第81回:革新のネオレトロ(前編) ―「フォルクスワーゲンID. Buzz」にみる“いいレトロデザイン”の条件―
2025.08.20 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
かの「フォルクスワーゲン・ニュービートル」の誕生から四半世紀が過ぎ、すっかりカーデザインのトレンドとして定着したネオレトロ。普通のクルマとは、ちょっと評価軸の違うそのデザインのよしあしは、なにで決まるのか? 最新作「ID. Buzz」を題材に考えた。
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最近のフォルクスワーゲンでいちばん真面目?
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は、自動車のレトロデザインについてです。ちょうどフォルクスワーゲンのID. Buzzも出たことですし(参照)、ここいらでひとつ、「いいレトロデザインとはなんぞや?」というのを考えてみたいと。
清水草一(以下、清水):ID. Buzzって、あのデンキのミニバンかぁ。正直、デザインについてあんまり言うことない気がするんだけど。
ほった:出はなをくじかないでください。渕野さんはどうですか?
渕野健太郎(以下、渕野):写真だけじゃわからないところもあったんで、昨日、実車を見てきました。
ほった:やたらデカいですよね。もっとちっちゃくてカワイイもんだと思ってました。
渕野:確かにデカかったですね。それもあって一見派手ですが、実は基本に忠実で、真面目なデザインだと思いました。その点では、今のフォルクスワーゲンのなかで、いちばんフォルクスワーゲンらしいかも。
清水:そういえばフォルクスワーゲンのデザインって、最近雑味が目立ちますよね。「ゴルフ」のアンダーグリルの触覚とか。
ほった:でも、ディテールについてはID. Buzzもかなりヤンチャしてますが。
渕野:ディテールというよりフォルムの話ですね。ID. Buzzはすごくフォルムがシンプルでしょう。ミニバンはミニバンなんだけど、ちゃんとプロポーションを意識したシルエットになっている。タイヤがデカいからっていうのもあるけど、ボディーの絞りとか、その絞った先の処理とか、すごくこだわっている。その結果、タイヤに全体のシルエットが融合してるんですよ。
ほった:なるほど。
渕野:リアを見ても、フェンダーがしっかり張り出している。ミニバンでこれだけタイヤが出ているクルマはない。だからスタンスがしっかりして見えるんです。デザイン的には、ミニバンのなかでいちばんスタンスがいいんじゃないかな?
清水:確かに、フェンダーがぐっと張り出したミニバンってないですね。
ヘッドランプはこれでよかったの?
渕野:ボディーサイドを見ても、キャビンの薄さに対して下まわりの厚さがあるから、スポーティーに見えますよね。これもミニバンのなかではトップかなと思います。
清水:そのぶん視界は削られるけど。
渕野:その点では、フロントガラスの位置関係もデザイン優先ですよね。運転席に対して、ウィンドウがかなり前にある。この点は、キャブフォワードだった“ワーゲンバス”のイメージを踏襲したかったんでしょう。ここはフォルクスワーゲン的な機能優先ではなくて、デザイン優先になってる。
清水:運転席からフロントガラスまで遠いところは、少し軽ハイトワゴンっぽいかな。
ほった:そこそこ大きさのあるクルマでそれをやられると、Aピラーがじゃまに見えるんですよね。視界の中に常に居座る感じで。
渕野:ID. Buzzの運転席に座ってみても、やっぱりAピラーがかなり前のほうにありました。横の三角窓がデカいので、ディーラーの人は「だから視界がすごくいいんですよ!」って言ってましたけど、それはフロントガラスが前のほうにあるからですよね(笑)。ガラスをもうちょい後ろに持ってきて、ピラーも(ドライバーから見て)手前に寄せたほうが、視界はよくなるはずです。
ほった:でも、それをやるとワーゲンバスじゃなくなっちゃうんでしょ?
渕野:ですね。なので、全体的にはこれでいいと思います。ここまで主張があるミニバンも少ないし。
清水:いいといえばいい。でもなんか刺さらない。
ほった:中途半端なんですかね?
渕野:そうですねぇ。ここまでやるんだったら、ヘッドランプも丸目にすればよかったんじゃないかな。「タイプ2」のオマージュなら。
ほった:(ID. Buzzの写真をにらみ)……モダンな丸目なら、確かにアリだ。
清水:ランプはゴルフや「パサート」まんまな感じですからね。統一デザインなのかな?
渕野:どうなんでしょうね。そもそも最近のフォルクスワーゲン顔ですけど、目がちょっと、怖くないですか?(笑)
清水:少なくともカワイくはないですね。ID. Buzzも、丸目だったら世間はもっと熱狂したかも。
渕野:そうかもしれません。
ほった:「あざとい」って反応する人も、出てくるんじゃないですか?
渕野:そこは兼ね合いでしょう。とにかく、そのほかの部分はすごくしっかりつくられています。ID. Buzzは。
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外見は力みすぎ、中身は……
清水:僕は、こういうクルマをあんまり真面目につくるのはどうかなーって思うんですよ。復活ビートルの2代目……確か「ザ・ビートル」って名前でしたけど、ラブ&ピースなレトロカーなのに幅が広くてタイヤが踏ん張りまくってて、スポーツカーみたいだったでしょ? クルマづくりがマジすぎて、受けなかった。ID. Buzzも、この顔だとワーゲンバスより「トヨタ・エスティマ」に近い。
ほった:さすがは顔重視の清水さん……って言いたいけど、確かにこりゃエスティマだわ。
渕野:あと、内装の質感ですね。「この値段でこれか」っていうのは、ちょっとありました。というより値段のほうが高すぎるんですけど。
ほった:ショートでざっくり900万円、ロングで1000万円ですね。
渕野:日本で「トヨタ・アルファード」を知ってる人は、特に内装が物足りないって感じるかもしれない。
清水:フォルクスワーゲンにしたら、アルファードとやり合うなんて考えてないでしょうけど。
ほった:ベクトルが真逆の存在ですからね。
渕野:カラーバリエーションを見ると、モノトーンもあるんですね。個人的には、ショートのモノトーンだったら結構カッコいいんじゃないかって思いました。
ほった:それだと超シンプルでしょうね。
清水:素うどんだね。
渕野:そういうのが好きな人もいっぱいいるはずなので、もうちょっと安かったらよかったのにって思います。
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愛されるには“スキ”が必要
清水:ところでさ、ワーゲンバスのファンって、まだいるんだろうか?
ほった:いや、いますよ。濃いーのが。もちろんマジのファンはこういうの買わないですけど。
清水:これを買うのってさ、「昔のワーゲンバスっていいな。でも古すぎて買えないな」って思ってる人でしょ? でもこの顔じゃ、ワーゲンバスを連想しないよね。そこが最大の問題じゃないかな。
ほった:いや~。単純に「あら、オシャレ」って買ってく人が、大半だと思いますよ。オリジナルの存在については、なんとなく知ってるっていう程度か、お店の人に聞いて初めて知るって感じじゃないですかね。
個人的には、各社がオラオラデザインでしかミニバンの付加価値を示せないなかで、ID. Buzzは新しい提案をしてきていると思います。「ホンダ・ステップワゴン」ともども、こういうのがあってもいい。だからワタシは、結構いいなとは思ってます。
清水:「結構いいな」くらいじゃダメなんだよ! 期待はもっと高かった。「ニュービートル」復活のときと同じくらい、ビッグスターが帰ってくる雰囲気だったでしょ。軽のそっくりさんじゃなくて、ついに本物が出るって(全員笑)。
ほった:「ムーヴ キャンバス」をそういう風に言うの、やめましょう(笑)。
清水:でも出てみたら、そうでもなかった。ID. Buzzはちゃんとできすぎていて、愛されるスキがないよ。
渕野:実物見たら、かなりデカいですしね。愛されるっていうより、存在感がスゴい。
ほった:相当デカいですよね。
渕野:繰り返しますけど、目がもう少しかわいかったら、もっとよかったかなと(笑)。
清水:そこですよ。やっぱりクルマは顔が命!
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「ID. Buzz」には夢がある ロマンがある
渕野:それにしても、フォルクスワーゲンはよくこれを日本に導入したなって思います。日本じゃ電気自動車(BEV)は売れませんから。
ほった:おそらくアドバルーンですよね。販売というより、一種の客寄せだと思います。実際、これが入ってきたことで、フォルクスワーゲンのイメージはかなりポジティブになりましたし。
渕野:外からディーラーを見たら、これまで地味なクルマばっかりでしたからね。お店にこのクルマがあるだけで、華やかになるんですよ。
ほった:そうそうそう。正直、理屈っぽいBEVとか買うぐらいなら、あえてこっちにいったほうが、人生ハッピーになっていいと思います。
渕野:いや、そのとおりでしょう。私はショート版がいいな。さすがにロングはちょっと長すぎる。
ほった:ワタシゃ、どうせだったらロングでドカーン! だなぁ。
渕野:ほら、そういう夢を語れるでしょ、このクルマ。
ほった:それもいいレトロデザインの条件かもしれませんね。真面目すぎず、愛されるスキがあって、そのクルマがある生活をポジティブに想像できること、みたいな。
清水:そうかなぁ。「ハイエース」のほうが夢があるんじゃないかな? シンプルで、なんでも積めて。
ほった:ハイエースのロマンとID. Buzzのロマンは別物でしょう。比較したってしょうがない。こっちにも、ユルくて適当で温かい夢があります。
渕野:数は少ないけど、実際にお金があってこういうのを欲する人もいるでしょうしね。
ほった:少なくていいんですよ。こんなクルマがそこらじゅうにいたら、駐車場問題がピンチです。アルファードですら、もっと減ってほしいと思いますもん。
清水:5ナンバー必須の時代が、懐かしいね。
(後編に続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フォルクスワーゲン、向後一宏、峰 昌宏、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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