ロータス・エヴォーラ(MR/6MT)【試乗記】
大型新人 2009.12.29 試乗記 ロータス・エヴォーラ(MR/6MT)……1101万8000円
ロータスの新型スポーツカー「エヴォーラ」が日本上陸。3.5リッターV6をミドに積む、ブランニューモデルの実力に迫る。
体鍛えて階級アップ
こんなに素晴らしいスポーツカーだとは、夢にも思わなかった。「エリーゼ」の登場以来、13年ぶりにロータスが放つブランニューカーは、僕の予想をはるかに超えた質感、美しいスタイリング、そして素晴らしいハンドリングをもつミドシップスポーツカーだった。
「EVOLUTION」「VOGUE」「AURA」を組み合わせた、ロータス伝統の“Eから始まるネーミング”で「進化した新しいオーラを持つクルマ」を示すという「エヴォーラ」。このスポーツカーのなによりの特徴は、ロータス初となる、2+2のMRシャシーに、これまた久々の大排気量3.5リッターV6エンジンを搭載したことだろう。エリーゼの成功からひたすらにピュアスポーツ路線を打ち出してきたロータスだったが、やや大柄な「ヨーロッパ」での様子見を経て、ついに上級志向の路線を提案してきたわけである。
クルマの要となるのは、エリーゼから始まったアルミ押し出し材の接合シャシータブで、エヴォーラからはさらに、「VVA(Versatile Vehicle Architecture)シャシー」へと進化した。アルミ押し出し材の厚みや長さを変えることによって、フロントエンジン車はもとより、EVなど様々なモデル展開を可能とする新世代シャシーである。サイドシルの幅がエリーゼに比べ20mm狭くなった(100mm→80mm)おかげで、乗降性の向上といった成果も見られる。
またエヴォーラは、このVVAシャシーを中核に、フロントセクションはアルミ製、リアセクションはスチール製のモジュールサブフレームをジョイントした。レーシングカーのごとき手法で組み立てられたシャシーは、生産効率アップと同時に衝突時の衝撃分散性に優れており、万が一のクラッシュ時にもメインタブへのダメージと、修正コストを大幅に抑えることができるという。
見かけによらぬ身のこなし
新開発シャシーに抱かれるパワーユニットは、最高出力280psを発生するトヨタ製3.5リッターV6「2GR-FE」で、コンベンショナルな6段MTが組み合わされる。これはトヨタのミニバン「エスティマ」やスポーツハッチ「ブレイドマスター」などに用いられるフロント横置きのシステムをそっくりリアにコンバージョンしたもの。ただし、ECUと排気系にはロータスオリジナルのファインチューンが施されている。
そんなエヴォーラをドライブしてまず印象的だったのは、その「軽さ」だった。実際の車両重量は、オプション無しで1350kg。いまのロータス一族にあっては最も重いのだが、排気量が3.5リッターもあるエンジンを積むスポーツカーにしては、実際軽い部類に入るのである。
そして、楽しい! フロントに重量物を置かないMR車ならではのハンドリングは、例えば、同じMRスポーツカーの「ポルシェ・ケイマン」よりもダイレクトだ。細身のステアリングホイールからは、路面の起伏が小刻みに伝わってくる。しかしながら、絶妙なセッティングが施された油圧式パワーステアリングのおかげで、ドライバーは過度の重さを感じたり強いキックバックを受けることはない。
エリーゼ比で275mm延長されたホイールベースとも相まって、必要以上にドライバーを緊張させないのも美点である。もともと前軸荷重の小さなノーズをブレーキングで路面に押しつけつつ、コーナーにアプローチしても、エヴォーラのリアタイヤは路面をシッカリと捕え続ける。専用のビルシュタインダンパーとスプリング、ブッシュ、そして「ピレリ P ZERO」。それぞれが絶妙に絡み合い、実にナチュラルで、速いコーナリングを可能にしてくれる。腕に覚えのあるドライバーならば、比較的重心の高い横置きミドシップに対して不安定な挙動をイメージするかもしれないが、このクルマの身のこなしは、驚くほどに安定感があり軽やかだ。ABSの介入も最小限で、真綿で締めつけるような感覚のブレーキにも感嘆。AP製の4ポッドだと聞いて、思わず納得してしまった。
(ほぼ)完全無欠!
なにかアラ探しをしなくては、と思ったがアラがない。一見味気ないようなトヨタ製のV6エンジンも、「スポーツ」ボタンを押すだけでレスポンスが向上する。それに、ポルシェやフェラーリを手に入れて、そのエンジントラブルに対する不安(お金の面も含めて)を胸に過ごすよりも、はるかに健康的ではないか。右ハンドル仕様の試乗車は、タイヤハウスとの位置関係からABCペダルの配置がやや左側へとオフセットされていたが、それとて慣れてしまえば違和感は感じない。どうしても気になるのなら、左ハンドル車を選べばいいわけだし。
インテリアに目をやれば、革張りのインストゥルメントパネルからは上質感があふれ、その中央には国産のカーナビ。まわりに点在するタッチ式のメタル製スイッチが斬新性をアピールする。リアにはさらに2名ぶんのシートが――このシートに人間が収まることは事実上不可能だが――あり、ラゲッジスペースとしての実用性は高い。2+2の安心感は不要、という向きにはちゃんと2シーターという選択肢まで用意されている。
……もう、完璧である。
ロータスに「高級志向」を求めると、それとひきかえに、ロータス本来のスポーティさが失われるのではないか? と思うかもしれない。また、高級とはいっても、ポルシェのようなクオリティや、フェラーリのような艶やかさは、求めるべくもないのではないか? とも。
でも、心配はいらない。確かにエヴォーラは、ポルシェでも、フェラーリでもないけれど、ロータスでしか得られないハンドリングとエレガントさを併せ持っている。じつは僕にも、将来はポルシェ911かフェラーリのV8モデルを所有したいという夢があって……このエヴォーラがそれに匹敵する存在であることは、間違いない。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。