スズキ・ワゴンR FXリミテッド(FF/CVT)【試乗記】
「ワゴンR」というブランド 2012.10.22 試乗記 スズキ・ワゴンR FXリミテッド(FF/CVT)……132万3000円
見た目の印象は変えずに、さらなる室内空間の拡大と低燃費を目標に進化した新型「ワゴンR」。上級グレードでその実力を試した。
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模範的な後部座席だけど
ガクン! と首が揺すられて、ハッとした。「スズキ・ワゴンR」の後部座席に座って、いつの間にかうつらうつらしていたらしい。早朝からの撮影を終え、高速道路を使って東京へ戻る途中だ。先ほどまで寝息を立てていたカメラマン氏が、いまは元気にクルマを走らせている。
ワゴンRのリアシートは、広い。先代型より長くなったホイールベースの延長分25mmが、そのまま前後乗員間距離の拡大、つまり後席の足元を広げることに充てられた。個人的には、後席を後ろにスライドさせたときに、土台の部分が座面より前に出るのが視覚的に気になるのだが、実用上はふくらはぎの後ろの空間を狭めるだけなので、問題ない。
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見た目が平板で、背もたれの高さももう少しほしいところだが、シートの座り心地はまずまず。ワゴンR伝統の、四角いボックススタイルが奏功して、膝前、頭上、頭部横と、十分な空間が取られる。大人二人が問題なく実用的に使うことができるリアシートだ。背もたれは分割可倒式になっているので、個々にフラットにすることもできるし、さらに助手席の背もたれを前に倒せば、長尺物を搭載することも可能。
……と、静的な状態では廉価な実用コンパクトとして模範的な後部座席なのだが、走行中には意外と突き上げが気になる。ワゴンRのリアサスペンションは、左右輪をつなぐクロスビームを前方からのトレーリングアームでつる形式で、左右の位置決めはパナールロッドで行う。古めのサスペンション形式が悪いとは一概に言えないが、新型ワゴンRの場合、ほかの部分に文句の付けようがないので(!?)、つい指摘したくなるのだ。よもや「心地よいうたた寝を中断させられた腹いせ」と勘ぐる人はいらっしゃらないと思いますが……。
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軽にして70kgもの減量に成功
今回で5代目となるワゴンRのモデルチェンジは、「ポルシェ911のようだ」と思った。外観が与えるイメージはみごとに変えないまま、中身をガッツリ変更する。最も基本的な要素であるホイールベースを延長し、ボディーを骨格から軽量化、燃費向上デバイスを効率よく搭載する。一方、一目で「ワゴンRだ!」とわかるカタチは、そのまま。初代登場以来19年。ワゴンRという存在そのものが、ひとつのブランドになった証しだろう。
さて、軽自動車は、その経済性をもって国内での優遇措置の根拠にしているわけだから、燃費向上は急務だったといえる。
新開発の燃費向上デバイスは、後からでも追加できる場合が多いが、クルマの基本構造は、フルモデルチェンジのときにしか手を付けられない。代替わりにあたり、軽量化のためボディー各部に軽自動車初の超高張力鋼板をはじめ、高張力鋼板をふんだんに使用できたのは、国内販売において、ロングセラーにしてトップランナーであるワゴンRならではだ。
ボディーの骨格やパネルはもちろん、シートの骨組みにまでハイテンション鋼を使い、内外装の樹脂材を薄くし、サスペンションパーツを軽くするなど、スポーツカーもかくやの努力をして、旧型比約70kgもの軽量化を果たした。アイドリングストップ機能や、減速エネルギーを電気に変換して再活用する「エネチャージ」用のコンポーネンツを追加しての結果だから立派なもの。
ベーシックな「FX」が780kg、空力パーツやアルミホイール、本革巻きステアリングホイールなどがおごられる「FXリミテッド」が790kg。車重に関しては、3世代を通り越して先祖返りしたわけだ。気になるカタログ燃費は、いずれも28.8km/リッターとなる。
燃費にこだわった新技術
ケチで有名な……、失礼! 倹約家のスズキが、ワゴンRのテレビCMに国際派俳優の渡辺謙を起用したことにも驚いたが、それより、「エネチャージ」機能のため、高価なリチウムイオンバッテリーを採用したことにビックリ!
愛すべき珍車「ツイン」のハイブリッドモデルに一般的な鉛バッテリーを搭載して、「さすがはスズキ」と周囲をうならせたのは、2003年1月のことでした。
新型ワゴンRの目玉機能、エネチャージは、減速時にタイヤの回転を利用して発電機(オルタネーター)を回し、減速エネルギーを電気に変えて蓄積する回生システムだ。バッテリーに溜(た)めた電気を使えるので、走行時に発電機を回さないで済む(時間が生じる)ので、エンジンの負担が減り、燃費に貢献する寸法。「夜、自転車で走るときにダイナモを回さないでいいなら、楽でしょ?」という説明、若い人にはわかるかしらん?
エネチャージ機能による不規則で急激な充電に対応し、またバッテリー残量が減っても性能を発揮できるメリットが買われて、今回、リチウムイオンバッテリーが使われた。回収された電気は、シリンダー内に火花を散らしたり、オーディオ、メーターの照明などに活用される。従来の鉛バッテリーも搭載され、こちらはヘッドランプ、エアコン、スターター、デフォッガーなど、負担が大きなデバイスを担当する。
アイドリングストップも進化した。停車前、13km/h以下になるとエンジンが止まる。いったんエンジンが切れても、「やっぱり止まるのやめた!」とアクセルペダルを踏むと、即座に再スタートする。地味にすごい技術である。また、空調ユニットに蓄冷材を仕込み、エンジンが停止中でも一定時間エアコンが効くようになったことも、酷暑が常態となった日本の夏にはありがたい。
座面がやや平たいドライバーズシートに座り、軽いステアリングをクルクルと回しながら運転する。最高出力52psの658cc3気筒には、CVTが組み合わされる。過不足ない動力性能。「運転の楽しさ」とか「趣味性」といった言葉を寄せ付けない、ニッポンを代表する実用車。制限された寸法内で、車高を高めることで軽自動車に新しい世界を開いたワゴンR。高い着座位置の運転席に座っていると、自然と背筋がのびてくる。
(文=青木禎之/写真=高橋信宏)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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