トライアンフ・スピードツイン1200(6MT)/スピードツイン1200RS(6MT)
攻めのネオクラシック 2024.12.16 試乗記 英国の伝統的ブランド、トライアンフから「スピードツイン1200」の大幅改良モデルが登場。5年ぶりのマイナーチェンジで“走りのネオクラシック”はどのように進化したのか? スペイン・マヨルカ島で開催された国際試乗会から、ケニー佐川がリポートする。“ボンネビル系”の最速マシンが大幅に進化
スピードツインは、かつて世界最速を誇ったスポーツバイクだった。1937年にトライアンフ初の並列2気筒エンジンを積んだモデルとして登場し、当時の世界最速となる90mph(約145km/h)の最高速を達成したのだ。
その不朽の名を冠した新生スピードツインが登場したのが2019年(参照)。「ボンネビル」に代表されるトライアンフのモダンクラシック系で、最も高性能な「スラクストンR」をベースに開発された“カスタムロードスター”として現代によみがえった。その後、「ストリートツイン」の「スピードツイン900」への改称に伴い、車名をスピードツイン1200に変更。今回さらに熟成を重ね、スタイリングと走りのパフォーマンスを磨いた大幅改良モデルが発表された。基本モデルに加え、よりスポーツ性能を高めた上級版の「スピードツイン1200RS」が新たに設定されたこともトピックだ。
エンジンは、従来の1197cc水冷並列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)をベースに、クランクの軽量化やカムのプロファイル変更、高圧縮化などによって大幅にアップデート。最高出力は5PSアップの105PSを達成しており、同時に軽量化もなされている。
足まわりも進化しており、基本仕様の1200では前後にマルゾッキ製のサスペンション(リア側はサブタンク付き)を、フロントブレーキにはφ320mmのダブルディスクとトライアンフブランドの4ピストンラジアルキャリパーを装備。コーナリングABSを新たに採用するなど、安全性も高められている。いっぽうの1200RSでは、フロントにマルゾッキ製、リアにオーリンズ製の全調整式サスペンションが与えられ、フロントブレーキにはブレンボ製4ピストンラジアルキャリパーを採用。クイックシフターを標準装備としハイグリップタイヤを履くなど、大幅にスポーツ性能を高めた仕様となっている。
スタイリングも見直され、新型のLEDヘッドライトやTFTディスプレイなど、トライアンフ伝統のクラシカルな雰囲気のなかにもモダンな意匠と機能・装備が織り込まれた。
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はじけるトルクに現代的なハンドリング
まずは基本仕様の1200から試乗。タンクまわりがスリムになり、全体的に洗練されたスタイルとなっている。またがると、ライディングポジションは従来型に比べてハンドルが高くなり、自然に上体が起きてリラックスできるものに。サスペンションはややソフトな印象で、初期の沈み込みが心地よく、シートも前方が絞り込まれているため数値(シート高=805mm)以上に足つきもいい。
伝統のバーチカルツインが生み出す重厚で力強いサウンドは、それ自体が最高のBGMだ。アシストスリッパー付きのクラッチは軽く、シフト操作にも節度感があり発進もスムーズ。こうした操作系一つひとつの洗練された動作が気持ちよく、現代のバイクであることを実感できる。
ライドモードは「レイン」と「ロード」の2種類があり、どちらも反応は穏やかで扱いやすく、コーナーで車体が寝ている状態からでもためらいなくスロットルを開けていける。うっかりして分厚いトルクで後輪を滑らせそうになっても、トラコンが控えめに入ってくれるので安心だ。とはいえ、1.2リッターの排気量が吐き出すトルクは圧倒的。3000rpmも回していれば、270°クランクの小気味よい鼓動とともに、何速からでも豪快に加速していく。従来型との違いが表れるのは高回転での伸びで、ピークが500rpm高くなりワンギアで長く引っ張れるようになったため、ギアチェンジに余裕が出た。ほんの少しの違いだが、従来型では「もう少し上が欲しい」と感じていた部分を見事にカバーしてくれている。
大柄に見えてホイールベースは1414mm、車重216kgと、意外にもコンパクトで軽い。ほぼミドルクラスと同等だ。おまけにキャスター角やトレール量など、車体ディメンションにも走りにこだわった数値が見て取れる。そこにトルクフルな出力特性とくれば、「走りのよさ」は期待どおり。前後サスペンションの動きもスムーズで、アクセルのオン/オフによる車体姿勢もつくりやすく、1.2リッターの大型バイクとは思えないほど軽快にワインディングロードを切り返していける。まさに現代のハンドリングだ。新型のラジアルキャリパーが与えられたブレーキは、強力でありながらも扱いやすく、コーナー進入時の微妙な速度コントロールも余裕でこなせる。リアタイヤが160サイズと、クラスとしては細めなのも軽快なフットワークに寄与しているはずだ。
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ネオクラシック系では最高レベルの走り
続いて1200RSだが、これが別物といっていいほど異なるキャラに仕上がっていた。基本仕様の1200に比べると、ハンドルはだいぶ低く、4cm後退したステップ位置からして攻めのスタイル。前後フルアジャスタブルのサスペンションは完全にスポーツ寄りで、しっかり荷重をかけて仕事をさせるタイプだ。ひたすら軽やかなフットワークで楽に切り返していける1200に対し、1200RSはちょっと手応えを覚えるハンドリングで、コーナーではしっかり荷重をかけて倒し込み、立ち上がりではスロットルを開けて後輪にトラクションをかけてやると、路面に吸い付くような接地感を返してくれる。違いを端的に表現すると「サクッと乗れて自由自在」なのが1200、「積極的に乗りこなすのがめちゃくちゃ楽しい」のが1200RSだ。
エンジンは共通だが1200RSではライディングモードに「スポーツ」が追加されていて、これがけっこうアグレッシブ。高度にチューニングされているとはいえ、もとがまったり系のバーチカルツインでキビキビと走りたければ、このモード一択だろう。それでもなお、ボンネビル系の味わい深さも見事に両立していて、エンジンを回さずとも、というよりむしろ低い回転域のほうが湧き上がる鼓動とサウンドが気持ちよく、分厚いトルクで地面を蹴って、しなやかに曲がっていく。
ブレンボの最新ラジアルブレーキやメッツラーの「レーステックRR」など、スーパースポーツ並みの強靱(きょうじん)な足まわりを見て最初はやりすぎだと思ったが、実際に一日ワインディングでいい汗をかいてみて、このバイクが目指す方向性がはっきりと分かった。スポーティーでありながら、街乗りからツーリングまで幅広く楽しめるネオクラシックの1200に対し、1200RSは週末のワインディングロードはもちろん、サーキットも視野に入れた走りを堪能できる奥深いスポーツモデルなのだ。プライスにも差があるが、付いている機能パーツを見れば納得。「走り」のクオリティーを求める人には十二分に価値のある選択だと思う。
(文=佐川健太郎<ケニー佐川>/写真=トライアンフ モーターサイクルズ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トライアンフ・スピードツイン1200
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2070×792×1140mm
ホイールベース:1413mm
シート高:805mm
重量:216kg
エンジン:1197cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105PS(77kW)/7750rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:184万9000円~188万4000円
トライアンフ・スピードツイン1200RS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2073×792×1127mm
ホイールベース:1414mm
シート高:810mm
重量:216kg
エンジン:1197cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105PS(77kW)/7750rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:222万9000円
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佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
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