第123回:新型「日産キックス」とゆかいな仲間たち(後編) ―ライバル比較で浮き彫りになる日産デザインの底力―
2026.08.05 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
日産ひさびさの話題作となっている新型「キックス」だが、盛況なコンパクトSUV市場は競合ひしめくレッドオーシャン! ライバルと比較しても、キックスのデザインは埋もれない逸品と言えるのか? カーデザインの識者とともに、日産デザインの実力に迫る。
(前編に戻る)
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最大のライバルはまさかの上品系
webCGほった(以下、ほった):日産にとってはひさびさのスマッシュヒットになりそうな新型キックスですが、マーケットのライバルと比べたらどんなもんなんでしょう? コンパクトSUVといえば日本でも最量販のセグメントなわけで、ライバルも秀作ぞろいだと思うんですが。
渕野健太郎(以下、渕野):キックスに一番近いライバルは「ホンダ・ヴェゼル」だと思います。そして、あれはすごく上品。
ほった:ですね、あれこそ水平基調の見本です。
清水草一(以下、清水):もう全身水平。美しい。
渕野:すごくちゃんとしたデザインだけど、一般ユーザーの評価はどうなんでしょう?
清水:いやもう、売れてるって事実が好評価の証しでしょう。少なくとも日本では、すごく評価が高い。
ほった:今年(2026年)上半期の販売でも、ベスト10に入っています。前年比はなんと116.8%。(自販連のデータ)
清水:不思議なことにコンパクトSUVクラスは、こういう「オラオラじゃない上品なデザイン」が売れるんだよね。
渕野:ただ、ヴェゼルってすごくさらっとした感じですけど、SUVとしてのツボは押さえているんですよ。自分がマイカーにしている「スバル・クロストレック」と並べると、顔の高さが全然違って驚きました。クロストレックは「インプレッサ」ベースなので、顔が結構下がっているんですけど、ヴェゼルは高くて厚い。しっかりSUV体形なんですよね。
清水:それもヒットの要素かな。さらっと適度に押しがある。
地味だけど侮れない「カローラ クロス」の存在
渕野:今回の新型キックスと比べたら、ヴェゼルはどう見えるんだろう? キックスってよく見ると、ルーフラインが先代とあんまり変わっていないんですよ。フロントガラスはひょっとしたら流用かな?
ほった:あー。試乗会でメーカーの人に聞けばよかった。
渕野:フロントガラスからルーフまでのラインは、先代に割と近いんです。それに対して、顔(ノーズ)はかなり分厚く変えてきた格好なんですね。このあたりは、ヴェゼルをベンチマークにしたのだろうと思います。
清水:このクラスで一番売れてますからね。
渕野:でもね、私はトヨタの「カローラ クロス」も好きなんです。すごくちゃんとしたデザインだと思うんですよ。こういう場ではあまり話題にならないですけど(笑)。
清水:空気みたいな超平均的な存在ですからね。個人的には、マイナーチェンジで顔が変わったのはよかった。その前はあまりにも凡庸すぎたので。
渕野:マイチェンでだいぶ車格が高くなった気はしますよね。プラス、特別仕様車で、「ハイラックス」みたいなタフな顔のカローラ クロスも出ましたよ。
ほった:(検索して)あ、ほんとだ。特別仕様車の「Z“アドベンチャー”」ですね。なんか顔だけのハッタリって感じもするけど(笑)。
渕野:カスタムカー的ですよね。オートサロンに並んでいるような。
清水:いずれにせよ、ずいぶん強そうになりましたよ。カローラ クロスは。
渕野:カローラクロスはシンプルな基本立体に強いフェンダーという、SUVとしてとても真っ当なデザインです。若い方がカスタムしてオシャレにも乗れそうですし、年配の方でも落ち着いて乗れそうな、懐の深さがありますね。
清水:カーマニア的には真っ先にスルーしちゃう存在だけど。
ほった:そんなカローラ クロスとヴェゼルが販売で競ってるわけで、やはりヴェゼルすげえ! ってことですね?
清水:だね。平均値とマニア好みが販売台数で競ってる。こんなことは滅多にない!(笑)
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個性的なライバルに競り勝つためのキックスの方策
渕野:ところで、マツダの「CX-30」は仲間たちの一人じゃないんですか?
ほった:おっと忘れてた。えーと(サイズ的に競合するか調べる)……CX-30は全長4395mmで、このなかでは一番長いですけど。
渕野:でも僅差ですね。
ほった:確かに。マツダのなかでも存在感が薄めなので、つい失念していました(汗)。仲間に入れてもいいと思います。
渕野:いや、デザインならCX-30は一番ですよ。デザインコンシャスなので室内の広さに関しては厳しいですけど。サイドビューを見ても、キャビンがだいぶちっちゃい。
清水:CX-30は最初から量販を狙ってないから、キックスとかカローラ クロスのライバルって感じが薄いんですよね。
ほった:キックスはこのクラスで後席が一番広いって、日産の人が自慢してました。
清水:CX-30は狭さが自慢かも(笑)。
渕野:こうして見ると、コンパクトSUVはそれぞれ個性が出てて、キャラクターがかなり違う。これっていいことですよね?
清水:間違いなく!
ほった:おのおのの方向性を見ると、キックスは一番「大きく見せよう!」って方向に振り切ってますね。
渕野:最近の日産って、割とそういうところを考えてますよね。これまでは、自分たちが「これがカッコいい」と思うものをつくっていた雰囲気がありますけど、キックスはライバルを見ながら、強みをしっかり出していった感じがします。
ほった:あと、キックスってより上級な「エクストレイル」に対しても、全く遠慮がないと思うんですよ。カローラ クロスは「ハリアー」や「RAV4」にすごく気を使って、小さくまとめてるけど。
渕野:その辺、ホンダはどうなんだろう。ヴェゼルの上に「ZR-V」があって下に「WR-V」がありますけど、どっちもほとんど話題になっていないですよね。
ほった:あんま意識していないんじゃないかな。販売的にもヴェゼルが突出している感じですね。CR-Vなんか、デビューしたばかりなのに50位以内にも入っていない。あれ結構好きなんだけどなぁ(泣)。
渕野:CR-Vは基本設計がちょっと古いですし。
清水:海外では3年半も前から売られているクルマだからね。
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新型「ジューク」に見る日産デザインの底力
ほった:古いといえば、新型キックスも2年くらい前に北米で出ているじゃないですか。それを思うと、2年前にすでにこれをつくっていた日産はスゴいと思う反面、「なんで2年も遅れて日本に入れるんだよ」って気もしてしまうんですよね。もし、もっと早くに日本にも来ていたら、もうちょっとライバルからお客さんを取れて、今見えている景色も、少しは違ってたかのもしれない。
渕野:そうですよね。商売的にもったいなかった気がします。
清水:日産は北米も欧州も中国も日本も中途半端で、世界中どの市場にも力を入れられてはなかった気がするよ。
渕野:日本ではコンパクトSUVがジャストサイズだし、商品性が高いと思うんですよ。だから日産にはキックスで頑張ってほしい。
清水:とりあえず、国内販売の目玉ができたのはよかった。存在感があるし。
渕野:存在感といえば、新型「ジューク」のデザインは皆さんどう思います? あれは本当に驚きますよ。面がポリゴンメッシュみたいで、三角形がいっぱい並んでて、これまでのクルマと全然違う。
ほった:あれって、ジャパンモビリティショーに出てた「ハイパーパンク」が元ですよね?
渕野:そう! あのアイデアを市販車に落とし込んだのが新型のジュークEVって感じです。これは本当に度胸があるデザインです。すごいですよ(画像を見せる)。
清水:げえっ! これホントに市販するんですか?
ほった:ヤバいですよね。こいつはぜひ日本にも入れてほしいな。
清水:でもこれは日本には来ないでしょ。電気自動車だから。
ほった:いやいやいやいや。こういうブッ飛んだのも入れてこその「日本マーケットも頑張ります!」でしょーよ。口先だけの日本重視は、聞き飽きましたわ。
清水:それは時期が来たらでいいんじゃない? 今は選択と集中。まずはキックスで頑張ってほしい! ……でも確かに、この新型ジュークはすごい。これを見ると、日産デザインはまだまだ力があるね。
渕野:本当にそう思います。
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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