「ノマド」発売でどうなる? 「ジムニー シエラ」の中古車相場を考察する
2025.02.05 デイリーコラム流通在庫は約1300台
「スズキ・ジムニー シエラ」の5ドア版である「ジムニー ノマド」が2025年1月30日に発表され、同日、予約注文開始となった。各地のスズキディーラーには一刻も早くノマドの予約を完了せんとするユーザーが大挙押し寄せたようで、「うちの近所のディーラーでは行列になっていたよ!」と知人から聞いた。
だが、早くも相当な数の予約注文が入ったとみて間違いないジムニー ノマドの発表により、即納プレミアム価格を載っけたうえで大量に展示されている「ジムニー シエラの未使用中古車」の相場は、今後どうなるのだろうか?
もちろん未来の事象を正確に見通すことなどできはしないが、筆者は「暴落の可能性大」とみている。
まずは現状を整理しよう。2025年1月半ば時点では約1300台が流通していた現行型ジムニー シエラだったが、ノマドの発表から2日後の2月1日には約1400台に増加。同日時点での平均価格は約263万円である。中古車流通の8割以上を占めている上級グレード「JC(4AT)」の新車本体価格が218.35万円なので、載っかっている即納プレミアム価格は「おおむね45万円」ということになる。
そして現行型ジムニー シエラの「走行100km未満の中古車」に限った場合の、2025年2月1日現在のグレード別流通量と価格イメージは下記のとおりだ。
- JC(5MT):約30台(総額230万円~)
- JC(4AT):約470台(総額240万円~)
- JL(5MT):約5台(総額270万円~)
- JL(4AT):約5台(総額250万円~)
見てのとおり「上級グレードのAT車」であるJC(4AT)の比率が圧倒的に高い。ガチなオフローダーであるJL(5MT)の流通量は「皆無」とまではいえないが、限りなく皆無に近いとはいえる。これが、現時点における「未使用系中古シエラ」の傾向だ。
新車のシエラの納期が大幅に短縮
つまり現在、現行型ジムニー シエラの未使用中古車に即納プレミアム価格を乗せて販売している業者の多くは「ガチなオフローダーを探している本格系ユーザー」ではなく、「どちらかといえばファッション目線でジムニー シエラを見ている層」をターゲットにしていると考えていいだろう。
そしてジムニー ノマドの予約注文開始によって、現行型シエラまわりではおおむね下記のような事象が発生している。
【注文済みの顧客の一部が車種をノマドに変更】
当然ながら店舗によってバラつきはあるだろうが、筆者がヒアリングした販売店では「3~4割ほどのお客が注文をノマドに変えた」とのこと。
【上記に伴い「新車のシエラ」の納期は短縮傾向に】
2024年春ごろは注文から1年以上待つ必要があったジムニー シエラの新車だが、直近では「7カ月ほど」に短縮されているもよう。ノマドの発表とユーザーの注文車種変更に伴い、シエラの納期は今後さらに短縮していくと思われる。
現在はおおむね7カ月とみられるシエラの納期が今後、具体的には何カ月になるのかは分からない。だが仮に5カ月程度にまで短縮された場合、一般的なユーザーが「新車より数十万円割高な(未使用または超低走行とはいえ)中古のシエラ」を、わざわざ選択するだろうか?
「今この瞬間にジムニー シエラが納車されないと困る!」という、何らかの特殊な事情がある人以外は選ばないだろう。ほとんどの人は即納中古のシエラを買う代わりに「新車のシエラを注文して5カ月ぐらい待つ」か、あるいは「納車まで長期間待たされることを承知でノマドを予約する」という行動に出るはず。
これらの結果として現在の店頭在庫はだぶつき、そしてAA(業者向けの中古車オークション)でも高値で落札されるケースが激減することで、現在の即納プレミアム価格が乗っかった中古シエラの相場は暴落するはず――と予想されるのだ。
自然な中古車価格に収束する!?
とはいえ今後、ジムニー シエラの中古車相場が正常化していくのであれば――つまり未使用系のおしゃれなJC(4AT)の相場が新車より若干安い総額200万円ぐらいまで下がり、それに連動して、オフロード系ガチ勢からの人気が高いJL(5MT)の走行1万km台ぐらいの中古車が、現在の「総額240万円前後」ではなく「総額180万円ぐらい」で狙えるようになるのであれば、中古のスズキ・ジムニー シエラには依然として十分以上の存在価値がある。
このたび発表されたジムニー ノマドもすてきなオフローダーではあり、大人気となっている理由もよく分かる。だがノマドは車重がエンジンパワーに対してやや重く、そして後部をフルフラットにすることはできないなど、決して完全無欠な存在ではない。クルマの好みや使用目的は人それぞれであるだけに、「自分はむしろノマドよりもシエラを積極的に選びたい!」というユーザーは、今後も一定数以上が存在し続けるはずだ。
未使用系シエラの高値転売を狙っていた業者にはお気の毒というほかないが、ジムニー ノマドの登場により、もしもジムニー シエラの中古車相場が暴落というか正常化するのであれば、それは「シエラ派の一般ユーザー」にとっては歓迎すべき事態でしかない。
(文=玉川ニコ/写真=スズキ/編集=藤沢 勝)

玉川 ニコ
自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。
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