レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)
クールジャパン 2024.05.11 試乗記 欧州でも販売されているレクサスブランドの高級MPV「LM500h“エグゼクティブ”」に試乗。4人乗りで車両本体価格が2000万円となるLM=ラグジュアリームーバーのドライバーズシートと、ゆとりあるぜいたくなリアシートでの印象を報告する。欧州への新規参入を想定して開発
都心部ではちらほら見かけるようになった新型レクサスLMは、グローバルでは2代目となる。中国やアジアで販売された初代は、先代「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」(以下、アルヴェル)の後期型をベースに、いわば後づけで仕立て直したクルマだった。
基本骨格を同世代のアルヴェルと共有する点は新型LMも同様だが、今回は初期段階からアルヴェルと並行して開発されたという。
実際、新型LMは外板やダッシュボードからアルヴェルと完全に別物だ。アルヴェルでは後ろ下がりとなっているサイドウィンドウグラフィックは水平基調。リアクオーターの処理も「RX」に似たレクサス伝統の意匠。また、車体やサスペンションジオメトリーもLM専用チューンなのはもちろん、スライドドアは専用にアルミ化されているし、電子制御連続可変ダンパーの「周波数感応バルブ付きAVS」やアルミ鍛造製フロントナックルもLM専用品だそうである。
そんな新型LMは当初から、日本や豪州、さらには(なんと!)名だたるショーファードリブンセダンがひしめく欧州への新規参入を想定して開発された。日本的な背高ワンボックス型ミニバンは「高速安定性や高速燃費が求められて、衝突安全基準も高い欧州では通用しない」というのがかつての定説だったが、技術の進歩に加えて、欧州の各高速道路の流れも低速化しつつある今こそ、日本的ミニバンが世界に挑む好機……との判断だろうか。
この原稿を書いている2024年5月初旬現在、LMの日本仕様は2.4リッター直4ターボにフロントモーター内蔵6段ATとリアモーターを組み合わせたハイブリッドのLM500hのみで、後席が超豪華2座仕立てとなる“エグゼクティブ”に加えて、5月9日に3列6人乗りの“バージョンL”が追加された。さらにグローバルでは、2.5リッターシリーズパラレルハイブリッドの「LM350h」も存在する。
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走行中に脱力できる「ドリーム」モード
今回試乗したのは先に発売された4人乗りの“エグゼクティブ”で、フラットフロア空間に前席とのパーティションまで構築されたLMの後席は、まさに“部屋”としかいいようがない。そこに2脚の豪華なイスが置かれて、フロント側の壁には巨大モニターや冷蔵庫があつらえられている。
セカンドシートは固定式でスライドもできないが、足もとは広大そのもので、身長178cmの筆者が全力で脚を伸ばしても、つま先のさらに先っぽが、前方グローブボックスにかろうじて触れるか触れないかくらい。このシート位置は、広大なキャビン内でリクライニングとオットマンを完全フラットにできるように……との理由で決めたそうだ。
スマホのような脱着式タッチパネルで後席まわりのあらゆる操作が可能となっているが、なかでも「リアクライメイトコンシェルジュ」がちょっと面白い。同機能には「ドリーム」「リラックス」「フォーカス」「エナジャイジング」という(気分に合わせた)モードがあり、いずれかを選択すると、シート調整、空調、シートヒーター/ベンチレーター、照明、サンシェードなどが、そのモードに合わせて最適化される。
たとえばドリームはご想像のとおり、後席での安眠を意図したモードだが、あくまで走行中に眠る想定なので、シートが完全フラットなベッド状態になるわけではない。それどころか、実際にドリームモードを発動させると、シートバック角度は意外なほどアップライトで、ふくらはぎを支えるオットマンもフロアに足裏がべったりとつく程度の角度にしかならない。最初は正直、「もっと寝かせた姿勢でもいいのでは?」と思った。
ただ、開発陣によると、これこそが走行中でも着座姿勢が安定して、もっとも脱力できる姿勢だという。同時に天井やサイドのサンシェードが全閉となって室内も適度に暗くなるので、筆者も後席でドリームモードを味わっていたら、10分ほどで眠りにつけた(笑)。
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乗り心地は極楽そのもの
LMの後席は、少なくとも整備された路面を一般道レベルの速度で走るかぎり、静かで快適というほかない。その領域ではフラットに安定しており、頭や目線が揺さぶられたり、上下したりすることも少ない。広大な部屋で豪華なソファに座ってすごすのは、LM独自の世界観というほかない。
ただ、あえて自慢の高品質オーディオを消して耳をこらすと、けっして無音空間ではないことに気づく。それは開発陣も意図したところで、試しに吸音・遮音材をフルに仕込んだところ、逆に気持ち悪くなってしまったとか。人間は多方向からの音の反射で自分の位置や姿勢を把握しているそうで、吸音しすぎると不快になる。実際のLMの騒音振動(NV)対策も“静粛感”をテーマに静かにしすぎない静粛性にこだわった。一例としては、天井はあえて音を反射させる素材にしてあるとか。また、前記のように、シートを水平にするために必然的に決まった後席のシート位置も、実際はリアタイヤのほぼ真上で、乗り心地の面では苦労もあったという。
というわけで、スイートスポットに入ったときのLMの静粛性や乗り心地はまさに極楽そのものだが、ちょっと荒れた路面では、ざらついたNVが耳やお尻から伝わってくることがなくはない。また、うねりや凹凸にあおられたときの上下動が、大きめなのも否めない。
ドライブモードには「エコ」「ノーマル」「スポーツ」といったおなじみの選択肢のほかに、「トヨタ・クラウン セダン」と同様の「リアコンフォート」がある。同モードではアクセルやブレーキの初期反応がマイルドに、リアのAVSも柔らかくなる。実際に後席に乗っていても、良路ではなるほどアタリも柔らかなリアコンフォートが快適だが、少しでも路面が荒れると、ノーマルやスポーツのほうがフラット感も高く、トータルでは心地よかったのも確かだ。
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滑らかに反応する見事なリニア感
LMはある意味でライバル不在だが、現実的な比較対象になるであろう欧州のハイエンドセダン、あるいはラグジュアリーSUVに、走ったときの後席快適性レベルは少し及んでいないのは事実だ。これは四角四面の巨大な箱にして、重心も高く、開口部も大きいミニバンの宿命というほかない。
……と、2000万円級のショーファードリブンカーとしてセダンやSUVと比較すると、LMにはメリットとデメリットの両面がある。ただ、みずからステアリングを握るドライバーズミニバンとして、アルヴェルと比較すると、さすがレクサス、さすが2000万円と感心する点は多い。
まず背後のパーティションのせいで、どうにも“雇われ運転手”気分にさせられてしまうLM“エグゼクティブ”の運転席だが、コックピットそのものは素晴らしくぜいたくな仕立てだ。レザーとウッド(調パネル)の仕上げ品質や手ざわりにも文句はない。
ショーファー用途が優先のLMの動きは、あくまでゆったりとしている。同時に、各部の強化策が効いているのか、微妙な操作に対する反応そのものはアルヴェルに輪をかけて正確でリニアでもある。
とくに感心したのは、アルヴェルにはない2.4リッター直4ターボハイブリッドだ。クラウンやRXではスポーツテイストを打ち出す同パワートレインだが、LMでは(回すとちょっと耳につくエンジンノイズ以外)上品な所作に終始する。足指の微妙な力加減にも、静かに湧き出すようなトルクで、滑るように滑らかに反応するリニア感は見事というほかない。
リアモーターのトルクも強力で、さすがにテールから振りだすような姿勢には、アクセルペダルをどう踏んでもならないが、しっかりと後ろから押される感覚は明確にある。タイトな下りカーブなどでも、アクセルを積極的に踏めば、きれいなラインを描いてくれる。
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類例のない「走る高級ホテル」
「ドライバーがラフな操作をしても、後ろに姿勢変化をなるべく伝えないのが、LMの走りの基本的な考えかたです。そのためにAVSやアクセルをゆったりと、ノーズダイブを起こさないように、ブレーキもリア配分を強めにしつけています。後席でゆったり乗っていただくには、ドライバーの安心感や運転しやすさも重要なんです」とは昨年うかがったLM開発責任者の弁である。
その言葉どおり、前記のパワートレインだけでなく、ステアリングやブレーキも、本当にごく微妙な操作入力に、しっかり正確に応えてくれるのが快感である。すべての初期反応がなまされるリアコンフォートモードも、当の後席ではベストとはいえないものの、重くて高重心の物体をあやつる運転手には、とても快適で乗りやすいのは面白い。
さすがにアップダウンの激しい山坂道では動きがおっとりにすぎるが、そういう場合はノーマルやスポーツモードにするとドンピシャ。こんな巨大な箱型スタイルなのに、運転手側から積極的にしかけたドライビングには、接地感もロール感もぴたりと決まるのは感心する。ただ、路面のうねりや舗装のヒビ割れなど、外乱に対する悪影響が大きく出がちなのが、前記のようにミニバンスタイルの宿命だ。
この世界に類例のない「走る高級ホテルの一室」のごとき姿は、まさにジャパンオリジナルの高級車といえる。これがショーファードリブンセダンの本場であるドイツや英国で成功してくれたら、日本人は快哉(かいさい)を叫びたくなるだろう。
ただ、今回はそれ以上に、LMのドライバーズミニバンとしての資質に感心させられた身としては、雇われ運転手気分をだいぶ薄めてくれるパーティションなしの“バージョンL”も、一刻も早く味わってみたいところだ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスLM500h“エグゼクティブ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5125×1890×1955mm
ホイールベース:3000mm
車重:2460kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:275PS(202kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:87PS(64kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:103PS(76kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:371PS(273kW)
タイヤ:(前)225/55R19 103H/(後)225/55R19 103H(ミシュラン・プライマシーSUV+)
燃費:13.5km/リッター(WLTCモード)
価格:2000万円/テスト車=2007万5900円
オプション装備:ドライブレコーダー<前後方>(4万2900円)/デジタルキー(3万3000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:6946km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:322.5km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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