第809回:モデューロの「実効空力」を体験! 「ホンダ・シビック」用空力パーツの実力を試す
2024.11.03 エディターから一言![]() |
日常使いでも違いがわかる? ホンダの純正カスタマイズパーツブランド「Modulo(モデューロ)」の空力パーツには、「実効空力」なる思想が取り入れられているという。その実際の効能を、2種類のパーツ装着車を乗り比べて確かめた。
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モデューロ製空力パーツの特徴となる「実効空力」
ホンダの純正カスタマイズパーツブランドであるモデューロ。2024年の今年は、そのモデューロが誕生してから30年の節目となる。
歴史をひも解くと、まずはホンダの純正用品を手がけるホンダアクセスが製造する純正ホイールブランドとして1994年に誕生。1995年の車両法規制の緩和(いわゆるチューニング解禁)に合わせて商品展開を広げ、ホイールやエアロパーツ、サスペンションなど、数多くのアフターパーツをリリースしてきた。
特徴は、ホンダの生産車両と同じ、厳しい基準でパーツを開発していること。それゆえ、アフターパーツであっても高いクオリティーを誇るのだ。今回は、そんなモデューロのエアロパーツの“効き”を試す、いささか特殊な試乗会に参加した。
彼らの手になるエアロパーツを説明する際、キーワードとなるのが「実効空力」だ。その意は「日常の速度域でも体感できる空力効果」というもの。モデューロでは、1996年発売の「プレリュード」用エアロパーツの開発において、初めて空気力学を導入。その後も「S2000」用(1999年)などのパーツ開発を通して技術を磨いてきた。そして、2008年に今日に通じる実効空力の思想を取り入れた「シビック タイプR」(FD2)用のエアロパーツをリリース。その考えはコンプリートカーである「Modulo(モデューロ)X」シリーズにも採用され、進化を続けている。
そんな実効空力アイテムの最新作となるのが、この2024年11月に発売となる「シビック用テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)」(6万8200円)だ。
キモは羽の下の“ギザギザ”
この新しいシビック用テールゲートスポイラーの特徴は、ホンダアクセスが「ヴェゼル モデューロX」の開発を通じて生み出した、シェブロン(鋸歯)形状の空力デバイスを搭載していること。ウイングの裏面をのぞくと、のこぎりの歯のようなギザギザの段差を確認できる。このシェブロンが、走行中に車両後方に生じる空気の乱流を抑制。クルマにかかるダウンフォースを安定させるのだ。しかもその効果は、直進時だけでなく、直進から旋回への過渡領域でも持続するという。またウイングの両端にある翼端板は、車体側面の風を受け流し、旋回時の走行安定性向上にも貢献するという。
ちなみに、このシェブロンが採用されたリアウイングは、今回が初出ではない。2022年に発売されたシビック タイプR用のウイングが初で、そもそもそれを通常のシビック用に開発し直したのが、今回の製品なのだ。ダウンフォース量を通常のシビック向けにリセッティングし、翼断面形状も見直したという。
ちなみにこの製品は、実は「東京オートサロン2023」の出展車両「シビックe:HEV SPORTS ACCESSORY CONCEPT」に装着されるかたちで広くお披露目済みでもある。世のホンダディーラーでは予約受注も始まっており、すでに相当数の注文が入っているのだとか。
今回の取材では、そんなシビック用テールゲートスポイラーの効果を体感試乗することができた。コースは「群馬サイクルスポーツセンター」だ。名前のとおり自転車用につくられたコースは非常に狭く、ツイスティーであり、大きなアップダウンがある。加えてイベント当日には、前日の雨が路面に積もる大量の落ち葉をぬらしていた。タイトでコーナーがきつく、しかも滑りやすいという、なんともシビれる試乗条件である。
重心が下がったかのような安定感と安心感
まずはモデューロが2021年に発売した、既出のテールゲートスポイラーを装着した「シビック RS」でコースを走る。この製品はシンプルでスタイリッシュなルックスで人気となっているが、実効空力は取り入れられていないという。もっとも、それで何か不足があったかといえば、そんなことはない。狭くツイスティーなコースを慎重に走ってみれば、シビック RSの素直でダイレクトな走り味のよさを実感することができた。ムリをしなければ、普通にスポーツ走行が楽しめたのだ。
次いで、このウイングを、シェブロンのあるテールゲートスポイラーに交換する。ホンダアクセスのスタッフによる作業を見ていると、ウイングをボディーに固定するステーは共用となっている様子で、交換はわずか数分で済んでしまった(※実際の購入時に交換する際はディーラーでの作業になる)。
あらためてコースを走りだすと、ひとつ、ふたつとコーナーを抜けるほどに、じわじわとその効果が感じられる。先に“通常ウイング”で走ったときと比べると、まるで重心が下がったような安定感と安心感があるのだ。思い返せば、通常ウイングの装着車は車体が時にフワフワとして、爪先立ちで走っているかのような印象があった。それに対して“シェブロン付き”のウイング装着車は、中腰で走っているかのような感覚なのだ。加えて直進時も旋回時も、そして直進から旋回に入る途中でも、そのフィーリングが変化しない。
タイムアタックをしたわけではないので、“何秒アップ”と目に見える数字が出るわけではない。そもそもむやみに飛ばしたわけではなく、あくまで安全マージンをしっかりと確保したうえでのスポーツ走行である。しかしそんな走りであっても、フィーリングとしての安心感は確実にアップしていた。まさに、日常の速度域での効果=実効空力というわけだ。
「実効空力」を生み出す開発の基礎
今回のメディア向け体験試乗会では、この実効空力を開発するうえでホンダアクセスが実施している、“学習のための実験”のクルマにも試乗することができた。その名も「実効空力“感” 実効空力エアロパーツ実験車」だ。
……名前のセンスはさておき、これは実効空力の開発に際して、開発関係者のボディーコントロール技術を磨くための車両だという。“空力”と言いながらもエアロパーツは皆無で、ボディー補強のみが行われている。ノーマルの「フィット」を脱着可能な鉄のバーでガチガチに固めたものだ。バーの数は50以上。これを付けて走り、外して走り、そのフィーリングの違いをモデューロの開発メンバーが体感していくという。その結果として、ソリッドな乗り味とはどういうものなのかを理解するのだ。
実際に試乗してみると、ほんの数本バーを外しただけでも走行フィーリングに変化が生まれた。フロントエンドのラジエーター下のバーを外すと、いきなりステアリングのフィールが緩くなるのだ。逆に車内の後ろ側のバーを外すと、今度は乗り心地がよくなり、同時にクルマの向きが変わるのが遅くなる。こうしてボディー剛性の変化と実走時のフィーリングの変化をすり合わせることで、ボディーバランスの勘所を学んでいくというのだ。ホンダアクセスが計算や理論だけではなく、走り込みやそこでのフィーリングを大切にして部品を開発していることが実感できる取材となった。
そうした開発のスタンス自体も、いささかマニアックではあるけれど、モデューロの大きな魅力のひとつと言えるだろう。
(文と写真=鈴木ケンイチ/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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