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第306回:トルクより視力

2025.03.24 カーマニア人間国宝への道 清水 草一
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ハイブリッド型人工レンズで一発逆転を狙う

「○月×日の夜、『BMW M5』にお乗りになりますか」

担当サクライ君からのメールに、一瞬「大丈夫かな」と思った。その日はわが右目の、白内障手術の翌日だったからだ。

左目は2年前に白内障の手術を済ませたが、右目はまだそのまま。視力検査ではどっちも「1.0」以上見えているのに、両目で見るとメチャクチャになり、距離感もうまくつかめない。そして午後になると全体がぼやけてくる。このままではカーマニア生命の危機!

こうなったら右目にも、最高級のハイブリッド型人工レンズ(一個約38万円)を入れて左右をそろえ、一発逆転を狙うしかない! そんな崖っぷちだったのである。

白内障の手術に失敗のリスクはほとんどないが、問題はおそらく私の視覚認知機能にありそうだ。目医者さんは脳にはノータッチなので推測だが、左右の画像を脳内でうまく合体できていない気がする。目より脳が悪いのだ。手術翌日で、新たな視覚情報をちゃんと認識できるだろうか?

まあいいや、ダメならサクライ君の助手席で試乗すれば! と思い直し、いつものように「乗る乗る~」と返信しておいた。

手術は前回同様、猛烈に怖かった。しかしなんとか無事終わった。

今、白内障の手術なんて実質10分ちょい。終わったらすぐに見えるので、そのまま帰宅できる。医学の進歩はすさまじいが、脳までは治せない。南無三、見えてくれ! と天に祈りつつ、よろよろ歩いて帰った。

BMWのハイパフォーマンスモデル「M5」を相棒に、いつものように夜の首都高に出撃。ただ、この日がいつもと違っていたのは、わが右目の、白内障手術の翌日だったということである。
BMWのハイパフォーマンスモデル「M5」を相棒に、いつものように夜の首都高に出撃。ただ、この日がいつもと違っていたのは、わが右目の、白内障手術の翌日だったということである。拡大
「BMW 5シリーズ セダン」をベースとする「M5」は1984年に初代がデビュー。2024年10月に国内導入が発表された最新モデルは、7代目にあたる。
「BMW 5シリーズ セダン」をベースとする「M5」は1984年に初代がデビュー。2024年10月に国内導入が発表された最新モデルは、7代目にあたる。拡大
白内障の手術直後、保護メガネをかけて憔悴(しょうすい)した私。目の手術ってホントにこわい。だって見えてるんだから。
白内障の手術直後、保護メガネをかけて憔悴(しょうすい)した私。目の手術ってホントにこわい。だって見えてるんだから。拡大
「M5」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5095×1970×1510mm。「5シリーズ セダン」から拡大した前後トレッドや約50:50の前後重量配分、軽量設計ボディーなどの優れた基本性能が自慢。
「M5」のボディーサイズは全長×全幅×全高=5095×1970×1510mm。「5シリーズ セダン」から拡大した前後トレッドや約50:50の前後重量配分、軽量設計ボディーなどの優れた基本性能が自慢。拡大
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M5試乗を兼ねた目の試運転

翌日。

見えるには見えるが、右目はまだぼやけていた。大丈夫かM5試乗と思いつつ、静養に努める。

夜。サクライ君が爆音とともにやってきた。

外に出て周囲を見渡すと、おおっ、夜なのによく見える! いつもぼやけていた信号がクッキリ! 満月も輪郭がカッチリ! まだ近くはイマイチ見えないけど、遠くはしっかり見える!

感激に浸りながらM5の助手席に乗り込んだ。まずは助手席で視覚を確認だ。

オレ:これってエンジン何?
サクライ:V8ターボのプラグインハイブリッドです。
オレ:ひょっとして、俺が大好きな「XM」と同じヤツだね!
サクライ:基本は同じですけど、M5のほうがパワフルです。なにしろ1000N・mですから。

1000N・mというと、自然吸気エンジンなら1万cc相当になる。恐るべし新型M5。

首都高の代々木PAで運転を交代。いよいよM5試乗を兼ねた目の試運転だ。試運転が1000N・mなんだから、これに合格すればあと20年くらいカーマニア活動を続けられるだろう(だといいな)。

まずは助手席で術後の視覚を確認し、首都高の代々木PAで運転を交代。これに合格すればあと20年くらいカーマニア活動を続けられるだろう。その結果は?
まずは助手席で術後の視覚を確認し、首都高の代々木PAで運転を交代。これに合格すればあと20年くらいカーマニア活動を続けられるだろう。その結果は?拡大
最高出力585PS、最大トルク750N・mの4.4リッターV8ツインターボエンジンと、8段ATのハウジングに組み込まれた駆動用モーター、容量22.1kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーで構成されるプラグインハイブリッドシステムを搭載。そのシステム最高出力は727PS、同最大トルクは1000N・m!
最高出力585PS、最大トルク750N・mの4.4リッターV8ツインターボエンジンと、8段ATのハウジングに組み込まれた駆動用モーター、容量22.1kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーで構成されるプラグインハイブリッドシステムを搭載。そのシステム最高出力は727PS、同最大トルクは1000N・m!拡大
今回試乗した車両は、「フローズンディープグレー」という44万7000円の有償外板色をまとっていた。体育会系の筋肉質なボディーによく似合う。「M5」のキドニーグリルは中央部分が光らないので、大きな一つのグリルみたいに見えるタイプだったことが少し残念。
今回試乗した車両は、「フローズンディープグレー」という44万7000円の有償外板色をまとっていた。体育会系の筋肉質なボディーによく似合う。「M5」のキドニーグリルは中央部分が光らないので、大きな一つのグリルみたいに見えるタイプだったことが少し残念。拡大

最大トルクよりも重要なのは?

M5は代々木PAから元気よく飛び出した。さすが1000N・m。実にトルクフルだ。

でも私は、目がよく見えることのほうに1億倍感動していた。すべてがクッキリ見える! 前のクルマのナンバーすら読める! こんなの何年ぶり? 「きぬた歯科」の広告看板も、「性病科 中央医院」のネオンもハッキリ見える! うおおおお! なんてラクチンなんだろう! 

オレ:サクライ君、今日は目がよく見えるよ! きのう白内障の手術したからさ。
サクライ:え、いままでよく見えなかったんですか?
オレ:見えなかったよ! 案内標識の一番デカい文字も読めなかったりしたんだよ!
サクライ:へぇ~。ぜんぜん知りませんでした。

「M MODE」と呼ばれるM5のドライブモードを「SPORT」に変更。アクセルを床まで踏み抜く。1000N・mが火を噴き、M5は怒涛(どとう)の加速をみせた。

サクライ:さすがに速いですね。一瞬脳が揺れました。
オレ:速いね。でもこれでXMより速いの?
サクライ:XMは800N・mなので、こっちのほうがかなり速いはずです。
オレ:そうなんだ。でもそんなのぜんぜんわかんないよ!
サクライ:1000N・mって、思ったよりは速くないかもですね。
オレ:だね!

実際のところわがM5は、前が詰まると「ルークス」や「ハスラー」にブチ抜かれたりした。1000N・mが60N・m程度に軽々とインを刺されるのは痛快だった。

重要なのは最大トルクじゃない。目が見えるかどうかだ! 目さえ見えれば、カーマニアは元気に楽しく生きていける! そんなにたくさんトルクはいらない! それより目を大切に! 還暦過ぎたら眼科検診を受けましょう!

(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)

首都高を走っていて案内標識の一番デカい文字はもちろんのこと、「きぬた歯科」の広告看板もハッキリ見える。こんなの何年ぶり? なんてラクチンなんだろう! 「M5」の1000N・mにも感動したが、目がよく見えることのほうに1億倍感動していた。
首都高を走っていて案内標識の一番デカい文字はもちろんのこと、「きぬた歯科」の広告看板もハッキリ見える。こんなの何年ぶり? なんてラクチンなんだろう! 「M5」の1000N・mにも感動したが、目がよく見えることのほうに1億倍感動していた。拡大
「M5」のコックピット。日本仕様ではBMWインディビジュアルのレザーメリノシートやアルカンターラヘッドライナー、Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステムなどのほか、パノラマルーフに代えて30kg軽量なカーボンルーフが標準装備とされる。
「M5」のコックピット。日本仕様ではBMWインディビジュアルのレザーメリノシートやアルカンターラヘッドライナー、Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステムなどのほか、パノラマルーフに代えて30kg軽量なカーボンルーフが標準装備とされる。拡大
「M MODE」と呼ばれるドライビングモードの切り替え画面。「SPORT」を選択すると、アンビエントライトがブルーとレッドの「M」を象徴するカラーにともり、がぜんヤル気になれる。
「M MODE」と呼ばれるドライビングモードの切り替え画面。「SPORT」を選択すると、アンビエントライトがブルーとレッドの「M」を象徴するカラーにともり、がぜんヤル気になれる。拡大
中高年のカーマニアにとって大切なのは目が見えるかどうかだ! 目さえ見えれば、カーマニアは元気に楽しく生きていける! 還暦を過ぎたら眼科検診を受けましょう!
中高年のカーマニアにとって大切なのは目が見えるかどうかだ! 目さえ見えれば、カーマニアは元気に楽しく生きていける! 還暦を過ぎたら眼科検診を受けましょう!拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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