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フィアット600ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)

フレンチ由来のイタリアン 2025.07.29 試乗記 渡辺 敏史 フィアットの小型クロスオーバー「600」に、ハイブリッド仕様の、その名も「600ハイブリッド」が登場。フィアットブランドのモデルながら、旧グループPSA系の技術で構成された一台は、いかなる走りをみせるのか? メーカーの未来を担う注目車種の実力に触れた。
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メーカーの命脈をつないだパワートレイン

BEV(電気自動車)シフトからマルチソリューション化へと、揺り戻しの時期にある欧州の自動車メーカーにおいて、ステランティスも戦略の見直しを急いでいる。直近の目標としては、2026年までに36モデルのxHEV(ハイブリッド車/プラグインハイブリッド車)の設定を掲げており、欧州ではすでに30モデルを発表済みだ。その中核に位置づけられるのが、このフィアット600ハイブリッドにも搭載されるマイルドハイブリッドのパワートレイン/ドライブトレインとなる。

エンジンは1.2リッター3気筒直噴ターボを搭載。排気量と気筒数から推察できるとおり、これは旧グループPSAの「EB2」型をベースとしており、ミラーサイクル化や可変ジオメトリーターボ、高圧インジェクターの採用など、40%以上の部品を新開発している。これに48Vの駆動用モーターとデュアルクラッチ式の6段変速機を一体化した「e-DCT」を組み合わせてHEV化したわけだ。ちなみにこのアクスルは、ベルギーのパンチパワートレインとの共同開発となるが、ステランティスはe-DCTを生産するイタリアの合弁会社を100%出資化するなど、xHEV需要拡大への対応を加速させている。ちなみにこのパンチパワートレイン、名前の軽さからスタートアップなどを想像するが、過去を探れば旧DAF系と、なかなか骨っぽいサプライヤーである。

このパワー&ドライブトレインを搭載したモデルは日本でも急速に数を増やしており、「シトロエンC4」や「アルファ・ロメオ・ジュニア」、プジョーの「308」「3008」などが挙げられる。グループ内では従来の1.5リッター4気筒ディーゼルの置換的位置づけでもあるというから、将来的には“ベルランゴ3兄弟”あたりにも搭載の波は広がるかもしれない。

アウトプットは600ハイブリッドの場合、エンジンは最高出力136PS、最大トルク230N・mで、モーターが同22PSと51N・m。システム最高出力は145PSと発表されている。ちなみに、欧州では車型に応じてリアにもモーターを付加したe-4WDの仕様もあれば、エンジン出力が100PSの仕様もありと、すでに多様化が進行中だ。駆動用バッテリーの容量は約0.9kWhとなり、最長1km、最速30km/hまではそれのみでの単独走行も可能となっている。

BEV版の「600e」より8カ月遅れで日本に導入された「600ハイブリッド」。そのパワートレインは48Vマイルドハイブリッドだが、わずかながらも“EV走行”ができる。
BEV版の「600e」より8カ月遅れで日本に導入された「600ハイブリッド」。そのパワートレインは48Vマイルドハイブリッドだが、わずかながらも“EV走行”ができる。拡大
内装色はベースグレードがブラック、「ラプリマ」がアイボリー(写真)。シフトはセンタークラスター下段の押しボタン式のセレクターで操作する。純正ではフタ無しの収納ボックスには、Type-AとType-CのUSBポート、12V電源ソケット、携帯端末用のワイヤレスチャージャーが装備される。
内装色はベースグレードがブラック、「ラプリマ」がアイボリー(写真)。シフトはセンタークラスター下段の押しボタン式のセレクターで操作する。純正ではフタ無しの収納ボックスには、Type-AとType-CのUSBポート、12V電源ソケット、携帯端末用のワイヤレスチャージャーが装備される。拡大
インフォテインメントシステムに加え、シートヒーターの操作機能なども統合された10.25インチのセンターディスプレイ。トムトムのナビゲーションシステムも搭載されている。
インフォテインメントシステムに加え、シートヒーターの操作機能なども統合された10.25インチのセンターディスプレイ。トムトムのナビゲーションシステムも搭載されている。拡大
パワーユニットは1.2リッター直3ガソリンターボエンジンに、6段DCT、48Vマイルドハイブリッド機構の組み合わせ。駆動用バッテリーはリチウムイオン式で、容量20Ah、総電圧43.8Vとなっている。
パワーユニットは1.2リッター直3ガソリンターボエンジンに、6段DCT、48Vマイルドハイブリッド機構の組み合わせ。駆動用バッテリーはリチウムイオン式で、容量20Ah、総電圧43.8Vとなっている。拡大
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今日のステランティスを支える旧グループPSA系の財産

600ハイブリッドのプラットフォームは「e-CMP」だ。「DS 3クロスバック」で初出となったCMP系アーキテクチャーは、電動化に向けて高い拡張性を備えていたが、現在のxHEV戦略においても重要な役割を果たすこととなる。ステランティスにとってはまさに助け舟、あってよかったCMPといったところだろうか。

車格的にはBセグメント級クロスオーバーと位置づけられる600ハイブリッドは、車内もまずまずの広さだ。大の男4人が長距離で……というには窮屈さも感じるかもしれないが、小柄な人や子供なら、後席でもまずまずくつろげるのではないだろうか。「ラプリマ」なら白基調の明るい内装色も開放感をさらに引き上げてくれる。荷室はフル乗車の状態でも385リッターとCセグメント級ハッチバックと同等の容量が確保されているから、実用面でも困ることはないだろう。

内装のデザインは至ってクリーンだ。質感に特筆するような点はないが「FIAT」ロゴのステッチを配した人工皮革のシートなど、気の利くディテールも要所にちりばめられている。インフォテインメントのソフトウエアはグループ内で共有されるものだが、空調の物理スイッチを独立配置するなど、使いやすさに配慮している点も好印象だ。

「ラプリマ」に装備される合成皮革のシート。前席はヒーター付きで、運転席にはアクティブランバーサポートや電動調整機構、マッサージ機能が搭載される。
「ラプリマ」に装備される合成皮革のシート。前席はヒーター付きで、運転席にはアクティブランバーサポートや電動調整機構、マッサージ機能が搭載される。拡大
リアシートは6:4の分割可倒式。フロントセンターコンソールの背面にはUSB Type-Cポートがひと口装備される。
リアシートは6:4の分割可倒式。フロントセンターコンソールの背面にはUSB Type-Cポートがひと口装備される。拡大
荷室容量はBEVの「600e」が360リッターなのに対し、「600ハイブリッド」は385リッター。「ラプリマ」ではハンズフリーパワーリフトゲートや、高さ調整機能付きのカーゴフロアが用意される。
荷室容量はBEVの「600e」が360リッターなのに対し、「600ハイブリッド」は385リッター。「ラプリマ」ではハンズフリーパワーリフトゲートや、高さ調整機能付きのカーゴフロアが用意される。拡大

良好な乗り心地、イマイチな実燃費

日本のハイブリッド車両に慣れ親しんできた身からすれば、e-DCTの走行感覚に電気仕掛けを感じる機会は少ないかもしれない。充電状況にもよるが、発進からアクセルをそっと踏み込んでいってもエンジンのかかりは早く、モーターのみで走っている状況は音や振動を注意深く観察していないと実感できないだろう。裏を返せば、それだけ連携が自然という見方もできるが、モーターの稼働としては実用的速度域での加速の際に、そのアシスト力の厚みが感じられるのではないだろうか。

高速域ではエンジンが主役となるが、EB2系の1.2リッター3気筒は相変わらず音振性能が高く、伸びやかな加速感でスピードをすいすい乗せていってくれる。上まできっちり回して使い切る気持ちよさみたいなものには乏しいが、実用ユニットとしては十分な仕事ぶりだ。このエンジンの端緒は初代プジョー208の登場した2012年までさかのぼるが、当初からその総合力には定評があった。ロングストロークの3気筒でエンジン長が短いぶんモーターの居場所にも困らず……と、e-DCTとの物理的相性もいい。これまた、あってよかったEB2というところだろう。

600ハイブリッドで特筆すべきは乗り心地のよさだ。プラットフォームの出自をどうこう言う話ではないが、高速域に至るまでふわりふわりと凹凸を受け止める感はちょっとフランス車っぽいところを思い浮かべる。操舵ゲインの立ち上がりはスロー気味でコーナーでのロールも大きめだが、鈍重な印象はない。旋回状態が忠実に姿勢に反映されているし、接地感もしっかり伝わってくるから、ドライバーは安心して山道にも臨むことができるだろう。

燃費については正直なところ、期待したほどの結果は出ていない。実はこの後にリポートするアルファ・ロメオ・ジュニアも同じような手応えだった。取材と撮影のためにイレギュラーな扱い方をしていることもあって、はっきりとは断じられないが、単純に高速を淡々と走らせるよりも、乗り方次第でどんと伸ばせる勘どころがありそうな気配は感じられた。そこを探るのもまた、e-DCTのお楽しみというところだろうか。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ステランティス ジャパン)

これも「ラプリマ」専用装備となる、ダイヤモンドカットの18インチアルミホイールと215/55R18サイズのタイヤ。ベースグレードは16インチスチールホイールと215/65R16サイズのタイヤの組み合わせとなる。
これも「ラプリマ」専用装備となる、ダイヤモンドカットの18インチアルミホイールと215/55R18サイズのタイヤ。ベースグレードは16インチスチールホイールと215/65R16サイズのタイヤの組み合わせとなる。拡大
7インチのTFTフルカラーマルチファンクションディスプレイ。車速/走行距離といった走行情報や、パワートレインの作動状態などに加え、ナビゲーションの地図画面も表示できる。
7インチのTFTフルカラーマルチファンクションディスプレイ。車速/走行距離といった走行情報や、パワートレインの作動状態などに加え、ナビゲーションの地図画面も表示できる。拡大
予防安全/運転支援システム関連では、ストップ&ゴー機能付きのアダプティブクルーズコントロールや、レーンポジションアシスト、ブラインドスポットモニターが「ラプリマ」の専用装備となる。
予防安全/運転支援システム関連では、ストップ&ゴー機能付きのアダプティブクルーズコントロールや、レーンポジションアシスト、ブラインドスポットモニターが「ラプリマ」の専用装備となる。拡大
「600ハイブリッド」のカタログ燃費は、ベースグレードで23.2km/リッター、「ラプリマ」で23.0km/リッター(WLTCモード)。今回の試乗では東京都内と千葉の内房エリアを200kmほど走行し、実燃費は車載計読みで13.8km/リッターとなった。
「600ハイブリッド」のカタログ燃費は、ベースグレードで23.2km/リッター、「ラプリマ」で23.0km/リッター(WLTCモード)。今回の試乗では東京都内と千葉の内房エリアを200kmほど走行し、実燃費は車載計読みで13.8km/リッターとなった。拡大
フィアット600ハイブリッド ラプリマ
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フィアット600ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】の画像拡大
 
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テスト車のデータ

フィアット600ハイブリッド ラプリマ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4200×1780×1595mm
ホイールベース:2560mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:136PS(100kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
システム最高出力:145PS
タイヤ:(前)215/55R18 99V XL/(後)215/55R18 99V XL(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:23.0km/リッター(WLTCモード)
価格:399万円/テスト車=404万5000円
オプション装備:ボディーカラー<スカイブルー>(5万5000円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1727km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:203.0km
使用燃料:15.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.3km/リッター(満タン法)/13.8km/リッター(車載燃費計計測値)

 
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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