ボルボC30 2.0e Aktiv(FF/6AT)/T5 R-DESIGN(FF/5AT)【試乗記】
バランス良好 2010.02.15 試乗記 ボルボC30 2.0e Aktiv(FF/6AT)/T5 R-DESIGN(FF/5AT)……327万5000円/389万円
ボルボの個性派クーペ「C30」がフェイスリフト。“安い”のと“凄い”の、2つのグレードを乗り比べてみた。
新デザインを先取り
「ボルボC30」の新しくなったところは見たまんま。最大の変更点はフロントまわりが「XC60」に似た新顔デザインに刷新されたことで、文字どおりの「フェイスリフト」と理解して間違いない。フロント側はバンパー、グリル、ヘッドランプはもちろんサイドフェンダーまで新しい。ボンネットは変わっていないそうだが、実物を見るとそれが意外に思えるほど、従来とは別物の抑揚がある。すでに写真が公開された新型「S60」も合わせて考えれば、今後のボルボはこうした“前のめり”デザインに移行していくということなのだろう。
リアバンパーもフロントに合わせた立体的な新デザインだが、イメージの変化は最小。C30の後ろ姿はもともと地味なフロントデザインとは対照的に前衛的だったから、今回のフェイスリフトで「やっと前後のバランスがとれた?」といえなくもない。
フェイス中心にエクステリアが大幅イメチェンしたかわりに、その他の部分の変更点は少ない。エクステリア以外に大きく変わったところといえば、いかにもこのご時世……で、モデルラインナップも整理されて日本仕様は2モデル体制となったことだろうか。ひとつが2.0リッター+デュアルクラッチ式6AT(パワーシフト)で300万円を切る「2.0e Aktiv」、もうひとつが5気筒ターボ+トルコン式5ATでエアロ満載、専用スポーツサス仕様の「T5 R-DESIGN」だ。
C30は2007年の発売時に2.4〜2.5リッターの5気筒(のターボと自然吸気)のみでスタートして、途中で2.0リッター4気筒がパワーシフトとともに追加されたり、R-DESIGNが限定販売されたりした。そんなこんなの経緯を経て、こうして最も安価なモデルと最も派手で高性能なモデルの両極端が残った……というわけだ。
![]() |
![]() |
![]() |
色々選べるインテリア
C30といえば発売当初から内外装の豊富なオプション(ボディガーニッシュも多様なカラーが用意されていた)が用意されていたが、そこを極端にリストラしなかったのはいいことだ。ボディカラー13色、シートがテキスタイルで13色、本革で9色あり、さらにホイールやインパネのセンタースタックパネルも数種類用意される。組み合わせパターンは相変わらず膨大だ。
このクルマのプラットフォームは、大ざっぱにいえば「フォード・フォーカス」と共通……ということは、わが国の「マツダ・アクセラ」とも色濃い血縁関係にある。衝突安全に関わるフロントセクションの一部は専用設計らしいが。
味つけの方向性をこれまた大ざっぱにいうと、ロールを抑制しすぎないナチュラルな身のこなしを信条とする欧州フォードより、ロールを押さえてミズスマシ的な俊敏さを演出するマツダに近い。もっとも、C30のインテリアはアクセラのそれよりはるかにコストがかかっているし、シートもボルボならではの大ぶりで堅牢なものだし、ステアリングホイールが大きく、ステアリングゲインもマツダほど高くないから、欧州高級コンパクトとして納得できる質感と重厚感が確保されているのは言うまでもない。
相性で選べば16インチ
最初に乗ったのは「2.0e Aktiv」だったが、注意しなくてはならないのは、試乗車はオプションの17インチホイールを履いていたことだ。標準は16インチなのだが、正直にいうと、この17インチホイールはクルマ全体の仕立てとのミスマッチ感が強い。
サスペンション自体はデビュー当初よりも滑らかにストロークしているようだが、ロールするより先にタイヤのコーナリングパワーが立ち上がり、さらにちょっとした路面の不整にも進路が影響されがちである。また、「三菱ランエボ」と同じくゲトラグが供給するパワーシフトはツインクラッチとは思えないほどヌルッと穏やかな変速(トルコンっぽさをあえて追求している)で、ほどほどパワーで吹け上がり軽快なエンジンともどもスポーティ一辺倒の性格では決してないから、どうにもタイヤだけが先走った感が否めないのだ。
今回は標準16インチ仕様の試乗がかなわなかったからもちろん断言はできないが、おそらく16インチなら、「ボルボ」という名前から期待される悠然さや快適さが味わえるだろう。
バランスが光る「T5」
もうひとつの「T5 R-DESIGN」はさらに大径の18インチホイールを履いていたが、こっちはこれが標準タイヤサイズで、そこに新開発のスポーツシャシーを組み合わせる。プレスリリースにも「ヨーロッパ全土でさまざまなテストを行いました」と書かれる自慢のシャシーだそうだが、東京のお台場近辺を走った印象では、その看板に偽りなし……といっていい。17インチを履いたAktivより硬めなのは当然としても、乗り心地はあくまでフラットで、上屋の動きは常にピタッと安定している。すべてが予測どおりに正確に反応するので、トータル的な意味での乗り心地、快適性もこっちのほうが上だと思った。
T5のエンジンがパワフルそのものなのはスペックを見ただけでわかるが、エンジンとギアボックス(トルコン5AT)とのマッチングも2.0eより良好だ。2.0eはエンジンレスポンスが俊敏なわりにパワーシフトの変速がスローで、そのせいでギクシャクする場面もある。パワーシフトの変速制御はもう少し熟成の余地がありそうだ。
クルマ全体の完成度はT5 R-DESIGNのほうが確実に高い。389万円という価格は2.0e Aktivよりかなり高価だが、たとえば同等価格の「アウディA3 1.8 TFSI」と比較すると動力性能ははるかに強力で、シャシー性能も互角以上といっていい。
C30はとにかくスタイルに惚れて買うクルマだろうけど、実用性も見た目以上に高い。後席も乗降性はともかく、フル4シーターとして十分に使えるし。オプションで自在に遊べるのもC30の魅力だが、2.0e Aktivでオプションホイールを選ぶかどうかだけは、慎重になったほうがいい。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)
![]() |
![]() |
![]() |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。