いよいよ2025年シーズン開幕! F1でホンダがやろうとしていることの“意義”って何だ?
2025.03.14 デイリーコラムどこかスッキリしなかった説明会
去る2025年3月4日に開かれた、ホンダによるF1開幕前説明会。その末席を汚させていただいたのだが、正直どこかスッキリとしなかった。
どんな内容だったのか。プレスリリースのサマリーをそのまま抜き出せばこうなる。
- 2025年は1965年のHonda F1初優勝から60年となる記念の年
- F1はハードウエアにとどまらず、ソフトウエアにおいても世界最先端の技術開発の舞台
- 2024年に英国・ミルトンキーンズにHRC UKを設立し、活動開始
- F1はHondaの主要市場である北米での人気が拡大、若年ファンの増加が顕著。TV視聴者数は年間累計15億人超
- 2023年 F1の総収入は32億USドルに達し、世界有数のスポーツビジネスへ成長
- 鈴鹿サーキットでのF1グランプリ継続開催に向け、BtoC・BtoBでタッチポイントを拡大
- メモラビリア事業を検討、一例としてアイルトン・セナが使用したV10エンジンの部品を販売予定
これら一つひとつの背景や内容は十分に理解できる。登壇したホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治 代表取締役社長も、角田哲史 F1パワーユニット開発総責任者も、さらには鈴鹿サーキットを運営するホンダモビリティランドの斎藤 毅 代表取締役社長も、記者からの質問にも極めて丁寧かつ真面目に受け答えしてくれていた。
いや、むしろ真面目にすぎたのかもしれない。プレス向け説明会というよりも、まるで株主総会で「ホンダがF1に参戦する意義」が議題にあがっているような。妙に言い訳がましく聞こえたのだ。
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ホンダにとっての「F1参戦の意義」
ホンダが説明会で伝えたことを、簡単に振り返ってみたい。
渡辺社長が説いたのは、ずばりホンダがF1に参戦する意義。いわく、F1はハード、ソフト両面で世界最先端の戦いが繰り広げられており、毎週のようにレースでの試練が続く熾烈(しれつ)な競争の場で技術者が鍛えられ、その経験が量産車開発へと引き継がれていく、ということだ。実際、パワーユニットの開発総責任者を務めるHRCの角田氏も、「NSX」や「アコード」、「フィット」など市販車の開発を手がけながら、米CARTシリーズやF1(第3期)、MotoGPにも携わり、市販部門とレース活動を行き来してきたエンジニアである。
以前、HRC Sakuraを取材した記事(参照)でも書いたが、F1ほど短時間に多くを要求されるエンジニアリングの現場もないだろう。現在のF1のハイブリッド技術によるさまざまな知見が、将来的に「e:HEV」「eVTOL」といった量産部門に生かされるストーリーは説得力のあるものだ。
マーケティング分野でもF1参戦のメリットは大きい。2016年にアメリカのリバティ・メディアがF1の興行権を買収して以来、F1は商業的に活況を呈しており、特に北米エリアにおいてはアメリカでの3レースにカナダ、メキシコを加え年5回もレースが行われる。自動車メーカーにとって最重要ともいえるマーケットでのF1人気は、今般のホンダF1活動の「大義名分」ともいえるだろう。
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日本GPの開催継続に危機感?
一方で足元の日本では、日本GPの存続には一抹の不安が残る。F1は年間カレンダーが24戦にも膨れ上がり、これ以上増やすには限度がある。そして今もなお多くの国や都市が誘致合戦を水面下で繰り広げており、2029年まで開催契約を締結している鈴鹿サーキットとて安泰ではない。2024年の観客動員は22.9万人と3年連続で増加傾向にあるものの、ファンの平均年齢が、F1全体の37歳と比べ48歳と高齢化が進んでいるのも気がかりだ。
世界に日本GPをアピールするためには、観客動員数を増やすとともに、F1を介したビジネスを成長させていく必要がある、とホンダは考えている。そのために日本GP前にイベント「F1 TOKYO FAN FESTIVAL 2025」を東京・お台場で開催するなどし注目度をアップさせる。さらに初の試みとして、日本国内企業向けの「F1日本グランプリビジネスカンファレンス」を4月4日に鈴鹿で開催。他企業とのネットワークを築き、日本GPをビジネスの場として活用してもらおうともくろんでいる。
最後は「メモラビリア事業」という、レーシングパーツの販売だ。ホンダが歴代F1マシンやエンジンを動態保存し、もてぎと鈴鹿でその一部を展示していることは知られていることだが、これらパーツの一部を一般に販売することで、単なるコストセンターとしてのF1事業に、ある程度のプロフィットをもたらさんとしている。
どれも直面する課題に対する真摯(しんし)な対応ということができる。だが、どうしても違和感が拭えない。どうもおもしろさを感じない。ワクワクしないのである。
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技術者が育つからホンダを応援するのか?
この違和感は「ホンダらしさ」に起因している。本業の市販部門の状況次第で、F1から出たり、また入ったりするというあの“悪癖”のことである。
2021年シーズン限りでF1からの撤退を発表したのは2020年10月のこと。それが2023年5月の「2026年からの完全復帰発表」で一転した。この手のひら返しの裏では、FIA(国際自動車連盟)がパワーユニット規定の大幅改定に踏み切ったことがあったが、同時にホンダは今後の継続的な参戦のために、本田技研ではなく子会社のHRCに活動の主体を移した。
不確実性の時代、100年に一度の大変革に直面する自動車業界にあって、本業ではないレース活動にどこまでコミットできるかという難題に、子会社であるHRCが中心となってあたるのだから、そのメッセージは社内外の各方面に配慮した内容とならざるを得ない。言い訳がましくなるのも無理はない。
しかし、自動車メーカーにとって技術的、経済的な価値は不可欠なものだとしても、それだけで人はF1に熱中し、ホンダを応援しようとは思わないことも、また事実ではないだろうか。厳しいことを言えば、「ホンダの技術者が育つからF1を見る」というわけではないのである。
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ホンダは、F1を通じて文化を創造している
コンマ何秒を削るという、日常では気に留めることのない極小世界での競争が、どうして世界中の多くのファンを引きつけるのか。なぜ鈴鹿に詰めかける観客が思い思いのコスプレであらわれ、大枚はたいて遠方からサーキットへやってくるのか。あるいは眠い目をこすりながら地球の裏側でのレースをテレビで観戦するのか。
F1には、最先端技術の競争という合理の塊のような側面がある一方、人間を熱狂させたり感動させたりする、論理的に説明し難い魅力もある。その魅力に吸い寄せられた多くの人たちがつくり出すのが「文化」だとしたら、ホンダのしていることは、文化を創造していることにほかならない。歴史と輝かしい戦績に裏づけられた、もはや「本業」と言っても過言ではない事業だ。
新たにチャレンジしようとしているビジネスカンファレンスは、レースをきっかけにしたサロン(社交場)づくりだ。メモラビリア事業も、ホンダしか持ち得ないヘリテージ(遺産)を自社で囲うことなく、世に広めるための立派な文化事業である。日本GPの継続的な開催も、パーツ販売によるマネタイズも「手段」であって、目的は別のところ──F1文化の発展にある。
こう言い換えてみると、気持ちよくホンダを応援したくならないだろうか?
さて、2025年シーズンは今週末のオーストラリアGPでいよいよ開幕する。マックス・フェルスタッペンは5連覇を達成できるのか? 昨季マクラーレン・メルセデスにタイトルを奪われたレッドブル・ホンダは、パートナーシップ最後の年に有終の美を飾れるのか?
レースに一喜一憂し、人生の貴重な時間とおカネを費やすわれわれファンも、立派なF1文化の担い手である。さあ、これから始まる24戦の長い旅に、いざ行かん。
(文=柄谷悠人/写真=本田技研工業/編集=関 顕也)
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柄谷 悠人
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