第5回:トヨタ・ランドクルーザー“250”(前編)
2023.12.13 カーデザイン曼荼羅荒野にはロマンがある!
2023年8月の世界初公開以来、ずーっと話題沸騰中の「トヨタ・ランドクルーザー“250”」。ランクルファミリーのイカツいニューフェイスがまとうカッコよさの秘密とは? デザイナー歴20年の有識者とともに、ランクル250のデザインのキモを探ってみた。
webCGほった(以下、ほった):今回のお題はランドクルーザー“250”です。兄貴分の「ランクル300」も、一時は納車待ち5年なんていうとんでもないことになりましたが、こっちもタマの奪い合いになりそうな気配が濃厚ですね。発売はもうちょっと先だけど。
清水草一(以下、清水):デザイン的には300より250じゃないかと思うなぁ。こっちのほうがシンプルだし、バランスがいいし、しかも丸目がある!
ほった:まさに数え役満。いまどきのクルマ好きが泣いて喜ぶ要素がそろってますね。
渕野健太郎(以下、渕野):ランクル250は、一応は「ランドクルーザープラド」の系統で、先代にあたるそのプラドは、ラダーフレーム車のなかではやや乗用志向だったじゃないですか。で、それを今回は昔のランクルのアイコンを使って、タフで武骨なものに仕立ててきた。今、こういうデザインのクルマを欲しがる人って、とても多いと思うんですよ。
清水:もうスピードにロマンはないけれど、悪路を走破する性能にはロマンがある……ような気がします。実際には悪路を走らなくても。
渕野:ここ何年か、世界中でアウトドアブームじゃないですか。クルマのカタチもよりラギッドな……ラギッドという言葉、わかりますかね?
ほった:武骨とか、粗削りっていう意味ですよね。
渕野:そう。ラギッド方向に向かってるクルマが多いですよね。そのきっかけは、現行「トヨタRAV4」なのかなと思ってます。日本市場でもこれが出てから、一気に流れが変わりました。SUVに求められてるものが、よりラギッド志向になった。その流れがSUVだけじゃなく、例えば軽自動車の「スズキ・スペーシア ギア」や「三菱デリカミニ」なんかにも波及したんじゃないかな。
清水:軽ハイトワゴンは元が四角いから、オフロード風にドレスアップすると、すぐ「メルセデス・ベンツGクラス」っぽく見えますしね。
ほった:んなバカな(笑)。
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ちょっと気になるフロントマスクの“お面”ぽさ
渕野:ランクル250に話を戻すと、基本的な構成はシカクい箱にしっかりとした幅のフェンダーが付いている、この手のクルマの王道的なスタイルです。実車を見たら、フェンダーの“出しろ”が結構しっかりあって、「ランドローバー・ディフェンダー」まではいかないですけど、それに近いレベルのボリュームでした。サイドを見ると、ウィンドウの下端がリアドアの中ほどで一段持ち上がっていますけど、実はルーフラインも微妙に前傾姿勢なんですよ。
ほった:よーく見るとそうですね。
渕野:そんなわけでスポーティーさも十分な感じです。基本的なデザインがすごくいいんですね。最近のトヨタのデザインはシンプル方向に振れていますけど、このクルマも余計なことはしていなくて、すごく好感が持てます。のびのびと素直にやってるなぁと思いました。
清水:小細工してない感じが、男から見て男前ですよ。女性にもモテそうだ。
渕野:議論があるとすれば、顔まわりかなと思います。ランクル250の前に、兄弟車の「レクサスGX」が出ましたけど、写真で見たとき「これカッコイイな」って素直に感じたんですよね。シンプルで明快な面構成で、フロントフェイスにボディーとの連続性が感じられるから、カタマリ感がすごく強い。シルエットを素直に表現しつつ、レクサス顔もぴったりはまってる感じで、とにかく完成度が高いなと思いました。
対するランクル250は、完全に顔とサイドパネルを切り離しているんですよね。フェンダーとは分断されて違う面になっている。レクサスと同じようなボディーの面構成で、顔の部分だけグラフィックを切り替えてる感じなんです。
清水:言われてみれば……。
渕野:なおかつボディー色の部分が浮島みたいになっていたりして……。
ほった:ウキシマ?
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クラシックなランクル、実はモダンなディフェンダー
渕野:ランクル250のフロントバンパーは、黒の縁取りで本体から独立していて、左右のボディー色のところが浮いているような構成なんです。で、この部位がクルマ全体の“強さ”と比べて、華奢(きゃしゃ)な感じに見えるんですよ。小さなパネルでフタをしたみたいで、やや繊細というか……。
ほった:確かに。バーン! としたサイドとかと比べると、フロントだけつくりが細かく見えますね。でも、顔の造作がほかの箇所より複雑なのは、ディフェンダーとかも同じですよね。
渕野:ディフェンダーは顔の面が完全にボディーとつながっている、または連続性があるんで、グラフィックは同じようでも強さがしっかり出ています。ちなみにですけど、ディフェンダーはランプなんかも全部車体色で塗りつぶしたら、ボディーがツルツルなんですよ。一部出っ張りもありますけど、基本的にはツルツル。
清水:塑像みたいですよね。芸術品っぽい。
渕野:間違えてほしくないのは、武骨だからイカンというわけではないんです。ランドローバーの連続性がある洗練されたデザインに対して、ランクル250は、前、横、リア、天井、それぞれ明快に面が分かれているような、武骨なデザインが魅力なんです。そのなかで、顔まわりだけ細分化されすぎていて、全体の強さについていけてない感じがして、少しもったいないと思ったんです。
清水:でも、この顔もレトロなイメージで悪くないんじゃないでしょうか。GXは面はシンプルでもランプやグリルのカタチは複雑ですし、ランクル250のほうが、ズドーンとストレートを投げている感じがしてイイですよ!
ほった:ワタシゃどっちも好きですよ。
渕野:いずれにせよランクル250は、ランドローバー系のような洗練方向じゃなく、昔のランクルを想起させるような武骨さが魅力のクルマということですね。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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