第278回:もっと濃口で攻めてくれ
2024.02.26 カーマニア人間国宝への道新型「BMW 5シリーズ」は影が薄い?
前回は「メルセデスの車名がわからない問題」の解決のため、2台の比較的現実的な価格(=ボトムレンジ)のメルセデスに試乗させていただいたが、今回は「BMWのメジャーモデル未試乗問題」を解消するために、2台のBMWに試乗させていただきます。
私はつい1年半前まで、先代「BMW 320d」を愛車にしており、次は「X2」かな~、などと妄想を広げていたが、BMWの新車値引き大幅縮小事案に伴って中古車相場が上昇したため断念し、「プジョー508」にくら替えした。同時にBMWが視界から遠ざかり、未試乗のニューモデルだらけという、由々しき状況に陥っていたのである。
まずは新型「5シリーズ」だ。BMWの5といえば、カーマニアにとってメートル原器までいかなくても、マイルストーン的な存在だったが、今回の新型は猛烈に影が薄い。ほとんど出たんだか出てないんだかわかんないくらい、静寂に包まれている。発表されたのは2023年の夏だったはずなのに、まだ街で一度も見かけたことがない。セダンにとってドイツ御三家は最後のとりでだったが、いよいよ陥落が近いのか。涙。
初めて間近で見た新型5シリーズは、どこか申し訳なさそうにたたずんでいた。隣にEVの「i5」が並んでいたので余計に影が薄い。日本ではi5に人気が集まっているわけではないが、i5は顔やお尻に力強いブラックの樹脂があしらわれていてカッコいい。ところが2リッターガソリンターボの「523iエクスクルーシブ」はスッピン。どことなく「格安グレードです」という空気感が漂う。実際そうなのだが。
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走りはいいがどこか物足りない
しかもガソリンモデルはこの523iだけ! 直6は消滅! もちろんV8もナシ! 他に純エンジン車は2リッターディーゼルの「523d xDrive Mスポーツ」があるのみ! 思わず「えええ~っ!」と叫んでしまった。いまごろ知って申し訳ございません。
あらためて新型5シリーズのフォルムを眺めると、正統派セダン感を薄めようとしたのか、リアピラーから続くリアデッキが後方に傾き、ちょっとだけファストバックっぽく見える。つい、なんか“ジャパン”と呼ばれた5代目「日産スカイライン」みたいだな、と思ってしまった。古くてすみません。
その走りは、「いいんだけど物足りない」としか言いようがなかった。最高出力/最大トルクは190PS/310N・m。BMWの2リッターターボは完熟の域に達しており、信じられないほど低速トルクが厚い。日常的な動力性能にまったく不足はないが、5シリーズのエンジンとしては、イメージ的にあまりにも軽い。特に上まで回したときの音や振動が軽い。身のこなしも、3シリーズに比べて立派だとか重厚だとかいった感じはまるでなく、むしろヒラヒラ軽やかなので「少し大きい3」としか思えない。
BMWでは相変わらず3シリーズが一番売れているが、同じエンジンの5を買う人は、何を求めるのだろう。3じゃ狭すぎるのなら、国産ミニバンがいいんじゃないか。でもBMWは「540i」や「M550i」を廃止し(→高くて買えないけど残念)、BMWジャパンはプラグインハイブリッドの「530e」も落とした(→納得)。つまり「これしか売れない」ということか。是非もなし。
続いて、昨2023年のBMWモデル別販売ランキングで3シリーズ、「2シリーズ」に次ぐ売れ行きをみせた「X1」に試乗する。こちらはちまたで大変評判がよく、乗っておかないと自動車ライターとしてマズイ。グレードは「xDrive20d Mスポーツ」。私が大好物の2リッターディーゼルである。
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ガンダムチックな新型「X2」にビビビ
私がこれまでX1に無関心だったのは、あまりにもデザインが平凡に思えたからだ。特に顔が退屈すぎる。キドニーグリルを巨大化したのに、こんなに退屈な顔になるなんて信じられない。BMWのデザイン部門は何をやっているのだろう。
この日の直前、2リッターガソリンの「X1 xDrive20i xライン」に乗る機会があったが、ATセレクターがパワーウィンドウのスイッチみたいになっているうえにシフトパドルもなく、マニュアルモードが使えないことに衝撃を受けた。ボディーや足まわりは空を飛んでいるみたいに軽やかなのだが、Dレンジのままだとエンブレがぜんぜんかからないので、糸の切れたタコみたいに飛んでいく。シャシーの良さが台無しというイメージだった。
しかし今回は2リッターディーゼル。Dレンジのままでも普通にエンブレが利いて、とてもカイテキに走る。Mスポーツなのでシフトパドルも付いているが、ほぼ必要を感じない。ローブーストの150PS仕様なのでパワーやトルクは控えめではあるものの、エンジンフィールはメルセデスの2リッターディーゼルより明らかにスムーズだ。
BMWは2023年秋、X1をベースとした新型X2を発表した。X2はX1より断然スポーティーなフォルムを持ち、顔つきも濃くてカッコいい。キドニーグリルの形状は大好きな「XM」に似ており、リアのガンダムチックな造形にもビビビとくる。BMWに乗るなら、これくらい濃口で攻めたいところだ。がぜん新型X2が気になりはじめたが、今のところディーゼルの設定がないことに衝撃を受けた。涙が出る。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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