第125回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(後編) ―古豪復活と新勢力の出現で進むミニバンデザインの多様化―
2026.08.19 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
帰ってきたキング・オブ・ミニバンこと新型「日産エルグランド」に、メルセデス・ベンツが世に問うた乗用MPVの「VLE」。古豪の復活とニューモデルの登場で、高級ミニバンのトレンドはどう変わるのか? オラオラ系が幅を利かすミニバンデザインの未来を考えた。
(前編に戻る)
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やっぱり気になるグラデーショングリル
webCGほった(以下、ほった):で、そろそろ新型エルグランドの話に戻りたいのですが……。このデザイン、ご世間的にはどうなんですかね? 国産高級ミニバンとしては珍しく、メッキグリルの威圧感で勝負していないんですけど。
渕野健太郎(以下、渕野):そうですね。このグラデーショングリル、一般的にはどうなんでしょう?
ほった:キラキラグリルを顔に貼っつけた旧来のミニバンに比べると、新しい表現をしようって気概は伝わりますが……。個人的には、ちょっとなぁって感じです(笑)。細かいドットやラインが並ぶ、グラデーショングリル自体がピンときてなくて。
渕野:新型「日産キックス」(参照:その1、その2)もそうですが、グリルとヘッドランプを一体化して、黒い面積を大きくすることで迫力を出しているんですよね。ただ一般的な目線で見ると、ちょっとクセが強すぎるかもしれません。
清水:いや、そうでもないでしょう。クセ強なら先代・現行「トヨタ・アルファード」の“鎧グリル”のほうがぜんぜん強烈だし、私は悪くないと思いますよ。
渕野:強烈というのとは、ちょっとクセの方向が違うんですけど(笑)。このグリルのグラデーションパターンは、デザイントレンドのひとつですね。ボディーとの境界線を曖昧にすることで、上品さを残しつつ迫力を出そうとする狙いです。ただエルグランドはそれが広範囲なので、もうちょっと落ち着かせたほうがより分かりやすかったのかなとも思います。
ほった:見ててゾワゾワするんですけど。
清水:確かに、トヨタのグラデーショングリルはほぼ同じパターンが並んでるから単なる網にも見えるけど、エルグランドみたいにパターンをゆがませると、生命体っぽさが強くなるよね。でもオレはエルグランドは許容範囲だな。最近のプジョーのグラデーショングリルのほうが苦手。
ほった:どっちもどっちでしょう。こうまでするなら、グリルっていう表現自体をなくせばいいのに。どうせほとんどダミーなんだし。
ステアリングホイールにみる日産とトヨタの違い
渕野:続いてインテリアに関してなんですけど、ステアリングホイールがなんと2本スポークです。
ほった:高級車で2本スポークは珍しいですよね。
渕野:特にエルグランドのインテリアは、横方向への視覚的な広がりをテーマにしていますから、運転席の目の前に、ノイズとなる縦方向のスポークを置きたくなかったんでしょう。おそらくは「リーフ」あたりと部品を共用しているんだと思いますが、最近の日産は2本スポークが主流です。
清水:まあしかし、やっぱり2本スポークはちょっと軽く見えるかな。
渕野:確かに、日本のミニバンユーザーや軽自動車ユーザーは、昔ながらの3本スポークに安心感を抱く人が多いですよね。ライバルのアルファードは、きっちりと3本スポークを採用しています。
ほった:トヨタは、そういうお約束は絶対外さないですから。
渕野:そうなんですよ。想像ですが、トヨタならデザイナーが「2本スポークにしたい」と主張しても、企画や役員審査の段階で「高級ミニバンなんだから3本スポークだ!」とあっさりはじかれる気がします。だけど日産やホンダでは、「シンプルでモダンにしたい」というデザイナー的感性が、そのまま通って世に出てくる。この辺り、メーカーの考え方が出て面白いですね。商売的には3本スポークが無難とも言えますが。
清水:そのほうが無難なことは間違いない。
渕野:もうひとつ気になったのが、シフトセレクターがやっぱりボタン式なんですよね、キックスと同じで。
清水:あれ、慣れないと使いづらいよね。
渕野:私は、ミニバンを含めシェアカーでも使われるような一般的なクルマでは、ボタン式シフトセレクターはあまりよくないと考えています。DやRに切り替えるたびに、ボタンの位置を目視で確認しなきゃならないので。安全面から見て、使う人のことを本当に考えているんですかね?
清水:慣れれば大丈夫! ってことなのかなぁ。
ほった:いや、コストカットでしょ。
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これならライバルとも伍して戦える
渕野:あと天井のつくり込みですが、エルグランドは割と一般的です。それに対してライバルのアルファードは、天井の真ん中に太いオーバーヘッドコンソールがズドーンと通っていて、その両側に独立したサンルーフや間接照明が付いていますよね。そうしたアルファードの分かりやすい演出は流石です。ただ、エルグランドのこれくらいのスッキリした知的なインテリアを求めている人もいますよね。
清水:だいぶ少ないでしょうけど(笑)。
渕野:そうしたあたりを除けば、インテリア全体はとてもいい仕上がりです。シンプルなモダンリビング調で、シートのつくりもものすごく立派で豪華。アルファードと比較しても、この質感なら十分に戦えると思いますよ。
それにアルファードのインテリアも、必ずしも皆にとって正解といえるものではありません。こちらのインパネは、最近のクルマとしては珍しく、センターコンソールからセンターモニターまでが縦につながるバーティカルパターンなんですよ。これだと、前席空間がどうしても狭く感じられる。横方向の広さ感を優先したい人は、エルグランドの広々としたレイアウトのほうが好印象なはずです。
清水:そこまで先進的な人がどれだけいるか……。
ほった:いや、ミニバンのトレンドも少しずつ変わってきている感じはしますよ。
渕野:アルファードのインパネは、一世代前の設計思想ですよね。2列目シートに乗るゲストを最優先したクルマです。それに対してエルグランドは、前席の環境にもこだわっている。スポーツカー的な演出とは違いますが、ドライバーが運転を楽しむ「ドライバーズミニバン」的なキャラクターを狙っています。お父さんが自身も運転を楽しみつつ家族を乗せるのに、すごくいい空間だと思いますよ。
清水:確かにキャラクターは変えないとね。同じ土俵じゃ勝負できないんだから。
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実は貴重なアルファードのサイズ感
渕野:同じ土俵に立たないという話だと、新型エルグランドって、アルファードよりサイズを上げてきましたよね?
ほった:全長は一緒ですが、全幅と全高が違いますね。全幅は1895mmで、1850mmのアルファードよりワイド。
渕野:アルファードは、機械式立体駐車場のパレットサイズに収めるために、その幅を死守してるんでしょう。対するエルグランドは、そこを超えて1895mmまで幅を広げて、全高もアルファードより高くしてきた。路上で並べたら視覚効果もあって、エルグランドのほうがだいぶデカく見えるはずです。あえて一回り大きく見せることで、アルファードを威圧する車格感、マウンティングを狙ったんでしょう。
ほった:それは結構ですけど……これがきっかけで高級ミニバンのサイズ競争なんて起きやしないですよね? ただでさえ信号待ちで視界をさえぎられるのに、迷惑この上ない。
渕野:(笑)。私は個人的に、前回触れたメルセデス・ベンツの新型VLEなら愛車として欲しいと感じます。ただサイズを考えると、日本の街なかで取り回ししやすいミドルクラスのモデルがあればもっといいですね。「VLC」みたいな。
ほった:つまりアルファードぐらいのサイズですね?
清水:あのサイズのミニバンって、結局すごく数が少ないんですよね。ステランティス3兄弟(プジョー・リフター、シトロエン・ベルランゴ、フィアット・ドブロ)のロングがだいたい同じだけど、高級系じゃなく道具系だし。
渕野:輸入車の空間系モデルは、そもそも選択肢が少ないですよね。以前あったシトロエンの「グランドC4ピカソ/スペースツアラー」あたりは、デザインも個性的で、広さと美しさを両立させた素晴らしい空間系モデルでしたけど、なくなってしまった。
清水:ヨーロッパでは「ミニバンなんてカッコ悪い」っていう価値観が根強かったうえに、最近はすべてSUVに飲み込まれつつある気がしますね。
渕野:それと比べると、軽から高級車まで多様な空間系モデルが存在する日本市場は、多様性を受け入れる土壌が圧倒的に広いんですよ。
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“オラオラ系”のトレンドは変わらないけれど……
ほった:ヨーロッパのミニバンで新しい提案があるのは、フォルクスワーゲンの「ID. Buzz」(参照)ぐらいですかね。
渕野:ID. Buzzは面白い選択肢ですね。デザインはすごくよくできてるし、魅力的です。あの内装の割り切った実用感は、日本の高級ミニバンユーザーからすると、ちょっと物足りないでしょうけど。
清水:いやー。あれはダメでしょ、日本では。街でぜんぜん見かけないよ。まったく売れてないんじゃない?
ほった:ホントに見かけないですよね。
渕野:ガレージに置いておくだけで人生が幸せになりそうな、ハッピーな形をしているのに。
ほった:デザインはステキなんですが、お値段900万円からの電気自動車(EV)のカジュアル系ミニバンって、マーケティングが大崩壊ですから。気張らないクルマにこんな札束払えるのは、ホントのお金持ちだけです。
渕野:そのお金持ちが、率先して買えばいいのに。
ほった:ホントのお金持ちは、そもそもミニバンにはいかんのです。日本で高級ミニバンをたしなむのは、人生の成功をアピりたがる上位中産階級さまでしょう。だからID. Buzzみたいな平和主義のデザインより、アルファードみたいな押しの強いデザインが選ばれるんだと思います。
清水:平和主義ならID. Buzzじゃなく、「ダイハツ・ムーヴ キャンバス」で十分だよ!(笑)
渕野:ということは、やっぱり強烈な存在感と車格感を持ったデザインこそ、このジャンルの正解ってことですね。
ほった:おそらくはそのとおりかと。で、その前提は変わらないなかでも、いろんな新興勢力が「新しい高級ミニバンのデザインとはなんぞや?」というのを多方向で提案し始めたんだと思います。高級ミニバン百花繚乱時代の到来に、期待しましょう。
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=ステランティス、トヨタ自動車、日産自動車、フォルクスワーゲン、ボルボ、メルセデス・ベンツ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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