホンダCR-V」「スバル・フォレスター」などのクロスオーバーSUVが登場し、セダンの階層秩序を崩していく。「トヨタ・エスティマ」や「ホンダ・オデッセイ」がミニバン人気に火をつけ、「トヨタ・ノア/ヴォクシー」「日産セレナ」「ホンダ・ステップワゴン」などがファミリーカーの覇権を握った。販売台数ランキングは多様化の時代を迎える。
バブル崩壊で低価格志向が強まったのがこの年あたりから。ベストセラーは中野孝次の『清貧の思想』だった。お金が欲しい女子高生が下着を売るブルセラショップが話題に。ヤミ献金問題などで自民党が混迷に陥り、日本新党や新生党などの8会派による細川護熙内閣が発足した。さて、この年の漢字は……ない。日本漢字能力検定協会がこのイベントを始めたのは1995年である。
さらに10年さかのぼってみる……のはあまり意味がない。代わり映えしないのだ。カローラは1969年に販売台数1位になってから、2001年まで33年にわたって王座に君臨していた。2023年でも15万4870台を売り上げて、登録車では「トヨタ・ヤリス」に次ぐ2位である。日本だけで売れているのではなく、グローバルでは2021年に累計販売台数が5000万台を超えたモンスターブランドなのだ。
セダンから始まったカローラだが、次第にバリエーションを広げていった。スポーツモデルの「レビン」、2ボックスの「FX」、4ドアハードトップの「セレス」、ミニバン仕様の「スパシオ」といった多くの派生車種がある。もちろん、現在ではセダンが主流ではなく、クロスオーバーSUVの「カローラ クロス」やハッチバックの「カローラ スポーツ」が売れ筋だ。トレンドに合わせて姿を変えながらも50年以上にわたって存在感を保ち続けているのは驚きである。10年単位で日本の自動車について振り返ってみたら、カローラの無双ぶりをあらためて思い知る結果となった。
(文=鈴木真人/写真=本田技研工業、トヨタ自動車、日産自動車、スズキ、ダイハツ工業/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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