レクサスGS350“バージョンL”(FR/6AT)/GS350“Fスポーツ”(FR/6AT)【試乗記】
大胆な第二章 2012.02.23 試乗記 レクサスGS350“バージョンL”(FR/6AT)/GS350“Fスポーツ”(FR/6AT)……785万1850円/781万5350円
モデルチェンジを受けて、大胆に生まれ変わった「レクサスGS」が、いよいよ公道に降り立った。その走りは、新しいレクサスをどう定義付けたのか。九州は宮崎試乗会からの第一報。
巻き返しが始まった
レクサスブランドの日本展開が始まったのは2005年の夏のこと。われわれにはまるっきり実感はなかったが、世の中的には金融ビジネスをけん引役として景気もよろしく、製造業においては新興市場の伸張にも火がつき始め……というおいしい時期だったと記憶する。
なによりトヨタは拡大路線の真っただ中。営業利益2兆円超という前代未聞の決算となった07年への足掛かりは、既にこの時期に始まっていた。レクサスにおいても日本市場でメルセデスやBMWの倍近い販売台数を見込み、御影石の立派なディーラーが各地に登場し……と、イケイケ状態だったことを思い出す。
しかし経過はご存じの通り、決して芳しいものではない。掲げた販売目標が未達とあらば、途端にメディアから鋭いツッコミを入れられたのは、胴元がトヨタゆえの宿命でもあり、顧客満足度と株主満足度が同等に扱われるくらいのいびつな金融資本主義が景気をけん引していた背景も影響していたはずだ。その揚げ句の果てにリーマンショックとあらば、販売現場は間の悪さを恨むしかないという状況だっただろう。
昨年のレクサスの国内販売台数は4万2000台強。けん引役となったのは「CT200h」だが、車種構成や店舗数を考慮すれば、メルセデス、BMW、アウディといったライバルに対して巷間(こうかん)言われるように見劣りするものではないようにも思う。が、ホームグラウンドでの数字としては寂しいのも確かだ。開発陣が「セカンドステージ」と言う新型「GS」のローンチに、もちろん日本市場での巻き返しの意が強く込められていることは想像に難くない。
パワーユニットは3種類
新型GSのラインナップは新たに設定された「GS250」系、「GS350」系、そしてハイブリッドの「GS450h」と3体系で構成。それぞれにトリムが充実した「Iパッケージ」とラグジュアリー指向の「バージョンL」、そして今モデルからスポーティー指向の「Fスポーツ」というグレードが用意される。
センターコンソールが高くなったこともあってスポーティーな印象を強めたインテリアは、意匠的にも操作系のレイアウト的にもややビジーな印象。併せて、化粧っ気もややキツめだが、フィニッシュ自体はしっかりしており、総合的な静的質感は「アウディA6」辺りに比べても十分対峙(たいじ)できるところにある。
特定グレード向けの専用設定も含めた内装の表皮は、ファブリックが1種類に本革が3種類。うち、Fスポーツはレザーのパンチングがダイヤ型になるなど、仕様別の演出は細かい。さらに表皮色とデコレーションパネルも各6種類が用意されている。ちなみにCT200hから採用されたバンブートリムは、450h向けの専用設定となった。
新規に採用された2.5リッターV6の4GR-FSE型ユニットは、レクサスでは既に「IS」に搭載されているものだが、新型GSへの搭載にあたっては3.5リッターV6の2GR-FSE型と同様に、出力特性や音・振動などのリファインが重ねられたという。一方でハイブリッドは組み合わせこそ従来と同様だが、エンジン内部やマネジメントを中心に全面的な改良を受け、燃費は実に42%の向上、動力性能は若干マイルドになったものの、従来と同等の中間トルクをもってV8エンジン並みのパフォーマンスを実現している。
声高にはうたわれていないが、従来型に比べると50kg前後軽量化された車重も、燃費と走りの両面で効果を発揮するのに重要なファクターとなっているはずだ。対してガソリンモデルにはアイドリングストップ機構も用意されないのは寂しいところ。これに関しては開発が間に合わなかったというのが内情らしく、数年後のマイナーチェンジを待って展開される可能性はありそうだ。
LDHに違和感なし
生産の都合もあって試乗は250系、350系のガソリンモデルのみとなったが、その進化の幅は特にシャシー側において顕著であることが確認できた。
新型GSの目玉装備のひとつである「レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム(LDH)」の効能は、既にサーキットにおいて体験済み。システム自体は同相・逆相に最大2度の舵角(だかく)を与える後輪操舵(そうだ)システムと、可変ギアレシオステアリング(VGRS)の組み合わせとなるが、舵角と車速、ヨーレートから車両の進行方向を想定し、それに応じた舵角を前後輪に与えるというものだ。……と至ってシンプルに聞こえるものの、そのパラメータは素人には、にわかに想像できない。しかしその効果は絶大というよりも異様といった方がふさわしいもので、富士スピードウェイでは300Rをベタ踏みで抜ける底なしの旋回感に仰天させられた。
このクルマに掛かればコーナーも直線。そんなパフォーマンスは果たしてこの手のサルーンに必要なのだろうか……と思いつつの公道試乗となったわけだが、このLDH、総じて4WSにありがちな違和感はなく、普通にしている限りは淡々と上質なセダンでいてくれる。後輪の舵角でゲインが調整できるぶん、タイヤやサスもガチガチに武装しなくても想定の限界特性が導けるのだろう。その運動性に対すればアシのアタリも柔らかい。
が、その効能は一般走行ではまったく体感できないかといえば、そんなこともない。例えば、高速道路の取り付け路などで舵(かじ)を切ると、クルマが雲形定規で引いたように奇麗な旋回円を描いていることが伝わってくる。あるいはプリクラッシュセーフティの作動領域になると、リアステアが積極的に同相側に働き、目前の障害を避けるための危機回避性能も向上するそうだ。もちろんそれを試す状況になかったが、このLDH、サーキットスピードでブッ飛ばさない限りは宝の持ち腐れ……という類いのものではないようだ。
もっとも、それはあくまでオマケであって、クルマの本筋がしっかりしていなければなんの意味もない。その点においても新型GSはよく頑張っている。
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「感覚性能」が向上した
微低速から高速域まで、入力の大小に関わらず乗り心地は努めてフラット。タイヤサイズに関係なく、ジョイント段差のような鋭利な入力によって硬い衝撃が伝わるのは惜しいが、それでもバネ下の収まりは柔らかい。従来型ではロールの過渡に定常感が薄く、結果として「曲がり」のストレスへとつながっていたが、新型ではそれもドライバーの想像通り、比例的に推移する。
つまりは「意のまま感」が俄然(がぜん)高まっているということなのだが、新型GSの動的な特徴は、むしろそれがアクセルやブレーキのコントロール性、ステアリングフィールや変速のマネジメントなど、クルマを動かす全般に及んで刷新していることにありそうだ。
じわりとにじみ出すようなゼロスタート、極低速域で交差点を曲がる際のステアリングの自然な戻り、ブレーキに足を乗せた際の減速の立ち上がりの柔らかさなど、定量的な合否の積み重ねでは表せない「感覚性能」が向上したという背景は、100万マイルを超えるという公道での走り込みによるところが間違いなく大きい。開発速度はコンピューターの処理速度に比例するなんていう世知辛い時世だが、人が磨き込むほどにクルマが丸くなることに変わりはないのだ。
大風呂敷のしまいどころを心配する向きもあるだろうが、国内雇用の維持と販売台数の減少という構造的な問題に真正面から対峙するトヨタにとって、高付加・高収益のレクサスを日本市場で成功させることは必達目標でもある。中でもGSのシェアは、ブランドの土台を安定させるうえで大きな意味合いを持つ。
「やりゃあできるじゃん」というのは何さまな物言いだが、重責を背負った新型GSに乗っての素直な感想はそれだった。これならドイツの御三家とタメ口をきけるだろう。その手応えが動的な質感においても感じられるようになったことが、なにより大きい。
円高の影響もあってこのセグメントも価格競争の様相も呈してきているが、レクサスは直電のテレマティクスサービスを日常的に使えるなど、買ってからの顧客満足度の高さがリピートにつながるという好循環も芽生え始めた。日本展開から7年といえば、その口コミもようやく浸透し始める頃だろう。ともあれセカンドステージ、面白くなりそうである。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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