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第42回:トヨタデザイン今昔物語(後編) ―「もっといいクルマ……」が生んだデザインの多様性―

2024.10.02 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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レクサスの新しいデザインコンセプトである「スピンドルボディー」を、いち早く導入して登場した現行型「レクサスRX」。
レクサスの新しいデザインコンセプトである「スピンドルボディー」を、いち早く導入して登場した現行型「レクサスRX」。拡大

コワモテのSUVから上品な小型車まで、どんなクルマでもデザインしてしまう今日のトヨタ。その多様性が、今の彼らの強みとなっているのは間違いない。多方面で挑戦しまくるトヨタのカーデザインは、いかにして生まれたのか? 元カーデザイナーと考えた。

前編へ戻る)

2022年6月に世界初公開された、5代目「レクサスRX」。レクサスにおけるクロスオーバーSUVの上位モデルで、“世界で一番売れるレクサス車”でもある。
2022年6月に世界初公開された、5代目「レクサスRX」。レクサスにおけるクロスオーバーSUVの上位モデルで、“世界で一番売れるレクサス車”でもある。拡大
サイドビューで目を引くのがドアパネルのリフレクション(光の反射)。ドアハンドル付近のピークを通ってリアフェンダーのふくらみにあたって折り返し、ドア下部の掘り込みに沿って前へと戻る独創的なものとなっている。
サイドビューで目を引くのがドアパネルのリフレクション(光の反射)。ドアハンドル付近のピークを通ってリアフェンダーのふくらみにあたって折り返し、ドア下部の掘り込みに沿って前へと戻る独創的なものとなっている。拡大
現行「レクサスRX」のルーフスポイラー。ルーフの面はテールゲートの付け根あたりで、なだらかに下降するピラーと、シュッと後ろまで伸びるスポイラーとに分岐している。
現行「レクサスRX」のルーフスポイラー。ルーフの面はテールゲートの付け根あたりで、なだらかに下降するピラーと、シュッと後ろまで伸びるスポイラーとに分岐している。拡大
比較用に、こちらは現行「トヨタ・ハリアー」のルーフスポイラー。
比較用に、こちらは現行「トヨタ・ハリアー」のルーフスポイラー。拡大

「レクサスRX」は“見せ場”がてんこ盛り

webCGほった(以下、ほった):時計の針を進めまして、そろそろ今のトヨタデザインの話をしたいのですが。

渕野健太郎(以下、渕野):そうしたら、まずは「レクサスRX」を取り上げたいですね。

ほった:レクサスのクロスオーバーSUVで、一番でかいやつですね。いや、今は海外専用車だけど3列シートの「TX」がいたか。

渕野:ここから「スピンドルグリル」が「スピンドルボディー」に変わりましたけど、そこだけじゃなくて、全体にもかなり凝ったデザインなんですよ。最初に見たときはあまりピンとこなかったけど、街なかで走っているのを見て気になりだしたんですよね。で、実車をじっくり見ると“見せ場”がてんこ盛りなんです。ルーフの頂点が後ろ寄りっていうシルエットはレクサスおなじみのパターンだけど、RXはドアのリフレクションが、上部からぐるっと回って戻ってるんですよね。

ほった:(写真を見て)あー、はいはい。そうですね。

渕野:これもまぁよく考えるよなって思います。マツダは今、キャラクターライン重視じゃなくリフレクション重視じゃないですか。彼らはそこにすごくこだわってる(その1その2)。レクサスもそれに乗っかったというか、マツダを意識しているかもしれません。Dピラーとリアスポイラーの立体の関係も、「ああ、こうくるんだな」と。ボディーをクーペライクに見せつつ、リアスポイラーを別立体でやってるんですよね。なかなかできるようでできないことです、こういうのって。

清水草一(以下、清水):別立体っていうのは、後付け感はないけどピョコッと付いてる感じってことですか?

ほった:そういやSUVとかハッチバックのルーフスポイラーって、大抵ピラーというかボディーと一体になってるパターンが多いですもんね。

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小技よりわかりやすいスゴさが欲しい

渕野:加えてリアフェンダーのボリュームがそのままコーナーを回り込んで、リアの中心部まで向かってるんですけど、ここら辺も効果的です。とにかく、普通にデザインしてるところがないんですよ。

清水:個人的には「よく見れば凝ってるのかな」ってくらいでしたけど。

渕野:もっと言うと、また“軸”の話になっちゃうんですけど、RXはキャラクターラインだけ見るとCピラーのところで折れてるように見えますよね。そのままだと軸が通ってないように感じますけど、前後のシルエットのピークと窓肩のウエッジがそろってて、軸が通っているように見えるんです。まとまっていないようで、すごいまとまってる。高度なことをやるもんだなって思います。

清水:高度すぎて全然わかんない(笑)。

渕野:で、さらにフロントです。

清水:いよいよスピンドルボディー!

渕野:スピンドルグリルはグラフィックで見せようとしてたんだけど、RXは立体で見せようとしてます。グリルに向かうボンネットの段差、この“立ち壁”(Aピラー基部とフロントノーズをつなぐ、ボンネットの段差の側壁部分)ですけど、普通はピラー付近は立ち気味で、そこからだんだん寝ていくようにするんです。そのほうが本来はスムーズだし、RXも先代はそうなってました。でも現行のRXは、先端近くまですごく立ってるんですよ。スピンドルボディーを表現するためには、ここまでやらないとできなかったんだろうなと思います。近くで見ると、ちょっとやりすぎなんじゃないかって思いますけど、遠目だと気にならないので、「これも正解なんだろうな」と。まぁいろいろ考えさせられるクルマです。

清水:うーん、そういうのは隠し味なんでしょうけど、もっと直球で攻めてもいいんじゃないかな。

渕野:デザインをこねくり回しているように見えるわけですね?

清水:そうです。小技に走りすぎて、全体としての訴求が薄かった「L-finesse」のころのレクサスを思い出しますよ。私はRXじゃなく、「LX」の顔が大好きなんです!

ほった:出たー!!

リアまわりではフェンダーの立体が車体の角で途切れることなく、そのままリアに回り込んでおり、前からの流れを途切れさせない。(写真:向後一宏)
リアまわりではフェンダーの立体が車体の角で途切れることなく、そのままリアに回り込んでおり、前からの流れを途切れさせない。(写真:向後一宏)拡大
キャラクターラインだけを見るとCピラーのあたりで“軸”が折れて見える「RX」だが、実際にはボディーサイドのピークを結ぶ線と、サイドウィンドウ下部のベルトラインが平行に走っており、それで見る者に軸を感じさせているのだ。
キャラクターラインだけを見るとCピラーのあたりで“軸”が折れて見える「RX」だが、実際にはボディーサイドのピークを結ぶ線と、サイドウィンドウ下部のベルトラインが平行に走っており、それで見る者に軸を感じさせているのだ。拡大
フロントマスクを立体的な造形として、ボディーの立体をかたちづくる構成要素とした「スピンドルボディー」。2021年発表のコンセプトモデル「レクサスLF-Zエレクトリファイド」で初めて提唱され、順次市販モデルに取り入れられていった。
フロントマスクを立体的な造形として、ボディーの立体をかたちづくる構成要素とした「スピンドルボディー」。2021年発表のコンセプトモデル「レクサスLF-Zエレクトリファイド」で初めて提唱され、順次市販モデルに取り入れられていった。拡大
4代目(上)と5代目(下)の「レクサスRX」のフロントまわり。Aピラーの基部から始まるボンネットの段差が、4代目ではだんだん寝かされていくのに対し、5代目ではそのままの立ち具合で突き出したノーズまで続いている。
4代目(上)と5代目(下)の「レクサスRX」のフロントまわり。Aピラーの基部から始まるボンネットの段差が、4代目ではだんだん寝かされていくのに対し、5代目ではそのままの立ち具合で突き出したノーズまで続いている。拡大

「レクサスLX」もスピンドルボディーにすべき?

清水:LXはRXとは真逆で、まさに顔だけっていう感じでしょう。ボディーは基本「トヨタ・ランドクルーザー“300”」なんで、あんまりいじりようもないですけど、LXのスピンドルグリルは最高に好きだな。これって昔の変身ヒーローものみたいじゃないですか。『変身忍者 嵐』とか。

ほった:古すぎません?

清水:じゃ『バロム・1』とか(笑)。シンプルでブッとい横桟のスピンドグリルを、わざわざ縁ナシで浮かせてる。このドカーン! っていうインパクトが最高なんですよ! 今後のレクサスは全部コレになるのかなって期待してたら、小技なスピンドルボディーになっちゃったんで、とっても残念な気持ちです。

渕野:それはユーザー目線というか、自分が買う立場でそう感じるんですか?

清水:もちろんです。私は常にその目線しかないので。LXは、オフロード4WDのデザインとしては最強だなって思います。

渕野:LXのグリルは、モチーフ的にはすーごいデカいけど、構成はシンプルなんで、これはこれで悪くはないとは思います。でもグリルをこういう風に主張すること自体、今のご時世にはちょっと古いんじゃないかなと。例えば「NX」は普通のスピンドルグリルが付いてるじゃないですか。最初、自分はRXよりNXのほうがスポーティーでいいかなと思ってたんだけど、今ではもう顔まわりが古く見えてきた。あるいは「LBX」のほうが今風に感じる。

ほった:LXも、グラデーショングリルにしたほうがいいってことですか?

渕野:そうは言いませんけど、LXはグリルの存在感が大きすぎて、ボディーの流れとだいぶ異なる印象があるんですね。トレンドとしても、もう少しボディーとインテグレートさせたほうがいいのではないかと思った次第です。

レクサスSUV商品群の頂点に君臨する「LX」。その実は「トヨタ・ランドクルーザー“300”」のレクサス版だ。ベース車譲りのタフネスと悪路走破性に加え、ゴージャスさと圧倒的な存在感を併せ持つ。(写真:花村英典)
レクサスSUV商品群の頂点に君臨する「LX」。その実は「トヨタ・ランドクルーザー“300”」のレクサス版だ。ベース車譲りのタフネスと悪路走破性に加え、ゴージャスさと圧倒的な存在感を併せ持つ。(写真:花村英典)拡大
見よ! この人類の欲望をむき出しにしたかのようなフロントグリルを。トヨタいわく「7組のフローティングバーで立体形状をつくり、フレームのないシームレスな構成としました」というが、そんなへ理屈はどうでもよくなる迫力である。写真でもスゴいが、実物はもっとスゴい。(写真:花村英典)
見よ! この人類の欲望をむき出しにしたかのようなフロントグリルを。トヨタいわく「7組のフローティングバーで立体形状をつくり、フレームのないシームレスな構成としました」というが、そんなへ理屈はどうでもよくなる迫力である。写真でもスゴいが、実物はもっとスゴい。(写真:花村英典)拡大
現行型「レクサスRX」(上)と「レクサスLX」(下)。 
渕野「やはりLXのグリルは今っぽくないというか……」 
清水&ほった「違う! そーじゃないんですよっ!!」
現行型「レクサスRX」(上)と「レクサスLX」(下)。 
	渕野「やはりLXのグリルは今っぽくないというか……」 
	清水&ほった「違う! そーじゃないんですよっ!!」拡大

日本が誇る世界最強のオラオラマシン

ほった:LXはSUVじゃなくてクロスカントリー車ですよね。クロカンのデザインって、普通のクルマとはまた全然別な文法があるんじゃないかな。「スズキ・ジムニー」や「メルセデス・ベンツGクラス」みたいに。

渕野:クロスカントリーだったら、自分はLXより「GX」ですね。ランクルだって“300”より“250”のほうがいい。いや、“300”だったらまだわかるんですけど、LXはさらにこんなに大きなスピンドルグリルを付けてるわけで(笑)、ユーザー像がいまいちよくわからない。

清水:LXのオーナーは主に中東の富裕層ですけど、日本でも究極のオラオラ系でしょう。「世界最強コワモテ決定戦」で、LXは今、かなり頂点に近いところにいってると思います!

ほった:(笑)むちゃくちゃ脱線しましたけど、とりあえず無理やり着地させると、トヨタはこういう風なところにも、引き出しがあるとはいえるんじゃないかと。

清水:ホントは引き出しなんてそんなにたくさんなくていいんだけど。俺は、LXのスピンドルグリルを全レクサスに採用してもらいたかった(全員笑)!

ほった:それはやめてくれー! このスピンドルグリルがLBXに付いたら、バランスが大爆発でしょ。

清水:いやいや、トヨタはそれなりにアレンジしてくれるよきっと。とにかくそこが残念。今のトヨタデザインで一番残念なのはそこです(笑)!

ほった:そこかよ! あのグリル、実物見たらすっごい威圧感ですよ。「BMW XM」とタメ張れる。

清水:XMも最高じゃん! 男は強くなりたいんだよ!

渕野:いやー、わっかんない世界ですね。

webCGほったはじめ、全世界のカーマニアが愛してやまない「スズキ・ジムニー」。 
ほった「クロカンって、普通のカーデザインとは微妙に違う文法があると思うんですよね。ジムニーなんて、顔もバンパーも全部とってつけたようなナリしてますけど、最高にカッコいいじゃないですか」
webCGほったはじめ、全世界のカーマニアが愛してやまない「スズキ・ジムニー」。 
	ほった「クロカンって、普通のカーデザインとは微妙に違う文法があると思うんですよね。ジムニーなんて、顔もバンパーも全部とってつけたようなナリしてますけど、最高にカッコいいじゃないですか」拡大
2024年秋の日本発売を予定している「レクサスGX」。兄貴分の「LX」と比べると、グリルとフロントマスク、ボディーサイドに一体感があり、グリルから始まる横方向の流れが、そのままドアへと続いていくデザインとなっている。
2024年秋の日本発売を予定している「レクサスGX」。兄貴分の「LX」と比べると、グリルとフロントマスク、ボディーサイドに一体感があり、グリルから始まる横方向の流れが、そのままドアへと続いていくデザインとなっている。拡大
渕野「『レクサスLX』って、どんな人が購入されるんですか?」 
清水「中東の富豪とかですね」 
ほった「聞いて驚け、リアにゴージャスなキャプテンシートを備えた4人乗り仕様もあるんですよ」
渕野「『レクサスLX』って、どんな人が購入されるんですか?」 
	清水「中東の富豪とかですね」 
	ほった「聞いて驚け、リアにゴージャスなキャプテンシートを備えた4人乗り仕様もあるんですよ」拡大
清水「レクサスがみんなこの顔になればよかったのに!」 
ほった「いーや違います。この顔は、キング・オブ・レクサスの『LX』だからこそさんぜんと輝くのですよ」
清水「レクサスがみんなこの顔になればよかったのに!」 
	ほった「いーや違います。この顔は、キング・オブ・レクサスの『LX』だからこそさんぜんと輝くのですよ」拡大

地味だけど実はスゴい「トヨタ・アクア」

清水:つい勢いでレクサスの話ばっかりになっちゃいました。

ほった:トヨタデザインの話なのに、トヨタ車が出てこない(笑)。

清水:トヨタだと、個人的には地味に「アクア」が好きなんだよね。どこかフランス車みたいにオシャレに見えるんだ。

渕野:かなり凝ったデザインしてますからね。これ、「ヤリス」とつくり分けてる理由ってなんでしたっけ?

ほった:アクアはスペースユーティリティー系ですね。

清水:ヤリスと比べたら荷室と後席の広さはだいぶ違いますよ。

渕野:いやだから、ヤリスじゃなくてアクアのパッケージで十分じゃないの? って思うんですけど。

ほった:ああ、それは同感です。ワタシも前身の「ヴィッツ」のころから、そう思ってました。ヤリスがあるのは、ヨーロッパとかのパーソナル需要に応えるためですかねぇ?

渕野:デザイン的にヤリスはリアのボリュームと全体のボリュームがちょっとずれてる感じがあります。意図的なのですが、個人的にはもう少し一体感があるほうがいいと思ってしまいます。全体的なシルエットもやや丸すぎてメリハリがない印象がありますね。それに対してアクアは、同じくリアを別立体にしているのですが、一体感がありメリハリもしっかりしてて好きです。

ほった:フォードのコンパクトカーっぽくも見えますね。

清水:アクアのデザインは品があるでしょう。ディテールで個性もそれなりに出してる。

渕野:個性があるのはディテールだけじゃないですよ。立体構成自体も……(パソコンをいじりつつ)これは恐らく、初期のころのスケッチですけど、立体構成もちゃんとこだわってるんです。

清水:実はとってもスタイリッシュなクルマで、実用性もある。存在は地味だけど、ヤリスより売れてもおかしくない。

ほった:「存在は地味」って、いやいやいや。自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計だと、この8月の販売は5000台強で、登録車ではランキング12位ですよ。十分売れてるじゃないですか。

清水:そっか、統計上のヤリスはヤリスと「ヤリス クロス」の合算だもんね。実際には、アクアはヤリスとそんなに変わんないぐらい売れてるのか。

渕野:似たようなコンパクトカーが、両方売れるって、すごいですよ。

2021年7月に発表・発売された2代目「トヨタ・アクア」。全グレードがハイブリッド仕様で、WLTCモードで29.3~34.6km/リッターという好燃費と、2600mmのホイールベースによる広い後席&荷室空間が魅力だ。
2021年7月に発表・発売された2代目「トヨタ・アクア」。全グレードがハイブリッド仕様で、WLTCモードで29.3~34.6km/リッターという好燃費と、2600mmのホイールベースによる広い後席&荷室空間が魅力だ。拡大
リアクオータービューはこんな感じ。上品さと適度な軽快感を併せ持つ、ナイスなデザインである。
リアクオータービューはこんな感じ。上品さと適度な軽快感を併せ持つ、ナイスなデザインである。拡大
同じ「GA-B」プラットフォームを採用するコンパクトカー「ヤリス」。似たようなモデルを2車種ラインナップして、それがともに売れているというのだから、トヨタの販売力は恐ろしい。
同じ「GA-B」プラットフォームを採用するコンパクトカー「ヤリス」。似たようなモデルを2車種ラインナップして、それがともに売れているというのだから、トヨタの販売力は恐ろしい。拡大
「アクア」のサイドビュー。 
ほった「あたりまえですけど、見比べると『ヤリス』とは結構狙いが違いますよね」 
渕野「コテコテしたところがありませんし、フォルムも凹凸のラインもシュッとしてますよね」 
(写真:向後一宏)
「アクア」のサイドビュー。 
	ほった「あたりまえですけど、見比べると『ヤリス』とは結構狙いが違いますよね」 
	渕野「コテコテしたところがありませんし、フォルムも凹凸のラインもシュッとしてますよね」 
	(写真:向後一宏)拡大
「アクア」の初期スケッチ。 
清水「けっこう躍動的なイメージだったんだねぇ」 
ほった「リアフェンダー前の絞りとかルーフスポイラーのあたりとかを見ると、実車にも、結構このスケッチの面影が残っている気がします」
「アクア」の初期スケッチ。 
	清水「けっこう躍動的なイメージだったんだねぇ」 
	ほった「リアフェンダー前の絞りとかルーフスポイラーのあたりとかを見ると、実車にも、結構このスケッチの面影が残っている気がします」拡大

よき忖度がまん延している……?

清水:とにかく、LXからアクアまでつくれるトヨタデザインは、やっぱり度量が広いと。

渕野:ほんとに広いです。最終的に決断してるのはデザインのトップだと思うんで、その人の懐が深いんですかね。

ほった:デザインのボスっていうと、サイモン・ハンフリーズさんですかね。豊田章男さんの社長就任もそうですが、ワタシとしちゃあ、サイモンさんが出てきてからトヨタのクルマが結構変わった印象なんですけど。

渕野:サイモンさんは、ずっとトヨタで働いてた人ですよね? 外部から来たわけじゃない。

ほった:そう、意外とたたき上げ。1994年入社で、2012年にトヨタデザイン部部長に就任です。“出てきてから”っていうのは、サイモンさんが偉い人になってからって意味です。

清水:うーん。それもそうだけど……。想像だけど、トヨタは全社的に、章男会長に対するよき忖度(そんたく)がまん延してるんじゃないかな。

ほった:……キモい表現ですね。言いたいことはわかるけど。

清水:章男さんに褒められないと生きていけない! みたいな。章男さんの口グセは「もっといいクルマをつくろうよ!」なので、デザイン含め、そこに向かって全社で上昇してる気がする。よき帝王によるよき統治って感じで。

ほった:やっぱりキモい! まぁでも、章男さんに関しては、スポーツカー以外では細かく口を出すっていう話はあんまり聞かないですけどね。「これが本当にお前たちの100%?」みたいなことは言われるみたいですけど。

清水:うわ、なんという前向きなケチの付け方!

渕野:いや、そうかもしれない。なんでもかんでも口を出すのはやめて、だんだんこう、任せるところは任せる方向になっていったんじゃないですか。

清水:そして部下がいい方向に忖度する。

渕野:それだったら、悪いことではないかなと。

ほった:……それでもちょっと、個人的にはなんかコワいですけどね。

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、向後一宏、花村英典、webCG/編集=堀田剛資)

トヨタ自動車の取締役・執行役員 チーフブランディングオフィサーを務める、サイモン・ハンフリーズ氏。 
トヨタ自動車の取締役・執行役員 チーフブランディングオフィサーを務める、サイモン・ハンフリーズ氏。 拡大
皆さんご存じ、トヨタ自動車の豊田章男会長。トヨタとしては久々の創業家出身のリーダーで、2009年から2023年まで14年にわたりトヨタの社長を務め、「もっといいクルマをつくろうよ」を合言葉にクルマづくりや商品ラインナップの改革を推し進めた。
皆さんご存じ、トヨタ自動車の豊田章男会長。トヨタとしては久々の創業家出身のリーダーで、2009年から2023年まで14年にわたりトヨタの社長を務め、「もっといいクルマをつくろうよ」を合言葉にクルマづくりや商品ラインナップの改革を推し進めた。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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