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第836回:日本市場に向き合うボッシュの戦略(後編) ―世界から日本へ、日本から世界へ発信される技術とアイデア―

2025.07.03 エディターから一言 林 愛子
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公道での実証実験で進む“E2E”ベースのADAS開発

ボッシュの年次記者会見では「パレットガレージアシストシステム」のほかにも、技術に関するさまざまな情報発信があった。

そのひとつが、公道での自動運転/先進運転支援に関するもの。ボッシュでは、2024年秋から東京や横浜周辺で米SAE(Society of Automotive Engineers)が定義する「レベル2」相当(写真キャプション参照)のシステムの試験走行を実施し、交通標識等の認識精度を高めてきた。日本の環境は、左側通行での運転や坂道における車速の調整など、他国とは異なるルールや複雑な都市構造、交通事情が特徴で、その難易度の高さもあって、システムのグローバル化における主要な拠点になっている。

実証実験の先に目指しているのは、各センサーのデータをもとに周辺状況を理解するプロセス全体を一貫して担う、E2E(エンドツーエンド)のAIをベースにしたADASスタックの量産化だ。現状ではレベル2相当の運転支援システムは、自動車専用道路での使用を想定したものが主だが、この技術の実装により、高度で複雑な認知・判断能力が求められる市街地でも、安定した車両の走行制御が可能になるという。すでに日本での実証実験では、各種交通標識や大小さまざまなトラックの認識を可能としており、また路上駐車車両を避けての走行や、複雑な都市交差点での通過の判断等にも対応。大都市における典型的な走行シーンでの自動運転を可能にしているという。

もちろん、認知・判断のベースとなる交通環境は、マーケットによって大きく異なる。グローバルで共通する技術と、それぞれの地域性を踏まえた技術。自動運転/先進運転支援を広く普及させていくには、そのどちらもが欠かせないのだ。

走行試験に用いられるボッシュの試験車両。「レベル2」相当のシステムとは、加減速と操舵の両方の車両制御を、限定された領域(例えば自動車専用道路など)で行う運転支援機能のこと。昨今の「ハンズフリー運転支援機能」などもここに含まれ、この区分内でのシステムの高度化が進んでいる。
走行試験に用いられるボッシュの試験車両。「レベル2」相当のシステムとは、加減速と操舵の両方の車両制御を、限定された領域(例えば自動車専用道路など)で行う運転支援機能のこと。昨今の「ハンズフリー運転支援機能」などもここに含まれ、この区分内でのシステムの高度化が進んでいる。拡大

一台のクルマで多彩な走りを実現

SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)については、ブレーキ、ステアリング、パワートレイン、サスペンションなど、車両制御のためのさまざまなアクチュエーターを統合制御するソリューション「ビークルモーションマネジメント」が登場。これを実装することで、一台のクルマで「アーバン」「スポーツ」「ラグジュアリー」といった、さまざまな走行モードを楽しむことができるという(参照)。

例えば、小さな子供を乗せているときには「コンフォートストップ機能」を備えたアーバンモードを選べば、停止時の車体の揺り返しを自動的に制御し、乗員に優しいブレーキをサポートしてくれるので穏やかな走行が可能だ。またスポーツモードに切り替えれば、ハンドルやブレーキの応答性を上げつつロールやピッチを抑えることで、俊敏なコーナリングと車体の安定を両立。山道などをさっそうとドライブできるという。

ソフトウエアの設定を変えるだけで、クルマのキャラクターをガラリと変えられるビークルモーションマネジメントについて、取締役副社長の松村宗夫氏は「将来のSDV時代を見据えた技術」だと位置づける。2025年初めには日本でコンセプト車両の試乗会を実施しており、今後も開発に注力するという。

ところで、いまだ業界内で一貫した定義のないSDVという言葉について、ボッシュは「ライフスタイルを通じて進化する車両であり、オンボードまたはオフボードのソフトウエアを変更することによって、重要機能を変更する」ものだとしている。その実装の鍵を握るのは、API(Application Programming Interface、異なるソフトウエアやシステム間で情報をやり取りするためのインターフェイス)の標準化と、オープンソースソフトウエア。ボッシュでは車載ソフトウエアの標準化を推進するJASPAR(Japan Automotive Software Platform and Architecture)のワーキンググループに参画し、APIの標準化に貢献したい考えだ。

北海道・女満別のSDV技術取材会より、「性能のカスタマイズ」機能の体験試乗に供された、「レクサスRZ」ベースの試作車。
北海道・女満別のSDV技術取材会より、「性能のカスタマイズ」機能の体験試乗に供された、「レクサスRZ」ベースの試作車。拡大
ボッシュ日本法人の松村宗夫取締役副社長。
ボッシュ日本法人の松村宗夫取締役副社長。拡大

事業の現場でAIやVRの活用を促進

今後さらなる発展が期待されるAIに関してだが、ボッシュはグローバル(ドイツ、フランス、イギリス、米国、ブラジル、中国、インド)および日本で、これに関する独自調査を実施。「10年後、最も影響力のあるテクノロジー」をAIとする回答は、グローバルでも日本でもその数は1位だったものの、回答全体に占める割合は、グローバルでは67%、日本では51%と、やや温度差があった。

また「AIスキルの重要性」に対する認識や、「AIで自分の仕事がリスクにさらされると思う」という回答の割合については大差なかったが、「職場でAIの研修を受けたことがある」割合は、グローバルで28%、日本では10%とここでも開きがあった。ボッシュの日本法人では、「従業員向けの生成AIツール『AskBosch』の平均月間アクセス数5万回以上」という目標を設定し、人材育成に力を入れていく考えだ。

またVR(バーチャルリアリティー)技術の利活用も進んでいる。新たに始まったのは、VR空間内で「iBooster」(電子制御ブレーキ)やESC(横滑り防止装置)といったビークルモーション事業部の製品を試すことができるというバーチャルショールーム。従来のカタログや写真では表現しきれなかった部分も、VRならばリアリティーをもって体感できるというわけだ。まずは客先への訪問時やイベントなどにおいて、スタッフが対面で説明しながら試してもらうことを想定しているという。

VR技術を用いたボッシュのバーチャルショールーム。
VR技術を用いたボッシュのバーチャルショールーム。拡大
バーチャルショールームに展示される「iBooster」(電子制御ブレーキ)。
バーチャルショールームに展示される「iBooster」(電子制御ブレーキ)。拡大

ドイツの研修を日本にいながら受講できる

さらに、製造ラインに従事するスタッフのトレーニングにもVRを活用する。通常、新しい製造ラインを導入する際には、担当者が数カ月間ドイツへ出向き、製造ラインで使用する機械の操作方法などを学ぶ。このトレーニング自体は大きく変わらないが、バーチャル空間にドイツの製造ラインと同じ機械を用意することで、担当者は予習・復習が可能になるのだ。

また、ドイツと日本で同じバーチャル空間を見ることができるので、新しい機械を導入した後に不明点が生じた場合にも、問題点を共有しやすく、ドイツのスタッフも指導しやすい。ボッシュでは2026年、栃木工場に次世代ESCの製造ラインを導入するとしている。VRを使ったトレーニングにより、本稼働がよりスムーズになりそうだ。

ボッシュの2025年の年次記者会見は、日本法人ならではの話題が非常に多く、新しい本社からアジア、そしてグローバルへと知見を広げていこうという前向きさを感じる内容だった。グローバルの技術を日本に適用することもあれば、日本の特殊事情を背景に磨かれた技術や生み出されたアイデアを、世界に発信することもあるだろう。グローバル企業の現地法人のあるべき姿を、これからも見せ続けてほしい。

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(文=林 愛子/写真=ボッシュ/編集=堀田剛資)

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VR技術を用いれば、日本にいながらドイツでの技術研修の受講が可能に。またバーチャル空間を介して、製造現場での問題の共有も容易となるとされる。
VR技術を用いれば、日本にいながらドイツでの技術研修の受講が可能に。またバーチャル空間を介して、製造現場での問題の共有も容易となるとされる。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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