第13回:レクサスLBX(前編)
2024.02.14 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ニッポンの「小さな高級車」の変遷
レクサスからコンパクトSUV「LBX」が登場。サイズのヒエラルキーを超えた「小さな高級車」というコンセプトは、デザインのうえではどこに宿っているのか? 似たようなコンセプトを持つ過去のモデルを懐かしみつつ、この道20年の元カーデザイナーとともに考えた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
webCGほった(以下、ほった):レクサスLBX、皆さんは実車は見ましたか?
渕野健太郎(以下、渕野):青山のレクサスで見ました。
清水草一(以下、清水):私もショールームのガラス越しに。
渕野:このクルマって、いわゆる「小さな高級車」ですよね? 昔からそういうコンセプトはありますけど、クルマの世界って値段はサイズと比例するっていうのが一般的じゃないですか。過去に小さな高級車を名乗っていたのは、国産車だと「トヨタ・プログレ」とか「マツダ・ベリーサ」とか。その前が「日産ローレルスピリット」ですか。
清水&ほった:……。(苦笑い)
清水:プログレは亡父が最後に乗っていたクルマです。
渕野:その前はなにに乗られていたんですか。
清水:「ソアラ」が大好きで、3代続けて乗っていました。3代目ソアラには、わざわざオプションでフェンダーミラーを付けて!
ほった:ええー!
清水:実家で実物を見て気絶しそうになったよ! んで、最後にプログレになったんだけど、ソアラの下取りがフェンダーミラーぶん安く査定されたことに怒り心頭で、嫌々ドアミラーにしたんだよね。市場原理というものを理解していなかった……。
ムリして大きなクルマに乗る時代ではない
渕野:プログレは、国産版「小さな高級車」の代表格ですよね。
清水:プログレが登場したとき、大いに期待してたんですけど、実物を見たらものすごくおっさんっぽいデザインでガックリしました。胴長短足な昭和ヒトケタ生まれのオトーサンみたいな。
ほった:でも、お父さまに勧めたんでしょ?
清水:うん。だって父は典型的な昭和ヒトケタの胴長短足だったから!
ほった:ひでえ(笑)。
清水:当時の高齢男性にピッタリなクルマだったけど、それほど売れなかったよね。ベリーサもローレルスピリットもまるでダメ。でも今は、「日産ノート オーラ」がかなり売れてる!
渕野:現状、国産車ではノート オーラぐらいですか。
清水:初めて成功した、国産版小さな高級車じゃないですか?
渕野:そうなのでしょうね。で、レクサスLBXですけど、サイズで競合するのはMINIの「クロスオーバー」とアウディの「Q2」、後はフォルクスワーゲンの「Tロック」あたりです。これは私の感覚ですけど、特に日本市場では、こういうコンセプトがこれからどんどん流行(はや)るんじゃないでしょうか。ノート オーラが成功したことからしても、必要以上に大きなクルマをガマンして乗る時代は、そろそろ終わりなのかなと思うんですよ。実用性からみれば、コンパクトであるに越したことはないですし。
清水:いちど小さいクルマの便利さを知っちゃうと、デカいのに乗るのがおっくうになりますよね。ロングドライブを除いて。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ようやく時代と合致したコンセプト
渕野:これからどんどん高齢化社会になっていくわけですけど、例えば子供が独立して夫婦2人の生活に戻ったときに、「コンパクトなほうがいいけれど、クルマのランクは下げたくない」みたいな要望が出てくると思うんですよ。そういう人には、こういうモデルが打ってつけだと思います。小さな高級車というのは、コンセプト自体がすごく魅力的だなあと思うんですけど。
ほった:今までより、時代というか世相と合致しつつある感じはしますよね。
清水:なにしろハンパじゃない高齢化社会ですから。年取ってから運転でナニが面倒になるかって、駐車だと思うんですよ。サイドやリアがボコボコのままのクルマをたまに見かけますけど、大抵、高齢ドライバーですよね。クルマが小さければボコボコにするリスクがそのぶん低くなる!
ほった:決めつけはいけませんよ! ……と言いつつ、ワタシの親父もボディーをよくこするんで、「スバル・フォレスター」から「XV」にダウンサイジングしたんですが。
渕野:実は僕も最近、ダウンサイジングしたんですよ。前のクルマは大きすぎて、妻も「都内だとちょっと厳しい」って言って、運転してなかったんです。僕も保育園の送迎なんかで狭い道を走ってると、「……コイツ、デカいな」と(笑)。
清水:近距離だと大きいほど不便に感じますよね。
渕野:LBXみたいなクルマに買い換える人は、高齢者や運転が苦手な人だけじゃなくて、他の層にも結構いるんじゃないですかね。昔の「小さな高級車」より、顧客層も広がっているのかも。
1825mmの全幅がかなえる存在感
ほった:それで、デザインはどうですかね?
渕野:コンパクトだけど非常に存在感がありますよね。これだけ存在感が強い理由のひとつには、幅が1825mmあることが挙げられます。日本市場でこれじゃコンパクトっていえないかもしれないですけど、全長は4190mmなので、まぁ許容範囲でしょうか。
清水:走ってるときって、幅が広くてもそれほど不便に感じないですからねぇ。ただ駐車するときに気を使うのと、駐車して乗り降りするとき、幅が広いぶんドアがあんまり開かないのが不便ですよね。
ほった:狭い駐車場だと、隣のクルマにドアパンチしないようにそーっと開けて、隙間から抜けるみたいに乗り降りしないといけない。
渕野:幅の話だけでいうと、おそらく日本のお客さまからは、「せめて1800mmに抑えてほしい」といった要望はあるのかなと思いますけど、LBXではグローバル展開とかクルマの内部構造とかを総合的に考えて、この車幅にしたのかなと思います。先ほど例に挙げたMINIクロスオーバーやフォルクスワーゲンTロックは、1820~1825mmの車幅なんですよ。LBXもそこを外していない。Q2は1795mmですけど、1825mmという全幅はグローバルでいうと標準的かなと思います。
ほった:新しい「MINIカントリーマン」は、車幅が1845mmもあるらしいですからね。
渕野:とにかく、このディメンションだから当然なんですけど、スタンスがすごくよくてスポーティーで、質感も高く見えました。
キャラクターラインにみる遊び心
渕野:皆さんはどう感じました?
ほった:ワタシはすげえいいなって思いましたね。“キャラもの感”が強いから、イヤな人はイヤでしょうけど。
清水:だねぇ。自分はくどいと思う。プログレがういろうだとしたら、甘すぎるケーキって感じ。
ほった:スキな人はスキ、キライな人はキライでいいんじゃないでしょうか。むしろ好き嫌いが分かれるカタチにあえて挑戦する姿勢もいいなって思うんですよ。昔のトヨタの80点主義と違って。後はこのクルマ、実車を見ると全体の抑揚というか質感というかが、もんのスゴい。
清水:ポイントはやっぱりサイドビューですか?
渕野:いや、やはりプロポーションがすべてですかね。このクルマはショルダーあたりの動きがほかの部位と比べてちょっと強いんです。「クルマの軸感」って自分らはよく言うんですけど、クルマの造形には“軸”がどっかにあるんですよ。で、LBXでいうと、ベルトラインとかドアパネルの下で光を受けている部分の角度とか、サイドビューから見たときの前と後ろのシルエットのピーク位置とかから総合的に考えると、軸はおそらくこの赤い線ぐらいかなと思うんですよね(写真参照)。それに対して、キャラクターは結構斜めに入ってる。
ほった:ウエッジ方向に。
渕野:メインのキャラクターのベクトルを、造形の軸に対して大きく変えるっていうのは、通常はあまりやらないんですけども、このクルマはプロポーションで見せてるので、多少こういう“遊び”があってもそんなに気にならないんですよ。
清水:なかなか難解ですね。
ほった:家に帰って、じっくり写真見ながら考えましょうか(笑)。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、荒川正幸、向後一宏/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第120回:幽玄なるBMWアルピナ(前編) ―日本でも愛された「控えめの美学」にこの先の未来はあるか?― 2026.7.15 日本でも、ファンの間で熱く支持されてきたBMWアルピナ。創業家の手を離れ、BMWの傘下となったこのブランドだが、その伝統である「控えめの美学」は今後も受け継がれるのか? ショーカー「ビジョンBMWアルピナ」の造形から、カーデザインの識者と考えた。
-
第119回:デザイン目線で大総括! 2026年上半期のニューモデル ―「日産リーフ」「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」その他もろもろ編― 2026.7.8 2026年の上半期に登場したニューモデルを、カーデザインの識者とともに大総括。「日産リーフ」「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」「トヨタRAV4」などをお題に、いつもの3人が激論(?)を交わす! 上半期ベストデザインの栄冠に輝くのは、このクルマだ!
-
第118回:デザイン目線で大総括! 2026年上半期のニューモデル ―「マツダCX-5」「ホンダ・スーパーONE」編― 2026.7.1 例年同様、さまざまなニューモデルが登場した2026年の上半期。クルマ好きの注目を集めた新型車の数々を、カーデザインの視点で振り返ってみよう。まずは、一見キープコンセプトに見える新型「マツダCX-5」と、古くて新しい「ホンダ・スーパーONE」から!
-
第117回:激論! BEVスーパースポーツ(後編) ―“変顔デザイン”の「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」は20年後に評価される!?― 2026.6.24 「フェラーリ・ルーチェ」に「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」と、立て続けにデビューしては物議を醸す電気自動車のスーパースポーツ。その造形美が理解されないのは、私たちが既存の価値観にとらわれているからなのか? カーデザインの識者と考えた。
-
第116回:激論! BEVスーパースポーツ(前編) ―株価を暴落させた「フェラーリ・ルーチェ」のカーデザイン― 2026.6.17 フェラーリが、メルセデスAMGが、立て続けに電気自動車のスーパースポーツを発表! 特に注目を集めた……というか物議を醸したのが「フェラーリ・ルーチェ」だ。株価の急落まで引き起こしたいわくつきの造形を、カーデザインの識者と考察する。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。













































